2011年03月31日(木) |
裁判員裁判で無罪事件 高裁で逆転有罪判決 |
日経(H23.3.31)社会面で、チョコレート缶に隠した覚醒剤を密輸しようとしたとして覚せい剤取締法違反罪などに問われ、一審の裁判員裁判で全国初の全面無罪判決を受けた事件の控訴審で、東京高裁は、「被告の供述は信用しがたい」として一審判決を破棄し、懲役10年、罰金600万円の逆転有罪を言い渡したと報じていた。
被告人は「(覚せい剤が)缶の中に入っていることは知らなかった」と主張しており、一審の裁判所は、検察官は「知っていた」ことの立証できていないとした。
今回の逆転有罪とした裁判に対し、市民感覚を否定するものであると批判する立場もある。
しかし、証拠の認定に誤りがある以上、裁判員裁判であっても正すべきという立場もあり得るわけで、現時点での評価は難しい。
結局は、いろいろな裁判を通じて、裁判員裁判のあり方は次第に定まっていくのだろう。
2011年03月30日(水) |
裁判員裁判の無罪、初の破棄差し戻し |
日経(H23.3.3.)社会面で、アパートで現金を盗んだ上、放火したとして、現住建造物等放火などの罪に問われ、一審の裁判員裁判で放火について実質無罪判決を受けた事件で、東京高裁は、一審判決を破棄し、審理を東京地裁に差し戻したという記事が載っていた。
被告人は、かつて窃盗した上で放火をした前科があったが、一審では、不当な予断を抱くとして、放火の前科に関連する証拠を認めなかった。
ところが、控訴審判決では「灯油をまいて放火を繰り返していた点などが今回の事件と似ており、前科について審理しなかった一審の判断は違法」としたものである。
この事件は一審を担当しているだけに、控訴審の判断へのコメントは差し控えるが、前科の立証についての重要な法律問題を含んでいるので、最高裁で判断されることになるだろう。
2011年03月29日(火) |
地震の影響で容疑者を釈放 |
日経(H23.3.29)夕刊面で、福島地検いわき支部が、震災の影響で容疑者の身柄の安全確保や被害者からの聴取が困難になったとして、容疑者十数人を釈放という記事が載っていた。
釈放対象となった逮捕容疑は強制わいせつ、覚せい剤取締法違反など軽微な事件だそうである。
処分保留なので、今後捜査して起訴することは可能であるが、実際上、再捜査は難しいだろう。
2011年03月28日(月) |
地震で会社を休業した場合の従業員の賃金 |
日経(H23.3.28)14面で、地震で会社を休業した場合の従業員の賃金の取り扱いについて書いていた。
一般的に言えば、地震で工場が壊れるなど、休業が不可抗力の場合には賃金は支払う必要がない。
他方、地震で部品供給が止まったがが、他の代替手段があるのに安易に休業するような場合には、使用者に責任があり、6割の休業手当を支払う必要がある。
ただ、一般的にはそのように言えても、具体的適用の場面になるとなかなか難しい。
厚生労働省でも、地震に伴う休業手当の取り扱いについて発表しているが、やはり大まか基準を示しているだけである。 http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000014tr1-img/2r98520000015fyy.pdf
また、使用者に責任がなく、休業手当を払わなくてよいケースとされた場合であっても、従業員は無給になるのだから、それをどうするのかという問題が残る。
雇用調整助成金制度、失業給付の活用などが考えられるが、行政による対策が必要であろう。
2011年03月25日(金) |
最高裁は「敷引き特約」を有効と初判断 |
日経(H23.3.25)社会面で、賃貸住宅の契約終了時に、貸し手が原状回復費用などを理由に敷金から一定額を引き去る「敷引特約」が有効かどうかが争われた訴訟で、最高裁は「敷引金が高額過ぎなければ有効」とする初判断を示したと報じていた。
敷引特約は関西を中心に普及しているが、関東でも、契約終了時に敷金の20%から50%を償却する契約を見ることはあるので、関西特有というわけでもなさそうである。
敷引特約は借主にとって酷なようであるが、しかし契約書には敷引きすることを明記しており、賃借人はそれを承知をして契約したといえる。
それだけに、有効かどうかについて下級審の判断は割れていた。
