今日の日経を題材に法律問題をコメント

2015年01月30日(金) 0円か351億円か

 日経(H27.1.30)社会面で、防衛省が戦闘ヘリコプターの発注をキャンセルしたため初期投資費用が回収できなくなったとして、富士重工業が国に351億円の賠償を求めた訴訟で、東京高裁は、請求を棄却した一審判決を取り消し、国の全額の支払いを命じたと報じていた。


 0円か351億円かであるから、ものすごい違いである。


 ただ、東京高裁は「国は初期費用を払うと信頼させ、信義則上の義務に反した」としているようである。


 これは、読み方によっては「信頼利益」を害しただけのように読める。


 そうであれば損害額は大幅に減額されるはずであるが、そうならずに、請求の全額が認められているのがよく分からない。


 いずれにせよ、巨大な金額だけに、最高裁において和解で解決すると思われる。(最高裁でも和解が行われることはある)



2015年01月28日(水) GPS捜査は、「プライバシー侵害は大きくない」?

 日経でなく、朝日(H27.1.28)社会面で、大阪府警が容疑者らの行動を確認するためにGPSの発信器を車両に取り付けた捜査方法について、大阪地裁は「プライバシー侵害は大きくなかった」として適法と判断したと報じていた。


 裁判所は、「捜査員は尾行のための補助手段としてGPSを使い、位置情報も記録として蓄積していないからプライバシー侵害の程度は大きくなく、重大な違法はなかった」として証拠を採用した。


 GPSを使った捜査方法は、警察庁が2006年に内規で基準を定め、各地の警察が運用しており、これまでも問題になったことはあるが、裁判所が判断を示したのは初めてのようである。


 車両などで広範囲に移動する容疑者に、尾行のみで対応することは難しいであろうから、GPSを使った捜査は有用であり、その必要性は大きい。


 しかし、「ライバシー侵害の程度は大きくない」と言えるだろうか。


 自分の車両に無断で取り付けられて、自分がどこに移動したかを警察が把握することになるのだから、プライバシー侵害は大きいと思う。


 そうであれば、通信傍受と同じように、GPS捜査は、裁判所の令状に基づいて行うべきであろう。



2015年01月26日(月) 警察官が、容疑者に高級腕時計の修理代等を請求

 日経(H27.1.26)社会面で 捜査中に制止を振り切った乗用車に引きずられ、高級腕時計が壊れたなどとして、埼玉県警の警察官が乗用車の男性に、時計の修理費約70万円と慰謝料など計約360万円の損害賠償を求める訴訟をさいたま地裁に起こしたという記事が載っていた。


 たとえ捜査中でも、容疑者に過失があり、それにより捜査官に損害が生じたのであれば、損害賠償を支払う義務は生じる。


 ただ、慰謝料請求までは難しいであろうし、また、捜査中に高級腕時計をする必要があったのか疑問であり、高級時計の修理代は通常生じる損害とはいえないのではないだろうか。


 そうすると、普通の時計の修理代程度しか認容されないかもしれない。


 



2015年01月23日(金) 消費者契約法の影響は相当大きい

 日経(H27.1.23)社会面で、最高裁は、将来の葬儀や結婚式に備えて、費用を分割払いで積み立てる契約を中途解約すると手数料を取る条項を「無効」とした大阪高裁判決について、双方の上告を受理しない決定をしたと報じていた。


 これにより、解約手数料の条項は無効という判断が確定することになる。


 冠婚葬祭の全国200社以上が同じ約款をモデルに手数料条項を定めていることから、解約手数料を取るのは当然という風潮があったのだろう。


 ところが、消費者契約法の制定により、損害を上回る額の解約手数料を取るのは違法だという判断が定着してきた。


 消費者契約法の影響は相当大きいといえる。



2015年01月22日(木) 大阪市のアンケート調査について損害賠償命令

 日経(H27.1.22)社会面で、大阪市の橋下徹市長が市職員に回答を義務付けた組合活動に関する記名式アンケートを巡り、職員組合と職員が市などに損害賠償を求めた訴訟で、大阪地裁は、計39万円の支払いを命じたと報じていた。


