a Day in Our Life


2002年06月27日(木) スリーピング・ビューティー。(サクツカ+ニノアイ)

 
 「おはようございまー…あれっ」

 ガチャリと軽い金属音を立てて中へ入ってきた櫻井は、部屋の中を一瞥して小首を傾げた。
 「俺、3番目?」
 結構早めに出てきたんだけどなあ、と呟く櫻井を尻目にたまたま早く着いちゃったんだよ、と小型ゲーム機から目を離した二宮が笑った。その言葉を受けながらゆっくりと部屋の中に歩み出て、肩にかけていた鞄を下ろして机に置く。片耳だけかかったままのヘッドフォンを外して鞄の中に仕舞った。そうして椅子を引き、二宮の向かい側に腰をかける。
 「で?ソレもたまたま早く来ちゃったクチ?」
 それ、と目線だけで指し示されたその先。机に突っ伏して眠る相葉の姿。
 「ああ、彼は俺と一緒だったんですけどね」
 「泊まりだったんだ?」
 「そう」
 心持ち斜めを向いた格好の相葉の顔半分が、櫻井の座った場所から伺い見える。目を閉じて小さな寝息をたてるだけの相葉は、普段の騒がしい雰囲気が影を潜めて、それがかえってひどく年相応に見えた。
 「でも、むしろこの人かなり寝てたんですよ。俺はほぼ完徹でゲームやっちゃったんだけど、延々寝てた」
 あんだけ寝てまだ寝るかなあ?と苦笑いを浮べる二宮に、完徹したのにまだゲームやってるおまえも似たり寄ったりじゃん、と笑った。それもそうだけど、と二宮がまた笑う。
 二宮と相葉は付き合いが長いこともあって、昔ほどじゃないにしろ、互いの家を行き来する機会が多いようだった。櫻井はどちらの家にも泊まりに行ったことがなかったし、そう頻繁に家に誰かを呼ぶ習慣もなかったので(そこまで親密な関係の誰かがいなかったからという言い方も出来る)、誰かがいる部屋で一人寝たりゲームをしたりする感覚がよく分からないと思う。そういうのも時間や経験の積み重ねなのかな、とそこまで考えて、ふとそんなことをつい最近考えたのを思い出した。ごくごく身近な人の、近頃の行動を思い出す。
 「相葉ちゃんて、いつもそうなの?」
 「?なにが」
 そう小さくもない話し声にもまるで目を覚ます気配のない相葉の寝顔に、もう一度目を向けた。その寝顔に重なる、別の誰かの安らかな表情。
 「おまえの家に泊まりに来て、さっさと寝ちゃうわけ?」
 確かに相葉はよく眠る印象ではあった。寝起きもそれほどよくはない。そういえばハワイでもひとり、いつまでもぼんやりした顔をしてたっけ。自分より先に起こされたくせに、最後まで眠そうだった相葉の様子を思い出した。
 「ああまあ、割とね」
 それがどうかした?とでも言うように二宮が櫻井を見遣る。その視線がなんとなく居心地悪くて、いや、よくそんな話してるしさ、と必要以上に普通を装って言い訳をした。そうすることで余計不自然になっているのは自覚済みだった。二宮はそういうところに聡いから、そんなのはすっかり看破されているのだけれど。
 「…いや、目の前で寝られるのはどうなのかな、と思ってさ」
 諦めたように心持ち早口に、櫻井が呟く。その呟きを受けて、塚本くん?と簡潔に二宮が問うた。
 「…ん、まあね」
 いくらかバツが悪そうに、更に早口になって櫻井が答える。
 「なーんか最近、気がついたら寝ててさ。そんなに俺といてつまんないのかと不安になったりならなかったりするわけよ」
 こと恋愛に関して(そうじゃなくても傾向的に)小心になる自分を櫻井は自覚していた。傷つくのは怖いし、それが好きな人なら尚更。ありのままを晒すと同時に、そうすることをひどく恐れる自分もいる。好きな人をただ好きで、それだけなのにふと、怖いと思うときがある。まるで自分が自分でなくなっていくような。普段の櫻井翔は、いくらなんでもそんな小さな――些細なと言ってもいいかも知れないことで考えすぎるほどに考えたりはしない筈だった。その些細な事柄を気に留めて、それでも正すことは出来なくて、結局諦めたように内側に丸め込んでしまう。やや気にしやすい傾向はあったけれど、それでも。こんなにも気にしてしまうのは、それが誰でもない誰かだから。
 二宮は黙って櫻井を見たままで、櫻井はやっぱり落ち着かなくて、軽く身じろぎをした。誤魔化すようにふと思っただけなんだけど、と口の中でもごもごと不明瞭に呟く。
 「俺は、違うと思うけどなあ」
 しばらくの間を置いて、ゆっくりと二宮が口を開いた。波が引くのをじっと待つように、自分から出してしまったこの話題を早く終らせてしまいたいと思っていた櫻井は、反射的にえっ?と言葉を返す。そうじゃないと思うよ。噛んで含めるみたいにことさらゆっくりと、もう一度二宮は言った。
 「俺はむしろ、信用されてるんだと思うけどね」
 言った二宮の目線が一瞬だけ相葉の方を向いて、思わず櫻井もその視線を追い掛ける。依然目を覚ますでもなく、相葉は静かに眠ったままだった。
 「好きな人の側だから、安心して眠れるんだよ」
 無言の告白みたいなもんだよ。愛されてるなあって俺なんかは思うけどね。
 照れもなくそう言われて、言われた櫻井の方が恥ずかしい気持ちになった。おまえそれはなに、のろけてるの?からかうみたいに言うと、まあ、そうとも言うけど、と柔らかく笑われた。だから相葉ちゃんが俺といるとき寝すぎるくらいによく眠るのを、俺はむしろ嬉しいと思うけどね。
 「それにほら、好きな人の寝顔って見てて癒されるでしょ」
 だから翔くんも素直に癒されてみたら。二宮の提案に櫻井は曖昧に頷いた。
 「発想の転換かあ…」
 ぽつりと呟く。
 「ニノはデリケートそうに見えて、案外超ポジティブなんだなあ」
 「んん?どうだろそれは、相葉さんのことだからかもよ」
 普段あまり多くを語らない二宮が、こと相葉に関する話題にだけ、正直であるのを潔いと思った。好きだと思う気持ちを偽らない。ストレートは松本の専売特許であるのに、普段似ても似つかないふたりが少しだけ重なる。それは相葉もきっとそうだし、あまり想像つかないけど大野もいざとなるとそうかも知れない。自分だけだ。自分だけ、保身や体裁を考えて、縮こまる傾向がある。臆病なのかな、と櫻井は思った。
 「おまえらには敵わない気がするよ」
 わざと複数形にして言った言葉を、二宮は、そう?と言って流した。
 ニノに恋愛をレクチャーして貰う日が来るとは夢にも思わなかった。自嘲気味に櫻井は笑う。
 「だって俺の方が、片思い歴も両思い歴も長いもん。先輩だからね」
 俺が何年このひとを好きだと思ってるの。二宮も笑う。
 「う〜ん…もう食べれないよ〜…」
 そこに絶妙なタイミングで相葉の寝言ともつかない呟きが聞こえて。
 「…なんの夢?」
 「さあ…フルコースでも食べてるんじゃない?」
 思わず顔を見合わせたふたりは、改めてもう一度笑った。





■■■1ヶ月前のワードが発掘されました。

書きかけたはいいものの、ちょっと打っちゃー止まり、でぜんぜん書けなかったニノと翔くんのお話です。なにをそんなに行き詰まってたのか、よく分からないんですけど、放置されていた続きを打ちながら、やっぱりまた行き詰まったりして。あたしも嵐にはまって以降、少しは各キャラのイメージもそこそこ固まりつつはあるんですが、恋愛観になるとまた、むつかしいですね。翔くんは堅実派であるので、恋愛に対してもスタイルを気にしたり、少しの保身もありそうかなというイメージがありまして。振られる前に振ったりしそうなイメージ(笑)。反対に二宮さんは、まあそれは私が対・相葉ちゃんを想定してしまうからなんでしょうが、潔い恋愛をしそうかなと…にのあいの二宮さんはとてもストレートで男らしいと思っております。相葉ちゃん相手に照れてもしょうがないしね(笑)。むしろ相葉ちゃんを照れさせる勢いで。だって二宮さんの相葉ちゃんを見る目って、それだけで言葉がいらない気がしますよ。表情豊かなあの目線が私は本当に好きで。そういうことを表現したかったんですけどね。だからこのお話のカテゴリはサクツカではなくにのあいなんだと思います。微妙だなあ…。

あ。ちなみに題材は当時のタカシメールに最近寝るのが趣味、みたいなことを書いてあったので。
タカシメール、いつでもどこでもネタにしてしまってごめんなさい(笑)。

2002年06月26日(水) ベイビープリーズゴーホーム。(ごくせん11話感想・沢黒SS)


