箱の日記
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2016年12月14日(水) オアシス




星座をなす赤い光点のまたたき
数百光年もの無垢な静寂を通り過ぎて
矛盾に満ちた夜の荒野に届く
遠い過去からのささやき
何という名だったか
ここ最近のことさえろくに覚えていないわたしは
ベランダでたばこに火をつける


今はないレストランのとり残された看板が
信号機の赤い点滅にうすく照らされて
細字のフォントが浮かぶ
掠れてはいるが
たしかに「オアシス」とある
そう
あそこで食べた肉の味は覚えている
血のしたたるようなレア
牛であれ鹿であれ
きっとわたしの血となり肉となり
授かった子へも継がれている
・・・なんてね
手際よく肉を切り刻んだきみが
ナイフとフォーク越しに
未来を覗きこむようなまなざしで優しく微笑んだ
思わずわたしはうつむいて自分の
皿に視線を落とす
そこに広がった血潮はなんだかすこし
黒っぽくて ―
あのときわたしは
なんて言ったろう?いったい


どこかから古い音楽がちいさく聴こえて
せつないだの恋しいだの言っているのがわかる
とっくに消え去ったと思っていたメロディー
この街の狭いすきまに今でも挟まって
淋しがっている歌
聴くたび泣きたくなった歌
ずっと昔に録音された声が
時をこえていまだ伝えたがっている
ラララ・・・


またたく赤い巨星に残された時間は少ない
さまざま名をつけて読み解こうとするうち
爆ぜてしまうかもしれない
消えてなくなるかもしれない
あるいはもうすでに失われている星の残像が
荒涼とした闇を通過しているだけなのかもしれない
涸れたオアシスをしめす墓標はただ
うす赤く照らされて立ち尽くす





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