今日の日経を題材に法律問題をコメント

2011年01月31日(月) 幻冬舎のMBOに対抗する投資ファンド

 日経(H23.1.31)16面[法務インサイド」で、出版社の幻冬舎が実施中のMBO(経営陣が参加する買収)に関し、「制度信用取引における議決権の行使について、法的に未決着の部分が多い。」と書いていた。


 幻冬舎役員によるMOBに対し、対抗する投資ファンドが表われ、株主総会での特別決議が否決できる3分の1超の幻冬舎株を取得したそうである。


 ただ、この投資ファンドは、幻冬舎株の大半を制度信用取引で取得しているため、議決権を行使できない。


 この件で議決権を持っているのは立花証券であるが、権利行使が可能かが問題となっている。


 制度信用取引において証券会社が議決権行使をすることには違和感があるが、権利行使を否定する理由は特段ないように思う。


 問題は、証券会社が議決内容を自由に決めていいのか、それとも投資ファンドの意向に従う必要があるのかである。


 この点、記事では「立花証券が行使する場合も、実質的に投資ファンドが行使するのと変わらなければ、制度信用取引が想定していない事例である」としていた。


 つまり、投資ファンドの意向に従った権利行使は許されないということだろう。


 しかし、これは証券会社と投資ファンドとの契約内容によって決まる問題であり、一律に「許されない」とはいえないのではないだろうか。



2011年01月28日(金) 君が代強制 合憲の判断

 日経(H23.1.5)社会面で、東京都立高の教職員らが、入学式や卒業式で国旗に向かって起立し、国歌斉唱する義務がないことの確認などを求めた訴訟で、東京高裁は、都教育委員会による義務付けを違憲とした一審判決を取り消し、都側の逆転勝訴となったと報じていた。


 東京高裁の結論は、今の社会通念に合致するもので、穏当な判断であろう。


 しかし、原告らにとって、国旗に向かって起立し、国歌斉唱をすることは、自らの思想良心に反することは間違いない。

 
 それにもかかわらず、それを強制することが、その教諭らの思想良心の自由を侵害するのではないかが問題になっている。


 教諭が君が代のピアノ伴奏を強制された事件で、最高裁は、「そのような強制が、教諭の歴史観ないし世界観自体を直ちに否定するものとは認められない」という言い方をしている。


 しかし、結論を述べただけであり、説得力に欠ける。
 

 この問題は、判例上、違憲でないということで決着がついたようであるが、理論的にはなかなか難しい問題を含んでいるように思う。



2011年01月27日(木) 高齢者の万引きが増加

 日経(H23.1.27)社会面で、2010年に万引きで摘発した65歳以上の高齢者は2万7362人で、前年より343人(1.3%)増えたと報じていた。


 高齢者全体の増加率を考慮すると「増加」とはいえないかもしれないが、減少してないことは間違いない。


 食品や衣料品を盗むケースが多く、警察庁では経済苦や孤独が背景にあるとみているそうである。


 「経済苦」は理由として分かるが、「孤独」というのはどうだろう。


 動機を聞かれたとき「寂しかったから」と言うことはあるだろうが、それが本当の理由かどうかはよく分からない。


 むしろ軽度の認知症が原因となっていることが多いのではないだろうか。


 仮にそうであれば、認知症のケアこそが対策として重要になると思う。



2011年01月26日(水) 定数不均衡訴訟 全国14高裁・支部すべてで訴訟提起

 日経(H23.1.26)社会面で、弁護士グループが、昨年7月の参院選について、「1票の格差」は違憲として選挙無効を求めた訴訟で、3つの高裁・支部で判決が言い渡されたという記事が載っていた。


