a Day in Our Life
東京での仕事を終えて帰阪した錦戸は、出迎えたメンバーを見てほっとした表情を浮かべた。前回、やはり同じようなシチュエイションで揃って迎えたメンバーを前に、錦戸は何かぷつりと糸が切れたのか、「ごめんなさい」と言ったきり泣き出してしまい、そんな錦戸をごくごく自然な動作で村上は抱き締めて、「えぇねん」と言ったのだった。 今、錦戸は泣き出したりはしなかったけれど、あの時より疲れた顔で、村上に、抱き締めて欲しそうな顔をしたから、その意図を読んだメンバーは上手い下手さまざまに視線を逸らし、一歩前に進んだ村上は、ゆっくりと確実な動作で錦戸をその胸に抱き留めた。 「おつかれさん」 と、何気ない言葉が胸に染みたのか、相槌を打ちたかったらしい錦戸の声は小さく掠れて。代わりに両腕がしっかりと村上を抱き締め返した。あとは前と同じ、村上の大きな手が優しく何度も頭を撫でる。 下手な咳払いをして、最初に場を離れたのは横山だったか。その小さな音で立ったままの他のメンバー達もそれぞれに移動していく。あからさまに部屋を出て行くのではなく、視界の端に二人の姿を捕らえたまま、ぽつり、と渋谷が呟いた。 「ヨコちょ、優しいやん」 「何が」 唐突に優しいだなどと言われて、横山は心外だ、という表情を浮かべた。それは照れているというより、恥ずかしいのかも知れなかった。 「ヒナを亮に譲ってやったんやろ?」 僅かに意地の悪い笑い方をした渋谷は、けれどそれはお互い様だと知っている。 「すばるこそ」 「まぁな〜。こんな時やから、しゃぁなぃやん」 仕方がない、と笑って流すのは渋谷流の愛情なのだと思った。そうでなければ渋谷だって、錦戸を抱き締めてやりたかったに違いないのだ。 それは、横山だって。 同じ気持ちを持っている。当事者である内以上に、今は辛労が厳しいであろう錦戸に、出来る限りのことはしてやりたい。その錦戸が他でもない村上に、甘えたいというのなら、思い切り甘えさせてやろうと思うのだ。 「そうや、しゃぁなぃねん」 だから、そんなことをいちいち気に留める、小さい男にはなりたくないのだった。
*
「村上くんは、偉大やなぁ」 横山渋谷とは反対側、窓のそばに移動してきた年少組は、部屋のいわゆる下座から全体を見渡して、満場一致で頷き合った。 「偉大なんは、横山くんな気ィもするけど」 「いや、すばるくんも相当やで」 神妙な顔をしてそう評価する3人も、そう意識はせず当たり前のように、譲るものがある。 「でも俺らかって、今はしゃぁないなって思うやん」 「そうや。亮のためやもん」 独り占めをしたいとか、自分もそうされたいとか、そういうことではなく。それでも少しだけ、錦戸が羨ましい。それでいて村上をも羨ましいと思う気持ちがあって、要するにそれはどういうことなのだろう、と丸山は思った。 「それは、要するに」 いまだ神妙な顔をした大倉が、まだ何も言っていないのに、分かったような顔でもう頷く。 「要するに。俺もただスキンシップに混ざりたいだけやねん」 それに同調して、同じように唇を結んだ安田が、大真面目に呟いた言葉が要するに、全てを要約していたに違いない。 「そぅ。結局俺ら、エイトが好きやねん」
結局、自分たちは。お互いが大好きで、仕方がないのだ。
***** 「ただいま」はいつの日か。
「俺は亮の、痛みも弱さもよぅ知っとるよ」
それが何?くらいの気軽さで村上は笑った。 「強気なキャラクターの裏で本当は気にしとることも、傍若無人に見えて本当は優しいことも。毒舌は隠れ蓑みたいなもんやねんな?すぐに強がる癖も、よぅ知っとる」 ホンマは全然格好よくなんかないねんな?と笑う村上の言葉に、見透かされたようで恥ずかしくなる。けれど不思議と不快ではなくて、泣きたいくらいに嬉しいとも思った。まるで言葉に傷付いたように見えるその涙は、そうではないこともたぶん、目の前の村上には分かっていた筈だから、安心して錦戸は泣き笑いの表情を浮かべた。 「男前が台無しやで」 格好よくはない、と言った側から男前だと訂正した。だからそれは表面ではなく、内面の話で。本当はダメなのによくなろうと頑張っている人が好きなのだ、と村上はまた笑った。 「…何やろなぁ。村上くん」 泣いているのに笑っている。錦戸にもよく分からなかった。ただ、自分でも分からないのだけれど。内側から溢れるようにただ、そう思う。 「好きです。ホンマに、俺」
この人が好きなんだと、心の底から思った。
***** 明★ネタ。
「すみませんでした」
