今日の日経を題材に法律問題をコメント

2007年07月31日(火) 埼玉の吸水口事故から1年 管理者に責任はないのか

 日経(H19.7.31)社会面に、埼玉の吸水口死亡事故から1年になるが、管理業務を請け負った業者や現場責任者は起訴猶予となったそうであり、これを不服として、被害者の両親は検察審査会に審査を申し立てたという記事が載っていた。


 現場担当者の刑事責任を追及するだけでは問題は解決しないとは思う。


 ただ、プール吸水口による事故は埼玉の事故が初めてではなく、これまで何度も起きているのである。

 
 この点を考慮すると、管理責任者に過失がないとはいえないのではないだろうか。


 同じ記事の中で、全国都市公園のプールのうち170か所で、いまだ吸排水口のふたが固定されていないなど安全面の不備があることが判明したとあったが、管理責任者はどういうつもりなのだろうか。



2007年07月30日(月) 参議院不要論について

 日経(H19.7.30)社説で、参議院議員選挙で民主党が第一党になったことの関連し、二院制について次のように書いていた。


 「衆議院と参議院の多数派が異なる場合に、たちまち政権運営は行き詰まる。これは日本の政治の構造上の欠陥・矛盾である。」


 二院制が「構造上の欠陥・矛盾」というのだから、これは参議院不要論につながる意見であろう。


 確かに、多数派が参議院と衆議院とで同じだと参議院の存在する意味はないともいえるし、多数派が参議院と衆議院とで異なると政権運営に行き詰るというのであれば、参議院は不要ということになるのかも知れない。


 一院制は独裁国家のイメージがあるが、実際は独裁国家でなくても一院制を取っている国はかなり多い。(ちなみに、日本でも、マッカーサー草案では一院制であった。)


 しかし、参議院を廃止するには憲法改正が必要である。


 そして憲法改正には各議院の総議員の3分の2以上の賛成で国会が発議する必要であるが、参議院議員が自ら廃止する改正案に賛成することは考えられないのではないだろうか。


 参議院不要論は理論としては魅力的であるが、現実的意見ではないように思う。



2007年07月27日(金) 国選弁護人、複数選任を容認

 日経でなく、朝日(H19.7.27)社会面で、「国選弁護人、複数選任を容認 迅速審理へ負担軽減」という記事が載っていた。


 裁判員制度が始まると連日開廷になるから、弁護士の負担は大きく、被告人の防御にも悪影響を及ぼしかねない。

 そこで国選弁護人を複数認めようというものである。


 国選弁護人を複数認めることはいいことであると思う。


 ただ、裁判所も検察官も組織だから上下関係がはっきりしており、そのため複数であってもぎくしゃくすることはない。


 しかし、対等な関係にある弁護士同士がいっしょに弁護活動してもなんだかぎくしゃくしてうまくいかない可能性がある。


 それゆえ、2人目や3人目の弁護人は自分の事務所の勤務弁護士を指名することができるなどの配慮をすべきではないだろうか。



2007年07月25日(水) 迷惑メールの規制強化

 日経(H19.7.25)5面に、総務省が、迷惑メールの規制強化を検討という記事が載っていた。


 現在でも、特定電子メール送信適正化法及び施行規則により、広告メールには「未承諾広告※」と書くことになっている。


 規制された当初は「未承諾広告」と書いたメールも散見されたが、いまではそのようなメールは皆無であり、誰も守っていない。


 そのため規制の必要性は理解できる。


 ただ、厳罰化を図ったとしても、技術的に脱法行為は容易であり、効果はあまり期待できないのではないだろうか。


 結局、メールアドレスをいくつか持って使い分けるなどして自己防衛するのが現実的対応のように思われる。



2007年07月24日(火) 税務訴訟で国税庁がいつも勝訴するわけではない

 日経(H19.7.24)社会面で、東京国税庁から約17億円の追徴課税を受けたパチンコ店が、課税処分の取り消しを求めていた事件で、東京地裁は、請求をほぼ全面的に認める判決を言い渡したと報じていた。