この問題について最高裁は「敷引金が高額過ぎなければ有効」とした。
今後は、敷引金が高過ぎるか否かが問題になる。
ただ、今回の事案は月9万6000円の家賃に対し、居住年数に応じて敷引金を18万〜34万円とする契約内容であったが、最高裁は、「敷引金は家賃の2倍から3.5倍にとどまり、高過ぎるとはいえない」としている。
そうすると、ほとんどの敷引き特約は有効とされるだろう。
2011年03月24日(木) |
2008年の衆院選 違憲状態 |
日経(H23.3.24)1面で、2009年8月の衆院選について、最高裁大法廷は、格差は「憲法に反している状態」としたが、選挙無効請求は棄却したと報じていた。
判決では、小選挙区の定数を最初に都道府県に1議席ずつ割り振る「1人別枠方式」が定数の人口比例配分をゆがめていると指摘している。
最高裁は、参議院については地域代表的性格を認めているが、衆議院についてはそのような性格をもともと認めていないから、都道府県に1議席ずつ割り振ることは、当然認めないであろう。
しかし、いつもいつも「違憲状態」と宣言するだけで、国会の対応を待つというには限度がある。
2011年03月23日(水) |
それぞれが専門技術・知識を生かして助け合う |
日経(H23.3.23)社会面で、岩手県陸前高田市の避難所で、被災した市内の歯科医師らが臨時の歯科診療所を開設したという記事が載っていた。
それぞれが自己の専門技術・知識を生かして助け合っている。
日本弁護士連合会も、被災者を対象とする無料の電話相談を受け付けることになっている。
現在は生活支援自体が大事であるが、今後、生活再建のために様々な法律問題が生じてくることは間違いなく、何かの手助けができればという思いである。
2011年03月22日(火) |
敷地の流されてきた漂流物の法的処理 |
昨日の日経でなく読売(H23.3.21)で、「うちの敷地に流されてきた、誰かの車や家財道具を処分していいか」という相談が宮城県環境対策課に寄せられていると報じていた。
担当者は「止めもしないし、お勧めもしない」とあいまいな回答をしているそうである。見た目には「ゴミ」でも、当事者が「財産だ」と主張する可能性があるからである。
このような問題については、根本的には、家屋残骸等の迅速な除去処分について、他人の財産権との関係を調整した特別立法を制定して解決を図るべきであろう。
すでに、弁護士の間でそのようなアイデアが出ているそうである。
ただ、当面の施策として、「止めもしないし、お勧めもしない」という回答では、相談する側は困るだろうし、この緊急時に行政として無責任ではないか。
行政としては、現状をビデオに撮るなどして「ゴミ」であることを証拠化し、万が一、「財産だ」と争われたから、裁判でも受けて立つ覚悟の上で、「除去してよい。すべて行政が責任を取る」という回答をすべきではないかと思う。
2011年03月18日(金) |
法律は土葬を禁じていない |
日経(H23.3.18)1面で、東日本巨大地震の死者・行方不明者が1万5000人を超えたと報じていた。
このうち死者は約5600人であるが、今後も増えることは確実である。
これだけの数だと火葬場の能力を超えており、その上、地震による被災や燃料不足などで、火葬場は稼働さえできない状況のようである。
そのため、宮城県では土葬を容認することを決めたらしい。
もともと、墓地埋葬法では、土葬の条件を定めているだけで、土葬自体は禁止していない。(条例で禁止しているところはある)
その条件の一つとして、土葬は墓地以外で行ってはならないとしている。
しかし、既存の墓地には土葬の余裕はないであろうし、寺院にある墓地は土葬を認めないだろう。
結局、新たに墓地を造ることになると思われる。
2011年03月17日(木) |
各国の駐日大使館は帰国勧告 |
日経(H23.3.17)5面で、福島第1原発の事故を受け、各国の駐日大使館は、日本に滞在する自国民に帰国勧告などの対応策を打ち出していると報じていた。
昨日は、中国の方から、再入国のビザなしで帰国して大丈夫だろうかという相談を受けたが、それほどあわてて帰国しているようである。
中国へのチケットは普段は5万円以下なのに、現在、15万円から20万円になっていると言っていた(事実確認はしていないが)。
2011年03月15日(火) |
情報は不利なものでも開示したほうがよい |
