北斗の日記
北斗



 東西ネタ『気付いた』

 旭さん

 彼が名前を呼ぶ度に胸が痛くなる。
 いつからだろう、彼が自分に向けてくれる直向きな呼び声に苦しくなったのは。
 いつからだろう、こころの奥深くがざわりと撫でられる気がして、思わず息を詰めてしまうようになったのは。

 旭さん

 その響きはひどく好意に似ている。けれどきっとそうではないし、そんなことは望んでなんかいない。
 それでも、彼の声に含まれるそれが甘い好意にも似た何かだと、そう信じたい自分がいる。
 自分にとっては甘い、甘いその声。

「…旭さん!」
「……え?」
 これは現実だ。そう気付いて意識を戻すと、目の前に思いもかけないほど近く見慣れた顔があって、不思議そうに自分を覗き込んでいた。
「西谷…?」
「何ぼんやりしてるんすか? 部活、行きましょうよ!」
 二年生が三年生の教室にやってくる、それは大抵気後れするものだと思うのだけれど、西谷は全く気にしない。いつも嬉々として教室に入ってくる。
 それは時に驚きでもあり、戸惑いでもあり、そして嬉しくもあった。
「旭さん?」
 俺を呼ぶその声。
 真っ直ぐに俺を見るその眼差し。

 ああ、俺は好きなのだ。
 彼が、西谷のことが。
 そう、ようやく気付いた。



 東西ってもやもや片思いしてるのが好きなんですが…いやまあ出来上がっちゃってるらぶいのも好きっちゃ好きなんですけど(笑)。特に旭の方は好きだって気付くのが遅そうなので、気付いてうわあってなって西谷の顔が見られなくて思わず逃げちゃって何で逃げるんですかちょっと待ってくださいよいや待てないごめん西谷!みたいなのが読みたいです。願望。


2013年08月25日(日)



 東西ネタ『しなやかな指先』

振り向くといつも西谷は自分を見て笑う。それに、へらりと情けない笑みしか返せない自分に嫌気がさす。澤村に「へなちょこエース」と言われても仕方がない。
だって、俺は本当に弱いから。
「旭さん、また何か考えてる」
西谷がほんの少し呆れた色を滲ませて、唇を尖らせた。西谷に呆れられるのは怖い。自分がへなちょこなのは知っているけれど、それでも何故か、彼にだけはいつか胸を張って「俺に任せろ」と言えるようになりたい。
そう思うだけで言えないこと自体が弱い証拠だと、自分でも思うのだけれど。
「旭さーん?」
ひらひらと、眼前で見慣れた手のひらが意識を戻させる。
西谷の手は、しなやかでとてもきれいだ。
いつもギリギリのところで球を拾ってくれる手。
少し小さな手のひらを、西谷が気にしているのも知っている。同時に誇りに思っていることも。
憧れにも似た思いで見ていたそれがゆっくりと下がり、きれいな指先が俺の手に緩やかに絡んだ。
「西…」
「何も気にすることなんか、ないすよ。俺が旭さんの後ろを守りますから」
きゅ、と絡めた指に力が籠る。
「だから、また跳んでくださいね、エース」
弾かれたように顔を上げると、いつものにかりと笑った顔が自分を見ていた。



2013年08月18日(日)



 東西ネタ『名前を呼んで、10』その2

02.流れる時間に

旭さん、と呼び始めたのはいつからだったろうか。
最初は皆と同じように「東峰さん」と呼んでいたように思う。「東峰先輩」と呼ばなかったのは、当の本人が先輩と呼ばれるのを嫌がったからだ。嫌がったと言うより、照れてしまうから止めて欲しいと言われた気がする。でも事実、一つ上の先輩なのだから呼ばない訳にもいかず、結局すったもんだして落ち着いたのが「東峰さん」だった。

「東峰先輩」
声にほんの少しからかいの響きを含ませて呼ぶと、彼は振り向いて自分を確認してから眉をハの字に下げた。
「先輩って止めて」
「じゃあ、『東峰さん』」
「まあ、いいけど…」
ボールを拾いながら小さく嘆息を吐く。
体育館の中には二人しかいない。あとはボールを片付けるだけだからと、彼が後を引き受けたのを見て、つい自分も手を挙げてしまった。他に誰もいないからか、じわりと気になっていたことを聞いてみる。
「先輩同士だと、東峰さんって呼ばないんですね

