今日の日経を題材に法律問題をコメント

2006年11月30日(木) 『ひよこまんじゅう』は全国的に周知されているか

 日経(H18.11.30)1面で、和菓子『ひよこ』の立体商標について、東京高裁は「周知は全国的ではない」として認めなかったと報じていた。

 
 特許庁は立体商標を認めていたのであるが、東京高裁はそれを取り消したわけである。


 ふっくらした鳥型の菓子を見ると、「ひよこまんじゅう」と思う人も多いはずであり、この種の問題はなかなか難しい。



2006年11月29日(水) 「公訴権濫用」の主張

 日経(H18.11.29)社会面で、ライブドア事件の証拠調べが終了していたと報じていた。

 堀江被告側は、「堀江被告の起訴は公訴権の濫用である」として、公訴棄却を求めたそうである。


 公訴権の濫用というのは弁護人が時々主張するが、裁判所がそれを認めるはずがなく、弁護人もそれを承知の上である。


 その意味では、「公訴権の濫用」というのはかなり苦し紛れの主張であることが多い。



2006年11月28日(火) 前納授業料などの返還訴訟で、最高裁が初判断

 日経(H18.11.28)1面で、大学入学辞退者が前納授業料などの返還を求めた訴訟で、最高裁が初の判断をしたと報じていた。


 最高裁の結論は、入学金の返還は認めない、前納授業料については、消費者契約法の施行で分けて、施行以後については前納授業料の返還を認めるというものである。


 これにより、入学金、授業料の返還問題はほぼ決着がつくと思われ、その意味では評価すべきである。


 ただ、消費者契約法の前後で返還の可否を分けるというのはどうかと思う。


 確かに、消費者契約法の施行前後で分けるというのは基準としては明確である。

 また、そうでないと不当利得返還請求権の時効である10年間も遡って返還請求が認められることになり、大学の負担が大きいということも配慮したのだと思う。


 しかし、入学を辞退した者に対し、入学金だけでなく、授業料まで返還しないというのは、どう考えてもおかしいのではないかと思う。

 それゆえ、そのような契約は公序良俗に反し無効であり、消費者契約法の施行前後で分ける合理的理由はないように思う。



2006年11月27日(月) 多選制限は合憲か

 日経(H18.11.27)13面で、知事の多選を制限することのアンケートで、8割が制限が必要との回答だったそうである。


 総務省でも、首長の多選を制限する法律が可能かについて検討中のようである。


 ただ、多選を制限する法律については、その合憲性が問題になる。


 というのは、憲法15条は立候補の自由を保障していると解されているが、多選制限することは、その立候補の自由を制約することになるからである。


 もちろん、立候補の自由が無制限に認められるわけではない。

 例えば、公職選挙法では衆議院議員について25歳以上と定め、それ以下の年齢の者は立候補できないが、それは合理的制約とされている。


 多選についても、その弊害が顕著であれば、法律で立候補を制限をしたとしても、合理的制約として合憲ということになるのであろう。


 ただ、多選を認めるかどうかは、本来は、選挙する住民が決めることである。

 多選が問題なら、その候補に投票しなければいいのである。


 それを、法律で一律に多選を制限することは妥当かという問題は残ると思う。



2006年11月24日(金) 弁護士人口が現在の6倍になる

 日経(H18.11.24)社会面に、弁護士人口が50年後に現在の6倍になるという記事が載っていた。


 すでに、大阪などでは、あまり若くない女性の司法修習生が就職に苦労しているという話を聞く。


 法化社会の到来によって、弁護士、裁判官などが職業として人気のようであるが、弁護士になっても仕事がないという時代が来るかもしれない。



2006年11月22日(水) 和解金の決め方はあまり厳密ではないことが多い

 日経(H18.11.22)4面で、三菱UFJと住友信託銀行との合併を巡る事件の控訴審で、三菱UFJが25億円の和解金を支払うことで和解したと報じていた。


 一審では、住友信託銀行は100億円前後の和解を打診し、裁判所は50億円の提案したそうである。


 100億円、50億円、25億円という切りのいい数字を見たら分かるが、金額にさしたる根拠があるわけではない。


 本来であれば、合併交渉によって実際に生じた金額(合併に際し、相手方会社を査定したことによる費用など)が和解金算定のベースになるはずである。


 しかし、和解になると、そのような厳密な話ではなく、極めて大雑把な話になることが多い。


 訴訟というのは、大企業は別にして、中小企業でも大ごとである。


 それなのに、和解の場合に「そんないい加減な金額の決め方でいいのか」と言って不満を持つ人もいる。


 確かにそのとおりであるが、「和解によって早期の解決することによるメリットを重視した方がよい」と言って我慢してもらっている(もちろん、どんな場合でも和解を進めるわけではない)。



