ウォーターメロン
     2001年10月18日(木)

 今日。
 僕は。
 彼女に。
 …フられて、シマイマシタ。

「………うわあああああああああああああんんん」
と、情けない泣き声をあげているのが僕。
「…煩い、黙れ、いいかげん手ぇ離せ、」
と、うんざりした顔で僕を見下ろしてるのが幸門。
「遅かれ早かれ駄目になるってわかってたんだろ、今更泣くな」
 頭の上から冷たい声がして、僕の両手は振り払われた。慈悲なさすぎだ。なんて親友甲斐の無い。
 幸門は自由になるや否や、不機嫌な顔のままさっさと部屋を出て行ってしまった。僕がサマーセーターの裾にしがみついているのが、よほど鬱陶しかったらしい。セーターに涙染みができたくらいなんだって言うんだ。ブランド物らしいけど。
 十九年来の親友に対してなんて仕打ちだ、と幸門を心のうちで呪いながら、僕はまた一人で泣いた。女々しくなんてないぞ、理由はアレだが自分的には男らしい泣きっぷりだ。あ、自分で言ってて寂しい。バカかな僕。
 ことん、と耳元で音がした。
「ほら、飲めよ」
 床の上にしゃがみこんだままの僕の目の前に、マグカップが差し出された。ガラス板のはめ込まれたテーブルの上で、真白い湯気が立ち上っている。フローリング剥き出しの床の上は、いくら夏でも冷房の効きすぎた部屋では冷たすぎて、僕は迷わずマグカップに手を伸ばした。主の心床並みとか思ったことは、一応訂正してやろう。
「…って、ミルクココアじゃねぇか」
「今コーヒー切らしてんだもんよ。出してもらえるだけいいだろ、文句言うな」
 幸門は辛党のはずだ。
「…彼女用かよ、クソ、むかつくなー」
「んじゃ飲むなよ」
 飲むけど。
 窓の外で雲が動いている。太陽が切れ間から顔を出して、僕の両瞳を刺した。位置が低い。
 こまきから電話があったのが午前十一時。待ち合わせに出かけたのが正午。五分で話を切り上げられて、呆然としたままここに辿り着いたのが午後二時。左腕の時計を覗き込む。両の針はちょうど一直線に並んでいた。四時間もここで泣いてたのか。
 初めて幸門に対して「申し訳ない」気持ちが湧いてきたのは、マグカップの中身をあらかた飲み干して落ち着いたせいもあったと思う。呪ったりして悪かった。今日来た時だって、バイト明けで疲れて眠ってるところを叩き起こして入ったんだし。低血圧でボーっとしてる耳元でわぁわぁ泣いたし。
「…さっきさ、」
 ここで礼を言うか謝るかするべきなのだろうが、変に意地が勝ってしまって、どうにもならない。僕は幸門の眼を見ないようにして、空のマグカップにまた口をつけた。
「こうなるのわかってたって…どういう意味?」
 カップのふちはもう冷たかった。
「だって、こまきちゃん、無類の変態嫌いじゃないか」

 …………  は。

「……俺が変態だって言うのかよ」
 意表突きすぎだ。言いがかりもいいところだが、あまりのことにとっさには怒る気すら浮かばなかった。
 そうとも、言いがかりだ。僕に「身に覚え」なんてものは、
「毎度毎度女の腕枕で寝たがる男はやっぱり問題なんじゃないか、色々と」
 ………あった。というかそれが変態かどうかはさておいて、何よりも僕が気になったのは別のこと。
「……なんでお前がそんなこと知ってるんだよ…?」
「相談されたから」
 こまき……!何故…イヤだったのなら僕に言えばいいのに何故幸門に…!
「まぁ、それがほんとに直接の原因だったかどうか知んないけどさ、いつまでも泣いてたってどうしようもないだろ、わかる?」
 …それはそうだ。それは、そうなんだけどさ。
「……腹、減ったな」
 泣いてすっきりした分が少し、ミルクココアで不覚にも慰められたのがもう少し、幸門に愚痴こぼしまくったのが大部分で、どうにかダウナーからは抜け出せたようだった。今になってみて、やっと自分がひどく取り乱していたことに気づいた。…遅すぎる。
 途端に平常の感覚が戻ってきて、ひどい空腹感に襲われた。そういえば昼以来何も食べていないじゃないか、よく今まで力尽きることなく泣いていたものだ。
「…美味かった」
 それだけ言って、幸門の方へカップを押し出す。やはり礼は言えなかった。
「ん」
 キッチンへと立つ親友の背中に、迷惑かけすぎたかな、と珍しく反省してみた。短い返事だったけれど、その中に自分を許容してくれるような響きを感じたのは、僕の勝手な思い込みなのかどうなのか。
 いずれにせよ、僕は確かに幸門に頼りすぎている。
「悪い、今冷蔵庫カラだわ、」
「あー?使えねぇ奴め!腹減ったよー」
 ……でも、そんなことを素直に言うのは真っ平だ。気持ち悪い。
「他人(ひと)んちで飯食おうとする奴が何をえらそうに…これでも食ってろ」
 投げられたものを反射的に顔の前で受け止める。…貧血の友、乾燥プルーンだった。幸門は貧血体質なので、薬嫌い自然嗜好の実家からよく送られてくる。だからだいたい家には常備されているらしく、よく見かける。見かけるんだけど。
「うわっ。何泣いてんだよ、またダウナーか?」
 キッチンから戻ってきた幸門が、またうんざりした眼で僕を見下ろした。
「…泣いてねぇ…」
 うわ、自分、力無さすぎ。実のところ泣いている。
「…あいつ、体の発育小学生並みでさ…横になると、こう、平らな面にレーズン二つ乗っけたみたいに…」
「おま……それ、こまきちゃんにも言ってたんか?」
「言ってたけど」
 僕は正直者だ。
 幸門が、目の前で大きくため息をついた。
「デリカシー無さすぎ…フられて当然だ、このバカモノめが」