日経(H23.3.15)はほとんど地震のニュースであり、とくに福島第一原発の問題が大きく取り上げられている。
福島第一原発については情報が足りないため、本当は極めて深刻な事態になっているのに、パニックを恐れて情報を隠しているのではないかと懸念する声もある。
隠しているかどうかは分からないが、一般的には、不利な情報であっても伝えた方がよいといえる。
遺産分割協議でよく問題になるのだが、共同相続人間で話し合いをする際に、こちらに不利な情報も含めてすべて相手方に知らせないと、「何か隠しているのではないか」と不信感を抱かれてしまい、話し合いがうまくまとまらない。
そして、いったん不信感を抱かれてしまうと、それを解消することはなかなか難しい。
その意味で、福島第一原発でも、現場の状況を映像で流した方がよいのではないかと思うのだが(映像を送る通信手段がないのかもしれないが)。
2011年03月14日(月) |
地震被災地区の裁判を取りやめ |
日経(H23.3.14)社会面で、地震被害のため、岩手、宮城、福島3県で14日から18日までに予定されていたすべての裁判を取りやめると報じていた。
当然の措置であろう。
今日、東京地裁の法廷に行ったが、裁判所は閑散としており、相当数の裁判が延期になったようだ。
2011年03月11日(金) |
死刑によって「更生の機会がなくなる」のか |
日経(H23.3.11)社会面トップで、男性4人が殺害された連続リンチ殺人事件で、最高裁は当時18〜19歳の被告3人の上告を棄却し、死刑が確定へと報じていた。
これに伴い、日経新聞では、元少年を匿名から実名に切り替えるとのことであるが、その理由として、「死刑判決が下された重大性に加え、被告の更生の機会がなくなることを考慮した」と書いていた。
確かに、『更生保護』とは、社会内において適切な処遇を行うことであるから、死刑判決となれば「更生の機会がなくなる」としても間違いではない。
しかし、死刑執行のときまで更生を図ることは可能であるし、死刑囚はそのような思いで生きているのではないだろうか。
そうであるのに、死刑判決によって「更生の機会がなくなる」と表現するのはいかがなものであろうか。
2011年03月10日(木) |
海賊事件について日本側が捜査 |
日経でなく朝日(H23.3.10)1面トップで、ソマリア沖で日本のタンカーが海賊に乗っ取られた事件で、日本政府は、米軍が拘束した4人を逮捕する方針を固め、具体的な移送手続きの検討を始めたと報じていた。
今後は、日本で取調べを受けることになるであろう。
通常の捜査であれば、乗っ取られた船舶について現場検証し、乗組員からも事情聴取する。
しかし、船舶は日本に立ち寄る予定はないそうであり、また船員はクロアチア人船長ら24人全員が外国人とのことである。
そのような状況で、海賊行為の証拠を23日の逮捕・勾留期間内で収集できるのだろうか。
証拠不十分で釈放になるおそれさえあるように思われる。
2011年03月09日(水) |
無罪で釈放直後に、別事件で逮捕 |
日経(H23.3.9)社会面で、覚せい剤事件で、横浜地裁が「違法な捜査」があるとして、覚せい剤の陽性反応が出た鑑定書を証拠として認めず無罪にしたが、被告人が釈放された直後に、警察は、別事件の窃盗と傷害容疑で逮捕したという記事が載っていた。
覚せい剤で無罪になったからといって、窃盗と傷害の事実があるならば、逮捕は当然である。
ただ、容疑事実は、万引きして、追い掛けてきた警備員を暴行し、あばら骨を折るなど2週間のけがをさせたというものである。
万引きをして追い掛けてきた警備員に暴行したのであれば、強盗致傷になるはずであるのに、なぜ窃盗と傷害にしたのであろうか。
また、あばら骨が折ったのに、たった2週間のけがというのも不思議である。
何だかよく分からない事件である。
2011年03月08日(火) |
入試問題のインターネット質問サイト投稿事件で、同志社大学が被害届だ出さず |
日経(H23.3.8)夕刊で、大学入試問題がインターネットの質問サイトに投稿された事件で、同志社大が警察に被害届を出さない方針を決めたと報じていた。
大学によれば、「容疑者が未成年であり、大学としての被害も軽微。複数関与の組織的な犯罪の可能性もうかがえない。教育機関として更生に期待したい」とのことである。
