今日の日経を題材に法律問題をコメント

2013年03月29日(金) 武富士の管財人 創業家らへの請求棄却

 日経(H25.3.29)社会面で、会社更生手続き中のTFK(旧武富士)の管財人が、株主だった創業家らに対し、配当金約129億4千万円の返還を求めた訴訟で、東京地裁は原告の請求を棄却したという記事が載っていた。


 平成18年最高裁判決以後、過払い金のため配当を出せる状況ではなかったのに、高額の配当金を受領したことからその返還を求めたものである。


 なかなか苦しい主張であり、もともと請求が認められる可能性は低かったのではないだろうか。


 武富士の管財人は、武富士から会社更生の申立を受任していた弁護士であったため、管財人としての公平さに疑念が抱かれていた。


 そのような中で、管財人が自ら公平さを表明するために訴訟提起したのではないかという意見もあったくらいである。


 それが本当かどうかは分からないが、訴訟の印紙代だけでも約2000万円を支出しており、それが無駄になったことは事実である。



2013年03月28日(木) 刑期の74%で仮釈放

 日経(H25.3.28)社会面で、ライブドア元社長の堀江貴文氏が長野刑務所から仮釈放されたという記事が載っていた。


 スリムになり、ふてぶてしさが消え、会見では「社会や株主の皆様に迷惑をかけた」と話したそうで、すっかり「いい人」になった感じである。


 刑務所に入所するときは、モヒカン刈りになり、その様子を動画中継までしていたから、変われば変わるものである。


 堀江氏は刑期の74%で仮釈放になっている。


 仮釈放が認められる受刑者は約50%。


 しかも、仮釈放が認められた人の中でも、刑の執行率が80%未満は約25%でしかない。


 したがって、刑の執行率が74%というのは、かなり早い仮釈放ということになる。


 中で相当まじめに受刑生活を送っていたのだろう。



2013年03月27日(水) 現金で管理するということは考えられない

 日経(H25.3.27)夕刊で、死刑囚の実父の成年後見人を務めていた際、財産管理に不備があったとして、第二東京弁護士会は、菊田幸一弁護士を業務停止2カ月の懲戒処分にしたという記事が載っていた。


 記事によると、被後見人が死亡したので財産を精算したが、家裁への報告と実際の金額に200万円の差が生じたとのことであるが、この弁護士は、専用の口座を設けずに現金のまま管理していたそうである。


 被後見人の財産を現金のまま管理するということは、通常の弁護士の感覚からするとあり得ないことである。


 この弁護士は、明治大の名誉教授で、死刑や刑事施設の問題に詳しいことで知られているが、実務経験はあまりなかったのかもしれない。



2013年03月26日(火) 昨年の衆議院選は無効との判断 但し将来効

 日経(H25.3.26)1面トップで、最大2.43倍の「1票の格差」があった昨年12月の衆院選について、広島高裁は、違憲と判断しただけでなく、広島1、2区の選挙を無効としたと報じていた。


 初めての無効判決である。


 ただ、この判決は、政治的な混乱を避けるためという理由で、今年11月27日に無効の効力が発生するとして8カ月の猶予期間を設けている。


 これは将来効判決というものの一種である。


 昨年の衆議院選挙が行われた時点で、そのときの定数配分が違憲だったのかどうかが争われているのに、将来、定数を是正すれば有効になり、是正しなければ無効というのは非常に奇異な感じがする。


 ただ、これまでも、裁判所は、「違憲状態である」「違憲ではあるが無効とはしない」など様々な手法を使って、国会の自主な早期の是正に期待をしてきた。


 これに対し、今回は「将来無効となる」と判断したのであるから、従来の判断を一歩進めたことになる。


 将来効という判決手法自体には若干違和感はあるものの、「違憲だが無効としない」という中途半端な判断から一歩進んだという意味では、この判決を歓迎したい。



2013年03月22日(金) 神奈川県の臨時特例企業税の条例が違法と判断

 日経(H25.3.22)社会面で、神奈川県が独自に制定した「臨時特例企業税」条例について、最高裁は、条例は違法と判断したという記事が載っていた。


 神奈川県は、1700社に635億円も返還しなければならなくなった。


 条例制定に際し、総務省の同意も得ていたから、神奈川県としては納得できないところであろう。


 しかし、最高裁は5人全員一致で違法と判断しているから、やはり法解釈の厳密な検討が不十分だったと言わざるを得ない。



2013年03月19日(火) まだ訴訟が係属していた

 日経(H25.3.19)社会面で、みずほ証券が2005年にジェイコム株を誤発注した問題で、東京証券取引所のシステムに不備があったとして、みずほ証券が東証に損害賠償を求めた訴訟の控訴審第1回口頭弁論が東京高裁であり、即日結審したと報じていた。


