妄想日記 

2004年06月02日(水) 「手」(横雛)

前日に東京での仕事だったため、珍しく一緒の入りとなった横山と村上。
ドラマのせいでレギュラー番組すら不参加という状況になっていた村上と、昨日今日と一緒にいることが出来て、横山はご機嫌だった。
仕事をしている時間が主だったが、それでもホテルへと向かうタクシーの中や大阪へ向かう新幹線の中などで、二人だけの時間もあって。
久しぶりにゆっくりと話が出来た。仕事の話ばかりだったけれど、離れていた間に自分の知らないことが増えていて。増えた分、今の二人の距離を物語っているようだと思ったけれど。久しぶりに村上の笑顔を見れたことが、なにより嬉しいと。幸せな気分になっていたから、幾分気にならなかった。





しかし、そんな些細な幸せも。
テレビ局に入った途端、壊れてしまった。






入口からスタジオまで、15分くらいの距離である。
着いたのが14時過ぎだった。時計を見ると、現在20分を指している。
いつもならば、スタジオについていてもおかしくない時間。しかし、二人はスタジオにはたどり着いていなかった。
3階奥のスタジオを目指しているのだが、今だ1階にいる。
理由はなんなのか。考えただけで腹たつと、横山は不機嫌を露にしていた。




廊下を進むたびに、村上は呼び止められ。それに答えてから数分立ち話を始める。最初の3回までは、村上はスタッフなどに知り合いが多く。声をかけられたれら性格上答えてしまうのもわかるから。せっかくの二人の時間を、などと思っていたが我慢して、終わるのを待っていた。
個人仕事も増えたし、知り合いのスタッフが多くなるのも無理ないと、思っていたけれど。
それが4回。5回。ワンフロア上がることも出来ないくらい呼び止められたら。
元々短気な性格である横山が我慢できるわけもなく。



「なあ、ヒナ・・・・」


呼びかけても返事がなく、振り返った先に何回目かになる光景を目の当たりにした横山は。
頭の中で、なにかがキレる音を感じた。






不機嫌そのままで村上達に近づく。「ヨコ?」呼びかける声を無視して、相手に軽くお辞儀すると、村上の手を掴んだ。
「え・・・」
そしてそのまま、村上の身体ごと引っ張るようにして、その場から歩き始めた。
「ヨコ?どないしたん?」
困惑する声も無視して、前だけを見て歩く。
エレベータに乗り込んだとこで、横山は安心したかのように、ためいきをついた。「ヨコ?どないしたん?」
「おまえが話してばっかいたから時間なくなってもうたんやろ」
「え?ホンマ?」
そんなに長いこと話をしていたかと、慌てて時計を見たが。
「・・・まだ余裕ですやん」
集合時間には、まだ20分余裕あった。
けれど「うっさい」と一言だけ言って、不機嫌な顔している横山の姿と。さっき言葉から。横山がなにに対して怒ってるのか、どうして自分を引っ張ったのか。
自意識過剰でなければ、答えはひとつ。


いまだ繋がれたままの手。
照れやな彼からの珍しい行動に、村上は嬉しさから、こらえきれなくて、笑った。「なに笑ってんねん」
「ん?なんでもないよ」
けれど笑った表情のままの村上。なんやねんおまえ、と言おうとしたけれど、やめた。







再び訪れた、残りわずかな幸せな時間。





繋いだ手を。より一層握り締めた。


 < 過去  INDEX  未来 >


薫 [MAIL]

My追加