文
- COLORFUL
2004年07月23日(金)
六畳一間隣の小さな台所で ライターから線香花火のように火花を散らしてみせる なにもないあの部屋で父はそうやってわたしをあやした
日が翳ってレースカーテン越しに光は遠のく オレンジ色の電灯をつけたら ターコイズの皿の上にラズベリーとクリームを カラフル 軽く ひどく薄い 噛みついたら割れるのか
しばらく見つめて結局煙草に手を伸ばした 灰皿の上はまだやかましいモノクロームひどく煩い ぱちん まっすぐ立つ炎 この部屋には風がないああ
こんなままごとのような食卓を並べるために ここにいるわけじゃない
- 3:55 a.m.
2004年07月18日(日)
たん たた ん 樋をおちる 雨 音 かつ こつ 時計 ちゃ ら ら 流れる みず 夜のなか 目を覚ましている 息をしている まばたきしないで はね る とぶ ひらめ く
- 鏡
2004年07月14日(水)
指からは七号の指輪が抜け落ちようとしている 朝のしらけた明るみは町に霜を下ろした
姿見の前に立って己をつくづく眺める目には 年中冬枯れのような曇天の夜明けは煩さを感じぬだけ好ましい 水のようなつめたさの風がしらしらと窓から忍び込む 夜は明けた 見よ 己の姿は鏡のなかにある 光の助けを借りてたしかに己の姿はある 見よ
手を当てた胸のしたにあばら骨が透いている あばら骨のしたには血の巡るおとのする 紙のような黄ばんだ皮膚も 押し込められて歪んだ肉も あれこれの切り傷も打撲も擦り傷も たしかに見えているではないか たしかに痛んでいるではないか
見よ まぎれもなく生きるからだがここにある ほかのだれでもない己がここに生きている 見よ 目をそらさずに見よ
- 空席
2004年07月01日(木)
カフェオレを注文してテーブル上の灰皿に向き合ったら ふと向かいの空席が気になってしまった きみはどうしているだろうか 三年前のいまごろに夢中になって追いかけた楽譜を 引っ張りだして唄ってみたせいなのだろう 今日は幾度も幾度もきみのことを思い出した
きみよ 君よと 呼びかけるひとは実にたくさんいるのだけれど ほかにどう呼んでいいのかもわからないから 未練がましくもぼくはやはり きみ と呼びかける
そうしているうちにカフェオレが出たので 灰皿をテーブル向こうへ押しやった 向かい席のきみが吸い差しをついと置くすがたが浮かんだ きみもぼくも煙草を吸うから せまいテーブルの上のちょうど真中に灰皿を置いた ひとつの灰皿をはさんで浅くも深くもたくさんのことを話した なあ どうしているのだろう 目の前にはテーブル越しの赤い背もたれ
両手で掬いあげたカフェオレボウルのあたたかさに躊躇した きみはコーヒーをブラックでは飲まなかった ぼくは苦くなければ飲みたくはなかった
灰皿はぼくの側の半円にだけねじくれた吸殻を乗せている どうして席は空いているのだろう
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