 その日、いつも通りに帰って来た慎は、いつも通りの慎じゃなかった。


 「なんかあった?」

 ドアを開けて。入ってきた慎を見た瞬間に、おかえりも言わずにそう聞いた。慎はポーカーフェイスなようでその実、表現が豊かだと思う。表情自体はさほど変わらないんだけど、雰囲気が違う。目が違う。そうやって言葉より態度より雄弁に感情を語る。
 「………」
 俺の言葉にチラリとこちらを見たはいいけど、何も言わないままソファに腰を下ろす。落ち着かない様子で、随分と伸びた前髪を乱暴に掻きあげた。大きく息を吐く。
 「……クマの、」
 絞り出た声は随分と憔悴していると思った。無理強いはしないで続きを待つ。
 「クマの親父さんが亡くなったんだ」
 「………」
 クマというのは慎のいまのクラスメイトの名前だったはずだった。確か熊井とかいう、でっぷりしたやつ。あんまり会ったことないから知らないけど、人の良さそうな顔をしていたと思う。そいつの親父さんが亡くなって、だけどなんで慎がそこまで凹むんだろう。どう答えればいいのか分からなくて、沈黙を返してしまった。そんな俺の戸惑いを知ってか知らずか、慎はぽつぽつと言葉を続ける。
 「クマんちはラーメン屋で、あいつと親父さんは会えば喧嘩ばかりしていた。昨日も店の前でバッタリ出くわした親父さんとあいつは言い合いになって、あいつはクソ親父って言った。それが、最後の会話になったんだ」
 淡々と語る慎の言葉が、じわじわと体に入ってくる。ああ、そうか。知らず拳を握った。
 「あいつは後悔してる。親父さんに謝りたいと思ってる。だけど親父さんはもう二度とクマの言葉を聞かないし、クマの言葉は届かない」
 孝行をしたいときに親はなし。そんな言葉が頭をかすめた。
 普段は無口な慎がこんなときだけ饒舌になるのを、不器用だなと思う。不器用な慎は同じくらい不器用だった熊井を扱いかねているのだ。日常に甘えていると、ときにこんな悲劇が起こる。ちょっとした意地やしでかした間違いが取り返しのつかない事態を招く。それは過去に自分も経験したことで。状況は違うけど、後悔をしたときには遅いって、痛感した事実は同じで。
 「…俺、クマになにをしてやれるだろう」
 組んだ両手を額にあてて、俯いたままぽつりと呟いた慎が、まるで祈りを捧げているようで。肩を叩こうとした手をゆっくりと戻した。
 「…俺には、よく分かんないけど」
 慎にとって熊井がどんな存在なのか。熊井にとってなにが最良なのか。
 分からないけど、分かることはあった。
 俺がダメになりかけてたとき、慎とうっちいが救ってくれたこと。
 いま思えばふたりのそんな気持ちが、なによりも嬉しかったこと。
 あのとき全速力で走ってきた慎の姿が、仲間だったやつらに殴りかかったうっちいの顔が、ふたりの手の質感が、俺を変えたんだ。だから、してやれることはきっとある。たぶん。
 「慎がしてやれることをすればいいんだと思うよ。それがなにかは分からないけど、おまえが熊井のために、してやれることはきっとあるし、それをおまえは考えなくちゃいけないんだと思う」
 大丈夫。気持ちは必ず届くし、熊井は戻ってくるはずだ。言うと慎は初めて顔を上げて、少し笑った。
 「おまえのアドバイスは、アドバイスなんだか分からないな」
 「だってしょーがねえじゃん。俺、おまえみたいに頭よくねえし」
 むくれたふりをしながら、それも長くは保たなかった。
 「慎」
 「ん?」
 「…そいつを思う気持ちってのは、届くもんだよ。俺にだって届いた」
 言った台詞を受けて、笑い顔の慎が更に目を細めた。
 「へえ?じゃあ俺の気持ちは、余さずおまえに届いたんだ」
 「もちろん、届いたさ?」
 「じゃあ俺は報われたってことかな」
 「報われまくりだろ」
 「初恋って実るもんなんだな」
 「そりゃあ実ることもあるだろ…え?」
 思わず目を剥いて慎に向き直ると、そこには俺を見返す、笑い顔の慎の顔。初恋…初恋?いつの間にか話が微妙に摩り替わっていた。それじゃあまるで慎が俺のこと好きみたいじゃん。好きみたいじゃん、って。
 ・・・知ってるけど。
 固まったまま考え込んでいた俺は、慎の長い指がゆっくりと伸びてきたことに気付かなかった。あっという間に首の後ろに回った腕に、深く抱き込まれる。後ろ側に回った慎の手が、俺の髪を何度か撫でた。
 「…サンキュ」
 耳元で囁かれた声は、少し掠れていて。
 「………うん」
 俺はひとつ息を吐いて、持ち上げた両腕を慎の背中に回した。そうしてふたり分の腕で抱きしめ合って、ぴったりと密着した空気の中、久し振りに慎の匂いを嗅いだ。慎の匂いの中で、思う。一匹狼な慎がその弱いところを俺に曝け出してくれて嬉しいと思う。熊井を痛ましいと思ってるその気持ちも分かる。だけど、その気持ちが真摯であればあるほど、少し寂しいと思ってしまう俺が確かにいた。こういうのをやきもちっていうんだろうか。女みたいでヤダな、と少し自己嫌悪に陥る。心の中で懺悔をする。
 好きだよ、って言おうとした言葉は飲み込んで。
 ただ慎を抱きしめて、熊井を思った。





■■■これは出来れば絵にしたかった…。

ごくせん11話感想をSSにしてみました。とか言って沢黒じゃん!バカじゃん!とかいうツッコミは不可です。分かってるから。今回、クマを思って少し弱ってた沢田がカワイイなあと思って、そんな沢田が家に帰ったらクロがいるわけだし(決め付け)きっとクマの話をふたりでしたはずだ!と。思って。クロになにかが出来るわけじゃないし、それによってなにかが変わるわけじゃない。それでも少しでも沢田が救われたなら。それがふたりでいる意味じゃないかと思うのね。とか放送を見ながら早々に捏造してたらまんまとヤンクミにそれをやられてしまってギャフンと言わされたわけですが。クッソー慎ちゃん人間味溢れすぎだい!それもこれもやっぱりクロのせいなのよ、とむりやり思い込むことに成功したところで退場。しみじみこれを感想SSと言い切るのはいかがなものか。私よ。

ベイビープリーズゴーホーム、というのはミッシェルさんの歌ですね。
帰るところ。私、「家」って概念が好きみたいです。

2002年06月25日(火) オカツカの事情。(部位VS嵐) ※取り扱い要注意。


 ※興味本位で読まれると痛い目に遭いますのでくれぐれもご注意下さい※


 「坂本くん…」
 レギュラー番組の撮りのとき、休憩に入ると健が真剣な表情を浮かべていた。コイツのこんな表情なんて、初めて時代劇に出るって悩んでたとき以来だよなあ。
 「どうした?」
 何を言われるんだろうと構えながら問い掛けると、三宅は一度顔をチラリと横に流した。…正確にはイノッチと話してる岡田を見た後、俺の顔を見て。
 「岡田が、恋してるらしいんだ」
 「はあ?」
 てっきり仕事のことを言われるんだと思っていたから、あまりにも予想外なことに驚いてしまった。
 「はあ、じゃねーよ!ちゃんと聞けって」
 「あー…はいはい」
 岡田が恋してる、ねえ…別にあの年なら恋の一つや二つしてたって驚かないけど。実際剛なんて何回も週刊誌に撮られたりしてるし。それでも、それが岡田となると話はかわる。この世界に入ってから浮いた噂一つない。それ所か友達がいるのかさえ怪しい。そんなヤツが恋をした、なんて俄かに信じられなかった。
 「健…なんでそう思ったんだ」
 「だって、あの岡田が休憩ん時とかに携帯で電話してんだよ?」
 「マジ?」
 岡田が携帯使ってるとこなんて年に数回しか見たことない。しかもアイツはこっちがかけても面倒だからと掛け直さないやつだ。その岡田がまめに連絡してる相手。
 「なあ?怪しいだろ?」
 「ああ…相手はわかってんのか?」
 「調査中」
 なんだ、残念…なんて話してる横で岡田が廊下に出た。
 「もしかして!」
 俺と健が後を追う。それに気付きもしないで岡田は隅のほうで携帯をかけていた。
 「聞こえる?」
 「いや…あ!」
 しばらくして話し声がしてきた。だけど相手の声が聞こえないなあ…
 「塚本だって忙しいみたいじゃん」
 …塚本!?意外な人物に俺と健は顔を見合わす。塚本って、ドラマで共演したヤツだよなあ。ソイツが岡田の相手…?今回はたまたま違ったのかもしれない。だけど岡田を見ると笑顔を浮かべていて。なんとなく幸せそうな…そんな感じで。そういえばドラマの撮りも楽しそうだったなと思い出す。
 「塚本、だったんだ」
 「みたいだな」
 岡田を見てたら、それを認めずにはいられなかった。あの岡田の相手にしては意外だけど。でも、塚本って中々顔いいし。相手としては申し分ない。
 「そういえば、櫻井も塚本狙ってるらしいよ」
 「マジ?」
 「なんかJrの間で噂になってるみたいだし」
 敵は内にありってことか。だけど後輩に負けてれないだろう。前途多難な岡田の恋。リーダーとして応援しようと心に誓った。



 「岡田が恋をした?!」
 その衝撃なニュースはあっという間にメンバーに広まった。
 「マジで?それ、信憑性あるの?」
 「だってあの岡田が、なあ?」
 最初は口々に疑ってかかっていた井ノ原くんや長野くんも、あの岡田の顔を見たら納得したようだった。俺らなんてグループ組んで気がつけば7年も経って、嫌っていうくらい一緒にいたのにそれでもあんな岡田は見慣れなかった。あんまり珍しい光景に楽屋のドアから5人分、まるでトーテムポールのように首だけ突き出して見入った俺たち(間違ってもファンには見せられない姿だよ全く)には気付きもしないで、岡田は楽しそうに会話を続ける。
 「なんだよあんな顔、俺らだってそうそう見れねえぞ」
 それだけ本気ってことかな、本気で本気なのかね、井ノ原くんがわからないことを呟いてる下で長野くんがふうん、岡田がねえ、とこちらも同じことばかり呟いている。メンバーが驚くのも無理はないよな。だってあの岡田がだぜ?恋愛に、つか人間自体にあまり興味なさそうな岡田が、誰かに対してそんな風に関わるなんて。
 「マジだってのはわかったよ」
 気付かれないように、そっとドアを閉めて楽屋に戻る俺たち。長テーブルに首を付き合わせて密談でもするような体勢になる(まあ実際、密談だけど)。
 「で?どうする?」
 「どうするって?」
 「バッカ決まってんじゃん、どうやって岡田をバックアップすんだよ?」
 鼻息の荒い井ノ原くんに、黙りっぱなしだった剛が口を開いた。
 「…別に、バックアップなんかしてやんなくても勝手に頑張るだろうよ…」
 「甘いぞ!剛!」
 その発言にすかさずダメ出しが出た。
 「あの岡田だぞ?放っておいたらいつの間にか横からかっさらわれることにもなりかねん!」
 井ノ原くんの鼻息がマジで荒い。思わず時代劇口調になってることに、その場にいる誰もが突っ込むのを忘れた。剛がため息をつく。
 「…あ、それで思い出したけど」
 ぽつりと呟いた言葉に一斉に振り向かれて焦った。みんな…顔がマジだよ…(笑)。
 「その塚本ってやつさ、嵐の櫻井と付き合ってるらしいんだよね」
 「…はあ?!」
 「そうなの?」
 反応は様々だった。いや、ジュニアで噂になってるらしいんだよね。言うとそういえば、と坂本くんが応える。
 「この前松本に会ったとき、そんなことを言ってたかな…」
 あんまり嬉しそうな顔してたから聞いてみたらさ。翔くんに春が来たんです!とかナントカ。
 「それが岡田と同じ春ってわけかよ…」
 思わずボヤいた井ノ原くんの言葉に流されるように、全員が緩く開けられたままのドアを見た、その時。
 「え?そんな話出てんの?」
 驚いたせいで音量が上がった岡田のやや低い声が耳に届く。途端に瞬間移動をして、俺たちは再度ドアにへばりついた。
 「木更津でオフ?へえ、初耳だよ。いつ?」
 どうやらキャッツメンバーでオフ会の話が出てるらしかった。よーし櫻井に負けてる場合じゃないぞ〜どんと行って来〜い!内心思っていると、また岡田の声のトーンが変化する。
 「花火大会…の日は大丈夫だけどやっさいもっさいの日はコンサートが入ってるから行けないなあ…櫻井はどうなの?時期似てたと思うけど」
 櫻井の心配してる場合じゃねえよ岡田…。思いは一緒のようで、トーテムポールが心なし歪んだ。
 「え?嵐は被ってないの?ふ〜んそっか…他のメンバーは?…」
 どうやら日程は決まってないらしい岡田の口ぶりに、俺たちは内心決意した。岡田を花火大会に行かす。嵐に、後輩に負けてられるか。岡田の初恋(勝手に決めつけ)をなんとしても実らせるんだ。そうして俺たちは再度楽屋に戻り、今後の対策を練りはじめたのだった。



