-殻-

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2003年06月25日(水) 水滴

流れ落ちる雨の雫。

小さな接触角で、表面エネルギーの小さな窓を転がるように。

溶け合わない、極性の違う僕等は自然と触れ合う面積を狭め、

互いを守るように閉じた球面に近付いてゆく。

風に揺られ、慣性に惑い、行き着く先もなく、

重力に引かれて落ちてゆく。

なす術もなく、ただ落ちてゆく。







2003年06月11日(水) 年輪

30本目の年輪が、知らぬ間に僕にも刻まれている。


真っ直ぐにここまで辿り着いただろうか?

僕の枝葉は広く伸びているか?

いっぱいに陽の光を受け止めているか?

緑は鮮やかだろうか?

強く深く根を張っているか?


その存在が、誰かを安らがせているだろうか?


答えは、風に吹かれている。

風が苦手な僕は、恐くて目を開けられないまま。




2003年06月08日(日) 泥濘

心地良くまとわりつく、その甘い依存。

その中で、僕の体とこころはゆらゆら揺れる。


どこまで沈んでしまったのか。

自分の深度を計りかねて、僕は君に尋ねる。

君はもちろん、本当のことは言わない。

それでも答えを聞くことで安らぐのだ。


茶番に溺れて互いを縛る。

それを幸せだと呼ぶことは、決してない。

僕等の幸せは僕等それぞれが過ごす、その時間の中にしかない。


二人が幸せだなんて、そんなことは、ないはずなのだ。

決して。

決して。




2003年06月07日(土) なにものになりたいのか

社内研修のプレゼンで、実にくだらないテーマが設定されていた。
大体、こんな慌しい時期にわざわざ本社に呼びつけて、
こんなことをやらせること自体どうかしている。
まあ、仕事をしているフリをして満足している輩が多いということだろう。

プレゼンのテーマは、昨年度の成果報告と反省、そして将来について。
「誰のようになりたい、という希望があれば具体的に書いてください」

何を言っているのやら。

自分は誰なのか。
何を目指すのか。
なにものになりたいのか。

そんなものは他人に語ることではない。
少なくとも僕はそう思う。

発表当日、他の発表者(同期だが)のプレゼンを聞いていると、
非常に「優等生」的によくまとまっている。
こういうお遊びをいかにうまくこなすかで、上の評価が決まるのだろう。

そういう僕は、意外にもこの類のプレゼンが得意だったりする。
「得意」というのは、優等生的であるというのとは違う。
要するにお偉いさんの前で発表する訳だから、
何かの形で彼らの印象に残ればいいのだ。
その目的において、僕はプレゼンが得意なのだ。

何よりも印象に残るのは、その話し方。
スライド画面の方に体が向いていたら、その時点で負けだ。
身体はまっすぐ聴衆の方に向ける。
スライドをポインターで指すときだけ、身体をねじる。
そしてすぐ向き直る。

はっきり言って、スライドは聴衆が目をやる逃げ場所として必要なだけで、
話の流れがおおまかにわかればいい。
基本は話す言葉にある。

そして、自信を持つ。
僕は僕の言葉しか話せないのだし、
僕のことを話せというのだからそうするだけだ。

僕は原稿を書かない。
書くと、その通りに話さなければならないから焦る。
ちょっとでも忘れたら、「しまった」と顔に出る。
これも、その時点で負けだ。

話し言葉でいいのだ。もちろん時と場所を選ぶが。
何より、他人と違うことを話すこと。
みんな非常によくできた原稿をきれいに棒読みしてくれるので、
僕は僕の言葉で僕のことを語るだけで、みんなと違う話ができる。
そんな簡単なことに、みんな気付いていない。
(あるいは上司がチェックして直してしまうのかも・・・)

課題の「なにものになりたいか」については、
敢えて僕は誰かの名を挙げることはしなかった。
そもそもなりたい誰かなんていない。
僕は僕にしかなれない。
「どういう僕になりたいか」という質問なら、答えただろうが。