 だいたい、僕とこまきが付き合い始めたのだって、幸門の仲介があってこそだった。もともとこまきと仲がよかったのは幸門の方で、僕は最初、こまきのことを「親友の彼女」として見ていたくらいだった。だから、幸門がこまきと僕のプライベートを知っていたとしても、まぁ…特に不思議は無いような気もしないではないのだが。ちょっと癪だが、僕と幸門を並べてみて、相談ごとを持ちかけるならどちら、と訊かれたら、たとえ僕でもやはり幸門を選ぶだろう。要するに、僕は頼りがいが無さすぎるのだ。
 それが、他人ならともかく、自分の彼女にまでそう思われていたというところがまた情けない。実に僕らしい。泣けてくる。
「松坂牛!安売り!これ買おう」
「金はお前が払うんだよな?」
 結局、夕飯をご馳走になることにして、男二人で買出し。
「あー、鶏肉でいい」
 金が無いのは僕も幸門も同じなのに、神様は不公平だ。僕にも「頼りがい」ってやつが欲しい。百円くらいで売ってくれないものだろうか。
 夕方七時を回ったスーパーの中は、七時半以降半額の商品を求める貧乏人でごった返している。ずらっと並んだ牛肉を眺めていても悲しくなるばかりの貧乏人一号二号は、それぞれお目当ての食材を仕入れて早々に引き上げることにした。
 レジの横、売れ残りの花火が安値で無造作に積まれている。夏だ夏だと思っていたのに、意外と終わりが近づいていることに気づいた。そういえば、もう彼岸も過ぎてたっけ。花火大会も納涼祭も墓参りにも行ってないな、夏休みの意義は一体何処に。
 同じことを思っていたのか、休暇突入と同時に勤労青年に化けた貧乏人一号が、ふと珍しいことを口にした。
「スイカ、買って帰ろっか、」
 レジの向かいに、これまた無造作に丸い物体が積み上げられている。そういえば今年はスイカも食べてない。海にも行っていない。何とも知れない生活のうちに旬も過ぎてしまったのか、夏休み前にはあんなに高価だったスイカも今や千円を切っている。
「スイカ割りでもするか?」
「なんで」
「お前の失恋記念、」
 殴ってやろうとした僕のゲンコツは見事にかわされた。


 スーパーを出て見上げた空は、見事な茜色に染まっていた。
「、まっか、」
 ここ最近、空なんか見た記憶がない。いつのまにか、もしかして、空、高くなってる?思わず息を呑んでしまった。
 川沿いの堤防の上を歩く。道路より少し高くなった分、なんだか空に近づいたみたいで気分がよかった。
「バカと煙は、」
 そこまで言って幸門が笑う。しかし僕はご機嫌だったので無視してやった。
 水面から吹いてくる風は、半袖にハーフパンツの僕には少し冷たかった。八月が終わる、なんだか勿体無い。僕は毎日、何をやっていたんだろう。もっと夏らしいことをしておけばよかった。
 こまきのことも、ずっと放って置いたんじゃなかったっけ、僕は唐突に思い出した。この夏休みに入ってから、こまきと出かけた記憶なんて何も無かった。思い出すのは、そうだ、幸門と…。
 わずかな記憶の中と同じ薄い肩が、現実の視界の隅に映った。
「っ、バカ、危なっ…」
 幸門が警告の声をあげるよりもずっと早く、僕は不安定な堤防の上を全力で走っていた。遠く、前の方に見える橋の上にいた彼女がそれに気づく。
 遠目でもわかるくらい、顔が一瞬ひどくこわばった。
「……こまきっ!」
 反射的に、逃げようとした彼女の腕をつかんでいた。
(もう付き合えない、)
「教えてくれよ、俺の何がいけなかったのか、」
(悪いけど、別れて欲しいの、)
「……お前のこと、ほっといて悪かった、」
(理由は……、)
 ……衝撃的なくらいあっけなかった五分間がよみがえってきた。
「……かまってくれなかっただけじゃないわ、郁視は何もわかってない、」
 こまきは僕を見ようともしなかった。今も、
「……あんたが本当に好きなのは、誰なのよ?」
  (理由は)
 …彼女は、そこで確かに言いよどんでいた。僕が、夏休みの間、一番多く思い描いていたのは、
「……………っ」
 僕は、手を、放していた。
 …………………親友だから、じゃなくて?


