a Day in Our Life
2004年09月23日(木) |
フリーダム。(安昴横) |
「え!村上くん欠席?!」
その事実に一番驚いたのはポスト村上としての期待の高い?安田だったに違いない。 「太一くんの舞台見に行くんやって」 困り顔の丸山は、一種同情するような色を浮かべた。それも当然のことで、仕切り役としての村上がいないとなると、自然、その役回りは安田にスイッチされることが多かったから。それもまあ、消去法的な流れだとも言えなくはないのだが(丸山内大倉は論外、横山錦戸は微妙、百歩譲って渋谷の気分が乗れば、というところか)、とはいえそう簡単に放り投げられても、フリーダムに喋くる仲間たちを、上手くコントロールするには安田だって、まだ力不足なのだった。 「そんなん、今日だけの舞台違うのに…仕事とプライベートとどっちが大切なん」 ごもっともな安田の弁に口を挟んだのは大倉で、「でも村上くんのは営業も兼ねてるから」と言われてしまえば確かにそうだと思う。 「今までやったら村上くんがいてへんかったら喋りが回らんかったとこを、自分がおらんくてもイケる思ったんやろ?信用されてきてるんやって」 そう言われてしまえばそれ自体は嬉しい。最近はグループとしての一体感も出てきたから、単体や組み合わせでもそれなり場が保つようになった気がする。だからこそ村上はいくらか安心して休めるんじゃないかって、そう言われてしまえばそうなのかと思う。 「いや、アイツのはそんなエエもんちゃうやろ」 ぼそりと呟いたのは横山だった。 「自分が行きたかっただけやねん。そうゆうとこ、実は俺らん中で一番フリーダムかもしらんで」 心なし横山の口調が呆れ気味に感じたのは気のせいだったか。 メンバーの中でも明らかにフリーダムな部類の横山がそう言うのは少し意外な気がして、そうなんかな、とまた納得しかけた安田は、結局どっちなんだろうと頭を捻る。今日は別行動の内が(ひょっとしたら錦戸も)、きっと後から電話を寄越して村上不在の理由を聞きたがるだろうから、それに対して自分はどう答えてやるのがいいのか、安田は悩んだ。知らないものは知らないと言えばいいのだろうが、それだけでは終わらないに違いない末っ子の村上好きと、安田の生真面目さがこの場合の悲劇なのかも知れなかったが、そんなことを察している余裕がない安田は、ますます考え込んでしまう。そんな安田を見て取って、面白がった渋谷が更にこっそりと耳打ちをする。 「だからな、ヨコが唯一ヒナにダメ出ししたんは日サロだけやねん。あとは黙認や。随分とフリーダムやろ?」
的確な例えに安田は大きく頷いて納得をしたものの、それをそのまま内に伝えていいものか、また頭を悩ませたのだった。
***** ラジオラッシュの珍事をネタにしてみました(笑)
2004年09月14日(火) |
8年目の真実。(横雛) |
「俺はずっと、おまえのことなんか大嫌いやった!」 悲鳴のような村上の声が、鋭く横山を射た。 悲しくて流す涙より悔しくて流れる涙の方が、余程切実に澄んでいるということを、横山は初めて知った。今、目の前でぼたぼたと涙を落とす村上の、その美しさに目を奪われる。 かける言葉を失くし、無意識に伸びた手を脊髄反射で振り払われる。追いやられた手の痛みはそのまま、村上の嫌悪なのだろうと思った。 いつからそうだったのだろうと思う。 一体いつから。 8年近くもの間一緒にいて、いつからか、それは役割分担なのだと思っていた。それはそれぞれのキャラクターによる適材適所なのだと思い込んでいた。勝手気侭に振舞う自分のフォローをして回るのは、村上の役目なのだと奢っていた。だってまるで村上は嫌がる素振りも見せず、愚痴も言わず、ずっと隣にいたから。その本心を明かさず、その秘めた内心をひた隠しにして、村上は、そこにいたのだ。