女の世紀を旅する
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2005年08月27日(土) 日本史探訪: フロイスが見た信長


日本史探訪:フロイスが見た信長



 16世紀の「大航海時代」に日本を訪れたイエズス会(ジェズイット教団.耶蘇会)の宣教師たちの日本見聞録には興味がそそられるものがある。特に注目したいのはフロイスの見聞録(「日本史」12巻)で,信長・秀吉の時代の日本の社会や世相や事件を知る第一級史料といえよう。


 以下は,川崎桃太著『フロイスの見た戦国日本』(中公新社)のほんの一節。信長の考えや挙動や気性が生々しく伝わってくる貴重な史料があり,下記に記しておきたい。


※当時,信長は一向一揆に対する弾圧と殺戮,比叡山延暦寺の殲滅,石山本願寺の僧兵との長期にわたる戦いなど,反抗する仏教徒を目の敵(かたき)としていた。他方,伴天連の布教に対しては比較的寛大な態度で臨んだが,そのデウス(ヤハウェ,エホバ)の神を信じていたわけではない。ただ,異様な風貌をし,威厳にみちた南蛮人の出現は信長にとっても,ある種のカルチャーショックだったことは史料からも読み取れよう。





●フロイスの来日

ポルトガル人宣教師ルイス・フロイスは1563年(永禄6)西九州の横瀬浦に上陸した。31歳の彼は2年前に司祭の位を得たばっかりであった。イエズス会に入り,東洋での働きを志したのでインドに派遣され,インド西岸のゴアの学院で宣教師になるための準備期を過ごした。

フロイスが到着したころの日本には,わずか2名の司祭と数名の修道士がいるだけであったという。すでに,1549年にフランシスコ・ザビエルが来日し,初めてキリスト教を伝えたが,その布教は遅々として進まなかった。


●信長との最初の出会い

フロイスらの一行が都から堺に追放されたのが,仏僧たちの企てた不当な仕打ちと知った和田惟政(これまさ.信長の家臣.伴天連を支援)は,奉行の面目にかけても,伴天連を都へ連れ戻すべきだと考えた。信長の内諾を得ていたことがこの決定を至上命令に変えた。

だが,その信長は伴天連をまだ見ていない。帰還の礼を述べさせるためにも,フロイスを一刻も早く信長の許に伺候させねばならない。その機会は到着3日後に訪れた。

――司祭は贈物として,非常に大きいヨーロッパの鏡,美しい孔雀の尾,黒いビロードの帽子,およびベンガル産の藤杖を携えたが,それらはすべて日本にはない品だったからである。司祭には都の他のキリシタンたちが同伴した。

信長は館の奥で音楽を聴いていた。伴天連が来たと知らされても,面接には応じなかった。あることを考慮してそうしたのだ,と後で漏らしたが,そのあることとは,フロイスの言葉によると,

――予は伴天連を親しく引見しなかったのは,他のいかなる理由からでもなく,実は予は,この教えを説くために幾千里もの遠国からはるばる日本に来た異国人をどのようにして迎えてよいか判らなかったからであり,予が単独で伴天連と語ったならば,世人は,予自身もキリシタンになることを希望していると考えるかも知れぬと案じたからである。

接見の場所に一行が通されても,信長は一言もいわず,彼の前に立っている若い警護の武士たちの間からフロイスの動作を注意深く観察していた。
 訪問者の前には食膳が出された。各種の料理が豊富に並べられている。指揮官の佐久間信盛と和田惟政が伴天連の接待にあたった。2人の司祭に,なにか食べるようしきりに促した。

――信長は贈物を見た後,そのうち3つを司祭に返し,ビロードの帽子だけを受理した。彼は贈物のなかで気に入ったものだけを受け取っており,他の人たちに対する場合でもつねにそうであった。

その日の謁見は,予期に反し,無言のうちに終わった。信長は相手の品定めを行なったのであろう。それが,信長流の交際術であった。フロイスは2人の指揮官に手厚い持てなしの礼を述べて,館を出た。



●二条城での会見の際,信長が一人の兵士を斬首

先の訪問で信長が伴天連に口を利かなかったことを,惟政はとても残念がった。キリシタンの悲しみが,情けを知るこの武将にはよく判るからである。そこで彼は次の機会を模索した。ほどなく今度は,信長の方から伴天連に会いたいといってきた。

