今日の日経を題材に法律問題をコメント

2009年01月30日(金) 「かんぽの宿」一括譲渡を凍結

 日経(H21.1.30)3面で、「かんぽの宿」をオリックスに一括譲渡することを総務相が反対した問題で、日本郵政が売却の凍結を表明したと報じていた。


 事業譲渡の前提として会社分割を行うことになっており、それには総務相の認可が必要であるが、認可が得られないためである。(但し、「凍結」であって「中止」ではないとのことである)


 売却を凍結すれば、債務不履行ということになるが、その場合、契約の不備が問題になる可能性がある。


 というのは、総務大臣の認可が必須の条件だったのであれば、「総務相の認可が得られない場合には無条件で契約を解約できる」旨を契約条項に入れておくべきだからである。


 契約書のチェックに弁護士は入っていなかったのだろうか。


 もっとも、オリックスは郵政相手に争うのは得策でないと考えて、債務不履行責任を問うつもりはないようであるが。



2009年01月29日(木) 漫画家の楳図氏 勝訴

 日経(H21.1.29)社会面で、漫画家の楳図氏が建てた赤白ストライプの外壁の住宅が閑静な住宅街の景観を壊しているとして、周辺住民が外壁の撤去などを求めた訴訟で、東京地裁は、住民側の請求を棄却したと報じていた。


 住民側の請求の根拠は、平穏な生活を侵害しているということだったようである。


 しかし、これでは法律上の根拠として薄弱であり、請求棄却の判断はやむを得ない。


 訴えた住民については、新聞では分からない事情もあると思うで、とくに言うべきことはない。非難するつもりもない。


 ただ、住民側の代理人となった弁護士は、勝訴の見込みがないことは当初から分かっていたと思う。


 そのようなとき、依頼された弁護士としては悩ましいものがある。


 断ろうと思っても、知り合いの紹介のため断りづらいときもある。


 また、判決になれば勝てないにしても、裁判上の和解により、紛争を解決するという目的で訴訟提起することはあり得る。


 この事件も、訴訟の中で話し合いを行い、楳図氏から何らかの謝罪を得ることが目的だったのかもしれない。


 なお、経験ある弁護士であれば、断りたいけど、弁護士報酬に目がくらんで受任するということはない。(念のため)



2009年01月28日(水) 契約書等はきちんと精査しておくべき

 日経(H21.1.28)社会面に、フランチャイズチェーン店だった会社が、フランチャイズを展開する会社に対し、「不十分な指導で損失が出た」として9000万円の損害賠償を請求した事件で、東京地裁は請求を棄却したと報じていた。


 逆に、フランチャイズを展開する側から、元チェーン店に対し、2年間同種の営業を禁止する規定に違反したとして、8400万円を支払うよう命じられている。


 元チェーン店にとっては踏んだり蹴ったりの判決であろう。


 想像だが、元チェーン店は、「たいしたノウハウもなく、指導もいいかげんなのに、ロイヤリティだけとってなんだ。これだったら自分たちが独自にやったほうがましだ」と言って、チェーン店を脱退し、独自に営業を始めたのではないだろうか。


 実際、「指導がない」「当初と話が違う」などの理由でチェーン店が不満を持ち、トラブルになるケースはしばしばある。


 しかし、指導が適切であったかどうかの立証はなかなか難しい。


 他方、フランチャイズ契約では、脱退した後、当分の間同種の営業を禁止する規定が置かれていることが多く、その規定に違反したかどうかの立証は比較的簡単である。


 それゆえ、先の記事の裁判でも、元チェーン店側は、自分の主張は認められず、逆に損害賠償を支払わなければならないという、踏んだり蹴ったりの判決になってしまったのであろう。


 思うに、元チェーン店は会社なのだから(しかも原告は4社であった)、一時の怒りにまかせて行動するのではなく、契約書などをきちんと精査しておくべきであった。


 ただ、実際にはそうではない会社が結構多い。



2009年01月27日(火) 記事と、株価の下落の因果関係

 日経(H21.1.27)社会面に、楽天と同社の社長が、新潮社を対し、虚偽の記事で社会的評価が低下したとして14億円の賠償請求を求めた事件で、東京地裁は合計990万円の支払いを命じたと報じていた。


 その訴訟で、楽天側は、記事によって株価が下落し損害を受けたとも主張したようであるが、東京地裁は「株価下落が記事によるものと認める証拠はない」として、その主張を退けている。


 株価は様々な要因で変動するから、記事と株価の下落との因果関係を立証するのはほとんど不可能である。


 それゆえ、東京地裁の判断は当然であり、株価の下落による損害まで請求することは、もともと無理な主張だったと思う。



2009年01月26日(月) 『自由な会社法』を悪用

 日経(H21.1.26)16面に、「自由な会社法」を悪用した資金調達や買収防衛が目立つとして、第三者割合増資の規制や社外取締役義務付けなどの議論が進んでいるという記事が載っていた。


