つなび。まえりの本棚(日記に出てた本はココに) can't be alive without you. why don't I miss you まえりの覚え書きリンク集。 四畳半? 人形プログはココ。 FROM 携帯 よゆう入稿
2000年04月01日(土)  

「こんなモノ作って、よく海馬が怒らなかったもんだなぁ」

 俺は海馬コーポレーションのロビーに仰々しく設置されたガラスケースを覗き込みながら、ヨコにいるモクバにそう言った。
「まぁ兄サマが自分でやる訳じゃないからね~あんまり興味ないんじゃないかな?」
 そう言って、モクバは明日のレセプションの最終確認をしながら、入れ替わり立ち替わりでやってくる部下達に事細かな指示を出し続けていた。
 その間も、俺はずっとガラスケースの中身を飽きもせずにずっと眺め続けていた。
「そっくり…っつーか、2,3年前はあいつもこんなだったのか?」
 俺の視線を捕らえて離さないガラスケースの中身は、ちょっとあどけなさが残るけど確かに海馬瀬人の顔をした少年だった。白い学生服に王サマみたいな毛皮がついた紅いマントを羽織って、眠るみたいにその箱の中に横たわっている。そして、その茶色い艶のある髪のあいだから、猫のような白い耳を覗かせていた。シャム猫みたいな大きめのその耳は先の方だけほんのり灰色っぽくすすけている。
「わっ!動いた!!」
 まじまじとみていたその白い耳が、いきなりパタパタと動いたので、俺は慌てて飛び退いてしまった。
「良くできてるだろ?これが今年の七夕祭りから公開するアトラクションのメインキャラクターになるんだ!」 
 俺の胸よりしたの身長しかない小学生の腕を掴んで固まっていると、「バーチャルリアリティだよ」とモクバはどこか得意げに笑った。

 毎年、童実野町をあげて行われていた七夕の花火大会が、海馬コーポレーションの主催になったのは去年のことだ。財政難に音を上げた地元自治体に肩入れしたモクバによって考案された海馬ランドと周辺地区をあげての祭りは、この町の新たな七夕の風物詩となった。
 このガラスケースの中は実は空っぽで、本当はケースの上の底の部分に設置された装置が立体映像を浮かび上がらせているに過ぎないという説明を、俺はさっき受けたところだった。だけどどんなに目を凝らして見つめてみても、これが本当はただの画像だなんて思えなかった。まるでそこにあるようにしか思えない、言葉にしがたい存在感。それは映像と言うよりも、モデルになった男が纏っているものなのかもしれないけれど。
「見てろよ」
 そう言って、モクバが背広の内ポケットから取り出した薄っぺらいリモコンみたいなものを操作すると、眠っているかのように閉じられていた瞼が、長い睫毛を押し上げるように開かれた。
「あ…」
 まるで海馬と同じ、深い青色の瞳に見とれてしまう。ちょっと子供っぽいからなのか、こういうコスプレっぽい恰好もあまり違和感がない…というか変に似合ってる。その表情は、ちいさいくせにまるで海馬。なんて 生意気そうな顔だ。そう思うのに変にドキドキした。
 真っ白い肌に、まるで人形みたいな薔薇色の唇。茶色い髪は前髪が長くてうっとうしそうだけど、でもそういった絶妙なバランスに、この青い目はすごくよく映える。

『にゃー』

 口を開いてそう鳴く声までどことなく海馬に似てる。開かれた唇から覗く歯が、八重歯のところだけ尖っているのまでしっかり確認してしまう。正直言って、俺はもう目の前にあるガラスケースから目が離せなくなっていた。

「本当はしっぽも動くんだけど、ケースの中じゃあんまり意味がなかったなぁ」
 モクバがそう言って屈んでガラスケースの下の方を覗き込む。
 王サマコスプレに猫耳なんていうとんでもないイメクラ海馬に俺がぼぉっとなってると、後ろからトゲのある声がした。

「おい、凡骨。そんなに締まりのない顔でなにを眺めてる」
「ぎゃっ!!」
 俺は思わず背筋を伸ばして悲鳴を上げた。振り返らなくても分かる声の主に思わず顔が紅くなる。
 部屋でひとりエッチしてる最中に、急に母親が踏み込んできたみたいな居心地の悪さだと思った。

「かっ…海馬?!」
 なんとなく自分が見入っていたガラスケースを背に隠すようにして俺は海馬を見た。
 白いスーツ姿に青いシャツを着た海馬が、氷ったような無表情でつかつかと近づいてきて、俺の目の前で立ち止まった。
「…くだらない」
 忌々しげにそういって唇を歪めた。
「モクバ」
 そう弟の名前を呼んで、白い手を伸ばす、モクバは黙ってリモコンを海馬に手渡した。
「あー…」
 ピッと音と一緒にガラスケースの中身は消えてしまった。
 残されたのは、からっぽのガラスケースと、その底に敷き詰められた白い薔薇の花びら。
「こんなものにデレデレするな。みっともない」
 吐き捨てるようにそう言われてちょっとムッとした。
「デレデレなんかしてねぇっつの!…ちょっと可愛いと思っただけだろ」
「そういうのをデレデレというんだ」
「オマエもその減らない口をなんとかしたら、もっと可愛いんじゃねぇの?」
「うるさい!」
 バチーン!と派手な音がして、左頬に激痛が走った。
「モクバ!帰るぞ!!」
 今来たばかりの海馬は、くるりと俺から背を向けて、そのまま出口に向かって歩き出した。
「…兄サマ!」
 バタバタとその後ろをモクバが走ってついていく。一瞬くるりと、俺の方を振り返ってなにか言おうとしたのを、海馬がにらみをきかせて遮った。

 そこに残された俺が呆然としていると、「…大丈夫ですか?」と磯野さんが手を差し伸べてくれた。
「はぁ…すいません」
 俺はものすごく情けない気分でその手を借りて立ち上がった。
「お送りしましょうか?」
 そう言われて、よく見ると、磯野さんの頭には、オオカミのような耳が生えていた。
「あのー…」
「…やっぱり似合わないでしょうか?」
 紳士然とした態度でそんなことを言われてもなー…。
「それ、なんすか?」
よく見れば、しっぽみたいなふっさりしたものもついている。

「明日のレセプションで披露される七夕祭での販売物です。今はこのロビーに設置されてる装置から映像を飛ばしていますが、実際は明日お披露目になる次世代型決闘盤のオプションとして販売される予定になっています」

「はぁ…」
 ほかになんて言えばいいのかわかんなくなっておもわずそう声に出すと、「それではお送りするお車がロビー前に来ましたのでどうぞ」と言われ、そのまま、俺は磯野さんの後をついて出口へと向かった。










あー…調教がとおざかった!
続きます。


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