「え?」
「ほら、菅原さんとか澤村さんとか」
「ああ、一年の時から部活一緒だとな、それなりに仲良くなるもんだろ?」
そう言って、彼は自分が見たことのない顔で笑った。それは後輩には見せたことがない顔で、何故かひどく悔しかった。一年の差はどれだけ頑張っても埋められない。
そこまで考えて、はたと思う。どうしてこんなにも悔しくて苦しいんだろうと。
「西谷?」
変な顔をしていたのか、彼が怪訝そうな目で顔を覗き込んでくる。
「…俺、」
「ん?」
「東峰さんの、特別になりたいです」
思わず口から零れ出た言葉に、狼狽したのは彼の方だった。だって、間違ってない。他の一年生と同じように、十把一絡げの後輩として見られるのは嫌だった。『西谷夕』として見て欲しいと思った。
「特別って、どんな」
「呼んでいいですか」
「え?」
「東峰さん、じゃなくて…あの、旭さんって、呼んでもいいですか」
先輩同士が親密に交わし会うように、自分も苗字ではなく名前で呼びたい。そうしたらほんの少しだけ、彼らに近付ける気がする。
「…いいよ」
そんなの、好きに呼べばいいよ。西谷の好きなように。
その言葉は決して突き放すものではなかった。その証拠に、彼は、旭さんは笑っていた。「旭さん」と呼ぶと擽ったそうに笑う。
それがほんの少しだけど特別だと認めてくれた気がして、俺は頬が緩むのを止められなかった。



2013年08月16日(金)



 東西ネタ『名前を呼んで、10』その1

1.その声が呼ぶ名前


俺は、好きだけど。
そう言って彼は照れたようなはにかんだ笑顔で俺を見た。
自分の名前はそんなに好きじゃない。ゆう、だなんて男なのか女なのかよくわからない響きの名前。背が低いことを気にしてはいないけれど、それでもやっぱり少しぐらいはコンプレックスだってある。せめて名前ぐらいもっと強くて格好いい響きのものが良かったのに。
そう拗ねたように言ったら、一つ上の先輩は小さく笑った。
「でも、俺は好きだけど、西谷の名前」
にしのや、と彼の唇が動く。
それに少しだけどきりとして、次にどうしてそう思ったのか分からなくなった。
「好きって…どっちの名前が、ですか」
「え、どっちって…?」
「上の名前か、下のかってことっす」
そんなことまで聞かれると思っていなかったのか、彼は目をぱちくりと驚きに見開いて、それからいつもの困ったような顔で答えた。
「どっちも、だけど」
「え?」
「どっちも西谷の名前だろ。西谷も夕も」
まただ。『にしのや』と『ゆう』という言葉が彼の唇に乗ると、くすぐったくなる。
「……い」
「うん?」
「…もう一回、呼んでください」
そうしたら好きになれるかもしれない。だから確かめたい。自分の名前を好きだと言ってくれる彼が、名前を呼んでくれたなら。
「西谷、夕?」
「何でそこで疑問形なんすか」
だって、と彼が狼狽える。年上なのにいつもそうだ。気が弱くて優しい俺たちのエース。
「何か、恥ずかしくないか」
「何がですか」
「今更、名前、こんな風に呼ぶのって」
「そうですか?」
「西谷は言われる方だから」
言う方が恥ずかしいよ。
そう言うから、その先を言われる前に言い返した。
「じゃあ、俺も呼びます」
「へ?」
「旭さん。東峰、旭さん」
真っ直ぐに彼の目を見て言ってやると、面白いぐらい狼狽えて、それからみるみる顔を朱に染めた。
「…どっちも恥ずかしいな」
「俺は嬉しかったっすけど」
「ええ?」
「旭さんの名前、俺も好きです」
好き。旭さんの名前も、旭さん自身も、大好きです。
そう続けることは出来なかったけれど、それでも俺は嬉しい。俺の言葉でそうやって狼狽して、それからちょっと困ったように笑うあなたのことが、本当に好きだから。


お題拝借。
無限ノート様
URL:http://satsukinote.web.fc2.com/odai.htm

2013年08月14日(水)



 夏コミ

スペースにお越しくださった方、ありがとうございました!
今回新刊なくてすいません…。急遽家族が倒れて入院したので、全く余裕がなく…。その分、冬に向けて頑張って多少(笑)厚めの本を作りたいなと。できるかなー。

それにしても今年は三日目ということもあって、男性多かったですね。気温も高いわ蒸し暑いわ臭いは…(苦笑)で、なかなかに厳しい一日でしたね。
あんまり買い物しなかったんですが、館内の通路を何人も車椅子で運ばれてくのを見て、気を付けないといかんなあとしみじみ。ペットボトル3本と塩飴持参しましたが、飲み物はなるべく飲んだお陰か全部空になって、熱中症にはなりませんでした。よかったー。

コミケ帰りに集英社でハイキュー展見てきました。友だちが及岩はまったらしく…冬にコミック見せた時はそんな素振りなかったのに(笑)!
私は西谷スキーです。カップリングなら東西。ノヤっさんの指が好きだーと言い続けてたら、「指フェチか!」とツッこまれました。そうかもしれん…。



2013年08月12日(月)
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