今日の日経を題材に法律問題をコメント

2011年12月28日(水) 第三者が参加できず、非公開の設定だけで十分か

 日経(H23.12.28)社会面で、裁判員裁判に関する個人情報を弁護士が誤ってインターネット上に掲載した問題で、最高裁は、日本弁護士連合会に対し、事実関係を調査して説明するよう申し入れたと報じていた。


 最高裁からこのような申し入れがあること自体、日弁連としては情けないことであるが、仕方ない。


 日弁連も危機感を持っており、会員弁護士に、「メーリングリスを使う場合には、第三者が参加できず、非公開の設定にするよう」に指示を出した。


 しかし、それだけでは不十分ではないかと思う。


 そもそも、メーリングリストでの情報交換は有用であるが、具体的な氏名まで明らかにする必要はないはずである。


 それなのに公開されたのは、書面をファイル添付して安易に情報交換したからであろう。


 それゆえ、ファイル添付を禁止するくらいはしないと、事故の再発は防げないのではないか。



2011年12月27日(火) 弁護士が「誤って」強姦事件の被害女性の氏名などを掲載

 日経(H23.12.27)社会面で、弁護士が誤って、裁判員裁判に関する個人情報をインターネット上に掲載した事例が見つかったとして、日本弁護士連合会が会員に注意喚起する文書を送ったという記事が載っていた。


 東京地裁での強姦致傷事件の被害女性や裁判員候補者の氏名などがネット上の掲示板に掲載され、外部のアクセスを禁じる設定になっていなかったそうである。


 日弁連からの文書によれば、弁護団のメーリングリストをつくり、そこに送信したが、そのメーリングリストは外部アクセスが可能な設定になっていたようである。


 裁判員裁判の場合、複数の弁護士で受任するので、その連絡のために使ったのかもしれない。


 しかし、たとえ外部アクセス禁止の設定をしていたとしても、被害女性や裁判員候補者の氏名をネット上に載せるべきではないだろう。


 便利さよりも重視すべきことがあるはずである。


 氏名を掲示された人のことを考えると、「誤って掲載した」では済まない問題である。



2011年12月26日(月) 福島原発の損害賠償 弁護士費用はどうなる

 日経(H23.12.26)社会面で、福島県双葉町が、東京電力に対して福島第1原発事故による損害賠償を請求する弁護団を結成したという記事が載っていた。


 町民から、「申請書類が膨大で煩雑」との苦情を受けてのことのようであるが、この弁護士費用はだれが負担するのであろうか。


 一般的に、不法行為に基づく損害賠償請求の場合、弁護士に依頼して訴訟をすれぱ、弁護士費用の一部は(請求額の10%が一応の基準)、損害として認められる。つまり、その分は加害者負担となる。


 同じように原発事故による損害賠償について、弁護士に依頼して請求した場合、弁護士費用が損害として認められるのだろうか。


 気になるところである。



2011年12月22日(木) 警察が「暴力団関係者」かどうかを回答

 日経(H23.12.22)夕刊で、暴力団排除条例が暴力団との関係を断つよう規定していることを受け、警察庁は、「相手が条例上の暴力団関係者に当たるかどうか」について問い合わせがあれば照会に応じることを決めたという記事が載っていた。
 

 これまでも、警察は、暴力団員や準構成員、元暴力団員に関する情報を提供してきていたようてある。


 しかし、それは暴力団による犯罪などの防止や、暴力団組織への打撃につながる場合に限定していたはずである。


 それに比べて、今回は情報提供するケースや対象者がほぼ無限定になるのではないか。

 
 もし警察の認定が誤っていた場合、間違って暴力団関係者とされた人の名誉はどうなるのだろうか。



2011年12月21日(水) 「ウィニー」開発者に無罪確定

 日経(H23.12.21)社会面で、ファイル共有ソフト「ウィニー」を開発し、違法コピーを容易にしたとして、著作権法違反ほう助罪に問われた元東大助手の金子被告に対し、最高裁は、無罪とした二審判決を支持する決定をしたと報じていた。


 無罪が確定するわけで、落ち着くところに落ち着いたというところである。


 ほう助というのは犯罪を助けることであるが、どこまでがほう助に当たるのかの外延はあいまいである。


 最高裁は、「著作権侵害に使われる一般的可能性があったというだけでは、ほう助に当たらない」としたものであり、ほう助の外延を広げすぎないという意味では評価できると思う。



