今日の日経を題材に法律問題をコメント

2012年02月29日(水) 殺人罪に問われた警察官に無罪 

 日経(H24.2.29)社会面トップで、警察官が逃走車両に発砲し、助手席の男性が死亡した事件の裁判員裁判で、奈良地裁は、殺人と特別公務員暴行陵虐致死の罪に問われた県警の警察官2人に無罪を言い渡したと報じていた。


 争点の一つは殺意の有無であった。


 司法研修所では「殺意の認定」についての研修が行われ、鋭利な刃物で体の主要部分を刺した場合には、殺意は認められやすいとされている。


 ましてや、人に向けて拳銃を発砲した場合は、本人がいかに否認しようとも、たいてい殺意は認められるであろう。


 ところが、拳銃の使用が許されるケースで警察官が発砲した場合には、殺意の認定はなかなか難しい。


 この事件でも殺意は認められなかったし、それはやむを得ない判断なのだろう。


 ただ、当該警察官の「逃走車の運転手の腕を狙った」という供述については、「本当だろうか」と思わざるを得ない。


 腕を狙えるほど射撃の技術が優秀なのだろうかという疑問があるからである。



2012年02月27日(月) AIJ問題 年金基金運用担当者に責任はないのか

 日経(H24.2.27)1面トップで、約2000億円の企業年金資産の大半が消失したAIJ投資顧問の問題を報じていた。


 報道によれば、AIJは、投資家向けに提示したリポートで、「どんな市場環境でも安定的に高収益をあげている」として、毎年負けなしの実績を謳っていたそうである。


 事件は一見複雑そうであるが、これでは単なる詐欺事件であろう。


 では、騙された年金基金の運用担当者に責任はないのだろうか。


 AIJでは、次のように投資方針について述べている。

 当社は、国内外の株式や債券などいわゆる伝統的資産に替わる「オルタナティブ運用」に特化することにより、市場の方向性に左右されない「絶対収益」の「安定的確保」を目指します。」

「絶対収益の追求」と「安定的収益の確保」というふたつの命題を、「派生商品による運用」戦略等により実現します。


 「オルタナティブ運用」という専門用語で粉飾しているが、書いていることは、「ハイリスク、ハイリターンの商品に投資します」ということでしかない。


 年金担当者が、これを読んだうえで投資を一任したのであれば、その責任は重い。(読まずに投資した場合も同じく責任は重いだろうが)



2012年02月24日(金) 東京地検が、石川議員の取調べ検事から事情聴取

 日経(H24.2.24)夕刊で、社会面で、小沢一郎被告の元秘書を取り調べた捜査報告書に事実と異なるやり取りが記載された問題で、東京地検は、作成した田代検事や当時の上司から事情を聴いたと報じていた。


 検察庁にすれば大変な事態だと思う。


 この問題では、田代検事が作成した捜査報告書において、石川議員が供述したことが、実際にはそのような供述はなかったことが判明している。


 田代検事は、「そういうやり取りはなかった」と認めつつ、「以前の取り調べの記憶と混同した」と弁明している。


 しかし、石川議員の供述調書が作成されているのに、それ以上に検察側に有利な内容の供述が書き加えられていること自体不合理である。


 故意の虚偽記載の疑いは拭えない。


 恐ろしいのは、石川議員が取り調べの状況をテープで録音していなかったら、水掛け論で終わってしまい、事件は絶対に表面化しなかったことである。



2012年02月23日(木) 「クラウドサービス」と著作権法改正

 日経(H24.2.23)3面で、クラウド型サービスについて、文化庁の調査会報告書で「新たな著作権法上の問題が発生していることはない」との見解を示したという記事が載っていた。

 
 「えっ、そうなの」と思って報告書を読むと、若干違っており、以下のように報告していた。


 「クラウドサービス」と著作権法との関係については、「私的使用」(30条1項)との関係などの問題があるが、従来から指摘されている課題であり、「クラウドサービス」固有の課題というものではない。

 そのため、「クラウドサービス」の進展を理由に、著作権法改正の必要性は直ちには認められない。

 しかし、「クラウドサービス」がより広範に利用されることが想定される中、それらの課題について検討を進めることは必要である。



 結局、報告書では新聞記事のニュアンスとは少し異なり、結論らしき提言はなされていなかった。


 ただ、私としては、「クラウドサービス」のような新しい事業について法的な問題が曖昧なままだと、安心して事業展開できないであろうから、法律改正により、違法な行為とそうでない行為を明確にすべきであろうと思うが。



