浅い眠りで見た夢に、なにも心配なかった頃の家族が出てきた。東京に帰るのがイヤになるほどの安楽な実家の空気。時刻表を見ながら父と交わした他愛のない会話。覚醒しかかっていたはずが夢にとどまりたかったのだろう、話している相手が(現実では)すでに他界していることに気付かないでいた。
もう二度と味わうことのない、手にすることのない幸福。まったく陳腐な話だが、失ってはじめて理解できる。それがどんなにかけがえのないものであったのか。故郷の町では、7月の初旬に夏祭りがある。町が存続する限り変わりなく祭りは執り行われても、それを楽しみに帰省することはしばらく(あるいは永遠に)ないはずだ。
--- 苦難に直面すると居心地の良い穴倉に逃げ込もうとする。弱い精神が見せた幻影。
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