「……話、済んだのか?」
 いつのまにか、彼が追いついてきていた。あたりを見回す、こまきがいない。僕はどのくらい呆けていたのだろう。
 いや、今だって十分呆けたままだ、違う、そうじゃなくて。
「日、暮れちまうぞ、スイカ割るんだろ?」
 何を言われたと思ってるんだろう、そんなに心配そうに見ないで欲しい、あ、僕、もしかして顔色悪い?駄目だ混乱する、
「……割る、わかってる、だいじょぶ」
 やっとのことでそれだけいった。


「あ、割るっつっても、獲物が無いよな、何も、」
 川原に降り立って、幸門が振り返る、
「どうしようか、アレか、手刀でいくか、」
 僕には応えるべき言葉が見つからない。
「金は無いけど、力は…まぁそれも無いけどな、」
 無理してるように見えるよ、精一杯明るくしようとしてくれる幸門の心遣いがやたらと痛い。
 夕暮れと呼ぶにも薄暗い川原で、幸門と幸門の足元のスイカが黒い影のひとかたまりに見える。あそこまで、行かなきゃ。そう思うのに、足が動かない。脳味噌が今、容量オーバー。
「こら、早く来いよ、ほんとに夜になっちまうだろ、」
 呼ばれればそばに行きたいと思う。一緒にいればそれは楽で、確かに何か満ち足りて。
 でも、それが友情じゃなくて?
「……あんまり、こまきちゃんの言ったこと気にすんなよ、」
 胸が冷えた。見透かされたような気がした。
「あの子、あの外見で結構キツいこと言うからさ、お前、自分で思ってるより多分上等だよ、またいいことあるって」
 ……眼を背けた。今、自分が当惑していることの実情を知ったら、こいつはどう思うのだろう。死んでも知られたくない、そう思った。つまり、僕は、……違う、幻滅されたくないとかじゃなくて。
 過度の友情と、恋愛感情を分けるものが情動であるとするなら、僕は。……僕、は。
 気遣わしげに背中を叩く幸門が厭わしい。違う、厭わしいのはそれを喜ぶ、僕自身。
 僕はおもむろに足元の石を拾い上げた。大きく振りかぶって、反動をつける。
 その衝動に、乗るか、反るか。それは、こまきを失うことと幸門を失うこと、僕にとってどちらが大きな喪失かを僕自身に問うことだ。僕は、自分がどうしたいのか、今になってはっきりと知った。同時に、それを認めまいとしてひどい嫌悪感と吐き気が僕の意識を混濁させる。いっそ、狂ってしまえればいいのに。自分の好きに生きることが、どうしていけない?この、激情としか言いようのない熱に、押し流されてしまえれば。…けれども、それは僕にはできない。僕の中には、理性と倫理を振りかざす、もう一人の常識人ぶった「僕」がいる。そう、僕(おまえ)だ。

 ………だからもっと熱が上がって、お前なんか死ねばいいのに。

 勢いよく振り下ろした石は、みし、という音を立ててスイカの中にめり込んだ。中からのぞく紅い果肉に、食欲を誘われるどころか生々しくて吐き気をもよおした。割れて、割れてしまえ、いっそ、ここで、このまま、……………できない。
「紅いな、すげぇ」
 夏が終わる、夏が終わる。スイカが割れた、空は紅に溶け落ちた。でも僕は。僕の熱は。
 夏が終われば、消えるのだろうか。
 夏が過ぎれば、どこかへ昇華していくのだろうか。

 川原の水面は鈍く光り、昇りはじめた月が僕を照らして。
 元のうやむやに戻ることしかできない僕を、静かに。
 ただ、静かに。

     ショコラ(2/2)
     2001年10月06日(土)

