今日の日経を題材に法律問題をコメント

2008年11月28日(金) 裁判官は書面を偽造と認定することはあまりない

 日経(H20.11.28)社会面に、京都のかばん店「一澤帆布工業」の相続をめぐる訴訟で、大阪高裁は、一澤前会長の遺言書は偽物で無効と認めたという記事が載っていた。


 遺言書には「従前の遺言書を取り消し、保有する自社株は長男と4男に相続させる」と書かれており、裁判ではそれが本物かどうかが争われた。


 大阪高裁は、遺言書に「一沢」という文字の認め印が使われた点について「信夫氏は『一澤』の文字に執着しており、『一沢』の印を使ったことは極めて不自然」と指摘し、また、信夫氏の要請で3男が社長となっていたのに、自社株を長男らに相続させるという「内容は不自然、不合理である」としたようである。


 この大阪高裁の判決は少々毛色が変わっているように思った(批判する趣旨ではない)。


 認印であっても遺言書は有効である。


 また、誰を跡継ぎにするかについて、経営者の考えがころころと変わることはよくあることである。


 それゆえ、多くの裁判官の思考では、「書面の形式が整っている以上、あえて無効とするまでの強い理由はない」と考えると思う。


 現に、一審では、遺言書は有効と判断している。


 大阪高裁の判断が正しいかどうかはよく分からない。


 ただ、裁判官は書面を偽造と認定することはあまりないということであり、それゆえ大阪高裁の判決はやや変わっているということは言えるだろう。



2008年11月27日(木) FAXの誤送信

 日経(H20.11.27)社会面で、法テラス所属の弁護士が、民事訴訟の書類をFAXで送る際、個人宅などに誤送信したという記事が載っていた。


 かばう訳ではないけれど、人間のすることだからミスはあり得る。


 以前、訴訟の相手方の弁護士(事務員)が、自分の依頼者に送るべき書類を、私の依頼者に郵送してきたことがある。


 これはひどいミスだが、記事のようなFAXの誤送信はどうしても生じてしまう。


 今のところ、送信ボタンを押す前に、再度FAX番号を確認するようにして注意しているが、もっと根本的な工夫をしなければいないのかもしれない。



2008年11月26日(水) 検察官は証拠があれば起訴する

 日経(H20.11.26)社会面に、兵庫県警は同志社大生5人を大麻取締法違反(所持)の容疑で書類送検したという記事が載っていた。


 県警は、大学生らが反省しているとして、送検時に起訴を求めない「しかるべく処分」の意見を付けたそうである。


 しかし、犯罪というのは反省すれば何とかなるというものではない。


 検察官というのは、証拠があれば原則は起訴するものである。

(薬物犯罪の場合、微量であれば起訴しないことがあるが、報道によれば、微量ではなかったようである。)


 現に、この大学生のうちの1人は、別の所持罪で起訴されて有罪判決を受けている。


 おそらく、大学生らは所持の事実を認めたが、大麻そのものが発見されていないので不起訴意見を付けざるを得なかったのではないだろうか。



2008年11月25日(火) 逃亡の弁護士を拘束

 日経(H20.11.25)社会面に、「逃亡の弁護士を拘束」という見出しで、偽造旅券でフィリピンに不法入国した疑いで、小川容疑者を拘束したという記事が載っていた。


 小川容疑者は弁護士であるが、元大阪府議でもある。


 それゆえ「逃亡の『元大阪府議』を拘束」と書いて欲しいところであるが、それでは見出しとしてのインパクトが弱いということなのだろう。


 それにしても、巨額の脱税をしただけでなく、偽造旅券でフィリピンまで行って、逃げ切れると思ったのだろうか。


 情けないことである。



2008年11月24日(月) 旧カネボウ株を巡る株取引

 日経(H20.11.24)14面に、東京高裁が、カネボウの少数株主に対する損害賠償を命じた判決が、M&Aの現場に波紋を広げているという記事が載っていた。


 2006年、投資ファンドは、カネボウ株の種類株3分の2以上を、産業再生機構などから相対で取得した。


 大量買付けの場合でも、株の所有者が25人未満で、全員が同意していればTOBをしなくてよいという規定がある。


 ここでいう「株の所有者」が、当該種類株式に限られるのであれば、カネボウ株についてはこの要件を充たしていたため、TOBなく株式を売買したことは適法となる。


 ところが、「株の所有者」を種類株式だけでなく、すべての株式所有者と解するならば、「25人未満、全員の同意」という要件を充たさないため、TOBをする必要があり、それをしないで株式を売買したことは違法となる。