 税務訴訟は、異議申し立てや国税不服審判で主張が認められなかった場合に提起される。


 つまり、いくつかのフィルターを通っているわけである。


 それでも税務訴訟で国税庁が勝訴するわけではなく、この事件のように、課税された側の言い分が認められるケースは意外とある。


 それにしても、この事件で追徴課税を受けたパチンコ店側は、一時的にせよ17億円もの税金を支払わないといけなかったのであり、受けた損害は計り知れないだろう。



2007年07月23日(月) 4大法律事務所の弁護士らが紛争処理機関を設立

 日経(H19.7.23)1面トップで、4大法律事務所の弁護士らが、消費者と金融機関との間の様々なトラブルを解決する紛争処理機関を設立する方針と報じていた。


 裁判以外の紛争処理機関を設立することによって迅速な解決をはかることは望ましいことだと思う。


 ただ、これまで4大法律事務所に依頼したことのある金融機関を集めると、ほとんどカバーされるのではないか。


 その法律事務所の弁護士が裁定するのでは、実際に不公平な裁定をすることはないにしても、公平性に対する信頼を得られにくいのではないだろうか。



2007年07月20日(金) 村上被告に実刑判決

 日経(H19.7.20)3面に、ニッポン放送株のインサイダー取引事件で、東京地裁は村上被告に実刑判決を言い渡したが、その判決の解説記事を載せていた。


 記事によれば、東京地裁は「重要事実の実現可能性がまったくない場合には除かれるが、実現可能性があれば足り、その高低は問題にならない」と判断している。


 「実現可能性があれば足りる」ということまでは理解できるが、「その高低は問題にならない」とはどういうことだろうか。

 これでは実現可能性が非常に低くてもいいということになる。


 しかも、その直後の事実認定で、「ライブドアの財務状況や資金調達能力からすれば、可能性はかなり高かった」としている。

 そうであれば、「実現可能性の高低は問題にならない」とまで規範を立てる必要性はなかったはずである。


 これでは正当なファンドの活動にまで萎縮効果を与えるのではないか。


 なんだか、裁判官はファンドの活動を敵対視しているように思ってしまう。



2007年07月19日(木) 緒方元長官を再逮捕

 日経(H19.7.19)社会面で、朝鮮総連に対する詐欺事件で、緒方元長官を再逮捕という記事が載っていた。


 この事件で朝鮮総連は、「騙された認識はないし、処罰も希望しない」と表明している。


 詐欺事件で、被害者とされる側がそのような表明をすれば、検察官は起訴しない。


 被害感情が希薄という理由だけでなく、被害者が協力しないのだから公判維持ができない可能性があるからである。


 それゆえ、起訴したうえでさらに再逮捕をするということは異例である。


 ところで、他の新聞では、緒方元長官が自白を始めたと報じていたが、本当だろうか。


 詐欺事件では物証が少ないことが多く、それだけに、自白すれば決定的な証拠となる。

 しかも被害金額からして実刑判決が予想される。
 

 検察官出身である緒方元長官がそのことを知らないはずはないであろう。



2007年07月18日(水) ミートホープ社が自己破産を申請

 日経(H19.7.18)社会面で、食肉偽装事件を起こしたミートホープ社が自己破産を申請したと報じていた。


 社長はいまのところ破産を申し立ててないようである。


 しかし、ミートホープ社の食肉偽装事件は、社長の個人責任の要素が強く、また、報道では高額の役員報酬を得ていたようであるから、社長が破産を申し立てないということは道義的に許されないだろう。


 ただ、会社が破産しても、社長は「破産を潔しとしない」として、破産を申し立てないケースはある。


 この件でも、あくまでも社長が破産を拒めば、裁判所も強制はできない。



2007年07月13日(金) オウム事件の高裁での審理は終了

 日経でなく、朝日ネットニュース(H19.7.13)で、オウム真理教元幹部中川被告の控訴審で、東京高裁は、死刑とした一審・東京地裁判決を支持し、控訴を棄却したと報じていた。