深く頭を下げた錦戸に、その場の三人はそれぞれに心外だという顔をした。 「何が?」 代表して村上がそう問うてくるのを、頭を上げたそのままの動作で見つめる。 「内のこと、俺の監督不行き届きでした」 つい数ヵ月前に突然の入院で新聞を沸かせたグループの最年少が、今度は飲酒で新聞沙汰になった。その時はもう一つ抱える別ユニットで仕事をしている時で、唯一そのどちらでも行動を共にする錦戸は、他のメンバーの目が届かない時だからこそ、自分一人の非を責めた。 「何で亮が謝るん」 おまえは何も悪くないよ、と言った村上が、なぁ?と同じ最年長の二人を振り返る。普段はおちゃらけるばかりでも、黙って頷いた二人は、こんな時ばかり余計な事は何一つ言わない。まるで役割分担のように、一人声を出す村上は、慈悲深い母親のように、優しく錦戸の頭に手を置いた。 「な?やからおまえが自分を責めることは何ひとつないねん」 優しく許す村上の、横山の、渋谷の気持ちが嬉しい反面、でも、と錦戸は思った。それはつまり最年長たる自分達の罪で。内を教育しきれなかった自分達の落ち度で。そこで既に、あからさまに線を引かれてしまっているのではないか?去年やっと成人して、追い付いたと思っていた。自分ももう彼らの仲間だと思っていたのは、自分ひとりの思い込みに過ぎなかったのだろうか。 「そんな顔すんな」 村上の大きな手が多少荒っぽく頭を撫でていく。 彼にしても。恋人気取りで近づいた、手に入れた、と思っていたのは気のせいだったのかもしれない。錦戸は思う。片思いでずっと好きだった村上を思い切ることは出来なかったから、卑屈に傍観者を気取るよりは当たって砕ける方がましだと、錦戸にしては随分な努力をして彼に近づいた。距離は縮まった、と思っていたのは自分の独り相撲だったのか。 こんな時に、思い知らされる。 優しい村上の笑い顔は何より嘘臭くて。偽りの色が濃いだけ彼から離れていくと思う。反比例するように、村上が遠い、と思った。
***** オタクとして受け止めてみました。
2005年07月12日(火) |
今更exite祭り。(倉雛) |
「大倉は、安田が好きなん?」
単刀直入にそう聞かれた大倉は、言った村上を見、答えた。 「好きですよ」 「どんなところが?」 今ふたりしかいない楽屋の備え付けの机につき、頬杖をついて大倉を見上げる村上の目線が、まっすぐに大倉を捕まえた。立ったままの大倉は見下ろす形でその目線を捕え、睨み合うような形でしばらく見つめ合う。 「やっさんは、真面目で一生懸命で優しくてかわいくて、同じ男ですけど、守ったらな思うんです」 「小さいもんがみんな弱いとは限らんで?」 疑問ばかりを繰り返す、村上の目線は逸らされることなく、大倉だけを見る。村上の言葉には含みがあって、それが何なのかは大倉には今直ぐには分かりかねたけれど。 「やからそれが、俺の想いなんです」 「告白はせぇへんの?」 「しませんよ」 即答でそう言った大倉は、答えが早かっただけ、本当はしたいのかも知れないと思った。 「やってやっさんは今、村上くんが大好きで。村上くんに夢中やから」 「ほな、」 一旦言葉を切った村上の目線に、意味ありげな色が浮かぶ。先ほどからずっとその視線に晒されて、けれど決して不快ではない、と大倉は思った。 「俺は大倉が好きやと言ったら?」 本気なのか冗談なのか、目線以上に村上の言葉には裏が見えなくて、探るようにただ黙って、大倉は村上を見る。 「困ります…っていうか、無理ですよ。俺はやっさんが好きなんやから」 「その安田は俺を好きなんやろ?」 「でも俺は、やっさんが好きなんですよ」 繰り返される会話は、まるで堂堂巡りだと思った。まるでトライアングルのように一方通行な、漫画のような想いの連鎖。それを断ち切るのはいつだって。
「やけど俺は、大倉を手に入れるで」 疑問系ではなく、断定してそう言った。それに返す言葉がなかった大倉は、もう飲まれているのかも知れなかった。
***** ややこしい。
久し振りに顔を合わせた錦戸は、随分と日焼けをしていた。
「焼けたなぁ」 あまりの黒さに少し笑って、そう声を掛けると照れ笑いのように笑った錦戸は、毎日ボートばかり漕いでますから、と言って自分の腕を見た。ぅわ、黒っ、と改めてまた笑って、それは連日のドラマ撮影にNEWSとしてのバレーの応援と、日々忙しく働く錦戸の爽やかな笑い顔だった。疲れているには違いないのにそうやって笑えるのは久々に会えたからかな、と村上は自惚れてみる。 「ここしばらく会うてへんかったから、積もる話が色々ありますよ」 冗談ぽく言った錦戸に、そうなん?とまずはそっけなく返した村上は、 「そら時間の許す限り聞くし喋るけどな」 自分もそれなり話すことが溜まっていると自覚している。 ドラマの撮影中に出演者達と交わした会話、唯一共演する内のバカ話、バレー会場であった出来事、錦戸の話の合間に村上も、少ないオフタイムをやりくりして最近少しだけサッカーをする時間が出来たこと、ミニゲームで自分が決めた得点の状況を話して聞かせる。そんなに長い時間会えなかった訳ではないのに話は尽きなくて、夢中になって話し込んでいると、ノックと共にドアが開いてスタッフが顔を覗かせた。そろそろスタンバイお願いします、と言われてやっと立ち上がる。 一歩先にドアに向かった錦戸が、ふと立ち止まり、振り返った。 「そうや、あと一つ村上くんに言おぅ思ってたことがあったんやけど」 「何?」 まだ何かあるのかと聞き返した村上に、何やったっけ、と思案顔の錦戸は思い出して村上を見、
「愛してるって言おう思てたんでした」
憎らしいくらい男前に微笑まれて、一瞬虚をつかれた村上は、それからすぐに笑い出した。
***** ダジャレ。
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