 いずれの解釈も可能であり、どちらが正しいか軽々にはいえない。


 ただ、カネボウ株を巡っては、普通株式に対するTOBの価格が適正かについても裁判が起こされている。


 それぞれ争点は別であるが、カネボウ株の取引を巡ってあちこちで裁判が起きているということは、それだけ少数株主にとって取引の公正さに疑問があったのであろう。


 その点が冒頭の東京高裁の判決に微妙な影響を及ぼしたのかもしれない。



2008年11月21日(金) 大阪高裁が野村証券に対し損害賠償を命じる

 日経(H20.11.21)社会面で、マイカル債を購入した直後に、マイカルが会社更生手続きを申し立てたために損害を被った投資家が、野村証券に対し損害賠償を求めた事件で、大阪高裁は、700万円の賠償を命じたと報じていた。


 マイカル債については東京と名古屋でも集団訴訟となっているが、投資家の請求が認められたのはこの大阪高裁が初めてのようである。


 先物取引や証券取引などの事件では、東京の裁判所に比べて大阪の裁判所の方が一般投資家に有利な判決が出される傾向があると言われている。


 この事件でもそれを示したといえるのだろうか。


 個々の事件はそれぞれ事案が違うので、単純に比較することは困難である。


 しかし、総体で比較すると、やはり東京の裁判所と大阪の裁判所とでは有意的な差異があるという気がする。



2008年11月20日(木) 昨日に引き続き

 日経(H20.11.20)社会面で、酒酔い運転と当て逃げで逮捕されていた警視庁の警視について、茨城県警は、「事実を認めており証拠隠滅や逃走の恐れがない」という理由で釈放したと報じていた。


 しかし、この警視は、1リットルあたり0.6ミリグラムという高濃度のアルコールが検知されながら、「ビールと酎ハイの500ミリリットル缶の計数本である」と供述しており、「事実を認めている」とは思われない。


 このような場合、このまま釈放すると口裏あわせするおそれがあるとして、釈放しないことが多い。


 私が扱った事案でも、酒気帯び運転で逮捕され、飲酒量を正直に話さなかったため、10日間勾留されたことがあった。


 警視の供述の内容が正確に分からないが、報道を読む限りでは、釈放したことは通常の処理とは違うように思うのだが・・。



2008年11月19日(水) 警視庁の警視が酒酔い運転で現行犯逮捕

 日経(H20.11.19)社会面に、警視庁の警視が酒酔い運転で現行犯逮捕された事件で、基準の4倍にあたる1リットル当たり0.6ミリグラムのアルコールが検出されたという記事が載っていた。


 この警視は、ビールや酎ハイのロング缶(500ミリリットル)などを5、6本飲んだと述べているそうである。


 しかし、その程度で0.6ミリグラムものアルコールは検出されないはずであり、本当のことを言っていないと思われる。


 その日は、警視庁総務部施設課の職場のレクリエーションで、同僚とバーベキューをしながら飲み、この警視は、その日のうちに帰ろうとしたそうである。


 黙って帰るはずがないから、他の同僚も帰ることを知っていたはずである。


 結局、この警視は泥酔状態になるほど大酒を飲み、しかも、その状態で帰ろうとしていることを、他の同僚は知っていたと思われる。


 飲んだアルコールの量などを正直に話していないのは、職場の同僚をかばっているからではないだろうか。



2008年11月18日(火) 「実質的に同一である」ことを立証することは難しい

 日経(H20.11.18)社会面で、朝鮮総連本部の競売事件において、整理回収機構が、朝鮮総連と登記上の所有名義人である「合資会社朝鮮中央会館管理会」が同一であると主張した事件の判決を報じていた。


 記事によれば、東京地裁は、合資会社朝鮮中央会館管理会は朝鮮総連とは別の独立会社であるとして、整理回収機構の請求を棄却したようである。


 整理回収会社は朝鮮総連に対する債権は持っているが、合資会社に対する債権は持っていない。


 それゆえ、合資会社の不動産を競売にかけることはできないのが原則である。


 そこで、整理回収機構は、朝鮮総連と合資会社が実質的に同一であるとして、合資会社の不動産を競売をかけようとしたものである。


 「○○と○○とは実質的に同一である」というような主張はよくなされる。


 しかし、裁判ではなかなかその主張は通らない。


 というのは、「実質的に同一」と主張する側が、「実質的に同一である」ことを立証しなければならないが、相手会社のことであるため、十分な証拠がないことが多いからである。


