それでもお話は続く? Copyright (C) 2002-2012 Milk Mutuki. All rights reserved
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「ま、そんなわけで私は記憶が断片的に戻りあなたとの同行を申し出たと言うわけです」 「・・・そんなわけでって、えらい軽いな。」 「まぁ、記憶を失った出来事に比べればまだまだこれくらい」とジョルレは笑う。
さすが死を垣間見たやつは違う。
いくら俺が町で荒くれどもをまとめていたとはいえさすがに死に直面するような出来事はまだ経験がない。 アークが言うには「悪運が強い」と言うことらしいが。 「で、後二人って言うのは?」 「そこまで知っているのかい」 「一応ね」さわやかな笑顔だが結構曲者だなと思った。
「俺が連れて行こうと思っているのは二人の男だ。」 「おとこ、ねぇ。花のない旅だ」 「たしかに」笑いをかみ殺していると我慢の限界を超えたのかソルトが後ろに立っていた。 「花がなくて悪かったねぇ」
怖かった・・・・ただその一言に尽きる
いろいろバタバタしたもののなんとかアルクを旅立たせた。 なんせ跡継ぎと宣言されたら翌日からあたしは『語り部様』なのだから 急がなくてはいけないから。
1ヶ月の短い研修期間
何を習ったかって・・・なぁんにも 何しろ先代は自分でも自覚するほどに記憶障害が起こっていたから だから、いままで何代も続いてきた語り部様の方々が集めたたくさんの蔵書を読み漁り、質問をし自分の中に落としこんでいく ただそれだけの作業を延々1ヶ月続けた。
同じお話が重なっているところ、同じお話なのに登場人物が違うもの ハッピーエンドのものが悲しいお話になっていたり・・・
すべて全部をまず記憶できずともどの棚にあるかを覚えることが仕事になった。 「弟子に聞かれたら棚を示せばよい。」だそうな
そうして継承式を終え今、語り部となった最初の仕事を目の前にしている。
「アーク、その杯をわしに渡すだけでよいのだ。そうすればお前もわしも楽になる。」
おいおい、じいさん。あたしは楽になりゃしないよ。 『人殺し』になっちゃうんだよ。 はたまた自殺のお手伝い?
そんなのごめんだよ・・・とはいえ 彼が今後ここにいることは許されない。それが『掟』だから
「なんともなりませんか師匠?」 「ならんな、掟だからの」
・・・・・・沈黙・・・・・・長い沈黙・・・・・・
「さ、杯を」師匠の声が沈黙を破る。 あたしは意を決し、目をつぶったまま杯を渡した。
液体がのどを通る音が聞こえる。
カラン・・・カラン・・・
「さようなら。」
こうして語り部代表としての初仕事が終わった。
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