2004年05月30日(日) |
『お出迎え』(赤雛) |
一足先に舞台を終えてからの数日間。 毎日しつこいくらいの赤西からの電話攻撃が続いていた。いつもうるさい赤西の声。なにがあったとか、こんなこと話したとか舞台のことから、ご飯に寿司食べただのスーマリ3クリアしただという話まで。毎日あきもせずにいろんな話をする赤西。舞台だらけなのに、元気やなあなんて思いながら聞かされていた。
それが、今日に限ってかかってこない。 時計をみると23時をまわっていた。今日・・・23日は彼らが出ている舞台の千秋楽だった。きっと、打ち上げとかで電話する余裕ないんかもな。
『おつかれ』
一言だけメールして、明日も早いから寝ようと思った瞬間。鳴り響く着信音。画面には「赤西」の文字。 メール見て慌てて電話してきたんやろな。笑いながら、通話ボタンを押した。
「おつかれさま」
挨拶かわりに言ったけれど、返事がなかった。いつもなら電話に出た途端しゃべりだすやつなのに。
「仁?」
疲れてんか?なんて心配しながら呼びかけると
「お疲れ、じゃないですよ!」
何故か怒っていた。おつかれって言ったことが不満なのかと聞くとすぐに否定された。
「だったらなんやねん」
『くるって、いった!』 「・・なにが」 『千秋楽、見にくるっていったじゃん!』 「・・・言ったか?」 『言った!一昨日電話で「きてください!」って言ったら「行く行く」って言った!!』
言われてうっすらと。一昨日の会話とか返事とか。「行く」と言ったのとか、思い出した。 「最後くらい、来てくださいよ!」ってここ一週間ずっと言われ続けていて。いい加減返事するのも疲れたのと、自分も千秋楽くらいは見に行きたいって気持ちがあったから。頷いた。いつもの悪い癖だって知りながらも。いつも曖昧に返事して、そのたびに横山やすばるに注意されていたのだが。 そのときも約束なんて重いものでもなく。単なる言葉の応酬だったのだが。少なくとも自分は、なんてことはない。軽い気持ちでいたのだが。
『待ってたのに・・・』 今にも泣きそうな声。まさか、鵜呑みにしていたなんて。 「ほらみろ」なんて勝ち誇ったような顔する横山が浮かんできた。
「ごめんなぁ」 『ごめんですんだら警察はいらないですよ!』 そら子供の喧嘩でいうセリフやん。なんて思ったけれどますます駄々こねるだろうから口に出すわけもなく。 「ごめんな?」 とりあえず、謝り通して言い続けるしかない。いつもなら大抵は「ごめん」3回くらいで機嫌直る。(しかし「じゃあ手つないでいいですか??」なんていうオプションがついてくるが) 「ごめん、な?」 ココロこめて、かわいさこめて呟く。これで大丈夫だろうと思っていたが、赤西の無言の攻撃は続いていた。 「仁?」 もしや寝落ちなのでは、思った直後にため息の音。 起きてたのと聞いてたことを確認。けれどいつもと違う。赤西が、まだ怒ってる。 もう、この方法も通じへんか?あまりにも使い過ぎたかもと反省。さあ、どうするかと考えた出したとき。 『・・・・・会いたかったのに』 「仁・・・?」 『会いたかったんだよ!村上くんに、会いたかったの!ただそれだけだったの!』 堰を切ったかのように、赤西の言葉が続く。来なかったことに怒ってるわけじゃなくて。会えなかったことが悲しいんだと。そう叫ぶ赤西。 「ごめん・・」 計算も嘘もない、本当の言葉を伝える。こんなにも思ってくれたのに。言葉一つを大事にしてくれたのに。なんで軽く返事したんやろ。心底後悔した。 『・・・なんて、俺の我侭だよね』 「仁?」 『ドラマで来れないってこと、わかってたんもん。村上くん、大変なんだって、知ってたのに。我侭言った』 ごめんなさい。一言呟いて。どう返したらいいんだろうと思う間もなく、打ち上げに戻ると告げて、電話が切れた。
「なんやねん、あいつ」 いつもは我侭通すだけの子供なのに。こんなときだけ大人みたいに割り切って。 しかも、いつもなら赤西から電話切ることはないのに。プツっと回線を切られて。赤西の声が聞こえなくなった。まるで、置いていかれたような気分になる。
「俺の話も聞けっちゅーねん」
俺やって、ほんの少しは同じ気持ち抱えてたんやで?
いつもとは全く逆の場所にいるからか。 東京にいるはずのやつがいないからか。こっちにいれば、必ず会えたからか。 いつもよりも、距離があるように感じていた。 行けるものなら、行きたいと思ったりもしていた。
「会いたかった」
なんてことは、調子にのるから言わないけどな。
明日は、赤西たちが東京に戻ってくる。 以前、東京から大阪に帰る自分を見送りにきてくれたように。 今度は、帰ってくる赤西を、出迎えてやろうって思った。 大阪の自分が、東京で出迎えってのも変な話だけれど。明日、東京駅で。自分の姿を見つけてびっくりしながら駆け寄ってくるのを、最高の笑顔で迎えてやろう。
「おかえり」って言って、大サービスに。自分よりも高い位置にある、ふわふわした頭を、ゆっくりなでてやろう。
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