 そのため、歯がゆい思いをすることがある。


 アメリカのディスカバリー(証拠開示)制度があれば、歯がゆい思いをすることはないのだろうが、ディスカバリー制度は証拠を開示するために著しい負担をもたらすので、日本で採用されることはないだろう。



2008年11月17日(月) 裁判員制度により、検察官と弁護人の力の差が広がるおそれ

 日経でなく朝日(H20.11.17)社会面で、裁判員制度の開始に伴い弁護人の負担が増えることが予想されるが、それに比して国選弁護人の報酬は低く、時給に換算すると800円にしかならないという声を載せていた。


 うーん。国選弁護人の報酬は低いとは思うが、時給800円というのはレアケースではないだろうか。


 通常の弁護活動ではもう少し高い時給にはなると思う。


 それよりも問題は、裁判員制度に対し、検察官は組織で対応できるが、弁護人は1人で対応しなければならないことである。


 もともと捜査能力では検察官と弁護人では話にならないほどの違いがあった。


 それが、今後は裁判員に対するアピール能力等においても差が生じるおそれがあり、それは被告人の不利益につながりかねない。


 そのため、複数の国選弁護人が選任されることが望ましいと思うが、それは複雑な事件に限定されている。


 すべての事件について、他の弁護士を補佐弁護人として使える制度にするなどの工夫はできないものかと思う。



2008年11月14日(金) 刑務所が老人ホームになりかねない

 日経(H20.11.14)社説で、高齢者による犯罪が急増していることについて論じていた。


 ここ5年間で高齢者の人口が2倍に増えたのに対し、高齢者による犯罪は5倍に増えている。


 刑務所でも高齢者が増え続けており、そのため、現在、高齢者専用のバリアフリー型収容棟を建設しているそうである。


 何度も刑務所に入所する頻回受刑者も以前から問題になっていたが、そのような頻回受刑者のほとんどは高齢者である。


 それゆえ、頻回受刑者の問題と高齢犯罪者の問題は同じ問題と言える。


 身近な問題でないので話題になることは少ないが、このままだと刑務所全体が老人ホーム化してしまいかねないほどの深刻な問題であると思う。



2008年11月13日(木) ズボンをはいた女性の尻を撮影する行為は違法か

 日経(H20.11.13)夕刊で、ズボンをはいた女性の尻を携帯電話のカメラで隠し撮りした行為について、最高裁は、北海道迷惑防止条例に違反するとした札幌高裁判決を支持し、被告側の上告を棄却する決定をしたという記事が載っていた。


 北海道の迷惑防止条例では、「公衆の場で卑わいな言動をする」ことを禁じており、最高裁は、ズボンをはいた女性の尻を撮影する行為が「卑わいな言動」に当たるとしたものである。


 服の上からとはいえ、知らないうちに尻を撮影されるのは絶対いやだろう。


 ただ、そのような行為を刑法犯として処罰する必要性まであるかどうかが問題である。


 1審では無罪になっており、最高裁でも無罪意見が付いている。


 見解の分かれるところであり、なかなか難しい。



2008年11月12日(水) 控訴審では1審の判断の尊重を

 日経(H20.11.12)1面で、最高裁は、裁判員制度において、控訴審では1審の判断を尊重すべきという研究報告をまとめたと報じていた。


 控訴審は裁判員制度ではなく、職業裁判官だけの裁判である。


 そのため、控訴審で従来どおりの基準で裁判を行うと、裁判員制度は意義は薄れてしまう懸念があった。


 これについて最高裁は、1審判決を破棄するのは、「1審判決が明らかに不合理な場合に限るべき」とした。


 「明らかに不合理な場合」などあまりないだろうから、今後は1審の判断はほとんど覆らないことになるかもしれない。


 そうすると、1審の審理がますます重要になってくる。



2008年11月11日(火) 熱湯で全身やけどを負い死亡 シャワー自体が欠陥ではないか

 日経(H20.11.11)社会面で、千葉市立青葉病院の入院患者が、1人で入浴中に浴槽で全身やけどを負い、死亡したという記事が載っていた。


 そのシャワーは、湯と水の栓は分かれているが蛇口はひとつで、自分で湯と水を調節しながら適切な温度にするタイプ。

 水の栓を開けず、湯の栓だけ開けた場合、湯の温度は約55度になるそうである。


 若いころの個人的経験であるが、同じようなタイプのシャワーで、間違って水の栓を開けずにお湯の栓だけ開けたことがある。


 突然熱湯が降り注ぎ、水の栓を開けることも、お湯の栓を止める余裕もなく、シャワールームから飛び出すのが精一杯であった。


 そのシャワールームは狭かったから、もしすぐに飛び出すことができなかったら、全身やけどを負っていたと思う。


 それ以来、そのタイプのシャワーの場合には、最初に水の栓を開き、シャワーではなく下の蛇口から出して、手で水であることを確認してから、徐々にお湯の栓を開くようにしている。


