2010年07月30日(金) |
外国為替証拠金(FX)取引で、50倍の倍率規制 |
日経(H22.7.30)4面で、外国為替証拠金(FX)取引で、8月1日から上限50倍の倍率規制が導入されると報じていた。
弁護士会が主宰する消費者問題の法律相談において、かつては悪質なFX取引業者によって被害を受けたという相談が多かったが、規制の強化を受け、最近ではFX取引で被害を受けたという相談は減っている気がする。
そうはいっても証拠金の何十倍もの取引ができるのは問題である。「自己責任」とする限度を超えていると思う。
来年8月には25倍以下と規制が強化されるが、消費者被害の発生を防止するためには上限10倍くらいが適切ではないだろうか。
2010年07月29日(木) |
労働審判の申し立て件数が過去最高に |
日経(H22.7.29)社会面で、労働審判の申立件数が、制度導入4年で約4倍の伸びで、過去最高を記録したと報じていた。
労働審判は、3回以内で審理を終えることが原則で、結論が出るまでの平均期間は70日余り。
したがって、民事訴訟に比べ、結論が出るのは非常に早い。
3回以内の審理ということは、会社側からすれば、短期間で証拠を精査し、提出しなければならない。
それゆえ、労働審判は会社からすれば負担の多い手続きである。
他方、労働者側にとっては使い勝手のいい手続きといえるだろう。
2010年07月28日(水) |
小沢元秘書が聴取を拒否 |
日経(H22.7.28)社会面で、「陸山会」の土地購入を巡る事件で、小沢氏側は、東京地検特捜部に対し、4回目となる任意の事情聴取に応じる意向を伝えたと報じていた。
他方、元秘書3人は聴取を拒否するとのことである。
元秘書(石川議員)自身は聴取に応じる意向だったが、弁護士が説得して止めさせたようである。
元秘書は被告人の立場である。
弁護人としては、被告人に不利益になるかもしれないようなことは避けたい。
その意味で、聴取を拒否した元秘書の対応は刑事事件の対応としては当然であろうと思う。
2010年07月26日(月) |
タレントが性的関係を迫られて芸能活動に支障をきたし、20億円もの損害? |
日経(H22.7.26)夕刊で、アートコーポレーション前会長から賠償金名目で現金をだまし取ろうとしたとして、元暴力団山口組系組員で芸能事務所社長ら2人を指名手配したと報じていた。
容疑は、女子高生タレントがアートコーポ前会長に性的関係を迫られ芸能活動に支障をきたしたと偽り、約20億円の損害賠償請求訴訟を起こし、現金をだまし取ろうとした疑いである。
こういう記事を読むと、気になるのは、このような20億円の損害賠償訴訟の代理人になっている弁護士のことである。
女子高生タレントが前会長に性的関係を迫られ芸能活動に支障をきたしたということで、20億円もの損害が生じるとは思えない。
「何だかうさんくさい訴訟だなあ」と思う気もするが、受任した弁護士はどのような気持ちだったのだろうか。
2010年07月23日(金) |
神社の「御鎮座二千百年式年大祭」の奉賛会発会式で市長が祝辞 |
日経(H22.7.23)社会面で、石川県白山市の市長が、神社の関連行事で祝辞を述べたことが、政教分離を定めた憲法に違反するかが問題になった訴訟で、最高裁は、「政教分離原則に違反しない」として、市長の行為を違憲とした二審判決を破棄し、住民側の訴えを退けたと報じていた。
政教分離原則をどの程度厳格に解釈すべきかは、価値判断にかかわる問題である。
戦前の国家神道による苦い経験を重視するならば、政教分離原則を厳格に貫くべきであると考えるだろう。
しかし、行政が宗教行為とかかわり合うことは現実には避けられない。
そういった現実的なかかわり合いの必要性を重視するならば、政教分離原則は緩やかに解する方向になる。
最高裁は、現実重視派であり、政教分離原則を比較的緩やかに解釈している。
ただ、本件事案では、市長が神社の「御鎮座二千百年式年大祭」の奉賛会発会式で祝辞を述べたことが問題となったのであるが、この神社は多数の参拝客が訪れる観光資源であり、市長は地元来賓として招かれ、一般的な祝辞をしただけである。
そうすると、政教分離原則を厳格に解する立場からも、憲法違反とはいえないような事案であったように思われる。