 この事件の第一審判決は、2009年12月4日であり、東京地裁は東証に約107億円の支払いを命じる判決を言い渡している。


 それから3年以上、一度も裁判が開かれなかったことになる。


 その理由はよく分からない。


 当事者の事情で3年以上も裁判を開かないことは考えられないから、これだけ長引いたのは裁判所側の事情ではないかと思われる。



2013年03月15日(金) 被後見人の選挙権制限規定は違憲無効

 日経(H25.3.15)社会面で、成年後見人が選任されると選挙権を失うとした公職選挙法の規定は違憲として、選挙権の確認を求めた訴訟で、東京地裁は、規定は違憲無効と判断し、原告女性の選挙権を認める判決を言い渡したと報じていた。


 画期的であると同時に、当然の判決でもある。


 選挙権は民主主義の根幹をなすものであり、その制限は原則として許されないはずである。


 そして、後見人制度は、自己決定権を尊重し、障害のある人も通常の生活ができる社会を作ると言う理念に基づき設けられたものであり、それゆえ、民法では「被後見人の意思を尊重しなければならない」と規定しているのである。


 それゆえ、成年後見人にも様々なレベルがあることを考慮すると、一律に選挙権をはく奪することは後見人制度の趣旨にも反する。


 したがって、東京地裁の判断は極めて真っ当である。


 そもそも、被後見人の選挙権制限の規定は以前から問題視されていたのであり、国会は早急に法改正すべきであろう。



2013年03月14日(木) 検察事務官が情報を漏えいの疑い

 日経(H25.3.14)社会面で、静岡地検沼津支部の女性検察事務官が、暴力団関係者と交友関係があるとみられる同居男性に捜査情報を漏らした疑いが持たれていると報じていた。


 情報の漏えいは違法であるが、暴力団関係者にとって有用な情報はなかった可能性がある。


 一般的な事件では、警察がすべて捜査する。

 検察官は、警察から上がってきた証拠をチェックし、立証にとって不足していると思われるところの補充捜査を指示する程度である。


 つまり、多くの事件では、検察庁には起訴直前の情報があるだけで、生の情報はあまりない。


 しかも、事務官は個々の検察官に付くから、他の検察官の捜査状況はあまり知らないはずである。


 もちろん、検察庁にある情報は重要であり、その漏えいは許されることではない。
 
 ただ、暴力団関係者としては、警察にある情報の方が有用なことが多いのではないだろうか。

追記(訂正)
 続報によれば、「事務官は地検支部で捜査情報を管理するパソコンのパスワードを知っていた」らしい。
 となると、かなりの情報を知りえたかもしれない。



2013年03月12日(火) 求刑懲役18年に対し懲役19年の判決

 日経(H25.3.12)夕刊に、ネパール国籍の男性が殺害された事件の裁判員裁判の判決で、大阪地裁は彫師の男性に検察側の求刑懲役18年を上回る懲役19年を言い渡したという記事が載っていた。


 求刑より上回ったのは、犯罪が悪質であり、求刑程度では足りないということなのだろう。


 裁判官であれば懲役20年とするところである。


 それが1年だけ求刑より上回るというのは微妙な量刑であり、何となく不思議な気がするが、これが市民感覚というのかもしれない。



2013年03月11日(月) 表現方法に検討の余地があるのでは

 日経(H25.3.11)社会面の広告欄で、東電女子社員殺人事件の被告だったゴビンダさんの再審無罪が確定したという、東京高裁の公示が掲載されていた。

 
 これは刑訴法の「再審において無罪の言渡をしたときは、官報及び新聞紙に掲載して、その判決を公示しなければならない。」という規定に基づくものである。
 

 ただ、その広告内容を要約すると、「ゴビンダ・プラサド・マイナリに対して、『被害者女性を殺害した上、現金を強取した』との公訴事実につき、同人を無罪とした再審判決は確定した。」というものであった。


 文章は一文で書かれていて読みにくいし、しかも「ゴビンダ」と呼び捨てである。


 判決文では敬称は一切付けないが、公示は一般の人向けであるし、しかも、裁判所のせいでいったんは有罪を宣告してゴビンダ被告に大変な迷惑をかけたのである。


 そうであれば、もう少し表現を考えるべきではないだろうか。



2013年03月08日(金) 刑事事件の証拠をユーチューブに投稿

 日経(H25.3.8)社会面で、自己が被告となった公務執行妨害事件の証拠の写しを「ユーチューブ」に投稿したとして、東京地検は、愛知県の男性を逮捕したという記事が載っていた。