2度目の会見は二条城の濠の上で行われた。折から,御殿の造営が急ピッチで進められていた。信長が献じる室町幕府新将軍・足利義昭(よしあき)の館である。「通常2万5千人が働き,少ない時でも1万5千人を数えた」というから,超大工事だったことが窺える。

信長はみずから陣頭に立って工事を指揮した。虎の皮を腰に巻き,藤杖を手に持った信長がいるだけで,張り詰めた空気が現場をうかがっていた。ある時,離れた現場の一角で,一人の兵士が通りがかりの婦人に軽く戯れた。信長の眼がそれを見逃すはずはなかった。突如,疾風のように駆け下ると,一刀のもとにその兵士の首を刎ねた。一瞬の出来事であった。

約束の日,信長は濠の橋の上でフロイスを待っていた。司祭が遠くから深く頭を下げているのを見つけると,近くに来るよう合図した。橋の板に2人は腰を下ろした。陽が強かったので帽子をかぶるようにいった。

――彼はただちに質問した。年齢は幾つか。ポルトガルとインドから日本に来てどれくらいなるか。どれだけの期間勉強をしたか。親族はポルトガルでふたたび汝と会いたく思っているかどうか。ヨーロッパやインドから毎年書簡を受け取るか。どれくらいの道のりがあるのか。……当国でデウスの教えが弘まらなかった時にはインドへ帰るかどうかと訊ねた。

この最後の問いかけにフロイスは,たとい一人の信者しかいなくても,終生日本に留まる決意である,と答えている。この時,通訳としてその場にいたのが,日本人のロレンソといわれている。 

会見は2時間あまり続いた。信長は始終「ゆったりした気分」で話した。

建築を見に来た者たちが,二人の様子を遠巻きにして窺っていた。その中には多くの僧侶の姿も見受けられた。すると,「尋常ならぬ大声の持ち主であった」信長は僧侶たちを指さしながら,いった。

――あそこにいる欺瞞者どもは,汝ら伴天連たちのごとき者ではない。彼らは民衆を欺き己を偽り,虚言を好み,傲慢で僭越のほどはなはだしいものである。予はすでに幾度も彼らをすべて殺害し,殲滅しようと思っていたが,人民に動揺を与えぬため,……かれらを放任しているのである。



● 信長,キリシタン宗門に允許状を与える

フロイスはかねてより布教のための允許状を欲しがっていた。都のキリシタンたちは,貧しい中から三本の銀の延べ棒を用意して,和田惟政に仲介を依頼した。それは信長に渡し得るほどの額ではなかった。惟政は,自分の世話でさらに七本を加え,貧しい伴天連のため配慮を,と申し出た。

信長は笑いながら,

――予には金も銀も必要ではない。伴天連は異国人であり,もし予が,教会にいることを許可する允許状のために金銭の贈与を受けるならば,予の品位は失墜するであろう,と語った。

そしてそれを無償で与えるよう惟政に命じた。
 惟政は一度伴天連から小さな目覚まし時計を見せてもらったことがあった。正確に時を告げる機械があることなど誰も知らなかった。信長もその精巧さに驚かれるだろう。伴天連と会わせるための格好の材料だ,惟政はそう思った。次の会見にその時計を持ち出すことをフロイスは快諾した。

館では二,三の来客と信長はくつろいでいた。フロイスの差し出した時計を見るなり,珍物を見る時の喜びの表情に変わった。すかさず,司祭は,殿に献上するため持ってきたのだといった。どうか,納めていただきたい,と重ねて言上した。

信長は悲しむようにフロイスに目を遣り,

――予は非常に喜んで受け取りたいが,受け取っても予の手もとでは動かし続けることはむつかしく,駄目になってしまうだろうから,頂戴しないのだ。

といった。

信長は伴天連を自室に案内した。自分の飲んだ同じ茶碗で茶を飲ませた。二度目の茶も飲むよう所望した。美濃の干柿が振舞われた。干柿の入った四角い箱を持ってこさせ,フロイスに渡した。

ここでもロレンソ修道士が司祭の側にいた。信長はインドとヨーロッパの話に強い関心を示した。
「インドの気候と食物は」,信長が訊ねた。「暑さに耐え兼ねて,人々は日中の大半を寝そべって過ごします」。フロイスはゴアの市場や海辺でよく見かけた,けだるい光景を思い出していた。「カレーと称する辛い食物を好みます」。この食物にはちょっぴり未練があった。




