今日の日経を題材に法律問題をコメント

2008年01月31日(木) 広島地裁の事務官が逮捕される

 日経(H20.1.31)社会面で、自己破産の手続きをめぐり、申立人から現金を受け取ったとして、広島地裁の事務官が逮捕されたという記事が載っていた。


 裁判所には、裁判官、書記官、事務官などがいる(他にも調査官とか執行官とかがいる)。


 裁判官は、一段高い法壇に座っており、法壇の真下に座っているのが書記官である。


 裁判官と書記官は、法律上独自の権限が与えられている。


 これに対し、事務官は、裁判所書記官のもとで各種の裁判事務を担当する。(総務課や会計課などにも配属される)


 それゆえ事務官の職務権限はあまりないのであるが、逮捕された事務官は破産手続きの受け付けや説明の事務を担当していたとのことであるから、「職務に関し賄賂を収受した」とされたのであろう。



2008年01月30日(水) 株取引のリスク

 日経(H20.1.30)社会面で、みずほ証券のジェイコム株誤発注問題を巡り、株価が一定額下がったら自動的に売却する条件で同社株を購入した男性が、株価急落で損失を受けたとして、みずほ証券に約210万円の損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁は、男性の請求を棄却したという記事が載っていた。


 この男性は、インターネットの自動注文機能を利用し「14株購入し、買い付け後に1株9000円以上値下がりしたら全部売る」と発注したところ、みずほ証券が誤発注したために株価が急落し、自動的に売却されて損失を被ったというものである。


 みずほ証券の誤発注が原因で損失を被ったのは事実であり、怒りたい気持ちは分かる。


 しかし、なにかの要因で株価が急落することはあり得ることである。


 それゆえ、自動注文機能を使うのであれば、そのようなリスクも認識して取引すべきである。 


 敗訴はやむを得ないだろう。



2008年01月29日(火) 覚せい剤取締法違反 2回目は実刑

 日経(H20.1.29)社会面で、東京地裁は、女優三田佳子の次男に対し、覚せい剤取締法違反で実刑1年6か月の実刑判決を言い渡したという記事が載っていた。


 覚せい剤の自己使用の場合には、1回目の裁判は執行猶予がつくのが普通である。(但し、営利目的の場合には1回目でも実刑。)


 しかし、2回目の裁判ではほとんど実刑である。


 「1回は社会での更生(執行猶予のこと)を期待するが、2回はだめ」というのが裁判所の基本的考えだからである。


 次男は、6年前に覚せい剤取締法違反で執行猶予付きの判決を受けているから、裁判所の基準からすると実刑判決は当然ということになろう。



2008年01月28日(月) マクドナルドの店長に残業代を支払わないのは違法

 日経(H20.1.28)夕刊で、東京地裁は、マクドナルドが店長を管理職として扱い、残業代を支払わないのは違法であるとして、残業代の支払いを命じたと報じていた。


 管理職に残業代を支払うべきか否かについて、裁判所の判断基準はおおむね確立しており、マクドナルドの裁判でもその基準に則って認定しただけのようである。


 それゆえ、とくに画期的な判決というわけでない。


 それでも、マクドナルドという大手外食産業についての判断だけに、この裁判の影響は大きいであろう。


 そもそも、管理職(正確には「管理監督者」)に残業を支払わなくてもいいのは、『管理者』といえるだけの権限と、それにふさわしい手当てをもらっているからである。


 したがって、規定の労働時間を超えて働いてもらおうとするならば、管理職であれば相応の手当て、管理職でなければ残業代を支払う必要がある。


 いずれにしてもそれなりの人件費を支払う必要があるのであり、長時間、働いてもらおうとするならば、それはやむを得ないことである。



2008年01月25日(金) ウイルス作成者が逮捕

 日経(H20.1.22)社会面で、パソコン上にアニメ画像を表示させ、内部のデータを破壊するウイルスを作っていた大学院生が逮捕されたと報じていた。


 「パソコン上でアニメ画像を、ウィニーを介して無許可で不特定多数の人のパソコンに流出させ、作者の著作権を侵害した」という容疑であり、逮捕の罪名は著作権法違反である。