2011年12月20日(火) ゼロワン地域が解消

 日経(H23.12.20)夕刊で、地方裁判所の支部があるのに弁護士がゼロか、1人しかいない「ゼロワン地域」の最後の地域だった旭川地裁紋別支部管内に、2人目となる弁護士が登録を済ませたという記事が載っていた。


 これにより、ゼロワン地域がすべて解消されたことになる。


 日弁連は1996年にゼロワン地域解消の取り組みを始めたが、その時点ではゼロワン地域は78カ所もあった。


 理念は素晴らしいが、実現できるのだろうかと思ったが、15年でゼロワン地域を解消した。


 手前味噌かもしれないが、すばらしいことだと思う。



2011年12月19日(月) キセル乗車に電子計算機使用詐欺罪を適用

 日経(H23.12.19)社会面で、JR線でキセル乗車をしたとして、警視庁公安部は、男性2人を電子計算機使用詐欺容疑で逮捕したという記事が載っていた。


 キセル乗車に電子計算機使用詐欺罪を適用して逮捕するのは全国初とのことである。


 キセル乗車にはこれまで詐欺罪が適用されていた。


 今回は、自動改札口を通過したため電子計算機使用詐欺を適用したのだろうが、詐欺罪の適用も可能なはずである。


 同種の行為には同じ罪を適用した方が法的安定性があると思うのだが。



2011年12月16日(金) 検事が、捜査報告書に事実と異なる記載

 日経(H23.12.16)社会面で、政治資金規正法違反で強制起訴された小沢一郎民主党元代表の公判で、石川議員を取り調べた田代検事が、捜査報告書に事実と異なるやりとりを記載したことを認めたという記事が載っていた。


 捜査報告書には、石川議員が「小沢元代表に虚偽記入を報告し、了承を得た」という捜査段階の供述内容を維持したことについて、同検事から「ウソをつくようなことをしたら選挙民を裏切ることになる」などと言われたのがきっかけと記されていた。


 ところが、実際にはそのようなやり取りはなかった。


 つまり、石川議員が供述を維持した動機について、虚偽の記載をしていたことになる。


 石川議員の供述部分は伝聞証拠であるから、裁判では直ちには使えないにしても、検事が事実と異なることを記載するのは極めて問題である。


 石川議員がテープで録音していたから、虚偽の記載の事実が明らかになったのであり、テープがなければ、そのようなやり取りがあったということで通ってしまったであろう。


 実際には無かったやりとりを報告書に書いた点について、検事は「記憶が混同してしまった」と釈明したそうであるが、果たしてそうだろうか。



2011年12月14日(水) 時効にかかっているのでは

 日経(H23.12.14)社会面で、鈴木宗男元衆院議員が、北海道開発局の元港湾部長が公判で偽証したとして、元部長に3300万円の損害賠償を求めて、東京地裁に提訴したという記事が載っていた。


 裁判では「元部長に偽証は認められない」として請求棄却されるだろうと思われる。


 それゆえ、時効の有無は問題にならないだろう。


 ただ、一審判決は、2004年11月であり、元部長が証言したのはその前であるから、3年の時効にかかっているのではないだろうか。


 もっとも、訴える側はその点には配慮しており、「虚偽の証言で実刑が確定し、政治家として致命的打撃を受けた」として、結果発生(時効の起算日)を後にずらしている。


しかし、それはかなり無理があるように思う。



2011年12月13日(火) 更新料が無効になるケースはほとんどないであろう

 日経(H23.12.13)夕刊で、賃貸借契約の更新料について書いていたが、その中で「家賃や契約期間などに照らしてあまりに高額すぎるなど特段の事情がある場合は無効の可能性もあります。」としていた。


 間違いではないが、実際には更新料が高額すぎて無効というケースはほとんどないのではないか。


 更新料は、2年か3年の契約更新時に、賃料の1か月分というのが多いが、最高裁は、1年ごとに家賃の2カ月分の更新料を支払う特約を有効としたからである。


 結局、最高裁の考え方を前提とする限り、「更新料特約は有効」と言い切ってもよいと思う。



2011年12月12日(月) 改正民法が会社法のようにならないように

 今日は休刊日のため昨日の日経(H23.12.11)であるが、19面で、民法の改正作業について書いていた。


 改正作業担当者の内田貴教授によれば、民法改正の理由の一つとして、「確立した判例のルールを条文にし、一般の人が理解できるようにして法務コストを減らす。」という点を挙げているそうである。