そのあたり、課題を設定する側のセンスも問われている。
僕から見れば今回は残念ながら失格だ。


「私はどの道を行くべきか、迷っています。」
「そしてそれは、自分の中で常に考え続けていくべきことです。」

僕は正直にそう言った。
設定された課題に敢えて答えないことで、
この無意味なプレゼン企画にささやかに反抗してみたのだ。

そして、僕の意図が伝わったのかどうかはわからないが、
「良いプレゼンをした5人」にはちゃんと選ばれた。
あちらの見る目があるのかないのかは別として、僕は目的を果たした。


2003年06月06日(金) 遠ざかる日々

テレビを見ていた。
ニューヨークのおいしいお店、とかいう特集。
ソーホーの、とあるレストランが紹介されていた。

僕はその店に見覚えがある。

もう1年半近く前になるのか。
僕はそこに行ったことがある。


今はもう僕の隣にいない君。
僕がアメリカに留学していた時、
君はわざわざ僕に会いにきて、
二人でニューヨークに遊びに行った。

ブロードウェイでミュージカルを見て、
タイムズスクエアのトイザらスを見て、
ハートランドビールを飲んで、
ヘーゼルナッツの香りがするマンデリンを飲んで、
ソーホーのそのレストランに行った。


何を食べたっけ。
食後にコーヒーを飲んだことは覚えている。
そうだ、パスタを食べたね。
二人で違うパスタを頼んで、
少しずつ分けて食べたね。

そういえばサラダを頼んで、あまりの量の多さに、
君はびっくりしてたっけね。


今思えば、僕はあの時ずいぶん幸せだったような気がする。

そんな思い出が、慌しい日々に巻き込まれ、流されていく。
僕の視界からもう、消えようとしている。


取り返しのつかない気持ちのまま、
僕は久しぶりに君にメールを送ってみた。

「一緒に行ったレストランがテレビで紹介されてて、
ちょっと懐かしかったよ。」

君は少し時間を置いてから返事をくれた。

「ニューヨークっていう言葉をテレビや雑誌で見るたびに、
懐かしく思っています。もう一度行きたかったな。」


そうだね。

全ては過去。

もう、終わったことなんだ。

僕が、終わらせたことなんだ。



何故、こんなに淋しいのかな。


2003年06月02日(月) 寝顔

強烈な目覚ましの音にも、君はすっかり慣れてしまっている。
僕は心臓が飛び出るくらい驚くのに、君はぴくりともしない。

僕が止めてしまったら、君はこのまま眠り続けてしまうよね。

そう思ってしばし轟音に耐えていると、
君はもそもそっと動いて目覚まし時計をばしんっと叩く。

そして、

「ゆめみたよぉ」

という。

「どんな夢見たの?」と聞くと、
「あのね、あのね、Hくんのけっこんしきだったの」
と、目も開かずにもったりとした口調で言う。
大学の同級生が結婚する夢を見ていたようだ。

「それでね、それで・・・」

あれ、と思うと、もう君は寝息を立てている。
やれやれ、寝ぼけてるのか起きてるのか。
僕の胸に擦り寄って眠ってしまった君の髪を撫でて、
僕はしばらくの間目を閉じている。

そのうち、また目覚ましが鳴る。
ものすごい音なのだが、例によって君はなかなか目覚めない。

しばらくして、君の手がひゅっと伸びてスイッチを叩く。

「・・・それでね、あたしは会場にいて、しんくんもいて」

それだけ言うと、また君は黙ってしまった。
おや、と思ったらやっぱり君はもう眠っている。

こりゃ面白い。

そんなことをしばらく繰り返して、僕は途切れ途切れの夢の話を聞いた。
結局、5分おきに鳴るアラームを7回止めて、ようやく彼女は起き上がった。

一緒にシャワーを浴びて、
君は一足先に上がって髪を乾かし、化粧をする。
僕はさっさと身支度をして、君の部屋を出る。

「じゃあね、いってきます。」
「いってらっしゃい。」

それだけの朝。
それだけの日々。

それだけでいいし、
それだけのもの。

君の寝顔の向こう側にある、
安心を僕は感じるんだ。

君に与える安らぎは、
僕にもきっと戻ってくる。





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