つなび。まえりの本棚(日記に出てた本はココに) can't be alive without you. why don't I miss you まえりの覚え書きリンク集。 四畳半? 人形プログはココ。 FROM 携帯 よゆう入稿
2003年07月05日(土) 甘い水・4

(あ、明日は七夕なんか)

夕方の商店街を歩いていると、モールの脇に笹が飾られているのに気がついた。さらさらと笹の葉と願い事を書いた安っぽい色紙で作った短冊が風に舞っている。
 その風景と笹の葉音に、子供の頃の記憶が手招いた。

 子どもの頃の七夕祭りは近所の神社が盛大に祝っとったから、夏祭りより楽しみにやったんを思い出したんや。
 さして広くはない神社の境内に、高さが5、6mはあるような竹が何十本も立ててあって、その全部に笹のはよりも多そうな短冊や七夕飾りが飾ってあった。
 オレは屋台に出る苺飴が好きで、祭りに行ってそれを買うのんをいっつもむっちゃ楽しみにしてたんや。
 それでも楽しみにしていた割に七夕祭りに行った記憶があんまりないんは、祭りの当日になると大抵熱を出して寝こんでたからやった。そういえば小さい頃はやたらと身体が弱かった。遠足とか運動会とか、楽しみにしとったヤツほど、知恵熱が出て行けなくなったんやっけな。
 小さい頃、熱が出た日は自分の部屋のベットやなくて、居間に近い仏間に布団をひいて寝かされた。夏やったらご丁寧にばあちゃんが蚊帳を吊してくれたんを思い出す。夜中に目が覚めたら、天井の薄いガーゼが最初に目に入る。額に載ったタオルが温くなってて、頭の下に敷いてる氷枕の氷がだいぶ溶けてて消え入りそうな声でおかんを呼んだ。

 そういえば、七夕祭りの日に寝こんでいると、夜に月雄が来たことがあった。

 なんとなく人の気配がして目を覚ますと、蚊帳のベールの向こう側で、畳に膝をつくみたいにしてこっちをじっと見てる月雄の姿があった。オレは七夕祭りに一緒に行かれへんかったんを怒られるんやと思ったから、恐くてギュッと目をつぶった。
「俊」
 でも自分の名前を呼ぶ月雄の声は、別に怒ってへんかったから、恐る恐る目を開けた。月雄は目を開いたオレの顔を見ると、両手で蚊帳の裾を摘んで持ち上げるとゆっくりその内側に入りこんできた。
「オマエ、また熱出したんか。あほやなぁ」
 そう言って濡れタオルをむしり取るようにすると、よく陽に焼けた自分の手をオレの額の上に乗せた。
「まだ熱あるやん」
 元気いっぱいの月雄が、いつでも好きなときに好きな場所に行ける従兄弟が、いつも羨ましかった。そのくせ自分みたいに弱いもんを虐める月雄が嫌いやった。
 思わず泣きそうになって目を閉じて布団を被った。

「泣いとったら、また熱上がるんやぞ。そしたら明日も祭りに行かれへんわ」
 憎たらしい捨てゼリフを残して、月雄が蚊帳から出て行くのが分かった。
 月雄なんか嫌いや。いっつもオレを惨めな気分にさせるんはアイツやった。優しくなんか、された記憶がない。
 ああ、でもそういえば。

「……苺飴は、あっという間に飴が溶けてしまうんや」
 
 誰に言う出もなく、思わずそう口にした。
 サワサワと静かな夜道に笹は揺れる。

 あの晩。月雄が帰った後に喉が渇いて目が覚めた。
(お母ちゃん、水が欲しい)
 そう言おうと思って起きあがると、枕元に用意して貰ったのに結局着られへんかった浴衣の上に、小さいビニール袋がポンと置いてある。それに心当たりがないオレは、なんやろう?と思いながらガサガサと袋を開けた。中には真っ赤な飴がけされてキラキラと光る苺飴が竹串に刺さったままで入っとった。
 ……あれは月雄やったんかな。
 枕元の小さな電気スタンドの明かりで眺めた苺飴は、まるで宝石みたいにキラキラ深紅に輝いていた。

 起きたら食べようと思って袋をそのままにして寝たオレが目を覚ますと、あんなに綺麗だった苺飴は袋の中で飴がどろどろの水みたいに溶けてしもとったんやっけな。
 どろどろの赤い水の中に、苺ジャムみたいに色褪せてふやけたみたいな苺のなれの果てが横たわっていてガッカリした。

 あの後、結局どうしたんやろ。あの苺飴、捨ててしもたんやっけ?

 そういえば子供の頃、七夕に吊す短冊に誰にも気づかれへんように混ぜていた願い事がある。あの頃は、少なくとも今よりずっと心は綺麗やったんかもしれんと思う。そして記憶に残るあの醜く変わり果てたビニール袋の中身と、大人になった今の自分の抱えている感情がぴったり重なるカンジがしてオレはなんか思わず首を振った。

(この街であのアホを見つけたら、そん時は……)

 積年の恨みを晴らしてやるんや。散々オレのこと虐めまくったあげくに、飽きたら放り出しよったアイツをオレは絶対ゆるさへん。

 恨みとか嫌悪とかそういった感情を一瞬押しのけようとした何かを、オレは必死で隠そうとした。今のオレこそ、あの溶けてしまった飴みたいなんかもしれんと思ったことを、必死で否定するために、月雄への呪詛の言葉をブツブツと呟きながら夜道を急いだ。

(どうか……に嫌われませんように)
 
 頭上に揺れる短冊に、不意に脳裏を掠めたのは、隠すようにして釣った願い事。あの日の願いは心の中で、綺麗な苺飴みたいに揺れたままでいる。



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ちっちゃい月雄と俊が書いてみたかったらしい。まみおさんの日記の小さい子に影響されてみました。一緒のお布団で寝てる……かわゆい!
ちなみにお祭りに行く二人は、月雄はタンクトップに半パンなのに、俊はキチンと浴衣とかがいいなー。白地に金魚、帯は濃紺。金魚もヨーヨーも月雄に獲ってもらえばいい。ミルク煎餅を二人で食べればいい……!そんな妄想。全然懲りない。
そうなんだよね、もうすぐ七夕……!大阪は交野で毎年、大掛かりな七夕祭りをやってますよ。行ったことはないのですが、あの大掛かりな笹をテレビで見る度に一度行きたいと思います。

さあ寝るぞー!

起きたら母の土産の蟹を食べます。がつがつと。
昨日の夜食べようと思ったら、全然解凍出来なくて諦めました。自然解凍という力に全てを委ねてもう寝ます……!


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