その村上の悪意を知らず、ただわがままに、傲慢に生きた自分を村上は憎んでいたのかも知れない。8年もの間、そのことに気付かなかった自分は、どれほど滑稽だっただろうか。その罪深さにぞっとする。 呆然と見遣る横山をぎっ、と睨み上げる大きな目が、許さないと言っていた。 「ずっと…おまえが嫌いやった」 搾り出すように告げる声はただ真剣で、泣きたくなるほどに。 そこで初めて横山は、自分が泣き叫びたいと思っていることに気が付いた。その事実にまた、呆然とする。 「…すまん」 口をついた謝罪は、何に対する罪だったのか。無神経だった自分に対して?そうやって村上を傷つけたことに対して?それとも、8年間の全てに対して? 「すまん、」 「…謝って欲しいわけとちゃうわ…」 止まらない涙を頬に流しながら、言った村上は、その眼で横山を全否定する。その拒絶を見て取って、分からないわけではないのに横山は、けれど反対に、懸命に村上のその手を掴んだ。逃れる背中を夢中で抱き留める。嫌がって暴れる体を絶対に離さないと思った。 「……にすんねん、離せや!」 冗談ではなく嫌悪で尖る声に、傷付いて血を流しながら、それでも必死で抱き締めた。今、手放したら取り返しがつかなくなると、それは確信的にそう思ったからこそ、死んでも離さないと誓う。 「すまん…、悪かった」 何故、離さないと思うのだろう、横山は考える。 面と向かって拒絶された相手を、好き好んで追うほど自分は酔狂な性格をしていないはずだった。それが今、全身全霊で村上を、繋ぎ止めているのはなぜだろうと思う。 「ごめんな。嫌ってくれてもええよ。せやけど、お願いや。嫌いでおってもええから。お願いやから、俺のこと好きになって」
恐らくそれが、8年分の本音だったのだと思った。
***** 暗黙の了解。
2004年09月08日(水) |
常夏ココナツ。(丸→雛) |
「おまえにはハッキリ言わなわからんのやろうから」
目の前の村上くんが、心なしか辛そうな表情をしていたように見えたのは、俺の欲目だっただろうか? 「正直に言うけどおまえのことは、好きやない。慕ってくれるんは嬉しいけど俺は応えられへんし、実際のところ、」 何かに耐えるような村上くんの眉間に皺が寄って、黒目がちの大きな目は潤んでさえ見えた。これから言われる大体のことの察しはついているのに(いくら俺かってそれくらい分かる)一体俺は何でそんなところばかりに気付いているのかって、 「…迷惑やねん」 それでも俺は、村上くんの揺れる瞳をじっと見ていた。
村上くんが俺のことを好きやないことくらいは知ってて、やけど村上くんは優しいから、嫌いでもない限り、拒んだりはせぇへんのやろうなって。それは優しいと言うよりは、たぶん村上くんは他人に好かれるのが好きで。愛されるのが好きで。そう実感する瞬間が好きで。やから迷惑になるとは思ってもいなかった。そらちょっと、調子に乗りすぎたかな、と思うことはあっても、そういう時はやんわりと空気で拒まれたし、だから反対に、そうでなければオッケーなんやって、いつでも側に寄った。 どこで間違えたんかなあ、と思う。冗談に見せかけて、抱きついたり抱きしめたりしたのがアカンかったの?やってそれでもあの人は笑ってたから。嫌がるそぶりもなく、背中に腕が回ったから。そんなん、期待もしてまうやん。今更迷惑やった、って言われても、そんな。 村上くんを抱きしめると彼が愛用しているシャンプー特有の、ココナツの匂いが押し寄せてきて、そのむせ返る甘い香りに酔いそうになりながら、それでもその残り香が、自分の髪にも服にも移るのが嬉しかった。大きく息を吸い込むと肺にまで達したその香りが、体内に取り込まれる気がして嬉しかった。そういうの、全部、全部。迷惑やったんかなぁ?