●獅子のように怖れられた信長

都では,伴天連を擁護する和田惟政と,宗門を憎む日乗上人との対立が日増しに激化し,信長の不在に乗じて,日乗は過激な行動に出る気配を見せていた。フロイスは窮状を訴えるため,岐阜城へ行くことを考えた。この旅にはいつものようにロレンソが同行し,信長の重臣柴田勝家と他の一人の武将に当てた惟政の書状が託されていた。

このたびの訪問ではフロイスは,城中での信長が覇王のように畏怖され,仕えられているのを見て驚愕した。家臣たちの振舞いにはそつがなく,一つの厳しい司令の下ですべてが無駄なく機能しているとの印象を受けた。張り詰めた空気が城内にはみなぎっていた。

――手でちょっと合図するだけでも,彼らはきわめて凶暴な獅子の前から逃れるように,重なり合うようにしてただちに消え去りました。そして彼が内から一人呼んだだけでも,外で百名がきわめて抑揚のある声で返事しました。彼の一報告を伝達する者は,それが徒歩によるものであれ,馬であれ,飛ぶか火花が散るように行かねばならぬと言って差し支えがありません。……公方様の最大の寵臣のような殿も,信長と語る際には,顔を地につけて行なう。




●信長の人物像

信長はどんな風貌の持ち主であったか。信長の似顔絵についていえば,狩野元秀の筆になる肖像画が,現在伝わっているもののなかでは一番有名である。本能寺の変後一周忌に寄進されたといれれているから,実物をよく捉えているのだろう。信長と付き合いの長かったフロイスは誰よりもよくこの人物を知っており,その人物描写も貴重な史料といえる。

――信長は尾張の国の三分の二の主君なる殿(織田信秀)の第二子であった。彼は天下を統治し始めた時には37歳ぐらいであったろう。彼は中くらい背丈で,華奢な体躯であり,髯(ひげ)は少なくはなはだ声は快調で,極度に戦(いくさ)を好み,軍事的修練にいそしみ,名誉心に富み,正義において厳格であった。彼は自らに加えられた侮辱に対して懲罰せずにはおかなかった。幾つかのことでは人情味と慈愛を示した。

 彼の睡眠時間は短く早朝に起床した。貪欲ではなく,はなはだ決断を秘め,戦闘にきわめて老練で,非常に性急であり,激昂はするが,平素はそうでもなかった。彼はわずかしか,またほとんどまったく家臣の忠言には従わず,一同からきわめて畏敬されていた。

酒を飲まず,食を節し,人の取り扱いにはきわめて率直で,自らの見解に尊大であった。彼は,日本のすべての王侯を軽蔑し,下僚に対するように肩の上から彼らに話をした。そして,人々は彼に絶対君主に対するように服従した。彼は戦運が己れに背いても心気広闊,忍耐強かった。

彼は善き理性と明晰な判断力を有し,神および仏の一切の礼拝,尊崇,ならびにあるゆる異教的占卜や迷信的慣習の軽蔑者であった。形だけは当初法華宗に属しているような態度を示したが,顕位に就いて後は
尊大にすべての偶像を見下げ,若干の点,禅宗の見解に従い,霊魂の不滅,来世の賞罰などはないと見なした。

彼は自邸においてきわめて清潔であり,自己のあるゆることをすこぶる丹念に仕上げ,対談の際,遷延することや,だらだらした前置きを嫌い,ごく卑賎の家来とも親しく話しをした。

彼が格別愛好したのは著名な茶の湯の器,良馬,刀剣,鷹狩りであり,目前で身分の高い者も低い者も裸体で相撲をとらせることをはなはだ好んだ。

彼は少しく憂鬱な面影を有し,困難な企てに着手するにあたっては,はなはだ大胆不敵で,万事において人々は彼の言葉に服従した。


2005年08月18日(木) 森本哲郎 「自分への旅 」



森本哲郎 〈 自分への旅 〉






私は若い時分,うぬぼれが強く,自分の気質・性格が鋭角的で,その感受性の鋭さで,ずいぶん辟易(へきえき)したものである。特に困惑したのは,その怒りっぽさと癇癪(かんしゃく)もちの荒らぶれる心であり,そのため対人関係は大変苦手としたのであった。親和力の欠如である。

言葉づかいが乱暴の上,性格が粗削りで,優雅な言動や物腰の人と接することに苦痛さえ覚えたものである。そういうことから,自分では自分を野卑で,気性の激しい野生人と思っているし,青年特有の哀愁や感傷を引きずって今日に至っている。

