-殻-

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2002年06月30日(日) 定義

愛しているのか、と問われれば、僕はそうだと言うだろう。

ただし、それは君が思うような愛じゃないよ、とも言うだろう。









そんな愛を、君は持っていないの?

僕は、嘘は嫌いなんだよ。



2002年06月25日(火) 傘がない

昨日は同期の女の子とゴハンを食べた。
彼女は駅で待っていてくれて、二人で一つの傘を差して店まで歩いた。

他愛のない話をした。
ちょっとした噂話。
彼のこと。
仕事のこと。

帰り道、寮まで歩いて帰るって言う僕に彼女は
「傘、持ってっていいよ。」
という。

僕は断った。
「だめ。絶対ダメ。持ってって。」
彼女は言う。

コンビニがあるからビニール傘を買っていく、と僕が言う。
「じゃあ、あたしが買ってあげる。」
彼女がそう言って、自分で買うからと止めるのも聞かずに傘を買う。

「会社の置き傘にでもしてよ。」
彼女は言う。
僕は、ごめんな、ありがとう、と言って彼女と別れた。


雨は、天罰のようなものなんだろうか。
ただ濡れて歩くことくらいで、少しだけでも贖罪になるだろうか。
濡れて行こうと思ってた。
雨を受けることが、精一杯の抵抗だったのかも。

でも、僕は救われてしまった。
惨めな自分を、ずぶ濡れの自分を想像することで慰めようとしてた。
彼女はそれを許さなかった。



そう。

雨の日には誰だって傘を差すんだ。



2002年06月24日(月) 混沌

昨日僕は、約束と誠実さを忘れた。

今日僕は、寮の夕食の注文と傘を忘れた。

帰り道に雨に濡れながら、ふと考える。
どちらも、どうしようもないという点で後悔の重さはそんなに変わらない。


それは、問題の重さとはまた別なんだ。






2002年06月15日(土) 再会・4

一年の留学期間を終え、僕は帰国した。
そして、仕事に就いた。

配属された先はなんと、Y市。

FのいるH市からわずか1時間、Yの住むT市から2時間。
この広い日本で、3人が同じ地方に就職してしまった。
もちろん、なんの打ち合わせもない。
それぞれが全く違う仕事をしているわけだから、選べるわけがない。

こういうときに僕は、運命というものを感じずにはいられない。

3人とも、さすがにこれには驚いた。
もう二度と3人で会うことなどないかもしれない、と思っていたのだから。
そして、だからこそあのライブをやったのだから。


と、驚いているうちに、まさしさん(仮名)が結婚するという話が転がり込んできた。そして、余興として何曲かやってくれという。

結婚式は8月10日。

僕ら3人は、週末にH市のFの家に集まり、ちょこちょこと練習している。
お互い、年を重ねて、少しずつ変わってきた。
これからも変わっていくだろう。

だけど、やっぱり僕らは仲間なのだ。
それだけは、きっと、ずっと、変わることはないのだ。


それがきっと、運命というやつなのだ。

2002年06月14日(金) 再会・3

ほんの数時間の練習を2回しただけで、いきなり本番はやってきた。
街外れの、小さなイベントスペース。
ライブハウス、というやつではないけど、僕らのような小さなバンドがライブをやるにはおあつらえ向きだ。

3人それぞれの知り合いが集まる。
お互いは知らないもの同志、なのに、僕ら3人を共通項にして一つところに集い、思わず意気投合するもの、親しくなるもの、ひょんな知り合いに出会って驚くもの、いろいろだ。

僕らがそれをつなぐものになるという、くすぐったくも幸せな感覚。


ライブは静かに始まった。
時間もないし、ブランクはあるし、新しい曲ができるわけじゃない。
昔やった曲を、思い出しながら、呼吸をはかりながら奏でる。

お世辞にも上手とは言えない。
なのに、たまらなく気持ちがいい。
時間はあっという間に過ぎていく。


ライブが終わったあと、Fがいきなり言った。

「僕らは、結婚しまあす!そこで、人前式と言うことで、ここで皆さんに証人になってもらって式を挙げます。祝福してください!」

婚約者もそこにいて、ずっとライブを聞いていた。
思えば彼女は、僕らのバンドが活動を休止してからFと付き合い始めたから、ライブで歌うFを見たことがなかったのだ。

それは、実は僕も同じなのだが。


そこにいたみんなに祝福され、二人は夫婦になった。
そのままそこで、パーティが開かれ、夜遅くまで騒いだ。



その後すぐ、僕は日本を離れた。
きっと、これで最後なのだろう、と思いながら。

2002年06月13日(木) 再会・2

そもそも僕らのバンドがうまくいかなくなったのは、僕とFの仲がうまくいかなくなったからだ。

FはH市に就職するに当たって、結婚することを決めていた。
それが奴を少し丸くしたのか、(或いは僕が?)お互いに戸惑いは残しながらもメールをやりとりして、少しずつ昔の距離感を取り戻していった。

3月のまだ風が冷たい日に、僕らは再会した。
あのころと同じように、ギターケースを抱え、いつも練習していたボロボロのスタジオに入った。

僕とFは、やはりどこかぎこちなく「久しぶり。」「おう。」と短く言葉を交わした。目を合わせるのが難しい。お互いに牽制している。


「じゃあ、とりあえずやってみようか。」


僕らの一番得意だった曲。
CSNの「Helplessly Hoping」。

イントロのスリーフィンガーを僕が奏でる。
僕ら3人の声が重なる。
その瞬間。

僕らはあのころに戻っていた。


響きあうことの楽しさだけを追求していた、あのころに。

そもそも僕らは、それ以上のものを何も望んではいなかったはずだ。
ただ、お互いのギターと声が重なって生まれる言いようのない響き。
それに魅せられて僕らは音楽を始めたんだ。


