今日の日経を題材に法律問題をコメント

2014年01月30日(木) 刑事弁護人のマスコミへの対応は難しい

 日経(H26.1.30)社会面で、アクリフーズ群馬工場の冷凍食品農薬混入事件で、被疑者が容疑を認める供述を始めたと報じていた。


 さらに記事は、「弁護人が書面で、『責任の重大性を自覚して関与を認める供述を始めた』と明らかにした。一方で「過去の冤罪事件の教訓を踏まえ、虚偽供述の可能性を捨て去らずに弁護活動を行っていく」とコメントした」としていた。


 弁護人としては虚偽の自白の可能性にも目配りしたいというだけであり、虚偽自白を疑っているわけではない。


 弁護人としては穏当なコメントであろう。


 ところが、朝日新聞では、「弁護士が、『犯人と断定するだけの物的証拠は乏しい。虚偽の供述の可能性を捨て去らずに弁護活動を行う』とコメントした」としている。


 これでは弁護人が虚偽自白を疑っているように取れるが、それは弁護人の真意ではないであろう。


 弁護人は書面を配布しているのに、それでも記事にするとニュアンスが違って報道されてしまう。


 刑事弁護人のマスコミへの対応は難しい。



2014年01月28日(火) 流通食品毒物混入罪の適用

 日経(H26.1.28)社会面で、アクリフーズ群馬工場の冷凍食品農薬混入事件の続報をしていた。


 この事件では、被疑者を偽計業務妨害容疑で逮捕しているが、より刑の重い流通食品毒物混入罪の適用が検討されているそうである。


 ある番組でも、弁護士がその法律を適用すべきと力説していた。


 しかし、それは難しいかも知れない。


 流通食品毒物混入罪の要件として、毒物劇物取締法で規定している毒物や、毒性がそれに類似するものと規定している。


 すると、ポイントは、冷凍食品に添加したマラチオンが、毒物劇物取締法で規定している毒物に類似する毒性を有していたかであろう。


 しかし、報道ではマラチオンは希釈しているようで要件を充たさないかも知れないし、実際に添加されたマラチオンの濃度が明らかにならないかも知れない。


 そうであれば、捜査機関は、流通食品毒物混入罪よりも刑が重く、法適用にあまり問題がない傷害罪を適用するのではないだろうか。



2014年01月27日(月) 法廷の映像がネットに流出

 日経でなく朝日(H26.1.27)ネットニュースで、法廷を小型カメラで撮影し、ネットに流出している問題を報じていた。


 これに対し、裁判所は無断撮影に厳しい対応をしているとのことである。


 外国では法廷の場面が映像で流れるときがあるから、国によって考え方は違うのかもしれない。


 ただ、法廷はプライバシーが保護されるべき最も重要な場面ではないだろうか。


 それゆえ、裁判所による撮影禁止の規制は当然だと思う。



2014年01月24日(金) 婚活サイトを利用した投資用マンション販売

 日経(H26.1.24)夕刊で、婚活サイトで知り合った相手に勧められて高額な投資用マンションを購入したというトラブルが急増しているという記事が載っていた。


 私も数年前にそのような相談を受けたことがあり、その女性はマンションを2つ購入させられていた。


 おそらく、誰かが婚活サイトを利用してうまく販売ができたので、その手口が徐々に広がっていったのだろう。


 このようなケースでは詐欺に問うことは難しく、各自が注意するしかないように思う。



2014年01月23日(木) 朝鮮総連中央本部の土地・建物の再入札で売却不許可決定

 日経(H26.1.23)夕刊で、朝鮮総連中央本部の土地・建物の再入札で、東京地裁は、50億1千万円で落札したモンゴルの企業への売却を許可しない決定をしたと報じていた。


 法人が不動産競売の入札に参加する場合、代表者の資格を公的に証明する文書を提出する必要がある。


 ところが、入札したモンゴル企業が提出した文書について、モンゴル政府など公的機関による認証がなかったようである。


 代表者資格は形式的な要件に過ぎず、通常は商業登記簿謄本を提出すれば済むことであるのに、それが証明できなかったというものであり、あり得ないことである。


 この事件は何だかよく分からないことが多い。



2014年01月22日(水) 児童養護施設を舞台とするドラマ

 日経(H26.1.22)社会面で、児童養護施設を舞台とする日本テレビの連続ドラマ「明日、ママがいない」について、全国児童養護施設協議会と全国里親会が、一部の描写や発言が差別的であるとして放送内容を改めるよう求めたという記事が載っていた。