ある時は陽気で朗らかな愛想のよい自分が,またある時はとげとげしい,陰気くさい自分がいる。またある時は気前のいい寛大な自分が,またある時にはケチの固まりのようなストイックな自分がいる。

人間に対して温かい自分がいるかと思うと,人間嫌いの自分がいる。日々,変化する自分の心模様を観察するため,若い時分から自分の本質を探るべく努めてきたのだが,いまだに,自分の本性がわかっているつもりで,正直よくわからない。自分にとって,一番わかっているつもりの自分が,いまだに謎だらけなのである。でも,それが人間なのかもしれない。


この世の中で,一番不思議なのは「自分」ではないだろうか。もっとも身近にありながら,もっとも遠いところにいる自分を探して,人は人生という旅を続けるのかもしれない。

したがって,そういう「自分探し」に哲学的省察をめぐらしている作家の森本哲郎氏の著作の内容に共鳴し,親近感を覚えるのである。彼の著作の数々には,一貫して「人間存在の哀愁」が光っている。



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以下は,森本哲郎の『そして,自分への旅』(角川文庫)という著作の冒頭一節であり,大変興味深いことに言及しているので記載しておきたい。



この世の中で,いちばん不思議に思えるのは「自分」ではないでしょうか。なぜなら,自分にとって自分が何よりも理解しがたいからである。私はいつのまにか六十年以上の歳月を歩んできてしまいましたが,それでもまだ「自分」の正体がつかめません。もしかすると,私はついに「自分」をつかめないまま生涯を終えるのではないかと,そんな気さえします。

私は逆説をもてあそぼうというのではありません。自分にとって自分ははっきりわかっている,とだれでもそう思っています。ところが,あらためて自分とは何なのだろうと考えはじめると,手にとるようにわかっているはずの自分が,とたんにするりと自分の中から抜け出てしまう。そこで,あわててつかまえようとすると,「自分」はさらに自分から離れてゆく。こうして,自分はなかなかつかまえられないのです。自分にとって最も身近な「自分」が,自分から最も遠い存在であるとは! これこそが,じつは人間そのものの逆説なのです。

考えてみますと,「自分」とは影法師のようなものです。あるときは自分のうしろに「自分」が従っています。あるときは自分の前に「自分」が歩いている。そのように,影法師はいつも自分に寄り添いながら,しかし,けっして自分と一体になることはありません。自分で自分をつかまえようとすることは,自分の影法師を踏もうとするようなものです。踏もうとする影法師はさっと逃げてしまい,いくらすきをうかがって抜き打ちに踏もうとしても,絶対に自分の影は踏むことができません。

人間はすぐれた知能によって,思いのままに世界をつくってきました。自然を征服し,自然を利用し,そしてついに宇宙にまで手を伸ばしはじめました。

にもかかわらず,人間が今後どれほど努力を重ねても,けっしてなし得ないことがあります。自分で自分を見るということです。こればっかりは,どんな顕微鏡をつくりだしても,どのような望遠鏡を考えだしても,絶対に不可能です。なぜなら,目は自分を見るようにつくられていないからです。


カミュは,『シーシュポスの神話』の中で,こういっています。
「いつまでも,私は私自身に対して異邦人なのだ」と。

それはどういうことなのでしょう。ひとたび「自分」というものを考え始めると,自分にとって「自分 」が,まるで異邦人のように思えてくるということです。どうして? 自分で自分を考えるとき,考えられた自分はすでに考えている自分とは別人になってしまうからです。いま,こうして考えている私は,考えられた「私」とは明らかにちがっています。たとえば,私は眠っている自分を考えることができます。しかし,そのようにして考えられた「眠っている自分」は,じっさいに眠っているときの自分とは,まったく別の自分ではありませんか。

だから,「自分」とは,自分にとって「異邦人」なのです。カミュは「自分」を「異邦人」として追い求めた作家でした。自分という「城」の中には,つねに「異邦人」が住んでいるのです。

そう考えると,自分というものは,かならずしも一人だとはいえないことになります。そう,自分とは何人もいるのです。何人も,何人も。

私自身,自分を考えて,つくづくそう思います。私はいま,六十年にわたる自分のこれまでの人生を振り返って,少年時代の自分,青年期の自分が,まるで別人のように思えてなりません。いや,そんなむかしの自分どころか,ついきのうの自分でさえもが,まるで異邦人のように思われるのです。

