観能雑感
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15日夜、藤田大五郎師の訃報が届いた。とうとうその日が来てしまったのかと、悄然とした。 舞台に立たなくなって1年と3ヶ月。正に笛を吹くために生きた人だった。 笛を吹いていた期間は80年余りのこの人の演奏に触れたのは、最晩年の数年間であり、 時間だけを考えるといかにも短いが、生涯忘れえぬ、濃密で幸福な時間だった。 とりわけ2006年の宝生流秋の別会、近藤乾之助師の『姨捨』は、舞台から受けた喜びの中で 1、2を争うものだった。大五郎師の笛を最後に聴いたのは、同年12月の宝生流月並能、 三川泉師の『葛城』である。 物語の流れ、主人公の心情、その時の季節、空気、月光、風・・・全てを内包して吹き抜ける、 そんなアシライを吹ける人はもう今後現れることはないだろう。 一笛方として前人未踏の境地にかくも長い間立ち続けた事に敬意を表しつつ、 衷心より哀悼の意を表したい。 あなたが送って来られた人生全てが凝縮された笛の音に接する事ができて、私は幸せでした。 これからは何の重荷も感ずることなく、思うままにお吹き下さい。 ありがとうございました。
こぎつね丸
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