日経(H22.7.16)夕刊で、郵便局会社近畿支社は、京都市内の郵便局で販売していた、坂本竜馬や妻おりょうの写真をカラーにした切手について、おりょうの写真が所有者の使用許可を得ていないとの指摘を受け、販売を中止したと報じていた。
興味深いのは、郵便局会社が「版権は印刷会社にあると考えている」と述べている点である。
ここで言っている『版権』とは何だろう。
おりょうを撮影した写真家が有する著作権の意味であれば、それは消滅している。
また、おりょう自身が有する肖像権も消滅している(肖像権の消滅期間については、著作権の消滅期間と同様に考えるのが有力である)。
したがって、『版権』の意味が、著作権や肖像権ということであれば、いずれも消滅している。
それゆえ、郵便局会社がいかなる意味で「版権は印刷会社にある」と言ったのかは興味があるところである。
なお、郵便局会社の責任が問題になるとすれば、著作権侵害ではなく、民法709条の不法行為責任であろう。
ただ、この件では郵便局会社に過失はないようであり、不法行為責任もないのではないだろうか。
2010年07月21日(水) |
検察官が無罪を論告し、被告人に謝罪 |
日経(H22.7.21)社会面で、窃盗罪に問われたが、有力な証拠とされた防犯カメラの映像が別人と判明した事件の論告求刑が金沢地裁で開かれ、検察側は無罪とする異例の論告をし、被告に謝罪したと報じていた。
判決では無罪となることは間違いない。
ただ、判決日が9月1日と、40日以上も先になったのはなぜだろうか。
裁判所は夏季休廷期間(夏休み)が20日間もあるが、それでも判決が先過ぎる。
被告人の都合であれば仕方ないが、早期に無罪判決を出すべきであると思うが。
2010年07月20日(火) |
「弁護士になったけど」 |
昨日の朝日(H22.7.19)1面で、「弁護士になったけど」というタイトルで、司法制度改革で弁護士が急増し、仕事にあぶれた新米弁護士のルポが掲載されていた。
その弁護士は、昼に日比谷公園で、母親が握ってくれたおにぎりを食べ、「昼食ぐらい、レストランで食べたいですねぇ」と語っている。
このような弁護士はまだごく少数と思うが、今後は徐々に増えてくるだろう。
現在、司法試験合格者は年2000人程度。すでにこのルポのように一部では仕事がない状態である。
政府は合格者を3000人を目指すべきとしている。しかし、それほど増やす必要性があるとは思えないのだが。
2010年07月16日(金) |
検察審査会の存在意義 |
日経(H22.7.16)夕刊で、 健康保険組合の定期預金6億円を着服したとして組合元常務理事が業務上横領罪に問われた事件で、東京高裁は、一審の無罪判決を破棄し、被告に懲役6年の逆転有罪を言い渡したと報じていた。
この事件では、検察官がいったん不起訴処分としたが、検察審査会が「不起訴不当」と議決。東京地検が再捜査のうえ起訴したが、東京地裁が「横領の意思が認められない」などと無罪とし、検察側が控訴していた。
このように判断が分かれる難しい事件であったが、検察審査会の「不起訴不当」の判断は間違っていなかったことになる。
その意味では検察審査会の存在には意義がある。
ただ、法改正によって、検察審査会が二度「起訴相当」の議決をすると「強制起訴」されることになったことについては意見が分かる。
すでに兵庫県明石市の歩道橋事故やJR福知山線脱線事故では強制起訴されている。
その裁判で無罪判決が出た場合には、「強制起訴」の適否について再度議論がなされる可能性がある。
2010年07月15日(木) |
事実認定のプロであることの自負 |
日経(H22.7.15)社会面で、殺人事件の控訴審で、東京高裁は、一審・横浜地裁の裁判員裁判の判決を「事実認定に不備があり違法」として破棄し、改めて一審と同じ懲役4年6月を言い渡したと報じていた。
事実認定の不備を理由に、高裁が裁判員裁判の一審判決を破棄するのは初めてである。
一審は「被告は、包丁を手に取った被害者から危害を加えられると思い違いをしており『誤想過剰防衛』が成立する」と認定した。
これに対し東京高裁は、誤想過剰防衛は成立しないとしたのである。
誤想過剰防衛というややこしい概念は、刑法の教科書には普通に出てくるが、裁判で認められるのは珍しい。