過去と同時に,未来の自分を思い描くとき,やがて死を迎えるであろう自分が,同じようにいまの自分とは別人のような気がします。それだから,人間は確実にやってくる死の恐怖に耐えられるのでしょう。もし,そうでなかったら,人間は過去の重みに押しつぶされ,未来の恐怖に打ちひしがれて,一日たりと生きてゆけないのではないでしょうか。自分が何人もいるからこそ,人間は何人もの「自分」を身代わりにして,自分に耐えることができるのだ,といっていいと思います。


時間を停止するなどということがありえない以上,自分は刻々と変化しつづけます。時間の中に生きる人間は,つねに,彼ハ昨日ノ彼ナラズという宿命背負って人生という旅を続けねばなりません。そして,時間とともに自分からすり脱けてゆく「異邦人」としての「自分」を追いかけながら生きてゆくのです。この意味で,人生とは「自分への旅」なのです。

テネシー・ウィリアムズは『やけたトタン屋根の上の猫』という戯曲の序文のなかで,人間はひとり残らず「自分」という独房に監禁されており,だから創作とは「生涯を独房に監禁された囚人が,同じ境遇の囚人に向かって,自己の監房から呼びかける悲鳴だ」といっています。

デカルト(フランスの合理論哲学者)も,「自分」をさがしに旅に出ました。彼は何とかして納得できる「自分」を見つけたかったです。彼にとっては,何もかも疑わしく思われました。自分が存在しているということさえも。そのために彼は夢中で書物を読みあさったのですが,どんな本を読んでも,いや,読めば読むほど疑いはつのるばかりでした。

そこで,青年デカルトは文字で書かれた書物のかわりに,「世間という大きな書物」を読もうと旅に出たのです。彼は自分で考え,自分で納得できるもの以外は何ひとつ認めまいと心に決めました。こうして彼の哲学の歩みが始まります。彼は自分にこういいきかせます。


――もし旅人が森の中で迷ったら,どうすべきか。途方に暮れて立ちすくでいては,永久に道は見つからないだろう。さればといって,やたらにあちこちをさまよい歩いても,いよいよ道に迷うばかりだ。迷ったときに必要なことは,とにかく一定の方角に向かってまっすぐに歩くこと以外にない。(『方法序説』)


こうして,彼は一直線に「自分」へ向かってつき進んでゆきました。そして,「我思う,ゆえに我あり(コギト・エルゴ・スム)」というあの有名な原点へと達するのです。


ハイデッカーは,人間を「死への存在」といいました。だれひとりとして死を免れることができないという人間の条件が実存哲学の原点なのです。しかし,私はそれよりも,人間を「自分への存在」と呼びたいような気がします。人間は生きているかぎり自分と向かい合い,自分と格闘しなければならないからです。


人間はみな「私」として生まれ,「私」として世を去る。そして,そのあいだじゅうを「私」として生き続ける。影法師のように「自分」を引きずり,「自分」を追いかけながら,しかも,だれひとりとして「自分」の正体をこの目で見た者はいない。人間の不思議さはそこにあり,それだからこそ,「自分への旅」である人生は,それぞれの人にとって無限の意味を持ち得るのだと思うのです。


2005年08月11日(木) 郵政民営化法案否決と解散選挙でも東証12000円台に急騰

日経平均12000円台への急騰の背景  
                  2005/08/10





相場の強さに驚いた。郵政民営化法案否決と衆議院解散総選挙(9月11日)で株価は下落すると思われていたが,一気にぶりかえしてきた。東証は全面高である。

先週,新興市場は暴落が続いて,随分と追証も発生していたが,月曜日から
東証・新興市場も反発の気運が生じて,市場関係者を驚かせている。


その背景について,兜町のホット情報の記事が面白いので下記に記しておきたい。カラ売りを仕掛けた連中は塗炭の苦しみにおちいっているらしい。





8月10日(水)

H「いやいや驚いたな。日経平均は連日の爆上げで12000円を一気に突破だ。今日は商いも非常に多く、単なるリバウンドという動きじゃない。」
K「昨日政府、日銀共に景気の踊り場脱却を表明した。これが大きい。昨日の機械受注である程度予測は出来た事だが、正式に表明した事が海外投資家を含め、国内機関投資家も強気にさせたようだ。今日は寄りから海外投資家の買いが集中して寄り後もしっかりとした展開だった。」

