今日の日経を題材に法律問題をコメント

2015年07月31日(金) 厚木基地 東京高裁が自衛隊機の夜間早朝の飛行差し止め判決

 日経(H27.7.31)社会面トップで、米軍と海上自衛隊が共同使用する厚木基地の騒音被害を巡り、東京高裁は一審に続いて、自衛隊機の夜間早朝の飛行差し止めを命じたと報じていた。


 これまでも自衛隊は夜間の飛行を自主規制していたが、裁判所が差し止めを命じたとなると重みが違う。


 地裁レベルでの飛行差止めであれば分かるが、高裁レベルでよく飛行差止めを認めたなあと思う。



2015年07月29日(水) 申立代理人弁護士の立場はない

 日経(H27.7.28)夕刊で、「自毛植毛」を手掛ける医療法人「萌永会」が民事再生中に財産を隠したとして、東京地検特捜部は、元実質経営者ら3人と萌永会を民事再生法違反(詐欺再生)罪で追起訴したと報じていた。


 金額は約9億円であり、これを別の口座に移し替えたものである。


 民事再生手続きは、原則として、代表取締役が退任することなく再建を図る手続きである。


 したがって、会社更生や破産と異なり、不正を働く機会がないとはいえない。


 そうはいっても、9億円もの財産を別の口座に移し替えれば分からないはずがない。


 このようなときに恥ずかしいのは、申立代理人の弁護士である。


 たとえ知らなかったとしても、立場はまったくないだろう。



2015年07月28日(火) 保護観察中の少年を少年鑑別所が非常勤職員として採用

 日経(H27.7.28)夕刊で、法務省は、保護観察中の少年を全国10の少年鑑別所で非常勤職員として雇用すると発表したという記事が載っていた。


 雇用期間は6カ月以内で、しかも週20時間が上限であるから、短期アルバイトのイメージであり、そこ自体が就職先になるわけではない。


 ただ、少年らは期間中に就職活動を進め、新たな就職先を探すことができる。


 保護観察中の少年の再非行・再犯率は有職者が14%だったのに対し、無職者は60%と4倍の差があり、職の確保が再犯防止のカギとなっていることから、小さな一歩ではあるが、有意義な制度であると思う。



2015年07月27日(月) 学生が、内定を原則として自由に辞退できる理由

 日経(H27.7.27)法務面で、就職活動における他社の辞退強要(終われハラスメント)について書いていた。


 そのなかで内定の性質についても書いており、内定は企業と学生の間の労働契約の一種であり、企業からの内定取り消しにはやむを得ない理由が必要であるが、学生側は、内定の辞退を自由にできるとしていた。


 それは正しいのだが、記事では、学生側が内定を辞退できる理由として、「学生には憲法上の職業選択の自由があるから」としていた。


 しかし、この説明は誤りである。


 そもそも、企業と学生間には憲法の規定は直接は適用されない(判例・通説)。


 学生が内定を自由に辞退できる理由は、民法627条1項で「当事者はいつでも解約の申し入れをすることができる」としているからである。
(但し、企業側については民法が労働法的に修正され、一方的解約ができないのである。)



2015年07月23日(木) 参議院の合区について

 日経(H27.7.23)政治面で、参院選挙区の「1票の格差」を縮める選挙制度改革で、隣り合う人口の少ない県をまとめて広域の選挙区を2つつくる「合区」を含む公職選挙法改正案が、明日にでも参院を通過という記事が載っていた。