 警察では病院の安全管理に問題があった可能性があるとしているようである。


 しかし、お湯の温度が55度になって降り注ぐ製品は、それ自体が欠陥ではないかと思う。



2008年11月10日(月) 大麻汚染が拡大

 日経(H20.11.10)夕刊で、大麻汚染が拡大しているという記事が載っていた。


 大麻は、その種子を所持することは違法ではなく、それが大麻汚染が拡大の原因になっているようである。


 しかも大麻は使用することは違法ではない。


 大麻取締法は抜け穴だらけである。


 もともと大麻は非常に身近な植物であり、そのために厳しい規制が難しいのであろう。


 しかし、大麻の使用を取り締まるつもりであれば、大麻を使用する目的での種子の所持や大麻の使用を断固として禁止すべきである。



2008年11月07日(金) 成年被後見人には選挙権がない

 日経(H20.11.7)5面で、アメリカ大統領選挙に関し、アメリカの州では犯罪者には選挙権がないという記事があった。


 日本でも、公職選挙法により一定の場合、選挙権、被選挙権がないとされている。


 その中で、成年被後見人に選挙権がないことが問題になっている。


 成年被後見人になって選挙権が奪われると人として認められていないかのように感じられ、それが、成年後見人の選任申立てを躊躇する原因になっていると言われている。


 成年被後見人に精神上の障害があるからといって、選挙権まで奪うのはいきすぎではないかと思うのだが。



2008年11月06日(木) 振り込め詐欺で他の捜査ができない

 日経(H20.11.6)社会面で、警察庁のまとめによれば、振り込め詐欺撲滅期間であった10月に、被害額が46%減少したそうである。


 それ自体は喜ばしいことだと思う。


 ただ、ある事件で告訴しようとしたところ、警察の担当者が「今は振り込め詐欺の捜査で一杯で、他の事件に手が回らない」と言った。


 他の事件の捜査がなされないというのは、それはそれで困るのだが。



2008年11月05日(水) 著作権者がオークション会社を提訴

 日経(H20.11.5)社会面で、洋画家の遺族が、オークション会社に対し、オークションのカタログに無断で作品を掲載したとして提訴する方針と報じていた。


 美術館の図録については、著作権法で、著作権者の合意がなくても掲載することが認められている。


 しかし、オークションのカタログはこれにはあたらない。


 また、カタログの掲載は、著作権者の許諾なく利用が認められる「引用」にも該当しないと思われる。


 そうすると、オークション会社はいちいち著作権者の許諾を得なければならないことなりそうである。


 しかし、誰でもオークションを利用する機会が増えている今日において、それは妥当な結論なのだろうか。


 著作物をもう少し使いやすいように法改正した方がよいのではないかと思うのだが。



2008年11月04日(火) 小室哲哉を逮捕へ

 日経(H20.11.4)社会面で、「小室哲哉を5億円詐欺容疑で逮捕へ」と報じていた。


 小室哲哉は、自分が作曲した曲などの著作権譲渡の権限がないのに、あるように装い、代金5億円をだましとったという容疑である。


 しかし、最初から騙そうと思っていたのだろうか。


 譲渡する権限がないのに代金5億円を受け取れば、詐欺で訴えられることは誰でも予想できるからである。


 ただ、検察庁が、ある程度証拠を集めた上でストーリーを描いてしまうと、それを覆すことは難しい。


 人は、いつも明確な意識で行動しているわけではない。

 ところが、検察官からいろいろな証拠を突きつけられて、「こういう気持ちだったのではないか」と追及されると、「そうだったかもしれないな」と思ってしまうし、それは記憶に反するとまではいえないだろう。

 とくに、参考人として聞かれている場合には自分が不利益を被るわけでないことから、「そうでした」と検察庁のストーリーに添った供述になりがちである。


 そのようにして周りを固められていくと、最終的には容疑者自身も観念し、「騙しました」という自白調書ができることになる。


 事件の詳細は分からないが、小室哲哉も同じような結果になるのではないだろうか。


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