 高校で過ごした三年間、その間のどんな出来事もあの子抜きに思い出すことなんてできやしない。
 あの子の笑い声、仕草、ペンを持つ指先、爪の形、笑うときちょっとだけ口元が歪んでしまう、完璧よりも少し崩れた綺麗な笑顔、…高校時代の記憶のすべてに、そういったあの子の「影」が必ずリンクされている。けれども決して、あの子自体が思い出になっているわけではない。
 思い出なんかじゃない。そうだ、思い出なんかになるわけがない――自分を誘い出そうとするあの子の腕のしなやかさと、手のひらから伝わったあの子の熱、形の優れた口元で耳元にささやかれたときに感じた、耳に血の上る音、背中の産毛が逆立つ興奮。思い出せばまた動悸が乱れる。胸の隅に置いて時々懐かしむ類のものではありえない。それは生々しい記憶だ。 洸良――。

 近寄ることはできない。触れることはできない。
 遠く離れた街に住むようになって、でもやはり忘れることはなかった。早麻理の体の中のどこかに洸良はいて、ふとしたはずみで皮膚の上に浮かび上がってくる。そのたびに、早麻理は洸良の指や髪や頬の感触がよみがえってくるのを感じた。それはとても心地のよいことで、だからこそひどく早麻理の胸を押し潰した。
 たとえ本物の洸良に会えたとしても、もう自分は洸良に話し掛けることも触れることもないのだろう。
 自分にそんな資格はないのだから、と早麻理は繰り返す。元に戻れるなどとは思っていない、そうなる余地は最初からどこにもないのだ。
(――それでも)
 それでもいつか、また、――。
 思わずにはいられない。

 彼女のことを思えば、鮮烈に、吐き気がするほどに。
 ひどく苦しく狂おしく、早麻理は――洸良を求めている。
 不真面目なくらいに奔放で、何物からも自由と笑う、最愛の女の子。
 まだ、振り切れない。


 夜になって、早麻理は遼に指定された待ち合わせの場所に行った。
 気が進まなかった。昼間、誘いを受けたときの余裕はもうない。一人きりになってみると、やはり自分は何も変わっていないのではないかと思う。
 では、あれは誰なのだろう。
 郁と話していたのは、あれは確かに自分だった。しかし、遼を前にしたときの私は、――違う、どちらも私のはずではないのか。
(洸良に)
――洸良に?
「あ、昼ぶり」
 ふ、と現実に引き戻された。遼がそこにいて、笑っていた。
「んん、昼ぶり」
 顔がうまく動かない。笑顔がぎこちなくなってしまう。どうしてだろう、昼間はあんなに自然に話せていたのに。周りが暗く、はっきりと顔を照らし出されることがないのが幸いだった。
 居酒屋のような店の中は、やけに明るい照明がついていた。思わずうつむく。遼は早麻理より前を歩いていたので、見られる心配などないとはわかっていたけれども、それでもそうせずにはいられない。
 奥の方の座敷に、何人かの男と女が座っていた。遼のいう、「仲間」たちらしい。
 知らない人と話すのは苦手だ、そういう意識が早麻理の足を遅らせる。
 どうして来てしまったのだろう、頭の中を後悔がするりと通り抜けた。
 靴を脱いで座に上る、何人かが顔を上げた、目が早麻理を見ている、
「どうもぉ。今日はお邪魔させてもらいます。早麻理です、よろしく」

 ――あ、また。
 昇りつめるように高鳴っていた心臓が、ゆっくりと落ち着いていくのを感じた。
 洸良が。
 早麻理の中の洸良が、表層に浮かび上がった。


「早麻理さん、彼氏とかは?」
 右隣に座っていた丸い眼鏡の男が、話の流れに乗せて訊いてきた。
「いないですよぉ。いたら多分、今日来てないと思うし」
 薄く笑って、男のほうを見る。だいぶ酒が回っているようだった。目のふちが赤く染まっている。酒などいつもはほとんど呑んでいないので、自分が案外強いということを初めて知った。
 時間は真夜中に差し掛かっていた。もうそろそろ宴も終わる。
 遼の言う「仲間内」というのは、高校時代の部活動仲間のことだった。共学校で、特に男だから、女だからという規制のあるものではなかったらしく、テーブルを囲む男女を見回してみても、別段女が少ないということはなかった。男女の人数は早麻理を含めてちょうど半々になっている。今更ながら、その会の意図に気付いた気がした。あさましい、という思いがよぎる。
 かすかに胸が疼いた。
「じゃ、好きな人は?」
「・・・・・・いませんよ、」
 苦笑が漏れる。これは本心だ。
「なんていうか、そういう気分になれないんですよね、」
(洸良が体の中に棲んでいるから)
「・・・・・・恋愛がしたくないわけじゃないんですけど、」
「チョコレートとか、ココアとか、いいらしいよ」
 左隣から二人の会話を聞いていた遼が、早麻理に言った。
「フェニレチラミンがたくさん含まれてるんだってさ」
「なに、それ」
「脳内麻薬みたいなやつだよ。人が何かに夢中になってるときに、よく分泌される。例えば恋愛してるとき、誰かに邪魔されたりすると逆に燃えたりするっていうだろ。ああいうときにはそのフェニレチラミンが出てる。相手と強く結びつきたいって思うと盛んに分泌されるらしいね」
「ふぅん?」
「んだから、チョコレートを食べると、恋をしたいって気持ちが強くなるって言われてる」
「・・・・・・なるほど、雑学王ね」
 昼間、郁の言っていたことを思い出して、早麻理は納得した。
「郁みたいなこと言わないでよ、一枝さんのために言ったんだから、」
早麻理は思わず遼の方に顔を向けた。ひどく近い位置に遼がいる。
 遼は早麻理の目を覗き込むようにして言った。
「それから俺のため。ね、もう出ない?」