 改正案では、鳥取と島根、徳島と高知をそれぞれ1つの選挙区とすることになっている。


 国会議員は「全国民を代表する」(憲法43条1項)であるから、県をもって選挙区とする必然性はない。


 したがって、「一票の格差」を是正するために合区することに問題ない。


 ただ、合区するお互いの県はそれぞれ文化が違うし、一体感も異なるからその県に住んでいる人たちにとっては相当抵抗感があると思う。


 そもそも、中央と地方の格差は大きいものがあり、地方の声を反映させるために参議院に都道府県代表的機能を付与することは間違いではないと思う。


 そして、参議院に都道府県代表の機能を付与するのであれば、全国民を完全には代表していないのであるから、その権能は、衆議院に比べてもっと弱くするべきであろう。


 そのためには憲法改正が必要であるが。



2015年07月22日(水) 第三者委員会は「第三者」なのか

日経(H27.7.22)1面トップで、東芝は、不適切会計問題を受けて歴代3社長が辞任するなど経営体制の刷新を発表したと報じていた。


 この問題では、収益目標の達成を求めるトップの強い圧力により、インフラ建設やパソコン、テレビなど多くの事業分野で不正な会計操作がなされ、その額が7年間で1562億円という巨額に及び、経営責任が問題になっていた。


 トツプの辞任は当然であるにせよ、東芝は、一貫して「不適切会計」という言葉を使っていることが気になる。


 おそらく、「不正」とか「粉飾決算」と言うと、上場廃止が問題になってくるし、取締役に対する株主代表訴訟、株価下落による損害賠償請求などの懸念があるからであろう。


 問題なのは、第三者委員会までもが「不適切会計」という用語を使っていることである。


 第三者委員の記者会見でも、この点を突かれ、記者から「報告書では『不適切』としているが『不正』ではないのか」という質問が飛んでいる。


 それに対し、第三者委員は、「会計的な虚偽表示は、間違いという『誤謬』と経営者や社員が意図的に間違えた『不正』に分かれる。ただ、不適切という言葉は実務でも多く使われている」と答えている。


 しかしこれでは、会計用語としては「誤謬」と「不正」があるのに、そのいずれも使わず、「不適切」という言葉を使った理由が説明できていない。


 そもそも、第三者委員の報告書では、「組織的関与」「主要分野のほぼすべて」「監査法人への事実の隠ぺいなど巧妙な手口」などと指摘しており、「不正」であることは明らかであり、それをわざわざ「不適切」というのは、何らかの意図があると考えざるを得ない。


 すなわち、第三者委員会は、上場廃止のおそれや株価下落による損害賠償請求という事態を懸念して、あえて「不適切会計」という言葉を使ったと思われるのであり、果たして「第三者委員会」は「第三者」といえるのか疑問である。



2015年07月17日(金) 裁判官が「共犯者について話せば量刑を考慮する」と言うのは問題か

 日経(H27.7.17)社会面で、詐欺罪に問われた男の事件で、福岡地裁小倉支部の裁判官が、公判で、「共犯者について話せば、量刑を考慮する」と説得をしたという記事が載っていた。


 記事では、「国会で現在、導入の是非をめぐり審議が続いている「司法取引」を先取りしたような形であり、議論を呼びそうだ。」としていた。


 しかし、そのような説得は司法取引ともいえず、問題はないのではないかと思う。


 記事の事件は組織的犯行であったことから、共犯者のことは重要な捜査情報であるが、それを話さないということでは、その被告人が十分反省しているとはいえず、共犯者をかばっていることから、再犯の恐れもあるとみなされても仕方ない。


 逆に、共犯者について話すことは、反省していることの表れであるし、真相解明にも貢献している。


 したがって、そのような事情は量刑に考慮されて当然である。


 実際、被告人は、その後共犯者について詳細に捜査機関に語ったそうである。


 「司法取引」の場合には、本来捜査すべきことまで握りつぶすのではないかという疑念があり、司法取引の公正さを検証することが難しい面がある。


 しかし、記事になった事件では公開の法廷で、被告人を説得しただけであり、「司法取引」とは異なるものであって、何ら問題はないと思う。



2015年07月16日(木) インターネットオークション運営会社の盗品売買防止義務

 日経(H27.7.16)夕刊で、私立大学生の男が万引きした書籍約1700点をインターネットオークションに出品していた事件に絡み、警視庁多摩中央署は、ヤフーオークションを運営するヤフーに盗品売買への対策を強化するよう要請したという記事が載っていた。