 「で、どーするかだな」
 「ここはやっぱリーダーが櫻井にガツンと言えばいいんじゃない?」
 「なんて」
 「オフ会は花火大会ん時にしろって」
 「イキナリ俺が言うのも変じゃねぇ?」
 楽屋に戻り、みんなであーだこーだと作戦を練るけれど中々イイ案が浮かばない。
 「つかさー、俺達誰も塚本サイドと繋がりないんだよなあ」
 「そうそう。嵐はこの前松潤が共演したり塚本と仲良いヤツと繋がりあるみたいだし」
 「その点不利だよなあ…」
 岡田の為になんとかしてやりたいって気持ちはあるけれど、具体的にどうしようと考えたら息詰まった。
 「なんとかしてやりたいよなあ…」
 なんてみんなで沈んでいると、突然剛が立ち上がった。
 「剛?」
 呼び掛けにも応じないで真っすぐに岡田のほうへ歩いていく。岡田はまだ電話中だったらしく、会話が続いていた。
 「でも、みんなやっさいもっさい見たいだろうからなぁ…だから俺は行けないかもなあ…」
 「かもなあじゃねーよ!」
 剛が突然乱入した上に怒鳴られて、岡田は呆然としていた。見てた俺達も驚きのあまり声が出なかった。剛は岡田から携帯を取り、そのまま話し始めた。
 「あー塚本くん?岡田と同じグループの森田なんだけど岡田、オフ会にどーしても行きたいらしいから花火大会の日にしてくんねぇ?」
 おいおい!イキナリ確信ついてどーすんだよ〜!
 「うん、頼むわ。じゃあ」
 一言二言話した後、電話を切った。
 「何…」
 岡田は状況が掴めないらしく、目を白黒させてる。このままじゃ収集つかないと思い仕方なく俺達も姿を現わす。
 「オマエなあ、塚本のこと好きなんだろ?」
 「はあ?何、なんで…」
 「なんでじゃねーよ!好きなんだろ!」
 「え…」
 「なら櫻井の心配なんてしてる場合じゃねーだろ!」
 「ああ…」
 あ〜あ。岡田がハッキリしないから剛がキレた。剛は短気だから、ウダウダやってんのが我慢出来なかったんだろうな。
 「わかったな!」
 「はあ…」
 「よし」
 剛は満足気に頷く。そこで岡田はやっと俺達に気付いた。
 「健くん…いったいなんなわけ…」
 「いや、実は…」
 説明をすると岡田は狼狽えながら聞いていた。
 「俺、そんなにわかりやすかった?」
 「つーか、いつもと違いすぎるから」
 俺が言うと岡田は少し顔を赤くしながら「お恥ずかしい」なんておどけてみせた。今回の剛のやり方は無茶だったけど、でも岡田を思う気持ちはみんな一緒だから。大事な末っ子の恋を出来れば叶えたい。そう思った。





■■■ここまで来るとスゴイなあたし(たち)…。

冗談で書いたオカツカリレーポエムです。読みたい読みたいゆってたら薫さんが送ってくれて、嬉しくて続けたら更に続きが帰って来た、みたいな。あーあたしたちアホですね!ほんとにね!でも楽しいので許して下さい。(許せるか!) ちなみに携帯ポエムなのですが、加筆修正は殆どしないで原文のままで。臨場感溢れていいかなと(自虐的)。サクツカ同様、大前提がオカツカ(造語)とゆーのがそもそも間違ってますけどね、ま、こうゆう夢があってもいいじゃないか。と。記念なので載せておきます。解析にかかりだしたら削除の方向で。(こわいから) 
あ。こわいので感想もお断りですあしからず(弱)。





■■■ついでに更に続いたそのころの嵐。



 翔くんの携帯が鳴った。覚えてしまった、この音は塚本くんからだった。最近タイミングが合わなくて、着信を見てはがっくりしていた翔くんが、本人は平静を装ってるらしい(そして俺らから見ればバレバレの)様子で携帯を耳にあてた。
 「もしもし?」
 翔くんの声が弾んでる。部屋の端に移動して、俺に背を向けて。だけど声だけでバレバレなんだよ、翔くん。苦笑を浮べる俺をよそに、あまり広くもない部屋で、どうしたって会話が耳に入る。
 ―――うん、大丈夫。そっちは撮影中なの?そっか。頑張ってんだな。俺?俺らはこれから雑誌の取材。……え、なに? 
 ここ少し話が出来ないだけあって、近況報告のような世間話のような当り障りのない会話の中、いきなり翔くんの口調に戸惑いが見えた。なんかあったのかな?
 「オフ会が花火大会の日に決まった?うん俺はどっちも空いてるからいいけど…え?剛くんに怒鳴られた?はあ?なにそれ」
 はあ?なんだそれ。
 翔くんの大声のせいでいやでも耳に入る会話に、思わず振り返った。
 「剛くんがなんで?え?准一くんのため?そんなこと言われたの?」
 なんだか無性にいやな予感がした。あんまり人と関わらなそう(に見える)岡田くんが塚本くんと仲がいいらしいってゆう情報を仕入れたときから思ってたんだ。(情報源はどこからかって、それは言えない。俺の翔くんに関する情報網をナメて貰っちゃ困る) 
 岡田くんも塚本くんが好きなのかも知れないって。それは想像でしかなかったけど。そのいやな予感は当たったわけだ。
 「なんかよく分かんないけど…俺は構わないよ。どっちでも」
 構えっつーの!!内心毒づいた。ああ、我らが翔くんは人がよすぎるのかも知れない…。それとも幸せすぎて周りが見えていないのか。(五分五分な気がする) これは絶対に、負けられないよ。ひとりごちた。先輩だろうがこの際関係ない。俺は…俺たちは全力で翔くんをバックアップするんだ。人知れず決意した俺は、残り3人が来るのを待ちつつ(この際大野くんも一蓮托生だ)翔くんに背中を向けて、ひとり使命感に燃えていたのだった。

2002年06月24日(月) サクツカとその周辺。(松潤+斗真)


 「翔くんさあ、最近きれいになったよね」

 久し振りの人に久し振りに電話をかけて、近況報告を経て世間話になって、なんの話題からだったかそんなことを言ってみた。俺自身、ここのところの舞台三昧でゆっくりテレビを見ることも出来なかったんだけど、それでも待ち時間に読んだ雑誌に嵐が載ってた。正確には嵐の連載記事で、ちょうどその号には翔くんと松潤が載っていた。ふたり色違いの揃いの浴衣を着て、俳句を詠んで風流を気取る。誰よりも夏を先取りする。生成りの浴衣を着て涼しげな松潤の横で、同じ柄の桑染色の浴衣を着た翔くんがすごい、なんていうのかな、きれいだったと思った。なにがどうだって、言われると上手く説明出来ないんだけど。思わず見惚れて松岡くんに笑われたっけ。
 『斗真もそう思う?』
 電話口の向こうの松潤が少し笑う気配がした。昔から松潤は自分が誉められるより翔くんが誉められた方がよっぽど嬉しそうな顔をする。ほんとに好きなんだな〜って、感心するのはそんな時で。
 『俺も相変わらず撮影ばっかであんまり翔くんに会えてないでしょ?たまに一緒の仕事になるとドキドキするもん』
 「あはは、同じグループなのにドキドキしちゃうんだ」
 同じグループなんて言ってみたら四六時中殆ど一緒で。家族よりも一緒にいるかもしれない、それだけ一緒にいるのにまだドキドキするんだ。なんとなく呆然とする。そういえば数年前は俺と松潤、デビューこそしてなかったけど同じユニットでいつも一緒で、このまま俺たちはいつまでも一緒なんだろうななんて、夢みたいなことを思ってた。いまはそんな思い出自体が夢みたいだと思う。俺とおまえの道は、180度正反対に別れちゃったね。それを悔やむわけじゃないけど、なんだか随分遠くに来ちゃったなって、ふと考えることはある。
 『するよお〜だってこの頃の翔くんマジキレイだし』
 ちょっとトリップしかけた俺に構わず、松潤の声色が跳ねた。それだけ興奮してる、松潤の言い分は分かる気がした。現に俺もドキドキしたし。この前山下と電話した時も話題になったくらいで。山下は翔くんに憧れてるから余計ちょっと興奮気味だった。カッケー翔くんも好きだけどきれいな翔くんも好きかもなんて言ってた。そのときの山下の声を思い出して、ちょっと笑いかけたとき。
 『だけどね、翔くんをきれいにしてるのは塚本くんなんだよ』
 さらりと言われたその言葉を、一瞬俺は聞き逃した。
 塚本くん。
 思いがけず聞いた、翔くんの想い人。(らしい)
 TVでは見たことあるけどもちろん実際に会ったことなんてなくて、同じ学校だったらしいんだけど、俺が入学した頃には彼は学校を辞めたあとだったし。雑誌やTVで見る分にはきれいな人だなって。充分ジャニーズに入れるよなんてジュニアの間で冗談を言ってた。
 そのきれいな人のために翔くんがきれいになるって、なんかへんな感じだ。
 『恋をするときれいになるって本当なんだなあ〜あれって女の子だけだと思ってた』
 俺の相槌ちも待たずに、松潤は話を続ける。
 『翔くんが塚本くんを好きになればなるほど翔くんはきれいになる気がするよ。なんかちょっと妬けちゃうけどね、ちょっとだけね』
 電話の向こうの松潤がまた笑った。今度はきっと少し唇を歪めて笑ってるんだろう。見なくても分かる相手の表情を思い浮かべて。おまえだって同じだよ、と諦めにも似たため息をついた。おまえがどんどん格好よくなっていくのだって翔くんのせいじゃん。誰のためでもない、翔くんのためじゃないの。思って、点けっぱなしのテレビに目をやった。たまたま放映中の学園ドラマ。画面一杯に広がった「沢田慎」の顔をしみじみと見る。俺が一緒にいた頃は背だって低かったしほっぺた星人で、お互い子供でしかなかったのに、随分と男前になったよ。心底そう思う。そんな風にどんどん変わっていく松潤が、たまに眩しいと思う。
 そうやって、誰かのために変わっていけるっていいよね。
 俺も誰かのために変わっていくことがあるのかな。それとも気付かないうちに、変わっていってるんだろうか。瞬間ふと、思い浮かんだ金髪の子供の顔に、俺自身が少し驚いて。
 声には出さないで、唇だけで笑った。





■■■ビバ月刊テレヴィジョン(8月号)

きっかけはテレヴィジョンの嵐連載で。なにはともあれ見て頂きたいのですが。43ページです、43ページ。そこにはまごうことなき潤翔が!浴衣姿の潤翔が!!マジでまだ御覧になってない方は大急ぎで本屋へ!見たら分かります、このパッションが分かって頂けると思うのです。