 どういう意味、と聞き返す間もなく、早麻理は腕を掴まれていた。
「一枝さん、ちょっと気分が悪いみたいだから、俺送ってくわ。後頼んだ」
丸眼鏡にそう言って、遼は立ち上がった。つられるようにして早麻理も続く。
 外の空気は冷たかった。ぶる、と体に震えが走る。突然のことに動揺して、何がどうなっているのかわからない。
「寒い?ほら、これ着て」
遼が差し出してくれた上着を羽織る。息がかすかに白くにごった。秋がもう来ているのだ。
「ありがとう、・・・・・・」
 何か言わなければ、という気持ちが早麻理を焦らせる。なぜ遼は自分を連れ出したのか、そのことを懸命に、――いい方向へと考えようとしていた。
「嫌だった?俺は、二人になりたかったんだけど、早麻理ちゃんと」
 ――ぐら、と世界が揺れた。両足の下の地面があやふやだ、どうやって立っていればいいのだろう、
「早麻理ちゃん!」
 遼に抱きとめられていた、胸の奥がざわざわと蠢いている。酔いが一気にまわってきていた、
 遼の胸が目の前にある。
「――ごめん、いきなり、足が、蔓木くん、」
「遼」
 ざわざわと、
「遼でいいよ」
 それは興奮だ。

 早麻理は遼の首に抱きついていた。周りを渦巻く波がどんどん高くなる、今、目を開いているのか閉じているのかさえわからない。まぶたの裏に移った光のように、赤や黄色や青の鮮やかな色彩が、対照的にぼやけた輪郭を伴って視界に広がっていた。遼の指が髪をくぐった。背中を降りている。遠くのような近くのような、そんな曖昧な感覚がひどく頭を掻き乱す、
 眩暈が。
 眩暈がしそうなのに、どこかで何かが覚醒しきっているのを感じた。

 精一杯の力でしがみついて、遼の首筋に唇を寄せる。首の匂い。男の匂いがした。全身の毛がそそけ立つ。自我が吹き飛んでしまいそうなほど心地よかった。遼の手がうなじから首から耳を通って頬を撫でて頭を上向かせて、唐突なほど近くに遼の目元が現れてすぐに焦点がぼやけて、触れてきた遼の唇が意外なくらい柔らかくて歯が小さくぶつかって口の中で遼の体温を感じた瞬間、

 ――――― 吐き気がした。

 渾身の力で遼の胸を突き放した、意表をつかれたのか、そのままその場に倒れこむ遼の顔めがけて着ていた上着を投げつけた、もう振り返れない、早麻理は全速力で逃げた。
 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。世界がぐるぐる回っている。まっすぐに走れているのかどうかもわからない。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
 夜の風を受けて頬が冷たくなっていく。涙が、涙が頬中をひどく濡らしていた。袖でむりやり唇と顔の両方を拭う。べったりと化粧がついた。
 遼が悪いんじゃない、そうじゃなくて、自分がいけないのだ、
 私に取り付いていたのは洸良の幻なんかじゃない、あれは私自身だ、
 自分を騙すために、自分の情動を正当化するために、
 洸良を言い訳にしただけに過ぎないのだ、
 またしても。

 めちゃくちゃに走り回ったせいでどこにいるのかわからない、半年も暮らした街がまったく見知らぬものに変わっていた。異物は郁じゃない、自分自身だ。洸良のふりをした、洸良になったつもりになっていた自分こそ、この街に、いやこの世界にいることを許されないものなのだ。
 高校時代の三年間、私は洸良を言い訳にしていた。洸良の奔放に流されるふりをして、自分の、傍から見て「早麻理らしからぬ」行動のすべてを正当化していた。その自分の卑怯に気付かずに、ずっと洸良を傷つけていた――もう悔い改めたつもりになっていただけで、何一つ私は変わっていない。
 洸良が離れて行ったことが何より辛かった。洸良がいなければ私の心の何かが壊れてしまう。それでも私に彼女を引き止める権利も資格もないことは明らかで、だから私は心の中にもう一人、代用品の洸良を作り上げた――それが、自分の欲望に対する免罪符代わりに行使されることを見てみないふりをしていた、そう気付いてやっていたのだ、
 ――あさましいのは私。
 私は一体どこまで堕ちていくのだろう、いつになったら洸良を自由にして上げられるのだろう、そう思うことが傲慢だという気もした、洸良はもう、私のいないところで自由に生きているに違いないのに、
 ――洸良には、私は必要ないものだったのだろうか、