 しかし、ウイルスを作ったことを処罰したいのに、それ以外の行為を捉えて著作権法違反で逮捕するというのは、こじつけもいいところである。


 ただ、ウイルスに感染した場合の被害は甚大であるのに、ウイルス作成を処罰する規定がないのでやむを得ない。


 もっとも、本音はウイルスを作成した行為を処罰したいのに、著作権法違反という「こじつけ」で処罰することは望ましいことではない。


 それゆえ、早急に法改正してウイルス作成を処罰する規定を設けることが筋であろう。



2008年01月24日(木) 裁判所が保釈を認める割合が増えた

 日経(H20.1.24)社会面で、収賄と議院証言法違反で起訴された守屋防衛省前事務次官官について、東京地裁が保釈を認める決定をしたと報じていた。


 最近、裁判所が保釈を認める割合が増えたようであり、喜ばしいことである。


 ただ、その理由として、公判前整理手続きが行われるようになったことから、公判前に被告人に十分な公判準備の機会を与える必要があるためということが挙げられることが多い。


 しかし、公判前に被告人に公判準備の機会を与える必要性は、公判前整理手続きが始まる以前からあったはずである。


 その意味では、「公判前整理手続きが行われるようになったから」というのは理由としておかしい。


 裁判所のこれまでの保釈の基準が厳しすぎたことが問題なのであり、その点を素直に反省すべきであろうと思う。



2008年01月23日(水) 偽証罪で起訴した件数が10年で5倍超

 日経ネットニュース(H20.1.23)で、偽証罪で起訴した件数が10年で5倍超になったと報じていた。


 背景には、裁判員制度では供述調書より法廷での証言をより重視されることから、検察庁が立件に積極的な姿勢を見せているとのことである。


 しかし、起訴されるのは刑事事件での偽証がほとんどであろう。


 ところが、民事事件では、記憶に基づかない証言が当たり前の感がある。


 「記憶に基づかない証言」といえば聞こえはいいが、要するに偽証である。


 何とかならないかと思うが、何ともならないのが現状である。



2008年01月22日(火) 検察官の取調べを隠し録音

 日経(H20.1.22)社会面で、東京地裁で、検察官の取調べを隠し録音した録音データが証拠として採用され、一部が再生されたという記事が載っていた。


 「逮捕したろか」という検察官の発言が録音されていたそうである。


 任意の取調べでは強制的な身体検査はできないだろうから、今後もこのような事態が予想される。


 警察や検察にとっては脅威になるかもしれない。



2008年01月21日(月) 元日弁連会長の行為が「非行にあたる」

 日経(H20.1.21)社会面で、日本弁護士連合会元会長の鬼追弁護士に対し、大阪弁護士会綱紀委員会は、「弁護士の品位を失うべき非行にあたる」として、業務停止や戒告などの処分にすべきかを決めることになったと報じていた。

 問題となった行為は、鬼追弁護士が整理回収機構の社長だったころ、RCの債務者で鬼追弁護士が顧問をしている不動産会社から、整理回収機構に対する相談を受けたが、相談を受けた後も、月10万円の法律顧問料を受け取っていたことである。


 確かに、顧問会社から整理回収機構に対する相談を受けた時点で、整理回収機構と顧問会社は利益が対立しているわけであり、それにもかかわらず、その後も顧問料を受け取ることは問題であると思う。


 戒告処分ぐらいにはなるのではないだろうか。


 もっとも、この懲戒請求をだれが行ったのかは気になる。


 仮に、顧問会社が、「毎月10万円も払っていたのに整理回収機構に何の働きかけもせず、役に立たなかった」という動機で懲戒請求したのであれば、鬼追弁護士にも同情すべき余地はあるように思う。



2008年01月18日(金) NHK報道局の記者らがインサイダー取引

 日経(H20.1.18)1面で、NHK報道局の男性記者ら3人がインサイダー取引をした疑いで証券取引等監視委員会の調査を受けたと報じていた。


 3人は、ニュース原稿を放送直前に職員専用の端末で閲覧して情報を得て、株式売買をしたようである。


 問題は、調査を受けた3人が、報道局、岐阜放送局、水戸放送局とバラバラであり、連絡を取り合ったこともないという点である。


 そうだとすると、放送直前に情報を得て株取引していたNHK職員は他にもいるのではないかと疑われても仕方ないだろう。


 他の報道機関は大丈夫なのだろうか。



2008年01月17日(木) 三菱自工の元社長に有罪判決

 日経(H20.1.17)1面で、三菱自動車のクラッチ部品が原因で運転手が死亡した事件で、横浜地裁は、三菱自工元社長らに、業務上過失致死罪の成立を認め、有罪判決を言い渡したと報じていた。