一審では、弁護側が誤想過剰防衛の成立を主張し、検察側もそれを争わなかったようであり、それゆえ、一審裁判所も、誤想過剰防衛の成立を認めたのだろう。
しかも、一審判決に対し検察側は控訴していないのであるから、誤想過剰防衛が成立しないとしても、刑の重さに影響しない。
それなのに、東京高裁は、事実認定に不備があると判断した。
東京高裁刑事部の裁判長となると、刑事事件の超ベテランであるが、そこに、事実認定のプロであることの強烈な自負を見た気がする。
2010年07月14日(水) |
金融ADR(裁判以外の紛争解決)制度が10月から始まる |
日経(H22.7.14)社会面で、投資に伴う損失や強引な勧誘など金融に絡むトラブルの迅速な解決を目指す金融ADR(裁判以外の紛争解決)制度が10月から始まると報じていた。
銀行や証券、保険など金融庁が監督する業者はすべてこの制度の枠組みに入ることになる。
このようなADR(裁判以外の紛争解決)の成否のポイントは、そこで出す結論が、裁判になった場合の結論と大きくは異ならないことであろう。
もちろんADRでは証拠調べをしないという制約があるから、裁判と同じというわけにはいかない。
ただ、裁判をした方がいい結果が出ると思われると、ADRの裁定には従わなくなり、その手続きの意味はなくなってしまう。
もっとも、証券取引や先物取引のトラブルでは、すでにこのような機関があるが、それらの機関の使い勝手は比較的いいように思う。
2010年07月13日(火) |
日本振興銀行前会長を銀行法違反容疑で立件 |
日経(H22.7.13)1面で、日本振興銀行がメールを意図的に削除し、金融庁の検査を妨害した事件で、木村剛・前会長を銀行法違反(検査忌避)容疑で近く立件する方針と報じていた。
メールを削除すれば検査の過程ですぐに判明するはずであるのに、削除したのであるから、相当まずい記載があったのだろう。
いずれにしても、経営トップの会長が検査妨害を了承していたということになると、その悪質さは甚だしい。
2010年07月12日(月) |
会社分割で転籍が無効になる場合 |
日経(H22.7.12)夕刊で、会社分割で新会社に転籍することになった日本IBMの従業員が、転籍の無効の確認などを求めた訴訟で、最高裁は、「会社が分割に関して従業員との協議や説明をまったく行わなかった場合には、転籍は無効となる」との初判断を示したと報じていた。
しかし、会社が協議や説明をまったく行わないということはあり得ない。
この裁判でも、会社側は説明義務を果たしたとして、従業員側の上告を棄却している。
それゆえ、会社分割において転籍が無効になることは実際にはほとんどないと思われる。
2010年07月09日(金) |
裁判員裁判で、放火について無罪 |
日経(H22.7.9)社会面で、あき巣に入った部屋に放火したなどとして、現住建造物等放火などの罪に問われた事件の裁判員裁判で、東京地裁は、放火罪を無罪とし、住居侵入と窃盗罪だけを認定したと報じていた。
東京地裁本庁での裁判員裁判で初の(一部)無罪判決である。
この事件は私が担当したので、少し詳しく書くと、被告人には放火の前科があった。
しかし、放火前科の事実を、今回の放火の証拠とすることは原則として禁止されている。
「以前やったから、今回もやったのだろう」ということは許されないということである。
ところが、情状立証(刑の重さを決めるための証拠)としては、放火の前科を証拠とすることができる。
そうすると、裁判員は、放火の前科を今回の放火の証拠とすることはできないが、放火の前科があることは知ることになる。
アメリカのように、陪審員は有罪か無罪かだけを決め、刑の重さは職業裁判官が決めるのであれば、そのようなことはないが、日本では刑の重さも裁判員も参加して決めるので、結局、放火前科があることは裁判員に分かるのである。
その場合に、罪体立証(放火の罪の立証)と情状立証とをうまく区別できるのだろうかという不安があった。
つまり、裁判員が「以前やったから、今回もやったのだろう」という考えを持ってしまい、被告人に不利益に働かないのだろうかという危惧があった。
しかし、判決では、その区別がきちんとなされていた。
難しい法律問題を頭の中で整理し、適切な判断をした裁判員の方々を大いに評価したいと思う。
2010年07月08日(木) |