 新会社法では、会社の実質的所有者は株主であるという考え方のもとに、株主総会で決議されていればとくに問題にしないという規制の仕方をしている(「定款自治」と言われることがある)。


 しかし、実際には経営者がそれを「悪用」することが後を絶たず、そのため一定の規制強化の議論がなされるようになったものである。


 思うに、新会社法は、かつての有限会社という小規模な会社まで取り込んでいるため、会社の規模などに応じた適切な規制が困難になっているのではないか。


 少なくとも分かりにくくなっているのは間違いない。


 せめて公開会社、非公開会社に分けてそれぞれ別個の法律によって規制すべきではないかと思う。



2009年01月23日(金) 勝訴的和解でも不満が残っていることはある

 日経(H21.1.23)10面で、フジテレビが旧ライブドアに対し、株価の急落により損失を被ったとして345億円の損害賠償を請求した事件で、旧ライブドアが310億円支払って和解したと報じていた。


 フジテレビは、「勝訴的和解である」と評価したそうである。


 和解金額が請求額の9割であるから、私の感覚でもほぼ勝訴だなと思う。


 もっとも、このケースではフジテレビは「勝訴的和解である」と評価しているが、中には9割の和解でも不満を持つ当事者(依頼者)はいる。


 そもそも、依頼者は自分が絶対正しいと思いがちである。


 実際、9割もの和解金を支払う事案であれば、その依頼者の言い分は正しかったのだろうし、判決になっても勝訴判決となる可能性は極めて高い。


 それなのになぜ1割も譲歩しないといけないのかという不満が生じるのである。


 それはもっともな不満である。


 そのような場合、代理人としては、和解によって早期に解決できるメリットや、万が一の敗訴の危険性などを説明して和解してはどうかと説得をはかる。


 その説得は、総合的に判断すると間違っているとは思わないし、依頼者も最終的にはその説得に応じる。


 しかし、内心では不満が残っていることが多いと思う。


 そのことを、代理人(弁護士)として十分自覚しておく必要があると思っている。



2009年01月22日(木) 税理士法の禁止規定は広範すぎるのではないか

 日経(H21.1.22)夕刊で、三重県尾鷲市の市長が、兼業を禁止されている税理士業を行ったとして、県警は書類送検へと報じていた。


 税理士法は、国会・地方議員や非常勤を除き、報酬のある公職につくと税理士としての登録ができないとされており、この規定に抵触としたと思われる。


 「きちんと市長としての仕事に専念しろよ」という批判はあるだろう。


 ただ、議員は税理士登録できるとされており、整合性がないように思う。


 そもそも、ほとんどの公職を禁止する税理士法の規定は、広範すぎるのではないだろうか。



2009年01月21日(水) 死刑に対するマスコミの論調

 日経(H21.1.21)社会面に、闇サイト殺人事件で検察側が死刑を求刑し、被害者の母が「望んでいた通り」と述べたと報じていた。


 同じ社会面には、江東区の女性殺害事件で、被害者の母が「被告人を死刑にして」と証言したとも報じていた。


 理由もなく娘を殺害された親としては、被告人に死刑を望むことは当り前である。その気持ちを否定する気持ちはまったくない。


 世間の感情も同じであり、それゆえ日本において死刑制度を廃止することは難しいと思う。


 ただ、死刑というのは、被告人の更生の道を国家が奪うのだから、最終的な手段のはずであり、そのような逡巡の中で死刑の判断がなされるべきであろう。


 ところが、最近のマスコミの論調には、死刑に対する逡巡がなくなってきているように感じる。


 その点が気になる。



2009年01月20日(火) 黄金株の効用

 日経(H21.1.20)11面で、東京ガスなど3社が、仙台市ガスの買収を断念したという記事が載っていた。


 断念した主な理由は金額が折り合わなかったことであるが、仙台市が事業譲渡の条件として黄金株の保有を挙げており、それに東京ガスなどが反発していたこともあるようである。