2012年02月22日(水) ヤフーが控訴を取り下げ、敗訴が確定

 日経(H24.2.22)社会面で、米ロサンゼルス銃撃事件に関し、三浦和義氏の手錠姿の写真を掲載したことの名誉毀損訴訟で、ヤフー側が控訴を取り下げて敗訴が確定したが、それを受けて、原告側代理人が、人格権を侵害する記事を今後掲載しないよう、ヤフー社にで申し入れたという記事が載っていた。


 この訴訟はヤフーと配信元の産経新聞社が控訴を取り下げて、ヤフーが敗訴で終了している。


 控訴を取り下げたことについて、ヤフーは、「訴訟で争うより、その労力をサービス向上に使う方がいいと考えた。」と苦しい言い訳をしている。

 
 しかし実際は、控訴審でも主張が認められず、敗訴が確定的であったからであろう。


 ネット社会において、ヤフーのように記事を掲載するだけの会社に記事の責任を負わせるのは酷であるという意見もあるかもしれない。


 しかし、名誉棄損を受けた立場からはそうは言えない。


 ヤフーのように記事を掲載するだけの場合、配信元(本件では産経新聞社)に責任を負わせる契約を締結することによって損害を回避できる。


 そのような契約はよくあることであり、そんなに困難なことではない。



2012年02月21日(火) 「死刑判決により更生の機会がなくなる」

 日経(H24.2.21)1面で、山口県光市の母子殺害事件で、最高裁は、被告側上告を棄却し、死刑が確定へと報じていた。


 犯行時少年だったとはいえ、事案の悪質性を考えると死刑はやむを得ないのではないかと思う。


 ところで、最高裁判決を受け、マスコミ各社は、「死刑判決により被告の更生の機会がなくなる」として被告の実名と写真を明らかにした。

 
 死刑は更生の機会を奪うものであることは間違いではない。


 ただ、死刑囚は、死刑が執行されるまで更生の努力をしているのではないだろうか。


 「更生の機会がなくなる」というのは、死刑判決を受けた被告にあまりに酷な言い方のように思えた。



2012年02月17日(金) 紛争解決センターの和解成立は、945件中、5件

 日経(H24.2.17社会面で、福島第1原発事故の損害賠償で、原子力損害賠償紛争解決センターに和解の申し出があった948件中、和解の成立が5件にとどまるという記事が載っていた。


 原因は、損害を証明する証拠の再確認などに時間を要したことと、東電側が損害賠償額の目安を示す政府の指針を超えた請求に対し、和解交渉に消極的なためとのことである。


 証拠の再確認に時間を要する問題は、人員の強化で対応できるであろう。


 他方、東電が、政府の指針を越えた請求に消極的という問題は、あくまでも双方の納得による解決を目指すという紛争解決センターの限界を示しているのではないか。


 むしろ、裁判を通じて一定の基準を作っていく方が、結局は解決が早いのではないだろうか。



2012年02月16日(木) 「坂の上の雲」解説本の販売禁止

 日経(H24.2.16)社会面で、司馬遼太郎の「坂の上の雲」の登場人物や舞台を解説した「『坂の上の雲』大事典」という書籍について、東京地裁は、著作権侵害を理由に販売を禁止する仮処分決定をしたと報じていた。


 その書籍の内容が著作権侵害にあたるのであれば、著作権者が販売禁止の仮処分申請をすることは責められないし、東京地裁も判断も不当とはいえない。


 ただ、「坂の上の雲」の解説本の内容がどのようなものであったとしても、「坂の上の雲」の価値が下がるわけではないし、書籍の売れ行きが落ちることもないであろう。


 むしろ相乗効果で、両方の本が売るだけでなく、読み方がより進化したりして、「文化の発展に寄与」(著作権法1条)するのではないだろうか。


 つまり、新聞記事のようなことは、著作権を保護することにより、かえって文化の発展を阻害する一場面ではないかと思うのだが。



2012年02月15日(水) 大阪市職員へのアンケート

 日経ネットニュース(H24.2.15)で、大阪市の橋下徹市長の指示で始まった大阪市全職員対象の政治活動に関するアンケートについて、大阪弁護士会は「思想信条や政治活動の自由を侵害するものだ」などとして中止を求める会長声明を発表したと報じていた。