いや。正直最近の翔くんの美人っぷりにはあたし的に目を見張るものがあったのですがそれがここに来てテレヴィジョンだよテレヴィジョン!ああ、恋をすると人はきれいになるってゆうわよね…ということでこんなん出ましたポン、みたいな…。サービスのつもり(誰にだ)でいろいろ入れたら収拾がつかなくなり。まるでここの斗真は松潤が好きみたいになってしまいました。うちは基本的に山斗なんですが。まあ相変わらずサクツカって時点で間違ってはいるのですが。結局のところみんな好きなひとのためにきれいになっていくんだよ、と。誰かにきれいと言われる翔くんを書いてみたかっただけです…しょせん翔担なので(ははは)。願わくば翔くんがこれ以上きれいになりませんように。ドキドキするから。

そうそう、塚本=堀越説の裏付けがどうやら取れたような感じなので早速使ってみたりしました。斗真とは2つ違うから、学校で一緒になったことはなかったと踏んでるんですが、果たしていかがなものか。多く見積もっても2年のうちには辞めてると思われるのですが…ううむ。

2002年06月19日(水) 木更津観光記念・とある日のバーバータブチ。(ユズりんさんに頂きました父子SS)


 「今日さぁ、あの子見かけたよ」

 客の髪をシャンプーしながら公助が言った。
 「あの子ってだれ?アニ?マスター?モー子?もしくは先生…は、子って感じじゃねぇよな」
 俺は公助がカットを失敗した客の髪をなんとかフォローしようとしていた。いつもの事ながらなんでこんなにカットの仕方がヘタなんだよ、ったく。
 「あの子だよぉ〜大学にいってる、呉服屋の息子の…」
 力の抜けるような公助の声。でも俺は逆に指に力が入った。
 「もしかして…バンビ…?」
 「そぉ〜そぉ〜!バンビ君ね!今日、本屋の前でバッタリあったんだよ。」
 笑顔でシャンプーをしつつ報告を続ける公助。…おい、そこヒゲだろが、シャンプーで洗うなっつーの!
 「ふーん…珍しいじゃん、あいつん家こっちの通りじゃないのに」
 現在、というか…あの試合以来あまり仲良くはしていなかったバンビの話題にそっけなく返答をしてしまう。声のトーンが変わったせいか、それとも親のなせる技というか…俺の内心に気がついたお節介なチチオヤは、「あのさぁ…」と語り始めようとした。頼む、今は止めてくれ。自分の気持ちをまず整理したいんだ、俺は。誰かにしなさい、だとか指図されたりすんの嫌いなんだよ。
 …普通ならもう少しゆとりがあるんだけど、今はそんな余裕はないんだよ。野球の事とか、この店の事とか、…体の事、とか。
 「公助。」
 今にも口から言葉がこぼれ落ちそうな瞬間に俺は口を挟んだ。
 「いつまでシャンプーしてんだよ。」
 「え、あれ。もうそんなにしてる?じゃ、洗わなきゃ」
 オイオイ、客の頭が泡を泡立て過ぎてサイバハみたいじゃねぇかよ…(笑)
 ほんと、大丈夫なのかよ、しっかりしてくれよ公助。俺、…もう少ししたら、いなくなっちゃうんだぞ。
 自嘲的に鼻で笑う。こんな風に、こんな時になるまでこの家が、この人がこんなにも大事で大切だと知らし目られるなんて。もちろん、俺なりにやってきたつもりだったけど、今になって思う。まだ、まだまだだ。まだやれる事があった筈。
 「何、どうかした…?」
 手が止まって、俯いた俺を見て心配そうに公助が尋ねてきた。
 「別に。」
 今の自分を悟られないように、いつものように振る舞う。
 「ふーん」
 と返事をしながらも何かふに落ちないぞ、という顔をする。 でもそれ以上はなにも聞かない公助。ほっと一安心をしたその時、話はまた元に戻って…
 「でね、バンビ君なんだけどさ」
 「またその話かよ」
 「しちゃまずいわけ?」
 「べっつにぃ〜」
 「じゃあいいじゃない。そのバンビ君ね、どうやら公平君に会いにきたらしいのね」
 は?俺に?ありえないありえない。今はまだ二人きりになって話をするなんてお互い出来る心境じゃないって。
 「バンビが、俺に?そう言ったの?」
 「あぁ、違う違う。言ったのは写真屋の息子」
 はぁ?わけわかんねえ。
 「気にしてたよー写真屋の息子も」
 「いや、いやいやいや、わけわかんねぇって」
 マジ、わけわからん。もう公助から一度話を聞きだして整理した所、話はつまり『本屋でばったりバンビに会ってから家に帰っているとアニにも会い、バンビが俺に会いに来ていたと話していた』つー事らしい。…話はしょり過ぎ、公助…(苦笑)。もう少し、わかるようにいって欲しいもんだ。
 「まぁ、話の流れはだいたいわかった。でもあいつが俺に約束もなしに会いにくるなんて珍しいな。」
 「だよねー。」
 「公助がバンビに会った時はなんも言ってなかったわけ?」
 バンビが直接公助に言わないのが妙に気にかかった。いくら今の俺らの関係がいやでも一言くらい言えばいいのに。
 …あ、もしかして。
 「公平君さー後で電話入れた方がいいんじゃない?せっかく来てもらってたんだし」
 「あー…。うん、イヤ、別にいいや」
 だって、俺の考えている事があっていれば。アイツが会いに来たのは俺じゃなくて…
 「そんな事言って…なにか大切な話だったらどうするのさ」
 「あした、会いにいくし」
 …これは本当の事。それに。
 「たぶん、俺には大した話はないはずだし」
 そぉ?と納得がいかない表情をしながらも公助は仕事に戻った。まだ、何かいいたげではあったみたいだけど、あまり話したくないっていう俺の気持ちを察したらしくそれ以上何も言ってこなかった。
 それにしたってバンビのヤツ、ヒドイじゃないか。俺をダシに使いやがったな。 俺に会いに来たと言うのはたぶん、いやきっとアニに会いたいが為の口実。最近、ただでさえアニはやたらとバンビと仲直りさせようとお節介しまくりで、バンビバンビってうるさくてムカついているって言うのに。なんだよ。なんだっていうんだよ。
 まるでバンビの肩をもっている様に思えてくるんだよ、アニ。むしろ、こっち側にいて欲しいのに。小さい時から遊んだりケンカしたりした仲じゃん。バンビよりながーくてふかーい付き合いじゃん。バンビバンビいうなよ。
 あー、なんだこのムカムカっぷり。まるで焼いてるみたいじゃん、俺。…焼いてんのか、俺。
 「こ、こーへー君、髪、髪切りすぎ!」
 公助の叫ぶ声でハッとする。俺の右手にはカット用のハサミ。足元にはザクザクに切られた髪、もちろん客の。ゲ。マズイ。
 公助の声で客が自分の髪の異変に気がついた。ヤバイ、ヤバイぞ。でもなんとか俺は顔色が青くなっている客を言いくるめて(笑)別の髪型にカットする事に成功した。しまったな、大失敗だった。客があの髪型に納得してくれたから良かったものの、危うく店の評判を落とす所だった。ただでさえ公助が一度失敗していたというのに、二度もしくじったりなんかしたら俺的に立ち直れねぇ(苦笑)ったく…なんでこんな事になってんだよ。って、あれか、バンビか、それが発端か!!なんだかなすりつけてる気もするけど始まりはバンビからなんだし!俺をダシに使ったのバンビだし!
 「だめだよ〜公平くん…失敗なんかしちゃあ」
 「ってゆーか、元は公助の失敗じゃん」
 ムカムカで余裕のない俺は公助にすら八つ当たりをする始末。ごめん、今そんなよゆーないっすよ。なんかその場にいたく無くなって店を飛び出した。あー、…何やってんだ俺。ため息をついて空を仰ぐと、「ぶっさん、何やってんの?」と呼ぶ声が聞こえる。声の主は、一軒向こう隣の二階から。思っていた通りの笑顔がみえる。ニヤリ、と俺に笑ってくれている、アニの顔が。
 ガチガチに固まっていた心がゆっくりと柔らかくなって行くのが分かる。今、こうしてアニが見ているのは俺で、俺が見ているのはアニなわけで。ちょっと、ロミオとジュリエット見たいで笑える。笑えるっつーか、にやける。嬉しいんだな、きっと俺。バンビもきっとこんな気分なんだろう。家路を遠周りしてまでこの道を通る理由。
 …明日バンビに会う予定あるんだけど…やっぱり、もうしばらくは仲直りはできそうにないかな。

 アニとのこの空間を取られたくないからね。

2002年06月18日(火) 木更津観光記念・半分事実なバンビアニ。


 「よう、バ〜ンビ!」

 上から振ってきた声に顔を上げると佐々木写真館の2階、開け放した窓からアニが顔を覗かせていた。
 「今。大学の帰り?」
 くわえタバコのまま軽く笑う。
 「うん」
 「ふーん大変だなー大学生は」
 「まあね」
 今日は授業が4限までびっしりで、5限がなかったのは幸いとはいえ、それでも遠く木更津まで帰って来たときには日も暮れ切ってしまっていた。その日の営業を終えた隣の洋品店は、すっかりシャッターを閉めてしまっている。その青いシャッターが、まだ少しの営業時間を残した佐々木写真館の店明かりに淡く照らし出されていた。完全に立ち止まった店の前、ふと正面を見ると店中にいるおばさんと目が合った。目だけで軽く会釈を交わす。
 「でもなんで、わざわざこっち通るって珍しくね?」
 ふと呟いたアニが、首を捻って通りを見やった。おまえんち、あっちからの方が近いじゃん。ぶっさんに用かなんか?
 「…本屋に用があったんだよ」
 思った以上に不機嫌な声になったかも知れなかった。まるで言い訳をする子供のように、ぼそぼそと早口で答えた俺には気付かったのか、気付かないふりをしたのか。アニは表情を変えないままふうん、と呟いた。
 「まあ、またマスターんとこにでも顔出せよ。ぶっさんもいるしさ、な?」
 「…うん。じゃな」
 「おう、またな」
 笑って手を振るアニに背を向けて歩き出す。足幅にして数歩分、ニ軒先に、続けてぶっさんの家が目に入った。ちらりと目をやると、店にはいないようだった。小さく息をつく。
 「ぶっさんぶっさんか…」
 知らず呟きが洩れた。
 アニは俺とぶっさんを仲直りさせたくてそんなことを言ったんだろう。もう3年も口を聞いていない。なんとなくタイミングを逃して、和解するきっかけを失くした。そりゃあ仲直りをしたくないわけじゃないけど、互いにおいそれとそんなことが出来るキャラじゃない。そんな状態で、俺がわざわざぶっさんに会うために遠回りまでしてこの道を通ると思ったらしい、アニは基本的に俺のことを分かっていないのだと思った。そう。アニは俺の思惑なんて気付きもしない。俺の本心なんて考えもしない。
 本屋なんか誤魔化しに過ぎなくて。本当は。
 大体こんな木更津の小さな本屋より、大学の近くで買う方が品揃えだっていいに決まってるんだ。それでも用もない近くの本屋に寄って、それを理由にこの道を通る。
 木更津駅からそごうを抜けて、西へ伸びる大通りを歩く。八幡神社を横目に、目の前が小さな商店街の西端、佐々木写真館だった。俺ら3人の本拠地であるみまち通り商店街―――別名たぬき横丁の、東側を経由した方が家には近いのに、わざわざ西側から迂回する。そうやって遠回りをして家に帰ろうとする理由なんて、たったひとつだけで。
 会えるかもって思うから。
 こんな風に、ひょっこり覗かせた笑い顔を見れるかもって思うから。
 ふと、足を止めて振り返る。通りの突き当たり、煙の先にアニの横顔が見えた。ぼんやりと空を見ていたその横顔が、視線に気がついてまた、手を振りかけてくる。ゆっくりと笑みを浮かべる。見たかった笑い顔。遠回りの理由。
 唐突に、心底自分がバカみたいだと思った。
 バカみたいだ。
 遠く東京の大学に2時間もかけて通学する自分。
 木更津を出ない理由。
 遠回りの歩数と時間、その間に考えること。
 当たり前のように見上げた2階から覗く、アニの笑い顔。
 …嬉しくて。
 なのにぶっさんの名前を出される。
 この、中途半端に渦巻いた気持ちはなんだろう。
 いろんなことに素直になれないでいる。
 いろんなことをハッキリ出来ないでいる。
 バカみたいだ。
 アニもバカだ。
 ぶっさんもバカだ。
 みんなバカだ。
 「…バカばっかりだ」
 吐き捨てるように呟いて、手も振らずに背を向けると一気に家まで走った。





