観能雑感
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2002年04月27日(土) |
ユネスコ世界無形遺産宣言1周年記念 特別企画公演 3日目 |
ユネスコ世界無形遺産宣言1周年記念 特別企画公演 3日目 PM 1:00〜 国立能楽堂
能楽ファンには嬉しい企画。異なる流儀を同時に観られるのは、国立主催の公演ならでは。3日目を選んだのは、喜多流の友枝昭世師と宝生流の近藤乾之助師を同時に観られる得がたい機会だから。しかし、それは結局実現しなかったのだが…。 言及しておくと、ユネスコの認定は喜ばしくはあるが、「遺産」という部分が引っかかる。能楽は現在でも息づいているのだから。 随分時間が経ってからの記録となってしまったが、理由はあるのだ…。
能 「白田村」 (喜多流) シテ 友枝 昭世 ワキ 和泉 昭太朗 ワキツレ 藤野 藤作、荒井 吉治 アイ 山本 泰太郎 笛 藤田 六郎兵衛(藤) 小鼓 鵜澤 速雄(大) 大鼓 亀井 広忠(葛)
後シテの装束や頭に白を用いる小書を白式というが、喜多流の本曲は曲名まで変わってしまう重い扱い。 友枝師の舞台を実際に観るのは初めてなので、大変楽しみにしていた。TVの映像で驚くべき身体技術を目にしていたので、否が応にも期待は高まる。 ワキは高安流では東京で唯一舞台を勤める和泉師。ワキツレの二人はツレしか勤められないのだろうと思われる。下懸宝生流の充実振りと比すと寂しい限り。 藤田師、鵜澤師も舞台で目にするのは初めて。藤田師、音は美しいのだが、それ以上のものを感じられない。鵜澤師、しばらく体調不良で舞台を休んでいようだが、復調されて何より。掛け声、音と自分の好みにしっくりくる。 シテ登場。「何てキレイなハコビ!!!」と思った直後、急激な眠気に襲われる。風邪気味で熱っぽかったところに身内の不幸で慌ただしく過ごしていた事、眠くなる薬を飲んでいた事等、悪条件が重なったせいか、今だかつて経験した事のない、荒し難い眠気に捕われる。カフェイン剤も全く効かない。退屈しているわけでは全然ないのだが、どうしようもなかった。退屈して眠気を感じる事はなく、疲れていると、誘発されるα波に逆らえないらしい。というわけで、感想をまとめる気になれず、時間だけが経過してしまった。 そんな中で印象に残ったのは、役者本人の肉体というものを、意識しなかった事。前シテは謎めいた美少年そのものであり、後シテは神懸かった武将以外の何者でもなかった。 後シテは白頭だと思っていたが、違った。曲名からそうであろうと思い込んでいたので、やや意外。 それにしても惜しかった…。あの眠気には勝てなかった。無念。
狂言 「千鳥」 大蔵流 シテ 山本 東次郎 アド(主) 山本 則直 アド (酒屋) 山本 則俊
山本家の三兄弟が揃った舞台を観るのはこれが初めて。期待に違わぬ見事な舞台だった。 ツケが溜まった酒屋に主の命で使いに行く太朗冠者。今日の支払い分はあるからと油断させておいて、何とか酒樽を持って帰ろうとする。話好きの酒屋は面白い話をしてくれたら、代金はなくとも酒を持っていって良いと言う。祭り見物の話にすっかり引きこまれ、太朗冠者は見事酒樽を持って帰る。 展開が早く、芸づくしで厭きさせない。唄いながら山鉾を引く様や、流鏑馬を真似る様がとにかく楽しい。型、声、セリフのリズム、全てが素晴らしく、気が付くと笑っていた。特に最後、馬に乗る真似をしながら酒樽に見立てた鬘置けに手を伸ばし鮮やかにすくい上げた場面は、今も脳裡に焼き付いている。まさに眼福。
能 「西行桜」 杖之型 (宝生流) シテ 近藤乾之助(宝生 英照師代演) ワキ 宝生 閑 ワキツレ 工藤和哉、坂苗 融、大日方 寛、高井 松男 アイ 大島 寛二 笛 一噌 庸二(噌) 小鼓 横山 貴俊(幸) 大鼓 亀井 忠雄(葛) 太鼓 三島 元太郎(金)
というわけで、友枝、近藤両氏の夢の競演ならず。事前に今回は無理との噂は聞いていたが、先日行われた定例会では地頭を務められていたので、もしやと思ったがやはり駄目だった。残念。 相変わらず眠気と闘っていたので、観る側の状態もベストとは程多いのは事実だが、見るべきものもあまりなかったように思う。会場には白けた雰囲気が充満しており、来月の公演のチラシを熱心に見る人もいた。終了後隣の観客は「(最初のものに比べて)これはあまり良くなかったね」と話していた。同様の事を口にする人多し。私は目撃しなかったのだが、「あれは何なのだ」と職員にくってかかる人もいたとか。友枝師、山本兄弟の後では見劣りするのも否めないか。宝生師には精進してもらいたいと思っていた。しかし数ヶ月後の週刊誌記事では、稽古どころではない様子。宗家としての務めを果たしつつ、己の芸を磨くのは大変だろうとは思うのだが、どちらも果たせないのは問題だろう。 亀井忠雄師、息子の広忠師が時に耳障りに感じられるのに対し、いくら打ってもうるさくない。数10年後には、彼もこの域に達する事を願う。