 インターネットオークションの運営会社にどこまで盗品売買を防止する義務があるかは、営業の自由との関係で難しい問題である。


 ただ、インターネットオークションによって、犯罪者が盗品を売り捌く機会が増えたことは間違いない。


 以前、顧問をしている会社の従業員が、自分の会社の商品をせっせと盗んでは、インターネットオークションで売り捌いていたことがあったが、インターネットオークションがなければ、売ることができないのであるから、商品を盗むこともなかったであろう。


 つまり、結果的にせよ、インターネットオークションは犯罪の機会を提供しているといえる。


 そうであれば、社会的責任という見地からは、盗品売買を防止する義務があるといえるのではないだろうか。



2015年07月15日(水) 取り調べ状況のイメージ写真

 日経(H27.7.15)社会面で、警察が取り調べの録音・録画(可視化)の試行を始めて6年が経過し、容疑者とのやりとりを記録されることへの抵抗感が薄れ、逆にメリットを生かす方法を考える動きが出始めたという記事が載っていた。


 その記事の横に取り調べの際の録音・録画のイメージ写真が載っていた。


 その写真では、取調官と補助者は背筋を伸ばしてピシッとしているのに対し、容疑者は、腕を組んでふんぞり返り、取調官を睨んでいる。


 写真の説明には「警察庁提供」とあった。


 法的に問題があるわけではない。


 ただ、実際の取り調べの状況とは著しく異なっているし、無罪推定がなされている容疑者について、そこまで悪い印象を与える必要はないのではないかと思う。



2015年07月14日(火) 佐世保女子生徒殺人事件 少女を医療少年院に送致

 日経(H27.7.14)社会面で、佐世保市で高校1年の女子生徒が殺害された事件で、長崎家裁は、同級生の少女を医療少年院に送致する決定したと報じていた。


 この少女は、小学5年で猫を殺し始めるなどの問題行動を起こし、中学生になると殺人欲求を抱き、父親殺害に失敗している。


 さらに、少年法では16歳以上の殺人は原則として検察官送致(逆送)としているが、少女は16歳になる数日前に殺人を実行しており、非常に悪質である。


 遺族としては、少女を刑罰をもって厳しく裁いて欲しいであろうし、医療少年院に送致した家裁の決定には世間からも批判が多いと思う。


 刑罰は応報であると考えると、犯罪者の属性はあまり考慮せず、刑罰をもって臨むべきという方向になる。


 他方、刑というのは教育であると考えると、犯罪者の矯正に重きが置かれる。


 実際は、この応報刑と教育刑のどちらか一方だけということはなく両側面が考慮されるが、一般に、少年の場合には立ち直る可能性が高いので(可塑性があると言われる)、教育刑が重視されている。


 この少女についていえば、裁判所は、「刑罰による抑止効果はなく、刑務所ではかえって症状悪化の可能性がある。」としたうえで、高い知能、共感性の欠如、興味を持つと徹底的に追求し、決めたことを完遂するという少女の特性を考慮して、特性に応じた矯正教育と医療支援が可能な医療少年院を選択した。


 応報という見地からは納得できないかも知れないが、教育刑という見地からすれば、妥当な決定ではないかと思う。



2015年07月10日(金) トヨタ常務役員の釈放 ケネディ大使が「積極的役割」を果たす

 日経(H27.7.10)社会面で、麻薬取締法違反容疑で逮捕され、起訴猶予となったトヨタ自動車のジュリー・ハンプ元常務役員の釈放をめぐり、ケネディ駐日米大使が「積極的な役割」を果たしたと報じたという記事が載っていた。


 在外の自国人が逮捕された場合、その保護のために在外公館が動くことは珍しいことではない。


 通常は、領事館の業務であろうが、大使が動いてもおかしくはないと思う。


 ただ、それが常務役員の起訴猶予にどれだけ寄与したかは不明である。


 起訴猶予になったのは、違法薬物を隠すようにして送ったのが父親であり、役員自身でなかったことが大きかったのではないだろうか。


 その意味では、ケネディ大使は「積極的な役割」は果たしたにしても、それによる影響はほとんどなかったのではないかと思う。



2015年07月09日(木) 東洋ゴム工業の免震ゴム性能データ偽装問題

 日経(H27.7.2)2面で、東洋ゴム工業の免震ゴムの性能データ偽装問題について書いていた。


 東洋ゴム工業は2007年にも断熱パネルの偽装問題を引き起こしており、その際に、経営のチェック機能を高めるためとして、社外取締役や社外出身の監査役を計6人まで増やしていた。