■■■木更津へ行ってきました。

そしてモリモリとたぬき横丁を徘徊(笑)。バンビぶっさんアニんちを見て興奮に興奮を重ね、そしてアニぶっさんちの立地に萌えに萌えて、事実をベースに書いたバンビアニです。説明がいると思うのですが、木更津駅から大きく伸びる富士見通りのひと筋南、細道に逸れたところにみまち通り商店街はあるのです。で、中込呉服店は東西に伸びたみまち通りの南東あたり、そしてバーバー田渕と佐々木写真館は西側に位置しているのでした。西端どんつきにある佐々木写真館のすぐ近くには本屋があったので、本屋を理由に遠回りしてアニんちの前を通るバンビとかどうだろう、とか妄想した結果がこれなんですが、あとから1話でぶっさんアニに会ったバンビがまさにその状態だったと知って驚愕したのでした。ああ、またも妄想に事実が追いついてしまった…とほほとほほ。ちなみにお隣りさんかもと狙ってたバーバー田渕と佐々木写真館は、婦人洋品店を挟んで1軒先同士でした。壮絶に邪魔だと思ってしまった洋品店さん本当にごめんなさい(笑)。

微妙にアンニュイポエムになってしまった遠回りバンアニですが、実は薫さんとユズりんさんがそれぞれ続きポエムを書いて下さいました〜!それぞれアップ(完結)されるのを待ちましょう(笑)。どちらもかわいくて悶えますヨ!あ〜〜〜か〜わ〜い〜い〜〜〜〜〜(うねうね)。

2002年06月17日(月) 甘い手。(沢黒)


 慎ちに転がり込んで早一ヶ月。その日は俺の仕事が休みで。買い物に行こうと言いだした慎に付いて家を出た。
 「なに買うんだよ?」
 玄関で靴を履きながら、何気なく向けた質問にテレビ、と短く答えが返る。
 「テレビ?」
 「ああ」
 「買うの?」
 「ああ」
 「もしかしてそれは俺のため?」
 「他に誰がいるんだよ」
 さも当たり前のように言い放たれる。
 慎ちにはテレビがなかった。高校生男子として、テレビがない状況ってすごくないか。初めてこの家を訪れたときにはあまりにも驚いて、どこかに隠してるんじゃないかと勘繰ったものだった。1年振りに訪れた部屋にもやっぱりテレビはなくて。1年前と同じように、俺はしみじみと不平を洩らしたのだった。
 「…なんか、悪いな居候の身なのに」
 わがままばっかり言って。
 希望を叶えられる喜びとは裏腹に、急にしおらしい気持ちになる。
 慎の優しさに甘えてる自覚はあって。
 それは、慎の部屋に俺の持ち物が増えるのに比例していく。
 心配かけて、当り散らして迷惑をかけた。
 心ないことを言って傷つけた。
 なのにいま、そんなことを棚上げにして甘えてばかりいる。
 慎ちがあんまり居心地いいから。慎の側があんまり安心するから。居座って、根をおろしてしまうんだ。
 「…ごめん」
 小さく言った。
 ごめんって、それはTVのことだけじゃなくて。
 慎が理解しているかは分からなかったけれど。
 ちらりと目だけでこちらを一瞥した慎は、別に、とやっぱり短く答えた。



 階段を下りて、地上に出る。マンションの入り口を出てすぐ、予告もなしに手を握られた。手の平を包み込むように、大きく握り込まれる。
 「慎?」
 驚いた声は「いいから」って慎の落ち着いた声に消されてしまった。中途半端な時間帯とはいえ人だっていないわけじゃないし、地元じゃないとはいえ俺だって道を知らないわけじゃない。心配しなくても、迷子になんかならないよ?なったとしても、きちんと帰って来れる。
 繋いだ手がなにを意味しているのか分からなくて、俺は途方に暮れた。だけど慎は握った手を離すそぶりもない。戸惑うそばからぎゅ、と余計に強く握り込まれた。まるで離れていくのを恐れるように。
 …ゆっくりと、情景が重なる。
 あのとき膝の上で小さく震える俺の手を、握ったのも慎の手だった。その上にうっちいの、岩本の、女教師の手が重なる。それで不思議と震えは止まって、ただ力強く重なる手の重さだけが感じられた。そのときと同じ、骨ばった慎の手の感触。
 あのときは気付かなかった、その手は俺をこちら側に繋ぎとめていたんだと、今になって思った。逃げてばかりいた俺が、これ以上逃げないように。もう離れていかないように。
 ずっと気にかけてくれていた、慎の視線に気がつかなかった。
 その愚鈍さは、どれほどの罪だっただろう。
 「…もう、逃げたりしないよ」
 ぽつりと洩れた言葉は、少し掠れてそれだけ切実な感じになった。
 「当たり前だ、バカ」
 言った慎の手にまた力が篭る。
 俺は、ここにいてもいいのかな。
 唐突に思った。
 俺は、慎の側にいてもいいのかな。
 俯いて、軽く目を瞑る。ぼんやりと思った。



 握られた手の強さが俺の犯した罪ならば。その痛みはなんて甘い、罰なんだろう。





■■■手を繋ぐふたりが書きたかっただけです。

書きたかったのはたった一行、一言だけだったので(きっとバレバレでしょう)ムリムリに繋いだら相変わらずヘナチョコな話になりましたスミマセン。結局のところうちのふたりは両思いなので、許すも許さないも、ごめんもいいよもないんだけど、互いにいろいろ勘繰ったり気を回したりするあたりが両思いの所以であるのだなあと。よく分からない理屈ですが。全てはそこに愛があるからなのです。互いのことを考えすぎるほどに考えるのも。気にしすぎるほどに気にするのも。私のイメージ沢黒って、そんな感じみたいです、いまのところ。

2002年06月13日(木) 家路。(沢黒)


 「し〜ん〜〜vvv」

 ホームルームと放課後の境目と同時に、南が浮かれた声を上げた。そのまままっすぐ教室の一番後ろまで小走りに寄って来る。
 「今日、おまえんち行ってい?いいビデオが手に入ったんだよ!」
 家だと落ち着いて見れねえしさ!慎んちは一人暮らしだから問題なしじゃん? 
 勝手に話を進める南をよそに、立ち上がった沢田は机の脇にかけられた鞄を手する。
 「悪いけど、今日はダメだ」
 あまりにサラリと断られたので、南は一瞬、正確な意味を理解しかねてポカンとした顔をする。それから、慌てて叫んだ。
 「え〜〜〜ッ!マジで?!うっわ俺ちょー楽しみにしてたのに!」
 おまえだって見たいだろ?!無修正洋モノだぜムシュウセイヨウモノ!
 叫びながら南はいかがわしいピンク色のビデオを振り回す。
 「いや、別に」
 そんな南にはもう背を向けて、沢田はぺたんこの鞄を持ち上げた。それからふと、足を止めて。
 「ちなみに俺んち、テレビねえんだ」
 振り返りもせずに教室を出て行った。

 「慎」

 教室を出ると、壁にもたれた体制で内山が立っていた。そういえば教室にはいなかったな、と沢田はふと考える。
 「別に詮索するつもりはねんだけどさ」
 言い訳をするようにそう、前置きをして。
 「クロ、おまえんちにいるんだろ」
 単刀直入に言った。
 沢田は沈黙を返しながら心もち目線を上げて、内山を見る。目線が交差した。
 「南はきちんとうちで面倒見るからさ、心配すんなよ。今日だけがダメなわけじゃねんだろ?怪しまれる前に言い訳考えておけよ」
 内山が笑う。隠すつもりもなかったし、隠したいわけでもなかったけど。なんとなく表だってそれを宣言して回る気にはなれなくて。
 「…そうする」
 直接的な返答はしないままに口の端をわずかに持ち上げた。そんじゃ俺、先帰るわ。と歩き出した沢田の背中に内山の声が柔らかくぶつかる。
 「クロによろしく言っといて」
 声には出さないで、右手を軽く振って見せた。






 どうしてそうしようと思ったのかは分からない。
 言い出したのは俺の方だったと思う。俺、働くよ、と小さく呟いた黒崎の横顔を見ながら、思考を通さずに口だけがただ機械的に、俺んち来るか、と言った。働くつったって日払いでもなけりゃ金になるまではしばらくかかるし、おまえ行くとこないんだろ?自分でも最もな言い分だと思った。思いつきにしてはよく出来ていた。案の定、黒崎はバツが悪そうな表情になって、実はそうなんだ、と更に小さく呟く。いまさら家には帰るつもりねえし、つか帰れねえし、今までは知り合いんとこ泊まり歩いてたからさ。
 だったら。
 自分でもなにをそんなにムキになっていたのだろうと思う。むしろ必死なのは自分だったかも知れない。だったら俺んとこは一人だし、気兼ねしなくていいんだぜ、言った自分の声は自分で思う以上に、熱っぽいと思った。