宝生会 月並能 宝生能楽堂 PM1:00〜
「右近」 シテ 佐野 萌 ツレ 當山淳司 波吉雅之 ワキ 宝生 欣哉 ツレ 笛 藤田朝太郎 小鼓 住駒昭弘 大鼓 柿原光博 太鼓 大江照夫 アイ 竹山悠樹
2回目の宝生会である。満席とまではいかないが、まあまあの入りではないだろうか。やはり見所の年齢相は高い。 欣哉師、橋掛りに現れた時点で既に目を引く。派手な容貌では決してないが、確かな存在感がある。なぜだろうかと考えてみたが、基本の構えとハコビがしっかりしているのだ。ツレと比べてみると良く解る。謡は当然良い。少し風邪気味なのか、若干声が低いと思った。それでも実に良く聴かせる。下居しているときに、何度か袖を翻していたので、座りなおしたのだろうが、まるでその時にそうする事が定められていたかのように自然。ワキはこうでなくては。 シテ、ツレと共に登場。囃子と一緒だと謡がほとんど聞き取れない。音量が絶対的に不足しているのだ。本を見ていない限り、あるいは謡を完全に暗記していない限り、詞章の内容は解らないであろう。事前に詞章を読んで行ったが、かなり苦しかった。 アイ、若い所為か、とりあえず決められた事をやるのに精一杯といった感じ。不快ではないが。 中入りして後して登場。黒垂に天冠、舞衣(だと思う)の女神が中ノ舞を舞うのだが、これが美しい。目が離せなかった。囃子も良かったのだと思う。住駒師、音もコミも良かった。成る程、東京では一番というのが解る。藤田師、音はきれいだが外面的。能の囃子は訴えかけが必要なのだと最近気付く。脇能をこんなに楽しめるとは、予想外だった。なんとなく宝生流の地謡の魅力がやや解りかけてきたように思う。健康状態が気掛かりな近藤乾之助師、地頭を滞りなく勤めていた。27日、大丈夫だと良いが、とにかく大事にしてもらいたい。
狂言「清水」 野村万之介 高野和憲 万之介師が太郎冠者の清水。可もなく不可もなく…だった。見所は一部休憩モード。どうどうとおしゃべりする高齢のご婦人方。外でやってくれと思う。
「小塩」 シテ 高橋 章 ワキ 工藤和哉 ツレ 笛 藤田次郎 小鼓 宮増純三 大鼓 大倉正之助 太鼓 小寺佐七 アイ 高野和憲
眠かった。不覚だが、睡魔に襲われてしまった。眠ってはいないが、うとうとしてしまった。脇能よりも四番目物のこちらのほうが退屈だったとはこれいかに。シテに覇気がなかったせいだろうか。囃子もいただけなかった。指皮はめてもいいと思うのだが、そういう問題ではないのだろうか。 アイ、萬斎師に似た抑揚。稽古は彼に付けてもらっているのだろうか。言葉尻がくどい。頂けない。 先の曲以上にシテの謡が聞こえない。やはり詞章は前もって読んでおいたが、暗記していないと聞き取る事は不可能であろう。言葉がわからないというよりも、音量が足りないのだ。謡に張りがないように感じた。序ノ舞も楽しめなかった。残念。
「鞍馬天狗」 白頭 シテ 今井泰男 ワキ 鏑木岑夫 ツレ 牛若 金井賢郎 アイ 高野和憲
今井師、堂々とした佇まい。重厚な雰囲気は宝生役者ならではなのか。鏑木師、ハコビが既に能のそれではないように感じた。言葉にも張りがない。橋掛りにずらりとならんだ子方は華やいだ雰囲気を醸し出す。すぐいなくなってしまうのだけれど。1名を覗いて。その1名、牛若、なかなか健闘していた。小学校高学年くらいだろうか。実に行儀良く舞台に収まっていた。今井師、やや膝が悪そうだが、言わなければ気付かない程度。80歳を超えておられるはず。目が離せない存在感。牛若に対する思いは父としての愛情に近いのだろうか。謡にはそうでないことがはっきり現れてはいるけれど。 中入り後、白頭に白いベシミ(?)で、大天狗登場。かっこいいのだ、これが。重厚で堂々としていて。持っていた杖を落したのが丁度受取ろうとして前に出てきた後見の宗家がいた場所。恐るべし。ちなみにもう一人の後見、男前で驚く。うーむ。シテ方にはもったいないな。囃子方にならんかね、キミ。 床几に腰掛けての所作、舞働きとも、危な気なく至極立派。ややスピード不足かとは思ったけれど、気にはならなかった。取り縋る牛若を励ますところなど、胸に迫って来た。こういう所に強い訴えかけが現れるのが、能の魅力なのだと思う。羽団扇であたりを指して、どこに居てもずっと見守っているから…と去って行く大天狗。さわやかな幕切れである。今井師、見事だった。いい舞台を見せてもらった。 本日は比較的隣の客からの被害が少なかった。まあ、パンフをガサガサいわせるとか、飴の包み紙をむく音がするとか、その程度である。いつもこの程度ですむなら嬉しいのだが。
こぎつね丸
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