H「もはや政局リスクの懸念なんか、どっか行ってしまったような勢いだ。まあこれだけ派手に上げた背景にはやはり売り方の買い戻しもあるようだ。」
K「そうだな。政局波乱懸念から、つい最近まで日経平均は11500円とか11000円まであるとか弱気な見方も多かった。それにより空売りを入れていた投資家も結構多いのだろう。それがこのような急ピッチな上昇で踏み上げたと言うわけだ。買い方にとっても、月曜までの大きな下げで投げた人も多いだろう。そういう買い方の買い戻しも昨日今日と当然入っているだろうしな。」
H「そうだな。ただ海外投資家は月曜日までの大きな調整期間も寄り前の注文では買い越しが続いていた。今日は3210万株の大幅な買い越しだった。これで12日連続の買い越しだ。政局波乱懸念から外資が売ってくるのではという懸念が強かったが、それでも外資は買い続けていたと言う事だ。」

K「もちろん政局波乱は外資は嫌う。当然外資の売りも出ていただろう。ただそれ以上に日本のファンダメンタルズ面で買い向かっていた外資が多かったと言うわけだな。しかし郵政民営化法案が可決されれば日経平均は派手に上げると言われていたが、否決されてここまで上げるとは正直驚きだ。実際に国内機関投資家の多くも驚きだろう。驚きながらも外資が強い買いを入れるため、買わないわけには行かず買い向かっていると言う状況だな。」
H「持たざるリスクと言う奴だな。しかし原油高の懸念も相変わらず強いのに、全く無視するような展開だ。」

K「もちろん原油高は懸念さ。今後上げれば更に懸念も強まり、実際に日本企業の業績に与える影響も出てくる。ただ今日の動きを見ると、内需中心に買われており、今後は内需が相場を引っ張っていくという事なんだろうな。」
H「となればやはり銀行株だな。証券株も全体的に買われていた。」
K「まさか今日12000円に乗せてくるとは思わなかったが、乗せた途端一気に上離れたな。今後は12000円を固められるかが重要だ。まあ今日の上げの強さを見れば、そうそう割り込むとは思えないが・・・。」

H「固められれば年内日経平均13000円も見えてくる。」
K「なかなか抜けきらなかったラインだからな。12000円は・・。ここを固めて完全に上抜ければ確かに上げは加速する可能性も充分ある。ただ13000円まであるかどうかは、9月の総選挙の結果次第とも言えるだろう。自民党が圧勝し小泉政権続投となれば、その可能性大いにある。」
H「そうなれば郵政民営化法案を再度採決するだろうが、しかし実際に参議院で可決が取れるかどうかだろ。幾ら衆議院を今回の解散総選挙で入れ替えたとしても3/2以上自民公明党が取れないだろう。となればやはり参議院で可決されないことには郵政民営化法案は通らないとなるが・・。」

K「いやいや確かに3/2議席自民公明党が取るのはムリだが、今回の選挙は小泉さんも言うように郵政民営化選挙だ。この選挙で自民公明党が過半数取り勝利となれば、郵政民営化に国民が賛同したと言う事になる。そういう状況では、今回のように参議院で造反者は出てこないだろう。つまり参議院でも可決される可能性が高いと言うわけだ。まあ確かに参議院で再度否決されるのではという見方もあるけどな・・。」

H「なるほど。国民が認めた事を自民公明議員が再度否決したとなれば道理は通らないわな。今回は造反したが次回は意見を変えると言う参議院議員も出てくると言うわけだな。」
K「ああ。まあ少なくても小泉さんはそう考えているんだろう。早くも選挙戦が始まっている。造反者の選挙区に刺客を送り込むとの報道が相次いでおり、今回の選挙はかなり面白くなりそうだ。」

H「そうだな。東京10区には造反者の小林興起氏が出馬するが、そこに小池百合子環境大臣をぶつけてきた。これじゃ小林興起氏はかなり厳しいわな。」
K「ああ。小池百合子はワールドビジネスサテライトの初代メインキャスターだ。知名度も好感度も国民にはあり、小林興起氏はまず勝ち目がない。更に亀井静香氏の広島6区には竹中平蔵氏を刺客として対立候補として出すと言う報道まで流れていた。他にも著名人などに色々と立候補を薦めているとの噂もある。具体的には星野仙一氏なども候補に挙がっているようだ。」
H「今後、あっと驚く出馬も自民党から出てくるかもしれないな。こりゃ楽しくなりそうだ。」
K「まあ小泉さんも造反者潰しに固執すると民主党に負けてしまう恐れもある。それだけは気を付けて欲しいけどな。まあどっちに転ぶか知らないが、久しぶりに楽しい選挙が見られそうだ。」