 早くもなく遅くもなく、ゆっくりとした足取りで家路につく。そういえば冷蔵庫に飲み物を切らしてたな、と思い至ってマンションの玄関をくぐる前に、近くのコンビニへと軌道修正をした。ドリンクの棚の前に立って、いつものメーカーの緑茶を手に取りかけて、そういえばあいつは緑茶が苦手だった、と思い出した。伸ばしかけた手を下に移動して、半透明のスポーツドリンクを籠に入れた。500mlのペットボトルの入ったコンビニ袋を下げながら、そんな自分の行動がひどくおかしくて、笑いたくなった。
 金属質な音を立てながら玄関のドアをあける。ただいま、と小さく呟いた声に、おかえりと明るい声が帰って来た。
 「よお〜慎〜〜。待ってたよ〜〜〜」
 ソファにうつ伏せになった黒崎が、ひらひらと手を振っていた。
 「おまえが待ってたのは俺じゃなくて、こっちだろ」
 言って差し出したペットボトルに気がついて、おお、それそれ!も〜喉渇いてさ〜!とひったくるように受け取った。黒崎がキャップを開けている間に、戸棚からグラスをふたつ、出して机に置いた。
 「買いに行こかうと思ったんだけど、俺、考えたら一文なしでさ〜」
 なみなみと注いだスポーツドリンクを一気に喉に押し込む。随分と美味そうに飲むもんだ、と自分が飲むのを忘れてつい、じっと見てしまった。
 「んだよ」
 視線に気付いた黒崎が軽く口を尖らせる。
 「いや?」
 別に、と嘯いてグラスを傾けた。半分くらい飲んだところでグラスを戻すと、その延長上、大きな欠伸をする黒崎の姿に行き着く。
 「久々に体動かしたら疲れちゃってさ。かなりなまってたよ」
 ざまあねえよな。小気味いい音をさせて肩を回した。そうしながらまた、小さな欠伸が止まらない。
 「眠いならベッド、使えよ」
 「ん〜…」
 生返事の黒崎は、もう半分眠りに落ちかけていた。一応さ、慎が戻って来るまでは待ってようって、けっこー頑張って起きてたんだよ。慎の顔みたら急に眠気が、なんてモゴモゴと言い訳みたいに口の中で呟く。だいたいこの家にはTVがないんだから、寝るしかねえんだよ。おまえ普段なにしてるわけ?・・・
 ひどい言われように笑いを堪えながら、見てるそばから黒崎は眠りに落ちていく。やがてソファに横になった体勢のまま、小さな寝息が聞こえてきた。やや長めの前髪が、閉じられた瞼にかかって、それがひどく彼を年相応に見せると思った。長い睫毛がまっすぐな影を作って、その影が呼吸に合わせてかすかに揺れるのをしばらく眺めていた。やがて沢田も小さくひとつ、欠伸を落とす。
 「うつった・・・」
 ぼそりと呟いて、ゆっくりと伸びをした。それから立ち上がって、毛布を2組持ち出してくる。ひとつを黒崎にかけてやって、もうひとつは自分の肩まで持ち上げた。そのままソファを背もたれにして、目を瞑る。
 閉じた目の奥、黒い影のすぐ後ろから黒崎の規則的な寝息が聞こえた。その小さな音だけが、この世界の全てだった。沢田の家を出て、文字通り一人で寝起きしてきたこの部屋での、はじめての異音。側に誰かがいる、ということ。
 小さく息をつく。
 自分の吐いた息にさえ、かき消されてしまう小さな寝息。
 そんな小さな音が、とても大切だと思うだなんて。
 「バカみてえ…」
 呟きつつ、その声色が柔らかいことを知っている。
 昨日と今日がなんら変わらないように、閉じた目を次に開いたとき、世界が変わっているわけじゃない。だけど、なにかが自分の中で変わるような気がしていた。目が覚めても、黒崎はきっとそこにいるから。もう、消えたりしないから。
 寂しかったのは、きっと自分の方なのだ。
 自嘲気味に沢田は思って、そこで思考を止めた。それからゆっくりと、眠りに落ちた。





■■■意味分かりません。

更新したいーという気持ちばかりが空回りしました。
黒崎を拾って帰る沢田ってのもアリかなーと思っただけです。気持ちが落ち着いたら書き直したいと思います。たぶん・・・たぶんね。(弱)

2002年06月12日(水) 夢。(沢黒)


 「やめてやるよ!こんな学校、こっちからやめてやる!」

 今でも夢に見る。
 あの時の黒崎の掠れた声と泣きそうに歪んだ目。震える拳。項垂れた黒崎の背中が小さく震えていて、俺はその肩を抱いてやりたいと思うのにそれが出来ない。なにか出来ることはないかと必死で考えるのになにも浮かばない。胸が苦しくて、息が出来ないと思う。呼吸を奪われる。苦しくて苦しくて苦しくて。真っ白になる。白濁した思考の中でゆっくりと、だけど確実に黒崎が先へ進んでいく。衝動的に追おうとする俺は、精一杯手を伸ばすけどその手は決して届かない。黒崎の背中がどんどん小さくなって、伸ばした手がちぎれそうだと俺は冷静に思う―――そこで目が覚める。目が覚めると真上に見慣れた天井があって、夢だったんだと思う。大きく息を吐く。ああ、俺は息をしている。
 夢が夢だったことに少しだけ安心して―――それは逃げでしかないのだけれど。
 久し振りにあの夢を見た。目が覚めると留置場の中だった。冷たい床の上で、ゆっくりと思考が戻ってくるのを感じる。そうだ、ここは警察で、俺は昨日、バーで喧嘩騒ぎを起こして捕まったのだ。学校の名誉と保身ばかりを考える教頭において、さすがに今回ばかりは退学を覚悟していた。いくらヤンクミでも、どうにもならないだろう、今回ばかりは。
 天井を見上げる。いつも目覚めたときに見る白い天井ではなく、コンクリの剥き出した、冷たい天井。
 ―――むしろ俺は、退学になりたかったのかも知れない、と思った。心のどこかでそれを望んでいたんだ。そうなることを。そうなるように。もちろんそれで、あいつが喜ぶなんて思っちゃいないけど。そんなことが気休めになるとも思っちゃいないけど。それでも俺はあいつに対して、なにかをしてやりたいんだと思う。ずっとずっと、なにかをしてやりたかったんだ。
 目を閉じると今でも、瞼のすぐ上にあいつの顔が浮かぶんだ。
 よく笑うやつだった。うっちーとバカばっかりやっていた。あいつらのバカに巻き込まれて、俺も一緒になってバカをやってた。それが楽しくて、それが全てだった。そんな毎日がずっと続くんだと思ってたのに。世の中は上手く行かない。
 あいつの笑い顔が薄れて、泣き顔に変わる。俺はそれを止められずに見ている。
 ああ、そういえば。
 留置場の薄汚れた床の上で見た夢の中でも、あいつを捕まえられなかったな、と思った。それぐらいじゃ許さない。黒崎が言ってる気がする。こっちに来いよって言ってる気がする。あいつはただ黙ってこちらを見ている。色の濃いサングラスに覆われて見ることは出来ないけれど、きっとその目は泣いているんだ。
 ギュ、と拳を握り締めた。
 本当はいつだって行きたかった。だけど俺の伸ばした手はあいつには届かなくて、だから。だからもし今度おまえに会えたら今度こそ逃がさない。今度こそきっとその手を掴んで、離さない。

 「…会いたいんだ」

 ぽつりと呟いて、目を閉じた。





 「…なあ、おまえあのときどんなこと考えてたの」

 口の中で呟くような声に、目線だけを上げて内山を見た。
 「あのときって?」
 「留置場で」
 他になんかあんのかよ、とでも言うような顔。短気で単細胞なこいつはたまにとても鋭くて、こんな風に人を見透かしたような目をする。別にそうと分かるようなそぶりを見せたつもりもなかったけど、それは内山も同じように、あいつのことを常に気に留めて生きているということなのだろう。
 「…別に」
 「んだよ、隠すのかよ」
 「隠してなんかねえよ」
 「隠してるよ」
 「わざわざ言うほどのことは考えてなかったってことだよ」
 「嘘だ」
 「…うっち」
 言葉を切って、内山を見据えた。
 「なにが言いたいんだ」
 逸らさずに目線を受け止めた内山と、睨み合うようにして一瞬時間が止まった。
 「……クロのこと考えたのかなと思ってさ」
 慎は優しいから。きっと重ねたんだろうなと思ったんだよ。
 絡んだ目線を外して、俯いた内山の横顔が少し翳った。本当に優しいのはきっとおまえの方だよ、と思う言葉は外には出さないで、内側に仕舞い込む。そうやって気を遣ってくれたのはいつでも内山だったんだと思う。いまも素直に心配してくれているのだろう。そういう気持ちはとても伝わってきたから。
 「黒崎の夢を見たよ」
 そういえば口に出して黒崎の名前を発音するのは久し振りだと思った。いつでも胸の内で呼び続けていたので、外から耳に届く黒崎の音感が居心地悪かった。
 「留置場で見る夢の中くらいあいつを捕まえられるかと思ったけど、そう上手く行かなかった。やっぱり逃げられたよ」
 出来るだけ明るく、なんでもないことのように言おうとしたのに余計に引き攣った感じになって、逆効果だったと思った。そうじゃなくても内山にはなにもかも知れているのに、今更。隠す事なんてなにもないのに。それでも言えないでいる。
 「…そっか、」
 アイツなにしてんのかな。内山の目が遠くを見ていた。
 「―――会いたいよな、久し振りに」
 「…ああ」
 いつだって思っているのに、口に出せないでいる。目を閉じると瞼の裏に、あいつはいるのに。いつだって、そこにいるのに。
 
 「会いたいよ」



 ただ俺はもう一度、おまえに会いたいだけなんだ。





■■■恋?

ついに解禁ごくせん9話!とゆうわけで期待を裏切らない内容に自主祭りの開催を予想したわけだったんですが、あっれー。なんでこんな暗くなってんの?つーか前半部分は今日の昼間に滑り込みで送信した沢黒こんなんどうかなポエムだったわけです。放映されたあとなのにこれが使えるあたりがスゴイよ…ブルブル…と思ったのでした。いや!夢見させて下さいよ!慎ちゃんは黒ちゃんが好きなんだと!そういうことにしておきましょうよここはひとつ!(ムリカラ) いやね、黒崎ウンヌンが出てきたとき、咄嗟に思ったのは7話の留置場の沢田だったわけです。状況的に、あのときの黒崎にちょっと似てるなと思って。だからそこできっと、黒崎のことを考えただろうと。これで退学になったら、少しは黒崎の気持ちが分かるかもしれないと思ったに違いないと。だからむしろ沢田は退学を恐れてはいなかったかも知れないと。ま、そういう夢です。(身も蓋もない)

2002年06月07日(金) ごくせんでサクツカな松本+塚本。


 初めて会った塚本くんは、翔くんと同じ髪の色をしていた。

 そんなところばかりが目についた。
 俺自身が力を入れて見ていたドラマでの、彼の演じていたキャラクターよりはややおとなしい金色の髪が、スタジオのライトに照らされていた。この髪の色には馴染みがある。翔くんの金髪もやっぱりライトに当たってよくキラキラしていた。俺はどっしりとした黒髪だから、そういうキラキラ感とは縁遠くて、だからそんな翔くんの金髪の軽さがとても好きだった。
 ドラマのゲストとして塚本くんと共演すると知ったとき、翔くんも驚いただろうけど、俺はそれ以上に驚いた。前前から一度会ってみたいとは思ってたけど、まさかこんな形で会うことになるなんて。9話の撮影に入って、スタジオ入りした塚本くんは俺を見つけてはじめまして、と言った。確かにはじめましてではあるんだけど、俺にとってはもうずっと前から知っているような気になっていたから、不思議な感じがした。短い間だけど宜しく、と差し出された手は、思ったより骨ばっていて力強かった。