 しかし、その効果はなかったわけである。


 ただ、それは当然であろう。性能データの偽装があるかどうかなど、社外役員が分かるはずがないからである。


 これは、社外取締役を選任すれば問題が解決するわけではないという好個の例といえる。



2015年07月08日(水) 北海道豊浦町の事件 遺族側逆転敗訴

 日経(H27.7.8)社会面で、北海道豊浦町で、暴風雪に車が埋まって男性が死亡した事故をめぐる訴訟で、札幌高裁は、道路管理者の北海道に落ち度はなかったと判断し、北海道に対し約7700万円を損害賠償するよう命じた地裁判決を取り消したと報じていた。


 高裁判決では、「危険を予測できたのに通行規制などを怠っていれば違法であり、賠償責任を負う」としつつ、「暴風雪に備えて道が現場に設置していた防雪柵に問題はなかった。過去の観測記録でも例がない特異な暴風雪がごく局地的に起きたものである。」として、北海道に過失がないとした。


 高裁の事実認定を前提にする限り、常識的な判断かなとは思うが、遺族側からすれば、一審で勝訴しているだけに、余計つらい判決といえる。



2015年07月07日(火) 「ドローンを飛ばす」と言っただけで威力業務妨害罪が成立する?

 日経(H27.7.7)社会面で、小型無人機「ドローン」を飛ばすとほのめかし、浅草神社の三社祭の運営を妨害したとして、威力業務妨害容疑で送致された少年について、横浜家裁は、少年審判が終了したことを明らかにしたと報じていた。


 処分結果は公表していないが、保護観察処分になったようである。


 しかし、ドローンを飛ばすとほのめかした時点では、三社祭り側ではドローン禁止を告知していなかった。


 そのような場合に、「ドローンを飛ばす」と言っただけで、果たして威力業務妨害罪が成立するのだろうか。


 少年側は非行事実を争わなかったようであるが、争っていれば、どのような結論になったかは分からないと思う。



2015年07月03日(金) また成年後見人の弁護士が業務上横領

 日経(H27.7.3)社会面で、成年年後見人として管理していた認知症の女性の銀行口座から約4200万円を着服したとして、元弁護士渡部直樹容疑者が業務上横領容疑で逮捕されたという記事が載っていた。


 「またか」という感じだが、この元弁護士は、管理していた女性の自宅まで売却していたようである。


 不動産の売却では、仲介業者に依頼して、書類を整えるなど、売買契約を締結するまでに様々な手続きが必要となる。


 しかも、自宅の売却の場合には、裁判所の許可が法律上の要件となっている。


 それゆえ、預金を下ろす手続きよりも心理的ハードルは高いといえる。


 その高いハードルを乗り越えて犯罪を行ったのであり、厳しい処罰がなされるべきである。



2015年07月02日(木) 犯罪歴のある人の削除要求が裁判所で認められる

 日経(H27.7.2)夕刊で、グーグルの検索結果に過去の逮捕報道が表示されるのは人格権の侵害だとして、表示の削除を求めていた仮処分の申し立てに対し、さいたま地裁は削除を命じる決定を出していたという記事が載っていた。


 訴えていた男性は、18歳未満の女性に金銭を払ってわいせつな行為をしたとして、児童買春・ポルノ禁止法違反の罪で罰金50万円の略式命令を受けたが、逮捕から約3年が経過しても、名前と住所で検索すると、当時の記事が表示されていた。


 そのため、「人格権(更生を妨げられない権利)を侵害する」と主張して、検索結果の表示の削除を求めていたものである。


 検索サイトの有用性は決して否定できない。


 しかし、一般的に言って、検索サイトの表示が、過去に逮捕歴のある人の更生に大きな障害となっていることは間違いない。


 それゆえ、今後も、削除を求める申し立ては増えるだろうと思われる。



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