 アンケートでは、勤務時間外の政治活動や組合活動などについてまで回答を求めており、しかも、それを職務命令として行っている。


 そのようなアンケートは、思想信条の自由や労働基本権を侵害すると思われる。


 したがって、アンケートの中止を求める大阪弁護士会会長声明は間違っていない。


 橋下市長は、この弁護士会会長声明について「弁護士会の言うことなんか一番あてにならない」と述べているが、果たしてそうであろうか。



2012年02月14日(火) 控訴審のあり方が大きく変わる

 日経(H24.2.14)社会面トップで、覚せい剤取締法違反に問われ、一審の裁判員裁判では全面無罪となったが、控訴審で逆転有罪となった事件で、最高裁は、控訴審判決を破棄した。


 その中で、最高裁は、「控訴審が事実誤認を理由に一審を覆すには、一審の論理則、経験則違反を具体的に示す必要がある」と述べ、一審の判断の尊重を強調した。


 この判決は、これまでの控訴審のあり方を大きく変えると思う。

 
 控訴審の裁判官(とくに裁判長)は刑事裁判のベテランであり、事実認定に絶対的自信を持っている。


 それゆえ、一審の判断をとりあえず置いておき、自ら証拠を精査して事実認定し、それと一審判断との整合性を考えるとという作業を無意識的にしていた。


 この事件でも、被告人は空港の税関で覚せい剤が発見されたときも特に驚いていないなど、犯人と推認される事情がいくつかあり、控訴審で有罪することも不当とはいえない事案であった。


 それでも最高裁は一審判断の尊重を強調したのであるから、今後、控訴審での審理は大きく変わると思う。



2012年02月13日(月) 戸籍こそクラウドが必要では

 日経でなく朝日(H24.2.12)1面で、東日本大震災を機に、市町村が管理する住民基本台帳や税務などに関する住民情報を、遠隔地にある民間のデータセンターに預ける「自治体クラウド」の取り組みが加速しているという記事が載っていた。


 民間に委ねるので情報管理の問題はあるが、基本的には必要なことであろう。


 問題は、法務省が管理する戸籍謄本は別扱いになっていることである。


 相続人を調査する際に、太平洋戦争のときの空襲で戸籍が焼失し、それ以上遡れないことがときどきある。


 そのようなことがないように、戸籍こそ、電子化しクラウドを行う必要があると思うのだが。



2012年02月09日(木) 誰でもいいから相談するといいのだが

 日経(H24.2.9)夕刊で、アダルト動画サイトの画面を通じて、パソコンをウイルス感染させたとして、京都府警が会社役員らを逮捕したという記事が載っていた。


 そのサイトでは、ウイルスに感染させて料金請求画面が消えなくし、被害者に数万〜10数万円のサイト利用料金を支払わせており、被害額は約6億円に上るそうである。


 以前は、よく「アダルトサイトを見ていたら変な警告が出たが、支払わないといけないのか」という相談を受けたが、最近は減った。


 そのため、料金請求の警告を受けても放置しておけばよいという知識が浸透したのかと思っていたが、6億円の被害というから、そうではなさそうである。


 私が相談を受けた人は年輩の人が多かった。


 そこから推測するに、年輩ゆえに恥ずかしくて相談できないまま振り込んだ人が多いのかもしれない。


 弁護士や消費生活センターなど、誰でもいいから相談すると被害は防げるのだが。



2012年02月08日(水) 淫行条例 女性でも処罰される

 日経(H24.2.8)社会面で、AKB48メンバーの母親が、15歳の少年とわいせつな行為をしたとして、東京都淫行条例違反容疑で逮捕されていたという記事が載っていた。


 東京都淫行条例では、「何人も、青少年とみだらな性交又は性交類似行為を行ってはならない」とし、これに違反した場合は、2年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処すとしている。


 「何人も」とされているから、女性でも青少年とみだらな性交等をすれば記事にあるように処罰される。


 ちなみに、「何人も、『青少年と・行ってはならない』」とあるので、文言上、青少年に対しては「みだらな性交等」を禁止していないことになる。


 しかし、青少年同士がみだらな性交等をすることは、「何人も」の中に青少年も含まれるから、禁止されている。


 ただ、東京都の条例や、その他ほとんどの条例では、「この条例に違反した者が青少年であるときは罰しない」という規定があるので、処罰はされないということになる。



2012年02月07日(火) 夫婦げんかでも逮捕される

 日経(H24.2.7)夕刊で、妻の顔を平手打ちしてけがをさせたとして傷害の疑いで、千葉県警が総務省の課長補佐を逮捕したと報じていた。


 夫婦でも、相手にケガをさせれば傷害罪になる。


 理屈上はそのとおりだが、しょせんは夫婦げんかであり、まさか逮捕まではされないだろうと思っていると間違いである。


 けがをした側が被害届を出すと、警察はあっさりと逮捕する。


 暴力をふるう側(たいていは夫であろうが)は、用心した方がよい。



2012年02月06日(月) 弁護士だけが儲かる?