 高松高裁は「違憲」、仙台高裁秋田支部と福岡高裁那覇支部は「違憲状態」と判断したようである。


 この訴訟は全国の14高裁・支部すべてで起こされており、高裁での判断が出揃った後、最高裁で審理される。


 それにしても感心するのは、この訴訟を手弁当で続けている弁護士グループの人たちである。


 報酬がないのはもちろん、全国で訴訟する以上、諸経費もそれなりに必要であろう。


 信念だけでやっているということなのだろう。



2011年01月25日(火) 担任が保護者を訴えた事件 請求額は500万円

 日経でなく朝日(H23.1.5)首都圏版で、保護者のクレームで不眠症に陥ったとして、クラス担任教諭が、児童の両親を相手に慰謝料を求める訴訟を起こした事件で、この教諭が児童の担任を外れたと報じていた。


 この事件では、訴訟を提起したことの是非が問題になっている。


 事実関係が分からないので訴訟提起したこと自体は何とも言えないが、慰謝料請求額が500万円というのは少し気になった。


 名誉棄損の慰謝料は500万円が一つの相場になっているから、この事件は名誉棄損ではないにせよ、500万円を請求することが不当とは思わない。


 ただ、訴える側の弁護士としては、「金が欲しいのか」という言われのない批判も気にするところである。


 かと言って、あまり少ない請求額だと、「受けた被害はその程度なのか」と思われても困る。


 そういうことをあれこれ考えると、私だったら請求額は300万円程度にしてはどうかとアドバイスするかなあと思った。



2011年01月24日(月) 自転車の保険制度

 日経(H23.1.5)5面「領空侵犯」というインタビュー形式のコラムで、山内大学教授が「強制保険制度の導入を提案したい。自動車と同様、自転車も保険加入を求める」という意見を述べていた。


 私もそう思う。


 自転車と歩行者との事故は増えており、とくに高齢者が被害に遭うとケガの度合いが高くなり、賠償金も高額になりがちである。


 ところが、自転車の事故は保険でカバーできないため、被害者が泣き寝入りすることが多く、裁判でも問題になっている。


 自動車のような手厚い制度は無理かもしれないが、人身被害のみの保険で最高500万円程度の保険制度ができないものかと思う。



2011年01月21日(金) 表現の自由をどれほど重視するかで世代間の相違?

 日経(H23.1.21)夕刊で、田原総一朗氏のテレビ番組での発言をめぐる訴訟で、神戸地裁が田原氏側が発言の根拠とする取材テープ提出を命じたところ、大阪高裁は、地裁決定を取り消し、提出命令の申し立てを却下する決定をしたと報じていた。


 高裁の決定では、「本件の取材テープを提出させることが必要不可欠であるといった事情は認められず、取材源の秘密は保護に値する」としており、表現の自由の価値をより重きを置いている。


 この問題に限らず、高裁レベルでは、地裁に比べて表現の自由をより重視する傾向が強いように思う。


 表現の自由の価値をどれほど重視するかについて、世代間の相違があるのかもしれない。



2011年01月20日(木) 裁判員裁判と裁判官だけの裁判

 日経(H23.1.20)夕刊で、放火事件で知的障害がある男性を取り調べた大阪地検堺支部の検事が、「自白調書」を確認する際に犯行状況などを調書の内容に沿うよう誘導していたと報じていた。


 たとえば、火が広がった状況について、男性は当初、「見てなかった」と答えたのであるが、検事は、調書内容に合うように、「見てたんか」「見てたのでいいのかな」と繰り返し質問し、男性が「はい、見てた」と翻している。


 このような過程が記録されていないと、形になって残るのはすらすらと供述したかのような自白調書だけであった。


 検察庁は、「確認の一環であり誘導ではなかったが、裁判員に調書の任意性を訴えるのは難しいと判断した」とのことである。


 逆に言えば、裁判官だけの裁判であれば、この自白調書を証拠として提出していたということである。


 その場合、裁判所もその証拠能力を認め、それに基づき事実認定をする可能性もあったのではないだろうか。



2011年01月19日(水) 証拠隠滅で有罪確定の元社員の再審開始

 日経(H23.1.19)社会面で、食肉卸大手「ハンナン」による牛肉偽装事件に絡み、経理書類を裁断したとして証拠隠滅罪で有罪判決が確定した元社員について、大阪地裁は、再審開始を決定したという記事が載っていた。