 製品に欠陥があったとしても、通常、社長は欠陥の具体的内容まで知らないから、責任が問われないことが多い。


 ところが、裁判所は次の理由で有罪を言い渡したようである。


 「クラッチ部品の不具合については社長は知らなかった」

 「しかし、死傷事故につながりかねない不具合があることの報告は受けていた」

 「にもかかわらず、リコール等の改善措置を講じず、漫然と放置した」


 しかし、自動車に不具合があれば、常に死傷事故につながりかねないといえるのではないだろうか。


 それゆえ、不具合があった場合には、会社のトップは、常に具体的改善措置を取ったかどうかまで確認しておく必要があるということになる。


 会社のトップにとっては厳しい判決であろう。



2008年01月16日(水) 堀江被告の控訴審初公判が2月に開かれる

 日経(H20.1.16)社会面で、ライブドア事件の堀江被告の控訴審初公判が2月22日に開かれると報じていた。


 日本の刑事裁判では、控訴審は、改めて裁判をやり直すのではなく、一審の裁判が正しかったかどうかを見直すという構造になっている。


 したがって、通常の控訴審は1回で終了するし、その1回の時間も20分程度と極めて短時間である。


 ライブドア事件は世間の耳目を集めた裁判であるから、一回20分で終了ということはないかもしれないが、かなり短期間で裁判は終了すると思う。


 とくに、高裁の裁判官は年配の方が多く、おそらくライブドアのような企業には批判的であろうから、なおさらであろう。



2008年01月15日(火) 中越沖地震から半年

 日経(H20.1.15)社会面に、中越沖地震から半年経ったが、住宅被害について正しい判定を望む声が被災者から上がっているという記事が載っていた。


 住宅被害の判定は生活の再建に直結するから重要な問題である。


 今年の9月ころに、新潟県弁護士会が柏崎で行った無料法律相談に応援に行った。


 法律相談では、例えば「地震で自分の家が隣の家に倒れ、隣の家を壊した。隣の家から修理費用を請求されているが、支払う必要があるのか。」という相談があった。


 中越沖地震のような大きな地震であれば、建物の倒壊は不可抗力であるから、修理する責任はないといえる。


 しかし、都会と異なり、何十年も前から隣同士であり、今後も隣同士の関係が続くのである。


 それゆえ、法律でスパッと割り切ることが出来ないところに悩みがある。


 柏崎の町を歩くと、一見平穏を取り戻したように見える。


 しかし、様々な意味で被害は回復していない。



2008年01月11日(金) 否認事件では連日開廷しても2週間以上かかるケースがあり得る

 日経(H20.1.11)社会面に、裁判員制度の実施を控え、裁判が長期化しがちな否認事件で、審理時間を短縮する方法の研究結果をまとめたという記事が載っていた。


 その研究結果では、実際に3年3か月かかった裁判では12回に短縮できるとしている。


 それでも、連日開廷して2週間以上かかる。


 これではほとんどの裁判員は参加できないのではないか。


 弁護人も他の仕事はまったくできない。


 長期化が予想される事件では、連日開廷にこだわらないなど特別の対策が必要ではないだろうか。



2008年01月10日(木) OHT株価操縦事件で、口座を使われた名義人が証券会社に訴訟提起

 日経(H20.1.10)夕刊に、OHT株価操縦事件で、口座を使われた名義人が、証券会社に対し、「不正取引に口座が使われるとは知らなかった」として、債務がないことの確認を求める訴訟を提起したと報じていた。


 この事件は、現在行方不明になっている弁護士が、口座の名義人を騙して口座を借り受け、株価操縦に利用したが、株価が急落したため、口座を使われた名義人が、証券会社から巨額の請求をされているということのようである。