3年のブランクは、思った以上に僕らの勘を鈍らせてはいたけれど。
それでも、一度合わせてしまうと不思議と呼吸が戻ってくる。

僕らは、ほんのつまらない諍いのために、こんな幸せな時間を忘れてしまっていたんだ。

2002年06月08日(土) 再会・1

「まさし(仮名)さんが結婚するらしい。で、俺らで何か余興をやらないかっていう話があるんだけど、一度集まろう。」


ある日こんなメールが携帯に届いた。

僕は昔、音楽をやっていた。
正確には今も続けている。
ただ、バンドっていう形態を取っていないだけだ。

大学で出会った、気の会う連中とバンドを組んだ。
バンドといっても、アコースティックギターが3本と3声のコーラス。
例えていうなら、CSNのような感じだ。

いっしょにライブをやった対バンの人が、僕らをとても気に入ってくれたようで、サークルのようなものを作った。
いろんな音楽性を持ったバンドをいくつか集め、その中でさらにメンバーを組み替えて新しいバンドを作ったり、ライブをしたりした。

しかし大学という場所は人の移り変わりが激しいところで、そんな楽しい時間はそれほど長くは続かない。
就職で街を離れる者、メンバー間のいざこざで遠ざかる者、研究の忙しさで参加でできなくなる者、いろいろあって少しずつ自然消滅していった。

僕のバンドもまた例に漏れず、ちょっとした諍いや意識の違い、忙しさから休止状態になってしまっていた。

それでもまだ、僕らの中には「その時間を確かに一緒に過ごした」という意識がある。それは揺らがない。でも、お互いに歩み寄る機会がなく、日々の生活の中に埋没していった。


そんな僕らの時間が動き出したのは、去年の3月だった。

僕以外の2人はH大の博士課程3年。
僕は研究の都合でK大に移っていた。
2人はA県に就職することが決まっていた。
同じ県内でも一方はT市、一方はH市なので2時間くらいかかる。
僕は留学することが決まっていたので、しばらくは顔を合わせることもなくなるだろう、ということで、区切りに何かやらないかとT市に就職するYが言い出した。

そして僕らは、3年ぶりにライブをやることになる。

2002年06月06日(木) 鼓動

聞いて。


僕の胸に、その小さな耳を当てて。


目を閉じて。


その細い腕を、僕の背中に回して。


深く息をして。


僕の、


鼓動を、


聞いて。











2002年06月05日(水) 距離

はやくきみにあわないと、

はやくきみのかおをみないと、

はやくきみをだきしめないと、

きみをわすれそうだよ。

きみのわらったかおや、

おこったかおや、

すねたかおや、

かみのにおいや、

ちいさいてや、

ほそいからだや、

くびをかしげるしぐさや、

いろいろ、いろいろ、

きみがちかくにいるとすごくふつうなことぜんぶが、

どんどんとおくなってく。

ねえ、

きみはどう?

ひょっとしたらきみも、

こんなふうに、

ぼくのかおや、

においや、

てや、

いろいろ、いろいろ、

ちかくにいるとすごくふつうなことぜんぶを、

わすれそうになってるのかな。

それがこわいよ。

それがこわいんだ。

2002年06月03日(月) 依存


どうにもならない。

こんな言葉が不意に口をついて、
自分にうんざりする。


そんな自分が、やっぱりどうにもならない。

2002年06月02日(日) ひとりあそび

一人でお酒を飲めますか?

飲めない、っていう人が僕の周りには多いんですが、どうですか?

家で飲むならまだいいけど、一人で外で飲む人は?

おそらくあんまりいないでしょうね。



そういう僕は、一人で外で酒を飲みます。
気に入ったバーや居酒屋に、一人で行きます。

ただの酒飲みと言われたらそうなのかも知れないけど、
飲むことそのものが目的になることってあるんですよね。

今日も、近くの街のバーで飲んできました。
タンカレーを2杯。ライムで。

一人でバーに行って何をしてるんだ、と思うでしょうか。
飲んでるんですよ、黙々と。
何もせず、ただ飲んでるんです。

たまにマスターと話をしながら、ちびちびと。
それがとても心地いい時があるんです。
そういうことができる空間は、簡単に人には教えません。
自分で探して、通って、覚えてもらうんです。

覚えてもらうなら、一人が一番。
一人で来る客は少ないから。

そして、あんまりマスターと話しすぎない。
おしゃべりだと思われて話しかけられるようになると、
くつろげなくなりますから。


そうやって自分の空間を作っていく作業は、
とてもとても楽しいのです。

2002年06月01日(土) 躊躇

僕は深く息を吸い込んで、君に本当のことを言おうとした。

やけに軽い煙草の匂いと辺りのくだらないおしゃべりで肺がいっぱいになった瞬間、君が怯えるような目でふと僕を見た。

僕は息を止めた。

そして、ふうううっと長いため息をついて、
グラスに半分ほど残ったジンライムを飲み干した。

まあいい。

こうやって、僕は君のとなりにいられるんだから。


ところで、このため息は、
君にはどう見えたんだろう?


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