 それでもまだ自分は洸良を求めて仕方がないのだ。
 何もかもを捨てれば洸良が帰ってくるのなら、喜んで私はそうするのに。

 私の中の洸良も、また壊れてしまうのだろうか。
 足が痛んだ。もうここから動けない、そう思った。走るのをやめてその場にへたり込んで、顔を上げてみる。どこに迷い込んでしまったのだろう、あたりには何の明かりもなかった。
 洸良。――洸良さえいれば。
 恋は要らない、洸良がいなくなってしまうくらいなら。

 酔いはもう醒めてしまっていた。座り込んだ地面は冷たく、体からは熱が奪われていく。しかしそれよりも、なくなったものは大きい、と思った。
 早麻理は、いつの間にか――一人きりになっていた。

     ショコラ(1/2)
     2001年10月05日(金)

「早麻理?」
 九月になったというのに、それまでと少しも変わりはしない暑い日だった。夕方近くにはたしかに秋虫の声が聞こえ、また街中に目を巡らせば、ぽつぽつと目立つショウウィンドウのどこもかしこも、秋冬物を装ってはいたけれど。
 浮き輪も水着も浴衣も花火も、夏という夏の何もかもを流し忘れ去ったような街のどこかに、それでもたしかに残った自然の中で蝉が遠く鳴いていた。
「早麻理じゃない?」
 名前を呼ばれて怪訝そうに振り返った早麻理は、目にしたものにひどく奇妙な感覚を抱いた。
「…郁?」
「やっぱりそう!すごく久しぶり、元気だった?」
 滅多にない偶然にはしゃぐように、彼女はまくし立てた。友人だ、少なくとも友人だった女の子。早麻理は、しかしその彼女の姿がひどく街の中から浮き上がっているように感じた。
「なんでここに?」
 再会を喜ぶより、そのことの方が早麻理には気にかかった。ここは彼女、郁と早麻理が通った高校のある地元ではない。早麻理が一人で暮らす、早麻理の進学先の街なのだ。地元の大学に通っているはずの郁がここにいるということ、絶対におかしいとは言わないまでも、それが違和感の原因であるのは間違いなかった。
「おじいちゃんのところに遊びに来てるの。こっちに住んでるのよ」
 郁は、早麻理のいぶかしんだような目に気付くこともなく、まだ少し興奮したような口調でそう言った。
「夏休みだからね」


 暑さはあまり得意ではなかった。だから、夏は嫌い。
 九月になって、八月のカレンダーを破り捨てることができたのが、ここ最近では一番爽快感を感じた出来事である。
 そんなことを郁に言ったら、そのつもりはなかったのに彼女を笑わせる結果となった。あまりにけたたましく笑うので、周りの席に座った人々から早麻理までが注目を浴びてしまった。
「そんなに笑うことでもないでしょ」
 喫茶店の中、ということに気を遣って、早麻理は声をひそめるように郁に注意をした。別に、聞かれて困る会話をしているわけでは全くないのだけれども。
「ごめん、だって、」
 郁はそう言って苦しそうに一呼吸おいて笑いやんだ。そのまま視線を落として目の前のアイスティーの中のレモン切れをストローでつついている。
「なんだか、意外で」
「意外?」
 その言葉の方こそ、早麻理には意外だった。
「意外って…どうして?」
「だって…、」
 言葉はそのあとには続かなかった。早麻理の方も、特にそのことが気になったわけでもなかったので、あえてさらに問うようなことはしなかった。それよりも、店内に流れる音楽の趣味が悪い。沈黙しているとどうでもいいことがやたらに気になる。
 早麻理、ちょっと変わったね、と郁が顔を上げて言った。
「なんだか、雰囲気が前とは違うみたい」
 そして再び、グラスの中のレモンに視線を落とした。早麻理はまだ口を利かなかった。どういう意味、と聞き返そうとしなかったわけではない。
 それがどういう意味なのか、早麻理自身も漠然と思い当たるような気がしないでもなかったのである。
 どこもかしこも安っぽく装飾された店内に、全く不似合いなクラシックがかかっている。窓際の日当たりのいい席に座って、しかしこの席のいいところなんてその降ってくる陽の暖かさくらいのものだ。それも、冬ならともかくこの夏には…違う、もう秋なのだ。
 しらじらしくも、まだ夏休み。
 ふと、そんなことを考えた。いったい、この街のどこに夏が残っているというのだろう。
 テーブルに視線を落とした。正円の形をしたテーブルの真ん中には、そこだけとりどりの色をちりばめたガラスの板がはまっている。陽の光が当たって砕けていた。
 大した光でもないのに、早麻理はなぜか厭な気がして顔を背けた。まるで逃げるように、そして郁を見た。郁に、今自分がした仕草を見られたかどうかが気にかかった。なぜかは分からない。
「まぁ…あたしにだっていろいろ…」
自分が何を弁解しているのかも分からない。なぜ、昔のクラスメイトを前にしているだけでこんなに気詰まりな思いをしなければならないのだろう、そう自分を訝しんだ。
 爪でガラスの板をたたく。やってしまってから、自分のその余裕のない態度に気付き焦る。その心の動きを感じて郁の前に卑屈になっている自分を見つける。
 …どうしてだろう。
 窓の外の陽の光。安っぽいくせに場違いな音楽を流す喫茶店。偶然再会した以前の級友。そんなものになぜ腹を立て、いたたまれない気持ちにさせられなくてはならないのだろう。
 疑問が膨らんで気分が悪くなった。一つ、一つしかないのだ、疑問なんて。それなのにそのたった一つの疑問が今、自分を押し流そうと…そう、押し流そうとしている。何処へ?圧迫されている、胸焼けのようだ、――吐き気がする。
 煩悶を郁に悟られるわけにはいかない、そんな気がした。視線を逃がした窓の外には、いつもと変わらず人があふれていた。いつもと同じ、そう。ここに、郁がいるからいけないのだ、郁こそここにいてはおかしい人間なのに。
 …そう考えたら、少しだけ胸が軽くなったような気がした。