 これで一連のオウム裁判の高裁での審理は終了したが、10人が最高裁に上告中であり、裁判はまだ終わりそうにない。


 一審からはすでに10年以上経過しており、重大事件とはいえ、あまりに長すぎるように思う。


 世間では、その責任は弁護人にあると思われており、その評価はあながち間違いではないと思う。



2007年07月12日(木) 企業の倒産が増加

 日経(H19.7.12)4面で、企業の倒産が増加しているという記事が載っていた。


 確かに企業倒産は増えているようであり、最近立て続けに企業倒産の相談を受けた。


 倒産の原因はそれぞれであるが、目に付いたのは、これまでは付き合いで仕事を回してくれていたのが、競争が激しくなり、何らかの特徴がないと仕事を回さなくなったというケースである。


 全体の景気は好調のようであるが、部分的に見ると必ずしもそうではないようである。



2007年07月11日(水) 保険料未納企業の従業員に厚生年金支給

 日経(H19.7.11)1面トップで、厚労省は、保険料未納企業の従業員に厚生年金支給する特例法を提出すると報じていた。


 会社が、従業員から保険料を天引きしながら、社会保険事務所に支払っていないことは、破産管財人をしているとしばしば経験する。


 銀行や取引先への支払いを怠ると会社は即倒産であるが、消費税などの税金や社会保険料の未払いはそうはならない。


 そのために支払いが後回しになってしまうのである。


 社会保険料を支払っていなかった会社の破産管財人をしていたとき、従業員は保険料を払った扱いになるのか気になって、社会保険事務所に問い合わせたことがある。


 担当者は、従業員は支払った扱いになるので心配しなくていいと言っていたが、その根拠はよく分からなかった。


 今回の特例法により、会社が保険料を支払っていなかった場合にも年金が支給されることが明確になったわけであり、評価できる。


 ただ、保険料を支払ったことの認定を確認委員会から受けなければならないため、完全な救済にはならないようである。



2007年07月10日(火) ブルドックソースの買収防衛策の差止め事件

 日経(H19.7.10)1面で、米投資ファンドがブルドックソースの買収防衛策の差止めを求めた事件で、東京高裁は、申し立てを却下した東京地裁決定を支持したと報じていた。


 買収防衛策について株主総会で3分2以上の支持を得ている以上、東京高裁の結論は当然であろう。


 ただ、決定要旨で次のように判断していたのが気にかかる。

 「投資ファンドは成功報酬を最優先する」「買収対象企業の経営には特に関心を示したり関与することはない」「様々な策を弄してひらすら利益を追求する存在である」


 新聞による要旨のため不正確かもしれないが、東京高裁は、当該抗告人(スティール・パートナーズ)だけでなく、投資ファンド一般について「様々な策を弄して利益を追求する存在」と評価をしているように読める。


 しかし、それはあまりに短絡的であり、そのような判断する証拠もないのではないか。


 この事件で東京地裁は、「スティール・パートナーズが経営権取得後の経営方針や投下資本の回収方針を明らかにしないということを根拠に対抗手段が必要とした株主総会の判断が明らかに合理性を欠くものとはいえない」と判断するにとどめている。

 すなわち、乱用的買収者とは認定せず、投資ファンド一般が「様々な策を弄して利益を追求する存在」とも評価していない。


 東京高裁は必要のない判断までしているように思われる。



2007年07月09日(月) 仕事で得た顧客の名刺は誰のものか

 日経(H19.7.9)16面のリーガル3分間ゼミというコラムで、「仕事で得た顧客の名刺は誰のものか」という問題について書いていた。


 普段のこのコラムは無理やり捻り出したようなQ&Aが多いが、今回の問題はおもしろい。


 顧客の名刺が誰のものかが問題になるのは、その社員が同業他社に転職したり、独立するような場合であろう。


 これは、会社の秘密保護と、転職という職業選択の自由との調整の問題である。


 そうだとすると同業他社に就職することを禁止する競業避止義務と似たような問題状況といえる。


 同業他社への転職は、そのような行為を禁ずる契約(競業避止義務)がなければ制約することはできないとされている。


 同じように、顧客の名刺についても、それを会社の秘密であると明示しているような場合でないと、退職する社員がその名刺を利用することを制約することはできないということになるだろう。