 児童養護施設は、保護者のいない児童だけでなく、虐待されている児童も入所することがあるので、弁護士が関係することもある。


 ところが、プライバシーの問題もあり、児童養護施設の実態は世間にはあまり知られていないように思う。


 その意味では、児童養護施設を舞台にしたドラマは期待できるが、脚本が過ぎるのはいかがなものかと思う。



2014年01月21日(火) 休眠預金の時効取得

 日経(H26.1.21)5面で、金融機関で10年以上も取引のない「休眠預金」を公的な使い道に回すために、議員立法を検討しているという記事が載っていた。


 その記事の中で、「銀行は10年間出し入れのない預金口座を休眠預金に分類し、預金者と連絡が取れない場合、金融機関の収益として計上し、引き出しがあれば損金に算入する。」としていた。


 しかし、休眠預金を収益とするのは法律論からすれば疑問である。


 というのは、「時効が完成してもただちに権利を取得できるのではなく、援用によってはじめて確定的に効果が生じる」とされているからである(停止条件説・現在の判例の立場最判昭61.3.17)。


 そうはいってもそれは法律上の議論であり、会計処理としては問題ないであろうが。



2014年01月20日(月) 「ウィンドウズXP」の対策は急ぐべき

 日経(H26.1.20)社説で、「ウィンドウズXP」の保守が4月9日で打ち切られることについて論じていた。


 社説の趣旨は、「特定企業に依存しないIT環境を構築するチャンスともいえ、会社のシステムを見直すことも含め対応を急いでほしい」というものであった。


 しかし、より切実な問題は、保守が打ち切られることによって情報漏えいのリスクが高まることである。


 4月9日以降、ウィンドウズXPを使用していて情報漏えいなどが起こった場合、会社の過失が認められる可能性は高い。


 この点からも対策は急ぐべきであろう。



2014年01月16日(木) 東京高裁 検索サービスの有用性を優先する判断

 日経(H26.1.16)社会面で、「グーグル」に自分の名前を入力すると犯罪を連想させる単語が自動表示されるとして、男性がグーグルに表示差し止めなどを求めた訴訟の控訴審で、東京高裁は、表示差し止めと30万円の賠償を命じた一審判決を取り消し、男性側逆転敗訴を言い渡したと報じていた。


 東京高裁は、「男性側の不利益が、サジェスト表示を削除することで検索サービス利用者が受ける不利益を上回るとはいえない」と判断したものである。


 検索サービスの有用性を優先したものであり、高裁の裁判官は年輩の方が多く、新しいサービスに対しては保守的な印象を持っていただけに意外であった。


 それにしても記事の扱いが小さいが、一般の人にはもはやあまり関心がない事項になったのだろうか。



2014年01月15日(水) 精神的損害を金銭評価するのは難しい

 日経(H26.1.15)社会面で、大津市の中2男子自殺で、学校が全生徒を対象に実施したアンケートの大部分が非開示とされて精神的苦痛を受けたとして、生徒の父親が大津市に100万円の損害賠償を求めた訴訟で、大津地裁は30万円の賠償を命じたと報じていた。


 この訴訟では市側が責任を認めていたため、賠償額だけが争点だった。


 裁判官は賠償額については悩むところである。


 他の裁判例も参考にしたとは思うが、最終的には、10万円は低いが、50万円は高い気がするという感じで30万円に決めたのではないだろうか。


 いい加減な感じがするかもしれないが、精神的損害を金銭評価することは難しく、最終的にはそのような決め方になってしまうのはやむを得ないと思う。



2014年01月14日(火) 父親と子どものいずれの利益を重視するか

 日経(H26.1.14)夕刊で、血縁関係のない子を認知した父親が、自ら認知無効の請求をできるかどうかが争われた訴訟で、最高裁は、父親も認知無効を請求することは可能との初判断を示したと報じていた。

 
 すなわち、一旦認知したが、後に自分の子どもでないことが分かった場合には、その認知は無効であると主張できると判断したのである。


 当たり前のような結論であるが、なぜ問題になるかといえば、民法785条が「認知をした父は、認知を取り消すことができない」としているからである。


 しかし、自分の子どもと思って認知したのに、後に自分の子どもでなかったことが分かった場合に、認知を取り消したいという父親の気持ちは理解できる。


 他方、一旦は自分の父親と思い育った子どもの立場としては、急に、実は自分の父親ではなかったということになるとショックは大きいであろうし、しかもその責任は子どもにはないのである。