 判決確定後に、裁断したと認定された経理書類が出てきたためである。


 それが事実だとすると、元社員は、経理書類を裁断していないのに、「経理書類を裁断した」と自白をしたことになる。


 警察や検察にガンガン攻められて、よく分からないまま、うその供述をした疑いが強く、今後、取調べが適切であったかが問題になるのではないだろうか。



2011年01月18日(火) 石川元秘書が任意の取り調べを録音

 日経(H23.1.18)社会面で、「陸山会」の政治資金規正法違反事件で、元秘書の石川被告が任意で再聴取されたが、そのときに録音した取調べの内容が明らかになったという記事が載っていた。


 検事は「全面否認なら徹底的にやってやる」と脅しまがいの発言をしていたと報じていた。


 これだけ報道されると、今後、任意の取調べでは録音する人も多く出てくるだろう。


 そうであれば、いっそのことまずは任意の取調べからビデオで録画すること(調べの可視化)始めてはどうかと思う。



2011年01月17日(月) 「財産的損害の3倍」という表現

 日経(H23.1.17)16面で、裁判所の命令を無視しても制裁がないということについて論じていた。


 プリンスホテルが日教組からの予約を一方的にキャンセルした事件について、裁判所は使用を命じる仮処分命令を出したのであるが、その司法判断に従わなかったことから、制裁制度の検討をすべきという論旨であった。


 その論旨の適否はともかく、この事件で、東京高裁は、ホテル側の宴会場使用拒否により日教組などが被った精神的損害について、財産的損害の3倍に相当する約8547万円が相当としていることに注意が引かれる。


 米国では悪質な違法行為に対して懲罰的な賠償制度があるが、「財産的損害の3倍」という高裁判決の表現は、懲罰的賠償を意識したものと思われるからである。


 本来であれば、判決には賠償金額だけを書けばよいのであり、他の裁判官であればそうしたであろう。


 それゆえ、「財産的損害の3倍」という表現はリップサービスのようにも思える(このときの裁判長は園尾隆司裁判官であり、破産事件を大改革した人である。)



2011年01月14日(金) 刑法犯が減少

 日経(H23.1.14)社会面で、昨年に全国の警察が認知した刑法犯は158万5951件で23年ぶり低水準という記事が載っていた。


 ピークは、2002年の約285万件であるから、それから約127万件も減少したことになる。


 もっとも、認知件数というのは、警察が認知した件数であり、実際に発生した事件数とは異なるし、また、警察が事件を積極的に受理するか否かでも変わってくる。


 そのため、認知件数が減少したからといって、手放しで喜ぶことはできない。


 ただ、実感として刑事裁判が減っている気はする(司法統計上も刑事裁判は減少傾向である)。



2011年01月13日(木) 外国人を支援する弁護士の動きが広がる

 日経(H23.1.13)社会面で、国際結婚に伴うトラブルなどで悩む外国人を法的に支援する弁護士の動きが広がっているという記事が載っていた。


 外国人の法律問題は、外国人に資力のないことが多く、正直言って儲かる仕事ではないし、言葉の問題もあった。


 そのため、これまで弁護士が敬遠していた分野だったと思う。


 しかし、外国人にとって、法律を十分知らないために不利益を被っていることは少なくない。


 そのような分野こそ弁護士は必要である。


 それだけに、外国人を支援している弁護士の動きが広がっているのは、とてもいいことだと思う。



2011年01月12日(水) 障害者欠格条項

 日経(H23.1.12)29面「ゼミナール」というコラムで障害者欠格条項について書いていた。


 法律には、かつて「障害者は○○できない」という障害者欠格条項が多数あったが、かかる規定が問題であることが認識され始め、次第に減ってきている。

 それでも、障害者欠格条項はまだ多く残っている。


 それぞれの法律について、障害者欠格条項を存続させる一応の理由はあるのだろう。


 そうはいっても、一律に欠格事由にし、受験資格を奪うのはやはりおかしいと思う。



2011年01月11日(火) 元大関琴光喜関の解雇不当の申し立てを却下

 日経(H23.1.11)社会面で、野球賭博に関与したなどとして日本相撲協会を解雇された元大関琴光喜関が、解雇不当を申し立てた事件で、東京地裁は申立てを却下したという記事が載っていた。