 日経(H24.2.6)社会面で、消費者被害を広く救済する新しい訴訟制度が発足という記事が載っていた。

 現在の消費者団体訴訟制度では、悪質業者に対し不当行為の差し止め訴訟は提起できるが、損害賠償請求訴訟はできない。


 そのため、被害金を取り戻すには消費者個人が損害賠償請求訴訟を起こすしかないが、一人ひとりの被害金額が少ない場合には、結局、泣き寝入りするしかない。


 新制度は、消費者庁が認定する特定適格消費者団体が被害を起こした業者に契約無効などを求める訴えを起こし、勝訴すれば同様の被害を受けた消費者に損害賠償請求訴訟への参加を呼びかけて、被害額をまとめて業者に請求するという二段構えになるようだ。


 この制度への経済界の反対、あるいは不安は強いようである。


 また、「この制度で儲けるのは弁護士だけ」という声も聞こえてきそうである。


 しかし、消費者庁が認定する特定適格消費者団体を濫造しない限り、経済界が心配するような事態にはならないだろうし、弁護士だけが儲かるということにもならないと思う。



2012年02月03日(金) 通信傍受の件数は昨年で10件

 日経(H24.2.3)夕刊で、昨年、警察が通信傍受法に基づいて電話傍受の請求をしたところ、裁判所が令状の発付を認めない事例があったという記事が載っていた。

 その事例については要件を充たさなかっただけであり、とりたてて問題視する必要はないと思う。


 むしろ、裁判所による適正なチェックがなされていると評価すべきであろう。


 それよりも、同じ記事の中で、捜査機関が通信を傍受した事例が昨年で10件とあり、件数の少ないことに驚いた。


 通信傍受は、日本では「汚い捜査手法だなあ」という意識が強いようであり、捜査機関も慎重になっているのかもしれない。



2012年02月02日(木) 消滅時効は一律5年にしてはどうか

 日経(H24.2.2)社会面で、NHKが旭川市の男性に未払いの受信料の支払いを求めた訴訟で、旭川地裁は、「受信料債権の消滅時効は5年である」として、NHKの時効10年という主張を排斥したという記事が載っていた。


 債権の消滅時効は原則10年だが、いつくかの例外があり、それを適用したものである。


 価値判断として、会社の債権であれば消滅時効は5年なのに、NHKだと10年分請求できるのは不均衡ということがあったのだろう。


 そもそも、今日のスピード時代に、時効が原則10年というのは長い気がする。


 また、民法では様々な短期消滅時効を規定しており、非常に複雑であるため、弁護士でも時効期間を勘違いし、ミスをする人がいる。


 現在、民法改正作業が行われており、時効期間を統一する方向で検討しているようであるが、一律に「原則として5年」としてもよいのではないだろうか。


 ただ、一律5年になると、残業代は現在消滅時効2年なので、経済界から大反対がでるだろうが。



2012年02月01日(水) 黙示の投票依頼

 日経(H24.2.1)1面で、沖縄県の宜野湾市長選において、沖縄防衛局長が、職員に市長選を棄権せずに投票するよう促す講和をしたという記事が載っていた。


 特定候補への投票の呼びかけはなかったとのことである。


 しかし、民事裁判の世界では、直接口に出さなくても、そのときの様々な事実関係から、言ったのと同じであると評価される場合には、「黙示の意思表示があった」「黙示の合意があった」と言われることがある。


 また、刑事裁判でも、共謀共同正犯の認定において、口に出して犯行の打ち合わせしなくても、周囲の状況から「共謀があった」と認定されることはよくある。


 報道された件では、防衛局長が、選挙管理委員会でもないのに、職員をわざわざ集めて投票しろというのだから、黙示的に特定候補への投票依頼をしたのと同じと評価されても仕方ないであろう。


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