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8月9日(火)

H「いやいや何もここまで戻さなくても・・っていうくらい戻したぞ。日経平均は一気に11900円台だ。昨日の朝方には11600円台をうろちょろしていたのにな。」
K「ああ。アク抜けしてリバウンド的な物色だが、こりゃ幾ら何でも確かに上げすぎだ。恐らく空売りの踏み上げも手伝っているだろう。2時に発表された機械受注は市場予測を大幅に上回る良い内容で、おいおい今日中に12000円復活か、と思った位勢いよく駆け上がった。まあすぐに利食いに押されて垂れてしまったけどな。」

H「いくら機械受注が好内容だって、その前にこれだけ上げれば出尽くしとなるわな。しかしこれで改めて景気の踊り場脱却が明らかになったと言う事だな。」
K「ああ。今回の機械受注によって週末発表されるGDPも良い事が予測される。まあ派手に上げた後だから明日辺りは出尽くしで調整となる恐れもあるが、心配されていた政局リスクを懸念する動きは全て吸収されたと見て良いだろう。」

H「そうだな。まあこのまますぐに12000円を突破していくとは思えないが、ファンダメンタルズは良く、週末発表のGDPも良いという安心感が出た事から、押せば買われる展開になりそうだ。」

K「今日は解散総選挙正式決定となって、更に売られると見ていた投資家も多く昨日の時点で空売りも結構入っていたようだ。それが今朝からの動きで慌てて買い戻しに動いたと言う事だろう。今日も朝から外資の買いが入っており、それに空売りの踏み上げ、更には国内機関投資家と個人投資家の追随買いが上げを加速させた格好だな。」

H「昨日の米国市場が原油高により続落したが、それを無視するような強さだった。朝方から空売った人もいそうだな。それを今日中に慌てて買い戻しに走ったと言うのもありそうだ。」
K「まあいずれにしろ一安心だな。このまま素直に上げ続けてはいかないだろうが、取りあえずは底打ちし、下値のしっかりとした展開になるだろう。また選挙の時期になれば様子見感も拡がるだろうが、それまでは心配もなさそうだ。」

H「新興市場も派手に戻している銘柄が多く、昨日でアク抜けしたような感じだ。」
K「ああ。まあここから買い上がる動きは限定的だろうが、押し目は素直に狙えると言えるだろう。今回の大きな下げで信用買い残も結構整理されただろう。上手く回転が効いた格好になっており理想的とも言える。こりゃ次の12000円トライでは一気に上抜ける可能性も出てきた訳だ。」
H「ただ米国市場がちょっと心配だよな。まあ原油価格が更に上がってきており、これが日本市場にも水を差す恐れがある。」
K「確かに原油高は懸念だな。今日は全く無視していたような動きだったが、更に原油高になればやはり日本市場も影響を受けないわけがない。まあいい加減下げてくれと祈るしかないわな。」
H「ところで選挙の行方はどうなるかね。」

K「まあ小泉政権続投か、自民党は野党へ落ちるのかと言う事だろう。民主党が政権を取るというパターンも当然あるだろうが、やはり株式市場に取っては小泉政権続投を期待したい。郵政民営化法案は是非とも通して欲しい法案だ。これが株式市場に取って好材料となるのは明らかであり、特に海外投資家の多くはそれを期待している。」
H「郵貯や簡保の資金だな。」

K「ああ。郵政民営化となればその資金が株式市場にも多く流れてくる事になる。それだけではない。郵政民営化により国の財政も大きく改革が進む期待が出来る。」
H「ブッシュ政権との外交問題もあるし、やはり小泉政権続投が望ましいと言えるのかもな。少なくても海外投資家の多くはそう考えているだろう。」
K「ああ。今回の問題で小泉政権の改革を評価する見方が拡がっている。今までは自民党政権ではダメだと思っていた人も多いだろうが、今回は自民党に入れると言う人も多いんじゃないか・・。」
H「アク抜けした自民党に入れたいと言う人も確かに多いようだ。ただ今回の造反組みが民主党と手を結ぶと自民公明党は厳しいよな。」
K「それはないと思うぞ。民主党は単独政権を目指すだろうし、造反組も民主党と組むとは思えない。もし組むとなると国民も愛想を尽かすぞ。まあどう転ぶか解らないが、これはこれで楽しくなりそうだな。」