 相撲に関する賭博ならともかく、野球という相撲に直接関係のない賭け事なので、解雇処分というのは重い気がしないではない。


 実際、処分撤回を求めて、約5万8千人が嘆願書に署名したそうであるから、ファンの多くも同じ思いのようである。


 ただ、賭博の金額、世間に与えた影響などを考慮すると解雇もやむなしということなのだろう。


 東京地裁の決定は仮処分申請に対するものであるから、琴光喜関は本訴を提起するそうであるが、結論は変わらないのではないだろうか。



2011年01月07日(金) 「夫婦同姓は憲法違反」

 日経(H23.1.7)社会面で、夫婦別姓を望む人たちが、「夫婦同姓を定める民法の規定は、個人の尊重を定めた憲法13条や、両性の平等を定めた24条などに違反する」として、1人当たり100万円の国家賠償を求めて、近く東京地裁に提訴する方針という記事が載っていた。


 しかし、夫婦同姓か、別姓かは、これまでの慣習、国民感情などを踏まえた立法政策の問題であり、広く立法裁量が認められる場面であろう。


 それゆえ、請求は認められる余地はほとんどないと思う。


 もっとも、この訴訟の目的は、「選択的夫婦別姓制度」の議論に一石を投じることであって、勝訴するまでは考えていないと思うが。



2011年01月06日(木) 市役所が弁護士資格を持った職員を公募

 日経(H23.1.6)首都圏版で、千葉県流山市役所で、弁護士資格を持った任期付き職員を公募で採用するという記事が載っていた。


 訴訟などは顧問弁護士が対応し、公募する弁護士は、制定する条例や契約の適法性などを判断するサポートや、法令に関する職員の研修や相談などを担当するそうである。


 東京都や神奈川県などではすでに実施しているが、組織の内部に法律の専門家がいれば好都合であり、他の自治体も採用を積極的に検討することが望まれる。


 ただ、任期が2年とのことであり、継続採用が原則となっていないのであれば、応募する側はつらいかもしれない。



2011年01月05日(水) 詐欺の立証は難しい

 日経(H23.1.5)社会面で、注文住宅販売会社「アーバンエステート」の旧経営陣が、破綻状態になった後も顧客に工事代金を前払いさせていたとして、さいたま県警は、詐欺の疑いで創業者らを逮捕したという記事が載っていた。

 
事件から2年近く経っているが、この種の事件を詐欺で立件することは簡単ではない。


 会社の経営が苦しかったとしても、無理をして仕事を受注すれば会社を立て直すことができると信じていることも少なくない。


 そのため、「だますつもりだった」という詐欺の故意の立証が難しいのである。


 被害者からすれば、「いまごろ逮捕しても」という思いかもしれないが。



2011年01月04日(火) バイク買取会社、比較を自演

 日経(H23.1.4)社会面で、「バイク王」が、複数の自社ブランド名を使い、他社と買い取り価格を比較できるかのようにうたったサイトで査定を受け付けていたと報じていた。


 比較対象の複数の買い取り会社はすべて同じ会社ということらしい。


 景品表示法は、サービスの価格が他社のサービスよりも有利であると誤認させる行為を禁じているが、これに違反している疑いがある。


 ただ、現行法では、違反があっても「措置命令」が出せるだけであるから、実効性には疑問がある。(そのため、課徴金を課すべきという議論がある)


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