 質問の一部が、憲法上のプライバシー権や団結権を侵害していると判断したようである。。


 ただ、このアンケートの回答は未開封のまま廃棄されている。


 そうすると、アンケートは違法であるが、職員らに損害は生じていないとして、請求を棄却することもあり得た。


 これは、原告、被告の双方を立てる巧妙な判決である。


 そのような「巧妙な判決」にしなかったのは、アンケートの内容によほど問題があったということなのだろう。



2015年01月20日(火) パスワードを奪われた場合、過失責任を問われることがあり得る

 日経(H27.1.8)株式欄の「一目均衡」というコラムで、サイバー攻撃による株価リスクについて書いていた。


 そのコラムによれば、米ウォール街では、ハッカー集団が、上場会社の役員や弁護士らの電子メールをのぞき見て、公表前のM&A情報などを手に入れて、株式の不正売買をしていた疑惑も浮上しているそうである。


 手口は、社内関係者などを装って役員らに電子メールを送り偽のログイン画面に誘導して、メール閲覧に必要なパスワードなどを奪うものである。


 もしそのような手口でパスワードが奪われて不正売買が行われ、その結果、株主などに損害が生じた場合、「うっかりしてました。」では済まない。


 パスワードを奪われた役員や弁護士に過失責任が認められ、損害賠償義務を負う可能性がある。


 会社のインサイダー情報に関与する人たちは、相当な注意が必要である。



2015年01月19日(月) 動画撮影目的でのコンビニ入店は、建造物侵入になるのか

 日経(H27.1.19)社会面で、スーパーでスナック菓子に爪楊枝を突き刺す映像が「ユーチューブ」に投稿された事件で、警視庁少年事件課は、動画を撮影する目的でコンビニに入ったとして、無職の少年を建造物侵入容疑で逮捕したと報じていた。


 逮捕容疑は、スーパーでスナック菓子につまようじを突き刺した行為ではなく、動画を撮影する目的でコンビニに入った行為である。


 しかし、動画を撮影する目的でコンビニに入ることが建造物侵入になるのだろうか。


 確かに、最高裁は、建造物侵入の意義について、「管理者の意思に反する立ち入り」としている。


 それゆえ、たとえスーパーのように一般に公開された場所であっても、スナック菓子に爪楊枝を突き刺す目的での立ち入りであれば、スーパー側の意思に反するであろうから、建造物侵入罪が成立する可能性が高い。


 しかし、動画を撮影することがコンビニ側の意思に反するとは思えないから、そのような目的でのコンビニへの入店は、建造物侵入に該当しないのではないだろうか。


 逮捕容疑についての記事が不正確なのかも知れない。



2015年01月15日(木) スナック菓子に爪楊枝を入れる行為はいかなる罪になるのか

 日経(H27.1.15)社会面で、東京都調布市のスーパーで、商品のスナック菓子に爪楊枝を刺して混入させる様子が「ユーチューブ」に投稿された事件で、警視庁少年事件課は、威力業務妨害などの疑いで調べていると報じていた。


 警察は、スナック菓子に爪楊枝を入れる行為を「威力業務妨害」とみているようである。


 ただ、刑法では、威力業務妨害罪と似ているものに、偽計業務妨害罪がある。


 「威力」とは、人の意思を制圧するに足りる勢力を利用することであり、「偽計」とは、他人の錯誤もしくは不知を利用し、または欺罔、誘惑の手段を弄することである。


 定義上はかなり異なるが、実際の境界は難しい。


 百貨店の食堂にヘビをまき散らし、食堂を大混乱に陥らせた場合には、威力業務妨害に当たることは間違いない。(実際にあった事件である。)


 しかし、スナック菓子に爪楊枝をこっそり入れて、それをスーパーに告知もしていない場合には、「威力業務妨害」ではなく、「偽計業務妨害」になるのではないかと思う。


 ただ、両者の刑罰は同じなので、あまり実益のある議論ではないが。



2015年01月14日(水) 「販促スケジュール案」は営業秘密か

 日経(H27.1.14)社会面で、家電量販店エディオンの営業秘密を退職前後に不正に取得したとして、大阪府警は、同社元課長の笹沢淳容疑者を不正競争防止法違反(営業秘密の不正取得)の疑いで逮捕したという記事が載っていた。