 
 投稿したのは、実況見分の写真や関係者の氏名が記載された資料の写しである。


 これらの資料の情報源は弁護人であろう。


 しかし、訴訟で争いがある場合、被告人はその当事者なのであるから、証拠などの訴訟記録を渡すことは必要である。


 その訴訟記録を別の目的に使うのではないかと危惧するケースはあるが、被告人からコピーを要求されたら、目的外使用をしないようにと注意はしつつ、交付せざるを得ないだろう。


 記事の被告人の弁護人は責任を感じているかもしれないが、同情する。



2013年03月07日(木) 選挙無効としても混乱はしないのでは

日経(H25.3.7)1面で、最大2.43倍の「1票の格差」があった昨年12月の衆院選は違憲だとして、東京1区の選挙無効を求めた訴訟で、東京高裁は、違憲とした上で、選挙無効の請求は棄却したと報じていた。


 違憲ではあるが、無効とした場合の混乱は避けるという、裁判所らしい落とし所である。


 しかし、無効により当該選挙区の議員が失職としたとしても、それほど混乱するとは思えない。


 今後も高裁の判決は続くが、一つくらい無効とする判決が出て欲しいものである。



2013年03月06日(水) 弁護側の仕事を検察官が取る?

 日経(H25.3.6)夕刊で、執行猶予中に自転車を持ち去ったとして、占有離脱物横領罪に問われた知的障害のある男性に、千葉地裁は、懲役10月、保護観察付き執行猶予4年の判決を言い渡したという記事が載っていた。


 執行猶予中であるから、原則は実刑である。


 ただ、千葉地検は、知的障害であるほか、受け入れ先の養護老人ホームが決まり行政の協力が得られるなどの理由を挙げて保護観察付きの執行猶予を求めたそうである。


 弁護側の仕事を検察官に取られたようなものである。


 ただ、自転車の持ち去りという比較的軽微な事件であり、本来は起訴すべきでなかった事案ではないだろうか。



2013年03月05日(火) 印鑑を逆に押すのは止めた方がいい

 日経(H25.3.5)首都圏版で、JR中央線の快速停車駅について書いていたが、それによれば、高円寺、阿佐ケ谷、西荻窪駅は、平日は停車し、土曜休日は通過するが、これは 国鉄と住民の妥協の産物なのでそうである。

 
 そして記事の最後に、「杉並区と国鉄の合意文書をよく見ると、国鉄側の代表である旅客局長のハンコが上下逆に押されている。よほど本意ではなかったのだろうか。」と締めていた。


 印鑑を逆に押すことにより、本心は反対であることを示すということを聞くことがある。


 しかし、法律上は何の効果もない。


 「山田」という署名に、「田中」の印鑑を押しても有効であるとされているくらいであり、印影が逆であっても無効になるはずがない。


 そればかりか、「反対なのになぜ印鑑を押したのか」と責められるのが関の山であるから、止めた方がいい。



2013年03月04日(月) プライバシー保護と企業活動の自由との利害調整

 日経(H25.3.4)法務面で、インターネットサイト等を通じて蓄積される膨大な個人データの活用を巡り、プライバシーにどう配慮すべきかについて、欧米が激しい駆け引きを繰り広げているという記事が載っていた。


 例えば企業のデータ収集については、アメリカは原則収集可能であり、消費者は事後的に拒否できるのに対し、EUの案では事前の同意を必要としている。


 これに対し、日本では、昨秋から、総務省と経済産業省でルール整備について議論が始まったばかりとのことである。


 プライバシー保護と企業活動の自由との兼ね合いは難しいし、様々な意見があるだろうが、個人的には、日本の現状はプライバシー保護に振れ過ぎている気がする。



2013年03月01日(金) 特許権の濫用を理由にサムスンが敗訴

 日経(H25.1.10)社会面で、アップルとサムスンが争った訴訟で、東京地裁は、「サムスンは特許権を濫用している」として、アップル側勝訴の判決を言い渡したと報じていた。
 

 記事の訴訟では、画像や音声などのデータを携帯電話で送信する際、不必要なデータを省くことでサイズを小さくし、効率的に送信できる技術を巡って、特許権の有効性や侵害の有無などが争われている。


 世情思われているような特許について争われているわけではないが、特許訴訟ではこのようなことがよくある。


 判決では、特許の有効性を認めたうえで、サムスンが国際的な業界団体に対し、特許使用申請に応じる旨の宣言をしていたことを重視し、アップルに対する損害賠償請求は「権利の濫用に当たる」と判断した。


 特許使用を認めると宣言しておきながら、アップルにだけ特許使用を認めないといういじわるは許されないということである。


 ただ、権利濫用か否かの心証は、裁判官によって異なることが多い場面である。


 サムスンは当然控訴するであろうし、権利濫用という微妙な判断ゆえ、控訴審で一審の判断が維持されるかどうかは分からないだろう。


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