2007年07月06日(金) 受信料の督促を全国8か所に拡大

 日経(H19.7.6)社会面で、NHK受信料不払い問題で、受信料の支払い督促を、東京だけでなく、拠点放送局がある全国8か所でも行うという記事が載っていた。


 支払い督促を行う理由は、「受信料の公平な負担を徹底させるため」とのことである。


 しかし、NHKの職員が対応できる地域の不払い者に対してのみ支払い督促をするわけであり、別の意味で公平さが問題になるように思う。



2007年07月05日(木) 自費出版商法?

 日経(H19.7.5)社会面で、「自費出版すれば有名書店に著作を並べる」と説明されたのに、書店に本がほとんど並ばなかったとして、著者らが自費出版大手に対し800万円の損害賠償請求をしたと報じていた。


 自費出版社は、文学賞を出して自費出版させることが多い。


 また、賞に落選しても、「素晴らしい内容だ。ぜひ出版したい」と言って自費出版させるケースもある。


 文学賞商法とか、自費出版商法とか言われており、トラブルは多い。


 ただ、自費出版の相場は500部で100万円前後のようであり、実費を考えるとぼったくとまではいえないかも知れない。


 なかなか微妙な商法である。



2007年07月04日(水) 、『民事裁判に満足』が24%

 日経(H19.7.4)社会面で、民事裁判の当事者になった人たちを調査したところ、『民事裁判に満足』が24%であり、裁判への満足度が低い実態が浮かんだったという記事が載っていた。


 「裁判の満足度が24%」というのは、低い数字だろうか。


 敗訴すれば、当然不満が残る。


 和解の場合も、和解は自分の言い分からは譲歩するのだから、内心は不満であることは多い。


 そう考えると、「民事裁判に満足が24%」というのは低い数字ではないように思うのだが。



2007年07月03日(火) 違法な音楽配信サイトからのダウンロードは「合法」か

 日経(H19.7.3)3面に、音楽配信サイトの適法業者に「識別マーク」を与える制度を始めるという記事が載っていた。


 違法な音楽配信サイトは数万サイトもあるそうで、違法コンテンツと知りつつダウンロードすれば、私的使用でも違法とするように著作権法を改正する動きがある。


 「識別マーク」は、その法改正に向けた布石のようである。


 ところで、その記事では、「現行著作権法では、個人が楽しむ範囲内であれば、違法サイトからのダウンロードでも合法である」と断定していた。


 しかし、「合法」と言い切っていいのだろうか。


 違法サイトからダウンロードする人たちがいるから、違法サイトを運営するのであろう。


 そうであるなら、違法サイトであることを知りつつダウンロードすれば、それは不法行為の精神的幇助になる、あるいは共同不法行為といえないだろうか。


 なかなか苦しい解釈であるが、「違法サイトからのダウンロードは合法である」と言い切るのも躊躇を覚えるのだが。



2007年07月02日(月) 海外がらみの課税訴訟が多発

 日経(H19.7.2)16面で、海外がらみの課税訴訟が多発しており、国税が敗訴する割合も上昇しているという記事が載っていた。


 コンサルタントなどのアドバイスや、海外リース取り引きを利用した節税対策などで、公平性が疑われる海外がらみの取引が多くなっている。


 それに対し、国税庁が多少無理をしてでも課税し、これに納税者が反発して、課税訴訟が増えているようである。


 このような法の抜け穴を探るような節税のための取り引きについて相談を受けた場合、私は「止めた方がいい」とアドバイスする。


 だいたいがそのような取り引きは納税者が十分理解できない場合が多く、自分で理解できない取り引きは行うべきでない。


 また、国税庁に課税される可能性も高く、仮に後に訴訟で勝ったとしても、訴訟の費用負担などを考えると、デメリットの方が大きいからである。


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