 「沢田はズルイよね」

 撮影の空き時間に、台本を眺めながら塚本くんがぽつりと言った。
 「沢田」って言ったけど、それってつまり俺のことで、一瞬自分のことをズルイと言われたのかと思って焦った。俺、塚本くんになんかしたっけ。まだまだ会話だってそんなにしてないのに、ズルイなんて言われるようなことは、言ってもないししてもないと思うんだけど。
 「あ、松本くんのことじゃないよ。慎のこと」
 そんな俺の様子を察したのか、顔を上げてちょっと笑った。笑うとえくぼが出来るんだ。とても素晴らしい発見をしたような気になって、その笑い顔をまじまじと見つめてしまった。
 「…慎。ズルイかな?」
 そんなことを言われたのは初めてだったので、少し驚いた。沢田慎は口下手っていうか、誤解されやすいキャラクターではあったけれど内面は友情に厚いいいやつだったし、それはきっと3D全員が知ってるはずだった。ズルイなんて言われる筋合いはなかった…と思う。それが顔に出たのかも知れない。塚本くんはうーん、と小さく唸って台本を閉じた。
 「だってね、自分は退学を覚悟で教師に殴りかかったくせに、俺=黒崎のことは止めるでしょ」
 そういうのはズルくない?
 「そう、言われると返す言葉もないんだけど…」
 口篭もった俺に、いやいや、だから松本くんのことじゃないんだけどね、と言ってまた笑った。
 「いろんな見方があるってことだ」
 「そうそう」
 性格なんて、ひとつじゃない。不特定多数に同じ自分ばかり晒してるわけじゃないし。沢田だってヤンクミの前でひどく年相応な顔を見せたりする。それと同じように―――ふと、思い付いた。例えば。いま向かい合ってる俺と塚本くんが見てる「翔くん」も、違った形をしているのかな、と。それは当たり前のことのようで、軽く後頭部を殴られたような、少しばかりの衝撃を受ける。
 「このドラマに出ることが決まって、翔くんなんか言ってた?」
 なんとなく聞いてみた。最近は撮影ばかりであまり会う機会がなくて、このことも確かメールで知らせたんだけど、そのときには既に知ってるっぽかったから。塚本くんに聞いたのかなって思った。メンバーには言ってなかったみたいで、相葉ちゃんから即電かかってきたっけ(笑)。
 「あーどうだろ、どんな役?とかそのへんつっこんで聞いてきたくらいで」
 松本くんとかなり絡むよ、って言ったらよろしくしてやって、って笑ってた。
 笑って言う塚本くんの言葉に正直、かなり滅入った。その笑いの下で指なんかポキポキ鳴らしてる翔くんが見え隠れするようで。翔くんはあれで結構ヤキモチ妬きだし、子供っぽいんだ。次会ったときは臨戦体制で臨まないといけないかも知れない。
 「9話が放映されたら俺、翔くんに殺されるかも知れない…」
 力なく呟いた俺を見て、塚本くんはアハハ、と声に出して笑った。なんで、そんなことしないでしょ。
 「そんなことするのが翔くんなんだよー…爽やかに笑いながら刺しそう」
 「翔ってそんなキャラ?」
 さりげなく。
 塚本くんの声が「翔」って呼んだ。唇がかたちどった。なんだかドキリとして俺は思わず、顔を上げる。メンバーはみんななんでだか「くん」付けしちゃうから(それは年上の大野くんもそうだったし)、そうやって呼び捨てにされる翔くんの名前には馴染みが薄くて、なんか違う人みたいで。
 実際、違う人なのかも知れない。嵐にいるときの翔くんと、塚本くんといる翔くんは。改めて思った。不思議な感覚がする。「嵐」のときの翔くんを塚本くんは知らなくて、だから、俺の指し示した翔くん像に首を傾げてみたりする。それでいいのかも知れない。互いに少しだけ共有してる、自分だけの「櫻井翔」を持っている。
 ―――そう思っても、いいよね、少しくらいは。
 大家族の末っ子のような気持ちでそう思う。もしくは親離れ出来ない子供のように。
 お兄ちゃんの恋人に対するときって、こんな気持ちになったりするのだろうか。
 自嘲するように思う。
 俺は寂しいだけなのかも知れない。
 思って、目の前の塚本くんに気付かれないように、少しだけ笑った。





■■■お兄ちゃんのすきなひと。

痛いタイトルつけんなよみたいな(黙)。
書き始めたときはもう少し、違う話になるはずだったんですけど、よくある話で書いてるうちにどんどん違う方向に…。さすがに途中で手が止まって、放置されてたんですけどそれも勿体ない気がして(貧乏性です)続けてみた…んですけども。それにしたってなんじゃあこりゃあー。あたし本当に、そのうち松本ファンに刺される気がします。すみませんすみません。ちょっと書いてみたかっただけなんです。謝りつつ早々に退場。さようなら〜。

あ。ちなみに塚本=堀越?説はよく分からないので、なかったことにしていますご了承下さい。

2002年06月06日(木) やったもん勝ち9話予告だけで捏造した沢黒+野田。


 最初に気付いたのは内山だった。
 学校帰りの繁華街。いつものようにいつものメンバーで特に用もなく、ブラブラと通りを歩いていた。その通りの先、そんなに広くもない道いっぱいにたむろした、俺から言わせれば美的センスのかけらもない集団の中に、異彩を放つやつがいた。内山と比べると甘い印象の金色の髪が、その存在を叫ぶように目を奪う。その金髪の下で、鋭い眼差しがこちらを見ていた。目が合った、と思ったその目線は正確には俺の隣りの、慎を見ていたんだと思う。
 「…おい、慎」
 思わず見とれてしまっていた俺は、内山の堅い声で我に返った。左隣りの、頭半分高い位置にある内山の顔をちらりと見上げて、それから反対隣りの慎へと視線を転じた。促された慎の顔は真っ白で、ただ目だけが鋭く数メートル先を睨みつけていた。こんな様子の慎は珍しい。確かに慎は喧嘩っぱやいところはあったけれど、理由もなく、他人につっかかるようなことはしない。
 沈黙したまま、性急に進み出ようとした慎の肩をやんわりと内山が抑える。半歩前に出た内山の後に続いて、慎もゆっくりと歩き出した。瞬きをする間すら惜しむようにただ前だけを、そいつだけを睨みつけた慎の目の中の色に、俺はこのとき気付いていなかった。思えばこのとき気付くべきだったんだ。だけど俺はその空気の鋭さにぽかんとするだけで、ただそいつの顔と、慎の顔を交互に見つめるだけだった。

 「黒崎。なにやってんだよ」

 慎の尖った声がする。心なし責めているような、珍しい声。
 「なにって、関係ねーだろ」
 相手の男は一瞬絡んだ目線を乱暴に裂いて、そのままやりすごそうとした。その肩を、乱暴に掴む。
 「黒崎!」
 「なんだよ!ほっといてくれよ!」
 「黒…!」
 思わず声を荒げた慎の声を遮るようにして、数人が割り込んで来た。ニヤニヤ笑いながら金髪の男を庇うように体を入れる。「しつこいと嫌われるよ?」子馬鹿にしたように言われて、慎の頭に血が上るのが見える気がした。一触即発。ちょっとでも動きがあったらすぐ止めに、もしくは加勢に入れるように、ぐっと体に力を入れた。
 「どけよ…」
 「…行こう」
 同時に発せられた、慎の声と金髪の声が被る。どちらも押し殺したような低い声だった。そのまま慎と内山には見向きもせずに、男は立ち去ろうとする。その背中をやっぱり慎は睨みつけたままだった。ただ立ち尽くす慎の横顔の中に、繊細な感傷が見え隠れする。そこでやっと、俺は思った。責めているようだと思った慎の声は、相手ではなく自分に向いていて。鋭いと思った眼差しは、そうではなくて、―――むしろ慎は、傷ついたような顔をしていた。
 「黒崎!」
 男は一瞬立ち止まって、
 「もう…俺のことは放っておいてくれ」
 消え入るような声で呟いた。慎は身じろぎもしないで、その背中に神経を集中させる。男の姿が見えなくなるまで、ずっとそうしていた。
 「慎…アイツ、あんなヤツラと…何をやってるんだろうな」
 ぽつりと呟いた内山の問いには、ただ沈黙が返るだけだった。





 「で、誰だったの?さっきのアイツ」

 それから慎はフラリとどこかへ行ってしまって、心配したクマが慎について行った。南は女友達の呼び出しをくらって、残された俺と内山だけでファミレスに腰を落ち着けたばかりだった。席についたとたん、待ってましたとばかりに口を開いた俺に、内山が苦笑気味の表情を寄越してくる。
 「アイツは、黒崎って言って」
 「それはさっき聞いた」
 「元白金の生徒で」
 「ふん」
 「元バレーボール部のエースで」
 「ふん」
 「慎の元親友で」
 「…ふん」
 「それから」
 「それから?」
 「元恋人」
 「……?!」
 「………かな」
 微妙に語尾を濁したけど、それでも内山から発せられた言葉がにわかには信じがたくて、俺は目を見張る。恋人…恋人? 初耳のその話自体もショッキングだったけど、それよりも慎が誰かを特定するというのがひどく意外で―――驚いた。
 「あくまで俺の予想だけど」
 と、内山は念を押した。あいつらはそんなこと言わなかったし、そういう事実があったわけじゃないけど。なんとなくあいつらを見てて俺は思ったんだ。内山の目がそう遠くない、1年前を見ていた。なにが好きでなにが付き合うとかって俺、正直まだよく分からねんだけど、それでもあいつらは「そう」だったと思うよ。―――おそらくね。
 「ここにはお前だけだから言うんだぜ。他のやつらには言うなよ」
 慎にだって触れられたくないことのひとつやふたつあんだろ。言って内山はグラスの中のストローをかき回した。飲まれないままのアイスコーヒーはすっかり汗をかき、氷が溶けて、心持ち薄くなってる気がした。内山がなにを考えてるのかは分からなかったけど、特にそれ以上、聞き出そうとは思わなかった。

 どちらも傷ついたような顔をしていた。
 さっきのふたりの表情。金髪の下の大きめな目と、慎の漆黒の目。
 同じ目だったと思った。

 その目がなぜか、頭から離れなかった。




■■■捏造甚だしいとはこうゆうことだ。

今だから出来る捏造ポエムです。6/12PM22:00までの期間限定(笑)。
もちろんこんな展開になるなんて大真面目に思ってるわけではありません。あたしの頭はそこまで溶けちゃいません。まあでも、妄想するのは自由よね!ということで。どうもなりみ…野田は私的に片思いタイプなので(笑)こんな感じでいかがでしょうか。(いかがもクソもあるか) いやね、ごくせん開始から2ヶ月、やっと慎ちゃんでカプを書ける気になったのが嬉しくてつい、暴走しましたよ…。恋する慎ちゃんって絶対かわいいと思うんですけど。いや、それならヤンクミにしとけよと怒られそうですが、ごもっともですが、ハイ。