 「一般の人が理解できるように」という目的は正しいと思う。しかし、それが「法務コストを減らす」ことにはならないのではないか。


 条文の表現をどのようにしても、専門分野なのであるから高校生が読んでも分かるというわけにはいかない。


 また、企業としても、専門家に依頼してそのお墨付きが欲しいであろう。


 したがって、どのような改正しても「法務コストの削減」には結びつかないであろうし、そのようなことを民法改正の目的にする必要はないのではないか。


 そもそも民法改正で「一般の人が理解できるように」なるのだろうかということ自体を懸念している。


 というのは、会社法だって一般の人が読むのであるが、解説書を読まない限り、絶対に理解できないようになってしまったからである。


 民法もそのようにならないことを願っている。



2011年12月09日(金) インターネットを巡る消費者相談が急増

 日経(H23.12.9)夕刊面で、インターネットを巡る消費者相談が急増しているという記事が載っていた。


 ここ数年はアダルトサイトを巡り女性が相談するケースや、60歳以上の高齢者が出会い系サイトの被害に遭っているのが特徴とのことである。


 国民生活センターは「思わぬ有料メール課金にまで法律の網がかからない。身に覚えのない高額な請求を受けた場合は、すぐに相談してほしい」と注意を呼び掛けているそうである。


 最近は、利用者が年齢認証などに応じて計4回クリックすると、アダルト画像付きで消去できない請求画面を表示する4クリック詐欺が主流らしい。


 先日、4クリック詐欺をしたとして、風営法違反容疑で暴力団員らを逮捕したことが報じられていた。


 ただ、被疑者は「有料と表示していた。だましていない」などと言って容疑を否認しているそうであり、有罪になるかどうかは分からない。


 もし処分保留で釈放になると、4クリック詐欺は勢いづくだろう。


 私もときどき相談を受けることがあり、潜在的被害は多い。


 やはり、何らかの新たな規制が必要ではないだろうか。



2011年12月08日(木) 刑事事件で「バランスをとった」判決は許されない

 日経(H23.12.8)夕刊面で、顧問先の会社に資産隠しを指南したとして、強制執行妨害罪に問われた弁護士の安田好弘被告について、最高裁は、被告側、検察側双方の上告を棄却する決定をしたという記事が載っていた。


 これにより、強制執行妨害罪ほう助罪と認定して罰金50万円とした二審判決が確定する。


 二審判決では、「安田弁護士は不動産会社の社長らに対し、所有ビルの賃料の差し押さえを逃れるため、賃料振込先を別口座にするよう指南した」と認定している。


 これは通常であれば、「ほう助」ではなく、「共謀共同正犯」と認定される事案であろう。


 しかるに、「ほう助」という、共同正犯より軽い罪に認定して、罰金刑に処した。


 罰金刑であれば安田被告は弁護士資格を失わなくて済むことになる。


 検察官と被告の両方の顔を立てた、バランスをとった判決と言われるゆえんである。



2011年12月07日(水) 企業はどこかで利益を得なければならない

 日経でなく、朝日(H23.12.7)夕刊で、飲食店などでインターネットの無料接続サービスを提供している会社「コネクトフリー」が、利用者がどのサイトを見たかといった情報を無断で集めていたという記事が載っていた。


 本来はサイトの開設者が受け取るはずのネット通販の広告料を、不正に受け取っていた疑いもあるとのことである。


 この会社が行っているのは、飲食店などに中継機器を置くことによって、店舗を訪れたスマホなどの利用者が無料でネットを使えるようにするサービスである。


 この種のサービスを提供している会社では、ある程度利用者がいることを条件に、飲食店からも設置費用を取らないようである。


 しかし、企業であるからどこかで利益を得なければならない。


 それが、利用者がどのサイトを見たかといった情報を無断で集めたり、サイトの開設者が受け取るはずのネット通販からの広告料を不正に受け取ることで利益を得ていたとは。


 とくに、報道のとおり、サイトの開設者が受け取るはずの広告料を不正に受け取ってたとすると、詐欺に該当するのではないかと思われる。(ぎもう行為は、プログラムを書き込むことによって、ネット通販者に対して、正当な権利者と錯誤に陥らせる行為であろう。)