 そのとき、一人の男の姿が目に入った。
 歩きながら周りをきょろきょろと見回していたので、周囲の人の群から浮いて見えていたのである。郁との気詰まりな会話から逃避したがっていた早麻理は、その男へ注意を積極的に注意を向けようとした。
 ふと。
 男がこちらを向いた。そしてまさに、「捜し物が見つかった」というように、かすかに笑ったのだ。
 そして一瞬、早麻理と視線を合わせた。

「よかった、ここにいたのか、」
 男は店の中に入り、二人の方へ急ぎ足で歩み寄った。
「遼? 何? どうしたの?」
 郁の口調から、早麻理はやっとその男――遼の目的が自分でなく郁にあったのだと気付いた。ひどい思い違いをしてしまったようで、こっそり心の中で自分に向かって毒づいた。馬鹿な。
「何、じゃねぇよ。忘れもんだよ、ほら、」
そう言って遼がテーブルの前に置いたのは、赤い革の定期入れだった。
「え…あれ?」
郁はあわてて、椅子の足下に置いていた自分の鞄の中身を検める。…無い、らしい。
「まったく、出かける前には持ち物チェックしてもらわなきゃダメなんじゃねぇかお前。まだ使う定期だろ、無くしたりするなよ」
「う…だって、中の写真…じィちゃんに見せようと思って…」
「見せたあとちゃんとしまったかどうか確認しろよ。出したもんみんな投げっぱなしなんて、お前は小学生か」
 今年でいったい幾つになったと思ってんだお前、そう言いながら遼は堂々と郁の隣に腰掛けた。もともと四人掛けのテーブルだったが、そこそこ長身の男がそこにいるというだけで、空間が突然狭くなったように感じた。
「ブレンド、お前のおごりな」
 さっさとウェイトレスに声をかけて注文する。
「手間賃だよ」
 抗議の声を上げようとした郁は、その一言であっけなく制された。