ちなみにこのエスエスは薫さんから貰った沢黒ポエムを勝手に続けたものです。残念ながらその沢黒ポエムはまだアップされていませんが、いつかアップされる日を待ちましょう〜♪(とか勝手に…)

2002年06月05日(水) 心待ちごくせん9話。(ツカモトな潤翔潤)


 「俺、塚本くんと親友になるんだ」

 唐突に松本の口から発せられた言葉の意味を計りかねて一瞬、櫻井はぽかんとした顔をした。
 「…は?」
 眉を顰める。そもそも言葉の意味自体がおかしくね?親友って「なる」ものじゃねんじゃん。
 「うんでも、なるんだよ」
 ドラマでね。
 それで櫻井はやっと合点がいったような、すっきりした顔になった。ああ、高史がゲスト出演するって言ってたやつ。  
 「そ。塚本くんは退学になった、俺の元親友なんだ。俺は彼を守ったり助けたりするんだよ」
 それで櫻井はまた顔を歪めてみせた。大人げないと分かっていてもつい顔に出てしまった、だからそれは櫻井にとって、それだけ率直で絶対的な気持ちだった。
 前クールのドラマで仲間を演じた間柄ではあったけれど、親友にはなったことがない。もちろん、「親友みたいなもの」ではあったけれど、彼らの場合は「親友」よりやはり「仲間」だっただろうと思う。中込フトシは佐々木兆とバカをやったりバカにしたりバカにされたりはしたけれど、守ったり助けたりしたことはなかった。―――たぶん。バンビってキャラクターは――その辺も自分に近かっただろうと思うのだけれど――気が小さく、保守的であったのだ。ぶっさんみたいに罪も罰もなく、保身も見境もなく、アニを助けに行ってみたかった。ぶっさんに付いて行くだけでなく。
 「今ちょっと羨ましいと思ったでしょ」
 あっさりと見抜かれて、バツが悪いと思う。彼に対するどちらかというと知的な周囲の評価をよそに、櫻井にはわりと子供っぽいところがあった。思ったことが顔や声に出てしまう。だから松本は今、櫻井は機嫌が悪いのだとかそういうのをあらかじめ察知して、これ以上彼の機嫌を損ねないように気を使ったりするのだ。
 「…おまえ最近、扱いづらくなったよな」
 早口で呟いた櫻井の機嫌のバロメータがみるみる下降していくのが見える。だから「翔くんはいつも扱いづらいけどね」とは思っても言わなかった。そんなことを言って、怒らせたいわけじゃない。そう、いつだって怒らせようと思ってるわけじゃない。出来るなら笑っていて欲しいし、そんな顔を見ていたい。松本はちょっと笑って、そうかな?と分からないふりをしながら、代わりに言った。
 「でもさ、翔くんは塚本くんの親友にはなれないわけじゃん。だから俺がなってあげるよ」
 「…おまえと高史がじゃねえだろ。沢田と黒崎がだろ」
 「同じことだよ」
 だって、バンビはアニが好きだったし翔くんは塚本くんが好きじゃん。
 「詭弁みたいだ」
 「詭弁だけどね」
 松本が笑う。
 自分でも不思議だなあと思う。松本は櫻井が好きだったし、塚本を好きな櫻井も嫌いじゃなかった。だから自分なりに精一杯、塚本のことも大事にしようと思うのだ。たとえそれが余計なお節介だったとしても、そうしたいと思うのだ。それで櫻井が喜ぶかどうかは兎も角。
 「所詮、自己満足なのかな」
 「え、なんか言った」
 「ううん。なんにも」
 子供みたいに、今度は不思議そうな顔をして小首を傾げた櫻井に、慌てて誤魔化してみせた。
 「翔くん、今度撮影所に遊びに来るといいよ」
 そしたら堂々と塚本くんに会えるじゃん。
 松本の提案に、櫻井は素直に嬉しいと思う気持ちを憮然とした表情に隠したような、複雑な顔をした。





■■■ふたりとひとり。

9話のツカモトが沢田(&内山)の親友役と知って、朝から色めきたって速攻送ったポエムです。愛モメール250字×4通分に多少の加筆をしたんですが、会社で内職をしていたので(…)途中アップをしたらそれ以上書けなくなりました。なんとも中途半端な感じですがまあ、こんなのはノリと雰囲気で。沢田が黒崎(=塚本)を守ったり助けたりするかは知りませんがまあ、そこらへんも願望と妄想でカバー(笑)。本人サクツカのつもりで書いているんですが、どこをどう見ても潤&翔しか出て来てないよ…。どうも私の中のこのふたりは、潤翔なのか翔潤なのか判断に困って、卑怯気味に潤翔潤と呼んでしまいます。気持ち潤翔寄りっていう(笑)。私の思うところの松本さんは「歪」をそのまま体現したような人みたいです(うわ)。本人の意識しないところで結構歪んでる、感じ方が。ある意味本能の人です。ある意味相葉ちゃんに似てる。たくさんいろいろ考える相葉ちゃんという感じです、いまのところ。それにしてもごくせんの9話は楽しみだー。楽しみすぎて振り切れちゃったらどうしよう、私。とりあえず今日の予告を正座して見ようと思います。どんな姿で現れるのか。やや不安ではある。

2002年06月01日(土) とりあえずナリツカから。みたいな。(ごくせんゲスト出演記念SS)


 9話の台本を貰って、中を見た瞬間なにかの冗談かと思った。そこには見慣れた名前が載っていたから。見慣れたと言ってもたった3ヶ月間。多くもなく少なくもない、中途半端な時間の中で、それでも深く馴染んだ名前だった。台本を手にして、俺と同じ驚きを体感した奴は少なくなかったはずだった。この現場に不思議と「彼」に関わりのあるやつは多い。濃くも薄くもなく彼をとりまいて小さな円を描いているような、不思議な感覚。その中心に位置する彼が9話にゲスト出演をするのだという。前クールのあのドラマが終ってからは、会う機会も会う理由もなくなってしまって、しばらく顔を見ていなかった。それはそれだけ俺と彼の関係の儚さを意味していて、その事実を改めて思い知るのだけれど、とにかく。久しぶりにあの明るい顔を見れるのだと思うと自然、顔がほころぶのが分かった。

 「おはようございまーす」

 よく知ったやや高めの声が聞こえて、俺は反射的に振り返った。その先には、さっそく小栗と軽口を交わす塚本の姿。なんとなく目が離せなくなって、見るともなしに見ていると、二言三言、言葉を交わしただけであっさりと別れた。またあとで、と心持ちまだ後ろを見やりながらゆっくりと目線を転じた塚本と、まともに目が合う。

 「あ、純」

 思いもかけず―――懐かしい名前で呼ばれた。久しぶりにその名前を聞いた。
 純。と明るく呼ばれる。それだけで時間と距離が急速に近づいた気がして、軽く眩暈がした。
 「久しぶり」
 そう言って笑いかけてくる塚本が、まるでしばらく家を空けていたアニがひょっこり帰って来たみたいで。まるでそこに帰る場所があるように。迎える場所があるように。過去と現在、虚構と現実が交差する。思わず、言った。 
 「お帰り、兄貴」
 俺の言葉に塚本は一瞬目を丸くして。それから。
 「ただいま」
 あっさりとそう言った。



 たったそれだけで、3ヶ月という時間が埋まる。それは長いのか短いのか、俺には判断出来ない。それから通りいっぺんの世間話をして(元気にしてた?あれから全然会う機会なかったけど)、小栗にしたように、じゃあまた、あとで、と手を振った。それから3−Dのクラスメイトの輪の中から、器用に松沢さんを見つけ出してまた、声を掛けた。彼が言葉を交わす、さまざまな彼の「知り合い」の間に曲線が伸びる。その線が俺からまっすぐ松沢さんに繋がるのを見た気がした。そうやって円が描かれるのをぼんやりと見ている。

 「純、だって」

 ぽん、と無造作に背中に投げられた声に振り返ると、潤くんが笑っていた。
 「一瞬俺のこと呼ばれたのかと思っちゃった」
 まぎらわしいね、言ってまた笑う。
 「別に、たまたま前の役を引きずっただけだよ」
 なんとなく返答に困って、誤魔化すみたいに出来るだけそっけなく言った。たまたまねえ、と潤くんが含んだ相槌を打つのを、まるでいたずらを見つかった子供のような気分で、目を逸らして流す。
 「俺はさあ、翔くんの味方だから」
 そんなのもまるでお見通しで、逃げるのを許さないように、潤くんは話を変えない。
 「だから妬くよ。だって兄貴、って呼べるのは純だけだもん」
 そうでしょ?笑い顔のまま、小首を傾げてみせた。
 でも純は”アニ”とは呼べないんだ。
 喉まで出かかった言葉を堪えて押し込んだ。そう言ってしまうのは、負けた気がして。勝ち負けの問題じゃないけど。そんなの子供じみてるけど。
 「味方もなにも、俺、張り合うつもりないもん」
 だから大丈夫だよ、とまるで言い聞かせるみたいに。誰に。自分に。
 アニと呼べない自分。兄貴と呼ぶ自分。それはそのまま俺の中途半端な状況に被って、焦れるような、むず痒い感覚を呼び起こす。そんな中でごくごく控えめに存在を主張する、小さな優越感と独占欲。

 張り合うつもりはない。そんなこと思いもしない。
 ただ俺にとってあのひとがいつまでも、兄貴であり肉親であるというだけなのだ。
 だから。
 ほんの少しの意地悪は許して貰えないだろうか。
 それは弟という甘やかされた存在の、子供じみた、小さな我がままなんだ。





■■■祝・ツカモトタカシくんごくせんゲスト出演。

祝いつうか、宴つうか。
突然飛び込んで来た朗報に喜び狂いまして、これは前祝いだ酒だ酒だと浮かれた頭にふと浮かんだのがこの、なんともパッとしないナリツカだったのでした…。なんで、なんでだ。なんでって私が心底サクツカだからみたいなのですね。サクツカを前提に持って来るとなりみやは片思いでしかありえないし、だったらそれでなくても恋愛やや敬遠しがちな彼はきっとそんなのを敏感に察知して、自分の心の動きに歯止めをかけそうかなあとか。報われない恋ってつらいじゃないですか。つらいと分かってるからさっぱりやめたいのに、でもそれがなかなか出来ない、そういう葛藤みたいなイメージが。勝手に。なんとなくナリツカは片思いででも決して不幸せではなく。いたって中途半端な関係が似合いそうかなと。不毛と言われればそれまでなんですが。だからいままで書かなかったんですが。結局書いちゃったよ。あーあ。書いたらやっぱりそんな感じになっちゃったよ。あーあ。

トークまでウザくかつ不毛ですみません。考え直せるものならば考え直したいと思います(笑)。
ていうか、前提としてツカモトがあるとゆーのがそもそも間違っているのですよね…。

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