2011年12月06日(火) なんでも訴訟することが『法化社会』なのか

 日経(H23.12.6)社会面で、巨人のコーチ人事を巡り、清武前球団代表が渡辺恒雄・球団会長を批判した問題で、巨人と読売新聞グループ本社が、球団批判で名誉、信用を傷つけられたとして、清武前代表に計1億円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こしたと報じていた。


 清武前代表の行為は、取締役の行為としては許されないものである。


 しかし、名誉棄損が成立するかどうかは微妙ではないだろうか。


 公共性、公益性及び摘示した事実が真実と信じるに足りる相当の理由があるという要件を充たす可能性はあると思うからである。


 しかし、そもそも世間では内輪もめと見られている事件を、わざわざ訴訟を提起してまで解決することが妥当なのだろうか。


 『法化社会』ということがしばしば言われる。


 法化社会の定義を「紛争が生じたら法を使って解決していこうと人々が考える社会」と捉える立場がある。


 このような定義によれば、読売グループによる訴訟も肯定的に評価されるかもしれない。


 しかし、『法化社会』とは、行政国家に対する対抗概念、あるいは、紛争を暴力団など法律外の力に頼らない社会と捉えるべきでないだろうか。


 そのように『法化社会』を捉えるならば、何でも裁判に訴えるのは法化社会とはいえないことになるだろう。


 読売新聞は、日本を代表する新聞のひとつなのだから、内輪の争いにを裁判で解決しようとする前に、法化社会とは何かについてきろんと議論しておくべきではないだろうか。



2011年12月05日(月) 共有は避けた方がいい

 日経(H23.12.5)首都圏版で、東日本大震災のよる液状化現象で家が傾いた浦安のタウンハウスで、修理や建て替えの協議が難航しているという記事が載っていた。


 タウンハウスというのは、一戸建てが長屋のようにくっ付いたようなもので、一戸建ての価格ほどはしないが、一戸建ての感覚で居住できるというメリットがある。


 しかし、単独所有でないので、地震で傾いた場合の修理費用や立替について単独で決めることができない。


 このようなタウンハウスだけでなく、一戸建てでも相続によって共有になる場合がある。


 また、夫婦で共有にしている場合もある。


 あるいは、隣地との境界上にある塀が共有になっている場合もある。


 それぞれ事情があるわけで一概に否定できないが、一般的に言って、共有というのは避けた方がいいと思う。


 いまはよくても、世代が変わると関係も変わってくる。


 そうすると、協議がうまくできず、何もできなくなることがあり得るからである。



2011年12月02日(金) 一度けちが付いているだけに

 日経(H23.12.2)4面で、経営破綻した消費者金融武富士の事業再開に暗雲が垂れこめてきたと報じていた。


 スポンサーである韓国消費者金融大手の資金繰り懸念が浮上し、また必要な従業員も確保できていないためである。


 もともと、武富士の管財人は、武富士の会社更生申立代理人がそのまま就任するという異例の事態となっており、個々の弁護士だけでなく、各地の弁護士会までも非難している。


 スポンサーの資金繰り悪化は、管財人のせいではないだろうが、一度けちがついているのだけに、スポンサー選定の妥当性まで非難されかねないであろう。



2011年12月01日(木) 合わせて懲役60年の求刑

 日経(H23.12.1)社会面で、静岡地裁沼津支部において9件の強姦致傷罪などに問われた被告に対し、検察側は2001〜08年の5件と、09〜10年の4件について、それぞれ懲役30年とし、合わせて懲役60年を求刑したという記事が載っていた。


 この被告は2009年に窃盗罪で有罪判決を受けており、その判決の前後でそれぞれ犯罪を起こしているから、刑は別々になる(併合罪とならない)。


 したがって、合計で懲役60年の求刑になってもおかしくはない。


 しかし、かりに判決が求刑通り懲役60年だったとすると、実際には無期懲役よりも長い受刑期間になるであろう。


 そのような、更生の意欲をなくしかねない終身刑のような刑がいいかは疑問である。


 裁判所はどのような判決をするのだろうか。


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