当初は、入試システムの根幹を脅かす犯罪と思われたが、実際は単独犯で稚拙な犯罪であった。
つまり事件は、「入試システムの根幹を脅かす」ものではなく、刑事事件とするほどの悪質性はないことが明らかになった。
被害届を出さないという同志社大の判断は尊重したいと思う。
日経(H23.3.7)17面で、企業で発覚した不祥事の調査という特命を帯びた公認会計士が活躍する事例が増えているという記事が載っていた。
その中で、ある会計士は「相手に共感し信頼を得たうえで自白に導く」と心理術を駆使するそうである。
これは捜査における取り調べの手法に似ている。
取調官も、まずは被告人と信頼関係を創ることを重視することが多い。
そして信頼関係を築いた上で、最後になって(『最後』というのは、勾留期間満了日)、「おまえ、(否認しているが)それでいいのか」と迫る。
これで一挙に落ちる。
しかし、このような手法は自白させるための手法に過ぎず、真実信頼関係があるわけではない。
弁護人としては、裁判にあたって、被告人にそのことを言うのだが、被告人は受け入れないことが多い。
それほど取調官を信頼しているのである。
弁護人からすれば、心理操作ではないかと言いたいところであるが、その手法には感服するしかない。
2011年03月04日(金) |
入試問題の投稿事件 予備校生を逮捕 |
日経(H23.3.4)社会面で、京都大の入試問題をインターネットの質問サイトに投稿した事件で、京都府警は、仙台市の男子予備校生を偽計業務妨害の疑いで逮捕したと報じていた。
犯行の隠滅工作をしていなかったため、あっさり身元が割れてしまった。
単独犯のようであり、集団でのカンニングに比較するならば悪質性はないように思う。
少年なので、今後、家庭裁判所に送致されて処分されることになるが、保護観察処分で済むだろう。
頑張って、来年、大学に進学できればいいのだけど。
2011年03月03日(木) |
裁判員裁判の判決への検察官控訴に対し、控訴棄却 |
日経(H23.3.3)社会面で、対立する暴力団組員を射殺したとして、一審の裁判員裁判で懲役30年の判決を受けた暴力団組員の控訴審判決で、東京高裁は、検察側、弁護側双方の控訴を棄却したという記事が載っていた。
この事件で、検察側は一審で無期懲役を求刑したが、判決が懲役30年であったため、裁判員裁判で初めて量刑不当を理由に控訴していた。
しかし、控訴審は、検察官の控訴を棄却し、裁判員裁判の判断を尊重した形になった。
検察側が量刑不当で控訴するときには、過去の類似事件を大量に集めて、それらに比べて本件では極めて刑が軽いという主張をする。
それに対し、裁判所は、検察官の資料にたじたじとなるのかどうかは知らないが、検察官の量刑不当の主張に耳を傾けることが多い。
弁護側からみれば、弁護人の量刑不当の主張にはほとんど耳を傾けないのに、なぜ検察官の量刑不当に耳を傾けるのかという不満があるにはある。
ただ、公平に見ると、検察官が量刑不当で控訴する事案は、「確かに一審の刑は軽いなあ」と思う事件が多い。
しかし、今回、控訴審は、検察官の量刑不当の主張を認めなかった。
そこには、裁判員裁判の判断をできるだけ尊重しようという姿勢が示されており、それは今後も変わらないだろうと思う。
2011年03月01日(火) |
ネットに入試問題を投稿したことが刑事事件に発展 |
日経(H23.3.1)3面で、大学の入試問題がインターネットの質問サイトに掲載された問題は、刑事事件に発展する見通しと報じていた。
被疑事実は『偽計業務妨害罪』となるようだ。
『偽計業務妨害罪』とは、他人の錯誤や不知を利用して、または詐罔、誘惑の手段を弄して業務を妨害することである。
例えば、競合店の駅弁業者が不潔・非衛生であるとウソの内容を書いたはがきを国鉄に送ったような場合がこれに当たる。(実際の判例である)
このような場合に偽計業務妨害罪が成立するというのは分かりやすい。
ただ、「偽計」については、判例上相当広く解されている。
そのため、ネットに入試問題を投稿して正解を得て、解答用紙を提出したとするならば、それは「偽計」と該当すると思われる。
刑事事件になると強制捜査が可能であるから、いずれ事実が明らかになるだろう。
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