 訴えた口座名義人の人たちの気持ちは、「弁護士に騙されるとは思わなかった」ということであろう。


 ただ、口座を貸す際に数十万円の謝礼を受け取っていることから、証券会社に対する請求はなかなか認められないのではないかと思う。



2008年01月09日(水) 福岡地裁は危険運転致死傷罪を適用せず

 日経(H20.1.9)1面の『春秋』欄(朝日の天声人語欄にあたる)で、追突事故で車が橋から転落し幼児3人が亡くなった事件において福岡地裁が危険運転致死傷罪を適用せず、業務上過失致傷罪を適用したことについて書いていた。


 論調は福岡地裁判決に批判的なものであった。


 その判決の当否は何ともいえないが、飲酒運転による悲惨な事故が後を絶たないことから、何らかの法改正が必要であるように思う。


 一つには、危険運転致死傷罪の要件を「アルコールを飲んで運転し、人を死傷させた場合」というように緩和し、広く飲酒運転に適用できるようにした上で、量刑の中で調整するということが考えられる。


 窃盗罪は10年以下の懲役であるが、実際に適用されるのは懲役2年前後が多い。


 同様に、飲酒の程度が低い場合には、危険運転致死傷罪を適用した上で例えば懲役5年という判決でも構わないはずである。


 もう一つの方向は、業務上過失致傷罪の刑の上限を上げることであろう。


 つい最近、自動車による業務上過失致傷罪(自動車運転致死傷罪)の刑の上限が懲役5年から7年に引き上げられたが、さらに懲役10年以下にまで引き上げることを検討する必要があるのではないだろうか。



2008年01月08日(火) マルチ商法は社会的弱者をターゲットとする

 日経(H20.1.8)社会面トップで、聴覚障害者らを対象にしたマルチ商法事件で、会社の実質的経営者ら7人が詐欺容疑で逮捕されたと報じていた。


 マルチ商法は社会的弱者をターゲットとすることが多く、この事件では聴覚障害者が狙われた。


 経営者らは「CD−ROMの代金53万円を払って会員になれば、毎月8万6000円の配当が得られる」と言って資金を集めたようである。


 CD−ROMを買っただけで毎月8万円以上もの配当が得られはずがないのだが、「少しでも生活が楽になるなら」と思って、逆に被害に遭ってしまうのだろう。


 迅速な摘発が最大の防止策だと思うが、詐欺事件は証拠収集に手間がかかるということがネックとなっている。



2008年01月07日(月) 会社がGPS携帯電話で社員の位置情報を把握することは許されるか

 日経(H20.1.7)23面の「リーガル3分間ゼミ」で、会社がGPS携帯電話で社員の位置情報を把握することは許されるかという問題について書いていた。


 記事の答えは、本人への説明・同意が必要であり、「本人の同意がなく位置情報を知られた場合にはプライバシー侵害を理由に損害賠償を求められる」という弁護士のコメントを紹介していた。


 位置情報を把握することについて本人の同意を得たほうがよいことは間違いない。


 しかし、同意を得ずに位置情報を取得した場合に、プライバシー侵害になるのだろうか。


 位置情報を把握しておく必要性が高い場合や、社員が慢性的に怠業していることが明らかな場合などは、本人の同意なく位置情報を取得することは認められるであろう。


 しかし、そのような特別の理由がなくても、本人の同意なく位置情報を取得したとしても、原則としてプライバシーの侵害にならないのではないかと思う。


 というのは、勤務時間内であれば社員は職務専念義務があり、職務に専念しているかどうかを位置情報で確認することは許容される範囲内と思われるからである。


 もちろん、実務的には、無効な混乱を避けるために本人の同意を取っておくべきであることはいうまでもない。



2008年01月04日(金) 刑務所が老人ホーム代わりになるおそれ

 日経(H20.1.4)社会面で、法務省は高齢受刑者専用の収容棟を広島刑務所など計3カ所に設けると報じていた。


 バリアフリー型の施設をつくり、自力歩行が困難など日常生活に支障のある高齢受刑者の増加に対応するそうである。


 刑務所では以前から高齢受刑者の対策が問題になっていたが、今後も高齢受刑者は増加すると思う。


 高齢受刑者専用の収容棟を作ったとしても、かえって刑務所の方がましという人が増え、刑務所が老人ホーム代わりになる恐れもある。


 そのため、高齢受刑者の対策は重要な課題なのであるが、問題は、世間一般からみると身近な話ではないため、なかなか理解されにくいことである。


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