 そしてようやく、遼の紹介が早麻理へと通された。遼――蔓木遼は、早麻理が進学のために住むようになったこの街の出身で、今は隣の県の大学に通っている、と言った。夏休みなので帰省していたところに、同居の祖父に会うと言って郁が遊びに来たらしい。
「じゃあ、郁とは従兄妹ってこと?」
「や、又従兄妹」
「はとこ、でしょ?何よマタイトコって」
「同じことだよ。そうとも言う」
 本当にものを知らんなお前は、そう言われて郁がむくれた。
「遼みたいな雑学王になりたいわけじゃありませんから」
「一般常識だろ?」
 子供のようににらみつける郁とは対照的に、遼の方は視線すら投げかけない。自分では金銭を払わないコーヒーを悠々とすすっている。その二人の対照的な姿を見て、思わず早麻理の口元から笑みがこぼれた。
 それをめざとく見つけたのは遼だった。
「ほら、笑われてるぞお前。まぁ無理もねぇけどな」
「うっさいなぁ。これからあんたに早麻理のこと紹介すんだから、ちょっと黙ってよ」
「そんなにうるさく言ったっけ、ねぇ?」
「黙れってば。ええと、こちら、高校時代のクラスメートで学級委員だっ
 いちえだ
た一枝早麻理」
「学級委員!一枝さん、大変だったでしょ。こんなアホがクラスにいたんじゃねぇ」
 遼が身をかがめて、早麻理に顔を近づけた。郁をのけ者にするようなそぶりで、聞こえよがしの内緒話を見せつける。
 妙に近くにある遼の目元、瞳の色に、早麻理は内心ひどく動揺した。知り合ったばかりの男と気安く会話ができるほど、自分は男慣れしていない、いや、そのはずだった。
「そうねぇ。高校の時も結構手を焼かされたのよ、無鉄砲な上にドジだから。蔓木くんも大変ねぇ」
 自分でも気付かないうちに、早麻理はうまく遼と調子を合わせていた。なんでもないことのように、そう、慣れたことのように、遼のおふざけにつき合うことができていた。すぐ目の前にあった遼の瞳が、早麻理の視線と合わさる。背中を冷たい汗が伝うのが分かった。しかし、その緊張が両の瞳を通して遼に伝わることはなかったようである。遼は、目の前で親しげに笑った。
「ちっとも成長しないのよね、郁ってば」
「そうそう」
自分で自分が信じられなかった。口が、顔の筋肉が、早麻理の心とは別に勝手に動いているのだとしか思えなかった。しかし、それが不審で不快だったわけではなかった、むしろ全く逆だった。
 そうだ、私は今までうまくやってきていたのではないか?おかしかったのは、さっきまで、郁と二人で向かい合っていたときなのではないか?
 …混乱しそうだった。

 結局、郁は遼の分まで代金を払うことになった。郁も決して気の弱い方ではないのだけれど、それでも遼にはどうも逆らえないところがあるらしかった。伝票を持ってしぶしぶ会計を済ませに行く郁の後ろ姿を見送りながら、早麻理はなんとなく落ち着かない気分を持て余していた。
「ねぇ、一枝さん、」
 それは当然、遼が――知り合ったばかりの、詳しいことを何も知らない男が目の前にいるせいだったが、当の遼にはそんなことは伝わるはずもない。
「今日、一緒に飲みに行かない?」
「今日?」
「そう。ちょうど今日、仲間内で飲みがあるんだけど、女の子の人数少なくて寂しいからさ。だれか誘えって言われてたんだ。なんか都合悪い?」
「別に…でもどうしてあたしなの?」
「気に入ったから。それじゃダメ?」
遼はまた、早麻理の方へ身を乗り出してきていた。けれども先程のようにはもう緊張しなかった。
「かまわないわ、何時に何処?」
早麻理は薄く笑っていた。その表情には余裕があった。
 自分の姿、自分の振る舞いは元来こうだったのか――いや、それは違う。高校時代の自分はたしかに引っ込み思案で、男と話すことには慣れていなかった――だから、これは大学に入ってからの自分。大学に入ってから変わった、自分の今の姿なのだ。
 店の外に出ると、あたりは薄く夕暮れの色を帯びていた。街の中の何もかもがかすかに赤みがかって見える。
「じゃ、またな」
 そう言って、さっさと遼は帰っていった。その背中に向かって郁が舌を突き出しているのがおかしかった。
「仲が悪いの?」
「別に、あいつがあんまりあたしのこと馬鹿にするからいつもいつも…、」
 …郁は遼のことが好きなのだ。早麻理はそれにやっと気付いた。笑みが口元に上る。遼と向き合っていたときの笑いと同じものだった。
「…ねぇ、早麻理、」
 その早麻理の表情を見て、思い当たったように郁が言った。
「あんた…洸良に、似てきたね」

 洸良に。
 洸良に似てきた、郁はそう言ったのだろうか?
「ん…なんか、さっき遼と話してるときとか…なんだろ、洸良みたいに見えた、気がする」
 郁は言いよどんだ。早麻理が、その両の瞳で表情もなく郁を見据えていた。何か、悪いことを言ってしまっただろうか?街中、止めどなく流れ溢れかえる人と人の間で、不自然に立ち止まった二人を見るものはない。郁にとって見知らぬ街は、今の早麻理にように不可解だった。
 たしかに早麻理は変わってしまったのだ、そう郁は思った。
「…そう?あの洸良に似てるって言うなら、」
 早麻理は郁からついと視線を逸らした。そのまま、思い出したように人波の中へと歩み出す。
「光栄だわ」
 おどけたような言い方ではなかった。早麻理は冗談のつもりで言ったのだろうか、それとも本心?それすらも郁には判断できなかった。
 さら、と早麻理の髪がなびく。郁の方を振り返った瞬間、傾いた陽の斜めの光を受けて、ピアスがかちりと光った。
 ――洸良が。
 洸良が高校時代に気に入っていたピアス、髪型、髪の色、よく似たものを今まで見ていたことに、郁はようやく気付いた。
 振り返った早麻理は、ひどく綺麗に微笑っていた。

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