 この容疑者は退職した翌月、競合他社の上新電機に再就職しており、その際に、取得した情報を活用しようとしたようである。


 ただ、記事によれば、営業秘密とされているのは「販促スケジュール案」などである。


 不正競争防止法の「営業秘密」であるためには、情報に触れることができる者が限定されるなど、秘密として管理されている必要がある。


 果たして、エディオン社において、「販促スケジュール案」が秘密として管理されていたのだろうか。


 不正競争防止法の「営業秘密」の要件を充たすことはか難しいことが多く、この事件でも、捜査機関は起訴に持ち込めないかも知れない。



2015年01月13日(火) 冨田選手の事件 なぜ正式裁判にできたのだろうか

 日経(H27.1.13)社会面で、韓国・仁川アジア大会でカメラを盗んだとして略式起訴され、帰国後に無実を訴えた競泳の冨田選手の初公判が仁川地裁で行われ、冨田選手は無罪を主張したという記事が載っていた。


 その主張が通るかどうかは別にして、手続の問題として、略式命令を受けて罰金を納付までしているのに、なぜ正式裁判にすることができたのかよく分からない。


 報道によれば、略式命令が冨田選手に交付されていなかったために異議申立期間が徒過しておらず、それゆえ正式裁判が可能だったようである。


 しかし、日本の場合には、身柄が拘束されている場合には、検察官が略式命令を請求し、同日に裁判所が略式命令を発令し、その謄本が被告人に交付される。
それと同時に身柄の拘束が解かれることが通常である。


 また、東京の場合には、東京地検の庁舎の一定の場所で身柄が解かれ、すぐ隣りに罰金の納付窓口ある。(他の地検でも同じだと思う)


 罰金は後日支払ってもいいのであるが、かなりの人はそこで罰金を納付して手続きをすべて済ませている。


 韓国の制度は知らないが、略式命令書謄本を被告人に交付しないまま釈放し、しかも罰金の納付まで済んでいるというのが不思議な気がする。



2015年01月09日(金) 497人に裁判員選任の呼び出しをしたが、出頭者は86人

 日経(H27.1.9)社会面で、オウム真理教元幹部の高橋克也被告の裁判で、東京地裁は、審理する裁判員6人と補充裁判員6人を選任したが、初公判から判決まで100日以上、公判は41回もあり、裁判員には心身ともに重い負担となりそうだという記事が載っていた。


 その記事の中で気になったのは、東京地裁は497人に選任手続きの呼び出し状を送ったが、裁判所に集まった候補者はわずか86人と、5分の1以下だったことである。


 正当な理由がなく呼び出しに応じない場合、規定では過料に処せられることがあるのだが。


 この事件は裁判員の負担が大きいので、不出頭者も特別多いが、他の裁判員裁判においても一定程度の数の裁判員候補者が、呼び出されても出頭していないことが窺える。


 裁判員裁判に対する関心も薄れてきていることから、不出頭者はこれからも増えるのではないだろうか。



2015年01月08日(木) 日テレのような大企業でもコンプライアンスが遵守されていない

 日経(H27.1.8)社会面で、日本テレビのアナウンサー採用が内定した後、クラブでのアルバイト経験を理由に内定を取り消された女性が、地位確認を求めた訴訟で、和解において日テレ側が採用の意向を示したと報じていた。


 この事件では、日テレ側にほとんど言い分はない。


 それゆえ、内定を取り消された側があくまでも採用を主張した場合、判決では、それを認めることになったであろう。


 したがって、採用する方向で和解が成立するのは当然である。


 問題は、日テレのような大企業であっても、コンプライアンスがきちんと守られていないということである。



2015年01月06日(火) 告訴を必要とする意味は、実際にはない

 日経(H27.1.6)社会面で、法務省が、性犯罪について、被害者の告訴がなくても事件化できるかの検討を始めたという記事が載っていた。


 性犯罪に告訴が必要としている理由は、被害者の名誉に配慮するためであると言われている。


 しかし、実際には、捜査機関が、被害者の意思を無視して強引に事件化することはあり得ない。


 そのような実態を考えると、告訴が必要としていることの意味はあまりないのかも知れない。



2015年01月05日(月) 祭祀承継者が誰かはあまり問題にならない

 日経(H27.1.5)社会面で、少子化や過疎化の影響で、ふるさとの墓を引き継ぐ人がいなくなり、放置された「無縁墓」が増えているという記事が載っていた。


 行き場を失った墓石の不法投棄も相次いでいるそうである。


 民法の相続の規定には、「墓石などの所有権は、祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する」とあるが、相続争いが生じた場合でも、誰が祭祀承継者かについては関心を示さないことが多い。


 記事にもあったが、墓石に対する価値観は相当変わってきているように思われる。


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