 黄金株とは、株主総会決議に対し拒否権が与えられている株式のことである。


 この黄金株は、敵対的買収に対する防衛策として話題になることが多い。


 また、事業承継のときの活用策として挙げられることもある。


 しかし、もともとは国営企業などを民営化する際に、株主構成の極端な変動防止や会社の経営安定を図るために開発されたものとされている。


 それゆえ、今回、仙台市が事業譲渡に際し、黄金株の保有を条件としたのは本来の使い方であり、不当な要求をしたわけではない。


 しかし、買収する側にとっては、株主総会決議を拒否できる黄金株の存在は経営の自由度をなくすから、嫌であろう。


 それゆえ、価格が著しく安ければともかく、黄金株の存在を嫌って買収しなかったことは合理的な判断といえる。


 事業譲渡に際し、黄金株が何かすばらいしい効果があるように言われることがある。


 しかし、このような事態をみると、黄金株の活用場面は意外と少ないかもしれない。



2009年01月19日(月) ネット社会では、保守的解釈ではなく、積極的解釈が必要

 日経(H21.1.19)16面の「リーガル3分間ゼミ」というコラムで、ウェブページを無断で印刷した場合、著作権侵害になるかという問題を取り扱っていた。


 そのコラムでは、著作権侵害にならないという見解と、侵害になるという見解を紹介していた。


 ただ、見出しでは「業務なら原則承諾が必要」としていたから、結論としては、ウェブページを無断で印刷することは著作権侵害になるということなのだろう。


 なかなか面白い問題である。


 思うに、価値判断として、ネットでの情報のやり取りは、原則として許容する方向での積極的解釈が必要ではないかと思う。


 例えば、グーグルの検索システムは、ウェブページを無断でコピーしているのだから、著作権を侵害しているのではないかという疑問があるが、いまではほとんど問題にされない。


 また、ストリートビューも、プライバシーの侵害ではないかという声はあるが、すでに多くの人がストリートビューを使っている。


 ウェブページについても、多くの人がウェブページを印刷して資料として使用しており、それを止めさせることはもはやできないだろう。


 ネットで公開している人も、そのような現状を認識しており、それを承知で公開しているのだから、黙示の承諾があると考えてよいのではないか。


 したがって、上記のコラムでの結論とは逆に、ウェブページを印刷することは、たとえ業務であっても、原則として承諾は不要であると思う。



2009年01月15日(木) 法律相談内容をブログに書いた弁護士が懲戒処分

 日経(H21.1.15)社会面に、弁護士が、ストーカーの相談内容を無断で自分のブログに掲載したとして、業務停止1か月の懲戒処分を受けたという記事が載っていた。


 この弁護士は、当事者の名前はイニシャルにしたものの、受任した経緯、当事者の発言、メール内容をブログに書いたとのことである。


 「イニシャルなので問題ない」と言っているそうであるが、そこまで詳しく書くと、たとえイニシャルであっても誰のことか分かるわけであり、問題があることは明らかである。


 ただ、業務停止1か月というのは処分としてかなり重い。


 注意しなければならない



2009年01月14日(水) 奈良の調書漏えい事件で、著者が情報源を明かす

 日経(H21.1.14)夕刊に、奈良県の医師宅放火殺人の調書漏えい事件で、著者が情報源を明かしたという記事が載っていた。


 この事件では医師が秘密漏示罪に問われており、その公判で、供述調書を引用して出版した著者が、情報源は医師であることを証言したものである。


 この著者が、供述調書をそのまま引用する形で出版したことについては、次のような問題がある。

 安易な出版により、表現行為に公権力の介入を許した。

 少年のプライバシーを侵害した。

 医師に犯罪行為をそそのかした。


 このような問題だけでなく、今回、情報源を明らかにすることによって、この著者はジャーナリストしての最低限のルールも放棄したといえる。


 ただ、より非難されるべきは、裁判所から預かった供述調書を安易に第三者に見せた医師であると思う。


 鑑定のために預かった供述調書は、医師として守るべき「秘密」である、ということの自覚が足りなかったわけであり、それを深く反省すべきではないだろうか。



2009年01月13日(火) 番組自作のブログをインターネット上の一般ブログのように紹介

 日経(H21.1.13)社会面に、テレビ朝日系列の情報バラエティー番組で、番組用に自作したブログをインターネット上の一般のブログであるかのように紹介していたことが分かったという記事が載っていた。


 テレビ朝日では「実際のブログ作成者から撮影許可が取れず、スタッフが同じ趣旨のブログを作った」と述べているそうである。


 しかし、本当にブログ作成者から撮影許可を取ろうとしたのだろうか。


 撮影許可を得なくても、適切な引用であれば著作権法に違反することはないからである。


 テレビ局の回答は言い訳じみており、不合理であると思う。



2009年01月12日(月) 紛争を一回の手続きで解決することの重要性

 日経(H21.1.14)14面で、特許紛争で「泥沼裁判」を嫌い、特許の侵害訴訟の件数が減少しているという記事が載っていた。


 その記事では、特許権者が、特許を侵害されたとする訴訟で勝訴したが、その後、訴えられた側が、先行事例の新証拠を見つけたとして4回にわたり無効審判請求を行い、4回目で特許無効審決がなされた事例が挙げられていた。


