a Day in Our Life
「大倉ぁ。」 渋谷の呼びかけを背中に受けた大倉は、振り返ることなく「何ですか?」とだけ返した。ベッドの上にあぐらをかいて、シーツカバーをかける作業を続ける大倉を見遣りながら、渋谷は続ける。 「いっしょに寝よぅや」 「いやですよ」 同じ姿勢のまま間髪入れずに即答が返って、やはり同じ姿勢のままの渋谷は、僅かに笑った。 「え〜なんでぇ?ヒナは寝てくれんねんけどな」 ボヤキに似た渋谷の言葉をみたび背中に受けた大倉は、今度は反射的に動きを止める。シーツの皺を伸ばしかけた体制のまま、たっぷり5秒はそうしていただろうか、やがて何事もなかったかのように皺を伸ばしきった。 「そぅですか」 「うん、そう」 このベッドでよぅいっしょに寝たで。俺らふたりともそない寝相も悪ないし、けっこう寝れるもんやで?と渋谷は続けながら、大倉の後ろ姿を見る。聞いているのかいないのか、先ほどからひどく神経質にシーツを伸ばしている彼は、Tシャツがないと言ってはパンイチで寝、歯ブラシがないと言っては指で磨くような男なのに、シーツの皺は気になるらしい。難しい男やで、と思う。まぁ、そんなところが面白いのだけれど。内心笑った渋谷を知ってか知らずか、さすがに今はパンイチではなく、渋谷に与えられたTシャツと短パンを身につけた大倉は、反対側の皺に取り掛かろうとした手を止めた。 「…すばるくんがどうしても言うんやったら」 寝てもええけど、と振り返る。 正面から目を合わせた渋谷は、少しの間を置いて、言った。 「やっぱイヤや」 え?と目を丸くすることで驚きを表現した大倉に、笑いかけて。 「ヒナの代わりはごめんやもん」 言われた大倉は、渋谷の言葉を反覆する。それは、すばるくんの方違うん。それともお互い様なんかな。 「別に…」 「違う?」 「どうやろ、」 言葉通りに軽く小首を傾げた大倉が、頭をかいた動作でTシャツが揺れる。そういえばそのTシャツも短パンも、ヒナが着ていたものだった、と渋谷は思った。渋谷とは体格の異なる大倉に貸し与えたものは、やはり渋谷のものではやや窮屈であろう村上が泊まりに来るからと、わざわざ買っておいたものだと、教えてやるべきか考えて結局、言うのをやめた。別に喜ばしたる義理はないし、なんか、シャクやもん(笑)。 「どっちが正解なんやろ」 「え?」 唐突に会話が飛んで、大倉がついていけない、という顔をする。大倉もわりと会話の突拍子がないけれど、自分もけっこうそうなんかも、と渋谷は思った。見れば別段、渋谷の言葉の真意を知りたがるわけでもない大倉が、ぼんやりと続きを待っていた。 「どっちがどっちの代わりなんかなって」 言いながら大倉の手を取る。 添い寝はしないまでも、手は繋いで寝てみようかな、と思った。
***** 倉…昴?
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