 そうすると結局は、父親と子どもの利益のいずれを重視するのかという問題になる帰着することになる。


 この点、最高裁は、いずれの利益を重視すべきかではなく、父親と子どもに血縁関係がないという事実自体を重視したものと思われる。



2014年01月10日(金) 一罪一逮捕一勾留の原則

 日経(H26.1.10)社会面で、横浜地検川崎支部の逃走事件で逮捕された容疑者の逃走を助けたとして、神奈川県警が犯人隠避容疑で同級生らを捜査する方針と報じていた。


 逃走した容疑者は、「逮捕」されたのであるが、最初の逮捕期間は経過しているため、同一被疑事実で二度逮捕したことになる。


 同一被疑事実で再逮捕することは、前の逮捕の蒸し返しであり、原則として認められない。(一罪一逮捕一勾留の原則)


 しかし、刑訴法には再逮捕を前提とした規定があることもあり、「特別の事情」があれば再逮捕も許されるとされている。


 今回のように逃走したケースは、その「特別の事情」にあたるであろう。


 したがって、再逮捕は適法ということになる。



2014年01月09日(木) 逃げるときは深く考えない

 日経(H26.1.9)夕刊で、集団強姦などの疑いで逮捕された容疑者が横浜地検川崎支部から逃走した事件で、神奈川県警は、全国指名手配していた容疑者の身柄を確保したと報じていた。


 逃走しても、結局は身柄を確保されるのであるが、逃げる瞬間はそんなことは考えないようである。


 以前、少年事件の付添人をしたときに、家裁で児童自立支援施設等送致となったが、その施設に送致される途中で逃げた事件があった。


 すぐに見つかり、後日、面会に行ったときに「なぜ逃げたのか。見つかって、かえって面倒なことになるとは思わなかったのか」と聞くと、「とにかく施設に行くのが嫌だった。」「そんなこと(面倒なことになること)は考えなかった」と言っていた。


 本件の容疑者も逃げる瞬間はあまり深く考えなかったのではないだろうか。


 なお、この事件は容疑者の勾留決定前の逃走なので、刑法の逃走罪には該当しないことになる。


 この点は、刑法改正の検討の余地があるかもしれない。



2014年01月08日(水) 弁護士が接見中の逃走

 日経(H26.1.8)社会面で、横浜地検川崎支部から、強盗と逮捕監禁、集団強姦の疑いで逮捕された男が逃走したと報じていた。


 容疑者は地検支部6階の取調室で男性巡査部長に付き添われて弁護士と接見中であり、扉は施錠していなかったとのことである。


 検察庁舎で接見を行うことはあるが、取調室で警察官立会の下で接見した経験はない。


 接見施設がない場合、警備上の問題から、検察官は接見を認めたがらないし、弁護人側も警察官立会では十分な話ができないので避けたいからである。


 その意味で、今回の逃走事件はまれなケースのように思う。



2014年01月07日(火) 立法の不備か?

 日経(H26.1.7)夕刊で、インサイダー取引で有罪になっても、株が追徴金を上回るほど値上がりすれば多額の利益が残ることから、金融商品取引法違反事件の判決で東京地裁は株券を直接没収する明文規定がないことによる不合理を指摘したという記事が載っていた。


 問題となったのは、ソフトバンクが自社株(イー・アクセス)を株式交換で買収するとの情報を入手、公表前に約1千万円で自社社株を買い付けたところ、株は高騰。公判が結審した時点では保有株の価格は9千万円を超えていたそうである。


 金商法は犯罪で得た財産を没収すると定めているが、株券については売却・換金の手続き規定がないことから問題になった。


 ただ、追徴金を科すことはでき、地裁判決は、追徴金を約4400万円と算定した。


 しかし、4千万円以上の差益が残ることになり、判決では「株券を直接没収できれば問題ないのに、手続き規定がないというのは立法の不備。速やかな是正を強く望む」と言及をしたものである。


 しかし、4400万円しか追徴ではなきないのは、犯罪で得た利益がそれだけだからである。しかるに、それ以上追徴すればかえって不当な結果になる。


 すなわち、株券を没収することができれば簡易ではあるが、現在の制度が「立法の不備」とまでは言えないのではないだろうか。



2014年01月06日(月) 労務問題が大きな比率に

 日経(H26.1.6)法務面で、経済政策「アベノミクス」による日本企業の業績回復で、ビジネス弁護士の仕事が活況という記事が載っていた。


 記事では、国内では、株主総会対策が減り、労務問題が大きな比率を占めるようになったとあった。


 弁護士会主催の研修でも、労務問題はいつも満員になっており、ニーズの高さが窺われる。


 今後も、企業の労務対策は重要になるであろう。


 ただ、労務問題に裏技的な対策はなく、まじめに法令を順守するしかないと考えるべきであろう。


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