税金の還付期限は5年 |
日経(H22.7.8)1面で、野田財務相が、年金払い方式の生命保険商品に対する所得税の課税を違法だとした最高裁判決を受け、法律で定めた「5年」の期限にかかわらず、取りすぎた所得税を還付する意向を表明したと報じていた。
法律では、税金を遡って還付する期限は5年とされているところ、それ以上に遡って還付するというのであるから、妥当な判断であると思う。
ただ、民事上の不当利得返還請求権の時効は10年なので、そもそも税金の還付の期限を5年としているのは、取られる立場からしてみれば納得しがたいところである。
2010年07月07日(水) |
年金払い方式の保険金で、相続税と所得税の二重課税は違法 |
日経(H22.6.24)4面で、最高裁が、年金払い方式の保険金において、相続税と所得税の二重に課税することは違法であると判断したことの続報が載っていた。
常識的に考えれば、相続税と所得税の二重に課税されることはおかしい。
ただ、この件で、還付を受けられるのは2万5600円に過ぎない。
それでも、おかしいと思えば、きちんと司法判断を仰ぐという行動は評価したいと思う。
2010年07月06日(火) |
議員定数不均衡で弁護士グループが一斉提訴 |
日経(H22.7.6)社会面トップで、参議院選挙の一票の格差について、「弁護士グループが一切に提訴」という記事が載っていた。
完全に議員定数を平等にすると、都市部の議員が相当多数になるから、過疎地の声が国政に届くのだろうかと言う懸念はある。
ただ、現行憲法を前提とする限り、衆議院は定数不均衡が2倍まで、参議院は5倍までなら許されるという解釈は無理である。
過疎地の声が国政に届くかという懸念については、国会議員は、地域代表ではなく全国民の代表者である(憲法43条1項)ことを自覚し、過疎地の声についても十分耳を傾けることが現憲法の予定するあり方なのだろう。
日経(H22.7.5)16面のコラム『リーガル3分間ゼミ』で、内々定を取り消された場合に、いかなる請求ができるのかという問題を取り上げていた。
しかし、なにをもって「内々定」というのであろうか。
「内々定」という言葉自体が極めてあいまいと言わざるを得ず、通常は、契約にまでは至っていない段階と考えるべきであろう。
そうであれば、内々定を取り消されたからといって損害賠償請求はできるケースは少ないと思われる。
記事では、福岡地裁が、内々定の取り消しを巡る訴訟で企業側に賠償責任を認めたことを取り上げていた。
しかし、この事案でも契約の成立までは認めていない。ただ、内々定取り消しが内定式の2日前と直前だったことなどを考慮したものであり、一般化はできないと思う。
2010年07月02日(金) |
弁護士殺害事件で、容疑者が出頭 |
日経(H22.7.2)社会面で、横浜市の法律事務所で弁護士が殺害された事件で、指名手配されていた男が警察に出頭し、殺人の疑いで逮捕されたと報じていた。
日弁連からは、このような事件への対策の徹底を呼び掛ける連絡が来ている。
それには、「面会する際は、近づき過ぎない」「応接テーブルは相手方の攻撃を防げるだけの幅があった方がよい」などと細かいことを書いていた。
以前であれば読み飛ばすところであるが、このような事件があるとそうも言ってられないのがつらい。
日経(H22.7.1)社会面で、父親の資産約1930万円を着服した容疑で、父親の成年後見人だった長男が逮捕されたという記事が載っていた。
最近、後見人による横領事件がいくつか表面化している。
裁判所もそれを気にしているようで、被後見人に資産のうち預金金額が多いケースでは、後見監督人をつけるようにしている。
後見監督人には弁護士や司法書士など第三者が就任するから、被後見人の資産から報酬を支払う必要があり、報酬の基準は裁判所が決めているからよく分からないが、月3万円くらいとしているようである。
ただ、後見監督人は監督業務が基本だから、具体的に動くことは少ない。
そのため、「なぜ報酬を支払う必要があるのか」という不満が家族から出がちである。
後見監督人の実際の業務の内容にもよるが、もう少し報酬を少なくしてもよいのではないかと思う。
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