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8月8日(月)

H「やはり郵政民営化法案は否決された。これで解散総選挙が濃厚になったわけだが、今日の株価動向を見る限り織り込んだ感じだな。」
K「ああ。しかし随分と荒い展開だな。日経平均は一時150円位マイナスだったが、プラスまで戻してしまった。新興市場も同様に寄安と言える展開で、大引けにはマザーズ指数もヘラクレス指数もプラスまで戻した。」
H「今日の朝は絶好の買い場だった訳か・・・。」
K「まあ個人投資家の追証絡みの投げも出ていたようだし、週末さんざんテレビで郵政民営化法案の行方をやっており、やはり今日売っておこうと言う動きが強かったんだろう。まあ先週末の米国市場が続落した事も影響しているようだ。」
H「ただ今日の寄り前の外資注文状況も買い越しだった。これで寄り前の外資注文状況は10日連続の買い越しだが、今日の動きを見る限り、解散総選挙になっても外資が売ってくると言う展開はなさそうだが・・。」

K「そうだな。郵政民営化法案採決が始まって、否決がほぼ決定と言う事が採決途中で解ったが、その瞬間にはやはり売られた。しかしその後は待ってましたとばかりに買い向かった所が多い。恐らく外資だろう。大引けにかけどんどん戻し、結局日経平均はプラス圏まで戻してしまった。」
H「まあもちろんこのまま上げていくとは思わないが、取りあえずは下値が決まった感じだな。」

K「そうだな。まだまだ上値で掴まってしまっている投資家も多く上値は重い動きが続く可能性高いが、更に下値を割り込んで来るとも思えない。」
H「まあ選挙の行方などまだまだ不透明強く、今後どうなっていくか難しい状況だが、取りあえず日本企業のファンダメンタルズは悪くなっている訳じゃないからな。政局の混乱を嫌うという事もあるだろうが・・。」

K「そうだな。海外投資家は基本的に政局の混乱を嫌うと言うからな。しかしそれを嫌う外資は既に売ってきているんじゃないか。だからここまで下げたとも言えるだろう。日本企業のファンダメンタルズから中長期的に日本株を買いに来ていた海外投資家は、ここぞとばかりに買ってくると見る向きも多い。現に解散総選挙となっても日本株を買うと言う外資も多く、心配はないと思うけどな・・。」

H「まあ上値を追う動きがないとしても、売られれば買ってくるという展開だろうな。」
K「そうだな。今週はまだまだ大事なイベントも控えている。機械受注にGDP、米国ではFOMCと・・。それ次第でスタンスを決めるという投資家も多いため、まだまだ安心するのは早いんだが、機械受注もGDPも良いと言う見方が多く、やはり心配はなさそうなんだが。」

H「米国のFOMCも利上げは織り込んでいるが、利上げを今後も継続していくかどうかと言う面で注目されているよな。」
K「ああ。堅調な雇用統計から利上げ継続との懸念が拡がって先週末の米国市場は売られた。まあ米国市場はそれを織り込みに来る可能性もあるが、それでも米国市場は底堅いと見る向きが多い。」

H「新興市場も取りあえず底打ちしたと言えるのかね。」
K「そうだな。今日の安値が目処だろう。個人投資家の追い絡みの売りも今朝である程度出尽くしたとも言える。リバウンド場面で、もう一下げあるかも知れないが、今日の下値は割らない可能性が高いだろう。ただ上値も限定的だぞ。」
H「まあそれはそうだろうな。このままV字で元の株価に戻すとは到底思えない。銘柄によってはいずれは戻していくだろうが、やはり日柄は必要だろうな。」
K「ああ。個人投資家は結構後遺症が残るからな。暫くはビクビク的な相場になるんじゃないか。そう言う事も考えればいきなり地合が好転していくと言うわけには行かないだろうな。」
H「となればある程度リバウンドをした後は、揉み合い相場になるという展開だろうな。揉み合いながらジワジワと戻していくという展開かな。」
K「まあそう見ておくのがいいだろうな。お盆休みも近い事だし、暫くは短気物色中心の地合がまた来ると言うわけだ。解散総選挙となりそうだし、仕手系株がまた派手に動き出す地合が来そうだな。」
H「政治銘柄も今後続々出てくる可能性あるわな。どうせやるならば派手にやって欲しいモンだな。」


カルメンチャキ |MAIL

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