「…あれ、」 楽屋に入ると嗅ぎ覚えのある香りがして、思わず俺は、声に出したらしい。中に一人いたやっさんが、怪訝そうな顔をして振り返る。 「マル。どうしたん?」 「…今、村上くんおった?」 質問に質問を返した俺に、やっさんは更に怪訝そうな表情を浮かべたけれど、それでもあっさりと頷いた。 「おったよ。マルと入れ違いで出て行ったけど」 何で分かるん?と言いたげなやっさんの声は、聞こえているようで、耳には入っていなかったに違いない。何で分かるんって?分かるよ。やって、 部屋の中にはまた、むせ返るようなココナツの甘い香り。 「………んでやねん、」 「え?」 ぽつり呟いた声は、やっさんには届かず。言い直すこともせず、拳を握り込む。 なんで。そうやって、いまだその香りで俺を振り回すんやろう。 諦めたいのに。嫌いになりたいのに。いまだその甘い香りが、俺を捕らえて離さない。だって、そのココナツの香りがそこにある以上。
俺の夏は終わらないんだ。
2004年09月07日(火) |
ゴースト〜三段壁の幻。(和也+祐樹) |
「おい」
誰かに話し掛けられたような気がして、祐樹は辺りを振り返った。 けれど部屋に一人いる祐樹の周りに人がいる訳もなく、視界には無機質な調度品のみがじっと動かず存在を示す。 「おい、」 もう一度、はっきりとした声が掛けられる。 さすがに訝しんだ祐樹は、立ち上がってゆっくりと視線を巡らせた。 「誰?」 普段から霊感の強い祐樹は、こういうことは初めてではない。 きっと人外の何かに話し掛けられているんだろうと早急に結論づけて、相手が目の前に現れるのを待った。案の定、柔らかく気配が降って湧いて、目の前に現れたのは見知らぬ男だった。 「俺が見えるんか?」 「見えるも何も、アンタから話し掛けて来たんやん」 「おまえには聞こえるみたいやったからな」 「試したん?」 「そう、ちょう頼みたいことがあって」 見ず知らずの自分に頼みごととは一体なんだろう。 面倒臭いことはごめんだ、と思う一方で、男の柔らかでいて切なげな表情が気に懸かる。それはひどく、祐樹の気を惹いた。 「頼みたいこと?」 「そう。邨野康平に、伝言を頼みたいねん」 「…康平さんに?」 見知らぬ男の口から見知った先輩の名前が発せられたことで、祐樹はじっ、と男の顔を見上げた。康平、と呼ばれた身近な先輩の身近な笑い顔が脳裏に浮かぶ。憂いを帯びた、その微笑い顔。 「あんたまさか…森田和也、…さん?」 「何や。よぅ知っとんな」 演技ではなく驚きで目を丸くして、森田和也はそんなら話は早いわ、と呟いた。 「康平に、これ以上深入りするな、と伝えてくれ」 「……あなたの死についてですか?」 「そうや」 「上辺だけの事実を鵜呑みにしろと?誰よりも、康平さんに?」 「…そうや」 2年半前の事件の後、新入生として新たに入学をした祐樹は、和也を知らなかった。今、目の前に立つ彼を見るのが、正真正銘、初めてのことだった。 それは霊体だからなのか、透き通るような肌に白に近い金髪が映えて、噂以上の美貌は男の祐樹から見ても麗しいと思えた。その、彼の美しい眉に影が差す。苦しげにも見えるその表情は、何を物語っているというのか。 「俺は、いやですよ。そんなん自分で言うて下さい」 「それが出来へんから、こうして頼みに来てるんやないか」 「何で出来へんのですか?」 「康平に、話し掛けることは出来ても姿は見せられへん。やから見えるおまえに直に頼むしかなかったんや」 「それやったら、」 そうしようと思ったのは何故だったのか、祐樹自身にも分からなかった。 けれどそうした方が誰でもない康平のためだと思ったのだ。 大好きなあの人の屈託のない笑い顔が、もう一度見れるなら。 何だってしてあげようと、確かにそう思ったのだ。 「俺を媒体にしたらええ。俺を媒介に、康平さんに会うてあげて下さい」 だってそれが、あの人が一番喜ぶことだから。
***** 続きませんでした。
「最近な、ちょぉ怖いんやけど」 「何?」 「すぐ眠なるねん。ちょっと横になったり、落ち着くともぅ寝てんねん」 「…ええやん、別に。疲れとるんやろ」 「まぁそうなんやけど。ちょう怖ない?」 「やから、何が」 「無意識に寝てもうて、起きたら世界が変わってたりとか、自分ひとりしかおらんようになってたらとか」 「……」 「思うと、ちょっとな」 メンバーの中では常識人を気取る、ヒナらしくないフワフワした言葉。ちょっとだけ眉を顰めて、横目で見遣ると既に瞼が半分落ちかけていた。だからどう、って訳でもないんやけど、なんとなく。声を潜めて。 「大丈夫や」 「ヨコ?」 「おまえが目ぇ開けたら、いつでも俺がおるわ」 「…」 「やから安心して寝とき」 うん、と呟いた言葉が声にならないうちに、半分眠りに落ちたヒナが、うっすら笑った気がした。
そうやって、君が笑むから、たぶん。 君が寝ている間すら、目を離すわけにはいかないのだ。
***** 横ちょと雛ちゃん風味。
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