 これでは侵害訴訟で勝っても安心できず、紛争を解決するという裁判の機能がまったく果たされていない。


 民事訴訟では、時機に遅れて主張した場合には、それが却下される場合がある。


 刑事訴訟でも、公判前整理手続きを経た事件は、後から証拠調べ請求がすることが原則として禁止されている。


 紛争の一回的解決と迅速な裁判という見地からは、特許訴訟と無効審判との関係においても、同様な趣旨の規定を置くべきではないかと思われる。



2009年01月09日(金) 神戸地裁で弁護士が刺される

 日経でなく、昨日の朝日(H21.1.7)夕刊に、神戸地裁で、弁護士が男に千枚通しで両手を刺されたという記事が載っていた。


 依頼者から刺された場合には、弁護活動に問題があったのじゃないかと思われがちであり、かっこうが悪い。


 しかし、この事件では、弁護士は「男と面識はない」そうであり、不運とか言いようがない。



2009年01月08日(木) 改正割賦販売法の省令案が固まる

 日経(H21.1.8)5面に、悪質な訪問販売を排除するための改正割賦販売法の省令案が固まったという記事が載っていた。


 改正法では、クレジット会社に、販売業者の法令順守などの調査を義務付けている。


 その調査が適切に行われば、悪質な販売業者を排除する有力な手段となるであろう。


 悪質な販売業者は必ずクレジット会社を使うからである。


 もっとも、クレジット各社は、改正法が施行される前に、問題業者との契約を解除するなど、前倒しで進めているようであり、適切な対応をしていると思う。



2009年01月07日(水) 元取締役が5億8000万円を横領

 日経(H21.1.7)社会面に、スギ薬局の元取締役が5億8000万円を着服したという記事が載っていた。


 このような大金を横領した場合、先物取引にひっかかっていることが多い。

 この元取締役も先物取引を行っていたようである。


 会社としては、横領した元取締役に損害賠償請求したいところであるが、返済する資力はないだろう。


 そこで、先物取引会社に請求することが考えられる。


 先物取引会社がリスクを十分説明せず元取締役を取引に引きずり込んだ場合には、元取締役は先物取引会社に損害賠償請求権を有する。


 その権利を会社が代位権行使するわけである。


 ただ、5億8000万円もの先物取引をしていたのであれば、この元取締役はかなり積極的に取引していたのではないか。


 そのため、仮に先物取引会社に損害賠償請求が認められるとしても、過失相殺により大幅に減額されるのは間違いない。


 結局、会社が損害を回収するのはかなり困難であると思う。



2009年01月06日(火) 当事者を納得させるためには「公正さ」が重要である

 日経(H21.1.6)1面に、公正取引委員会が審判制度を見直し、企業などが直接裁判で争える制度を検討するという記事が載っていた。

 もっとも、不当廉売などの事案については、審判制度を残すようである。


 現在の制度では、公取委が下した処分の是非について、まず公取委が判断する。


 つまり、裁判の一審にあたることを、処分を下した公取委自身が行うのである。


 このような審判制度について、司法試験を勉強していたころ、「専門的な知識が必要なため、専門機関によって審査した方が適切な判断ができるから」と教わった。


 そのときは「なるほど」と思った。


 しかし、実務をみると、裁判で争われている内容は、いずれも専門的といえなくはない。


 少なくとも、独禁法で扱う内容のみが専門的とはいえないだろう。


 紛争が起きた時にいかなる機関が審査するのがよいかの最適解はないかもしれない。


 ただ、「公正である」と当事者を納得させるためには、第三者機関が判断した方が望ましいということはいえる。

(「納得する」というのは、紛争を解決するための重要な要素である。)


 その意味で、現在の審判制度を全面的に廃止し、すべての事案について直接裁判で争える制度にした方がよいと思う。



2009年01月05日(月) 時効制度の見直し

 日経(H21.1.5)社会面に、「法務省が刑事事件の時効制度の見直しを検討」という記事が載っていた。


 現在、殺人罪の時効は25年であるが、被害者から時効制度を廃止する意見が強いことを受けてのことである。


 時効制度の存在理由としては、
 1 時の経過によって証拠が散逸し、誤判を招く恐れ
 2 被害感情の鎮静化
などが挙げられる。


 しかし、証拠が散逸していれば起訴しなければいいだけである。


 また、時の経過によって被害感情が鎮静化するかどうかは分からない。むしろ、実際の被害者の気持ちは違うのではないか。


 時効制度の実際の理由としては、捜査担当者を残して、いつまでも捜査を続けることはできないということだと思う。


 しかし、捜査担当者を残さなくても、捜査資料をきちんと保存しておき、新たな証拠が発見されれば捜査するということにすれば、警察の負担もあまりないのではないか。


 それゆえ、少なくとも重大事件については、時効期間を延長するなどの改正をした方がよいと思う。


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