2006年11月21日(火) 広告を出した新聞社にも問題があるのではないか

 日経(H18.11.21)社会面に、「近未来通信が閉鎖」という記事が載っていた。


 「近未来通信」社はIP電話の事業展開を謳っていた会社であり、中継局オーナーシステムと称して投資家から多額の資金を集めていた。


 しかし、会社が閉鎖されたことにより、投資したお金はほとんど返ってこないであろう。


 この会社は、大新聞に中継局オーナー募集の広告を積極的に打ち、投資家を集めていた。


 これに対し、消費者問題を主に扱う弁護士から、「近未来通信」の会社運営に問題があるので広告を止めるよう申し入れしていたが、新聞社はそれを聞き入れなかったそうである。


 その結果、被害者が増えることになったわけであり、新聞社にも問題があると思う。



2006年11月20日(月) バブル再現の様相

 日経(H18.11.20)9面で、「パシフィックゴルフ コース転売好調」「景気回復で買い手増加」という記事が載っていた。


 パシフィックゴルフなどの投資ファンドは、これまで積極的にゴルフ場を買っていたが、売却に転じたわけである。


 投資会社が購入したゴルフ場は、複雑な債権関係をある程度整理しているため、買い手は多い。


 ただ、私が相談を受けた事案で、転売目的で買って、すぐにその何倍かの価格で売り抜けていたケースがあった。


 何だかバブル再現の様相を呈している。



2006年11月17日(金) 公判前整理手続き

 日経(H18.11.17)社会面で、「村上ファンド」によるインサイダー取引事件で、村上被告の初公判が11月30日に開かれると報じていた。


 この事件では、公判前整理手続きが行われ、審理のスケジュールなどが決められている。


 公判前整理手続きは、裁判員制度を見据えて、審理を迅速に進めるために、事前に争点を明確にし、公判期日をあらかじめ決めておくなどの制度である。


 実は、私も最近、公判前整理手続きを行った。

 最初の打ち合わせでは、裁判官3人、書記官2人、検察官2人、検察修習生3人くらいいて、裁判修習生は人が多すぎて入れなかった(弁護士側は、国選弁護人なので私1人である。)。


 準備はなかなか大変であるが、迅速な裁判のためには望ましい制度であると思う。



2006年11月16日(木) 免責条項について

 日経(H18.11.16)13面で、『きしむ品質』という見出しで、日本企業に相次ぐ品質問題についての連載記事が掲載されていた。

 その中で、有名弁護士が、「品質問題で巨額賠償リスクが台頭してきた」「契約における免責事項が重要になる」「免責事項がないと、事故が起きたときに経営に大きな打撃を受けかねない」と述べていた。


 そのとおりではある。

 ただ、免責事項は、契約の相手からすれば受け入れたくない条項であるから、そう簡単ではない。


 そのため、完全な免責条項はあり得ず、賠償額の上限を決めるなどして妥協せざるを得ない。


 それでも、その種の条項については契約の際にもめることが多いのが実情である。



2006年11月15日(水) 2審で、1回で弁論が終結することは珍しくない

 昨日の日経(H18.11.14)夕刊で、医療過誤訴訟で、最高裁は、遺族敗訴の2審判決を破棄し、審理を高裁に差し戻したと報じていた。


 破棄した理由は、病院側意見書に対する反論の機会を与えず、最初の弁論で結審したということのようである。


 しかし、高裁では1回の弁論で終結することは珍しくない。


 そのため、控訴する場合には事前に依頼者に1回で終結する可能性があることについてよく説明して必要がある。

 そうしないと、1回の弁論で終結した場合、依頼者がとまどい、自分が依頼した弁護人とトラブルになることさえもある(幸いにして、私の場合、控訴して1回で弁論が終結したことはこれまでなかったが)。



2006年11月14日(火) MBOはいずれ問題になるのではないか

 日経(H18.11.14)11面で、MBO(経営陣による企業買収)の仕組みについて開設していた。


 昨年にワールドがMBOをしたときの目的は、会社を公開することによる敵対的買収などのリスクを排除し、経営に専念するということであったように思う。

 それは会社経営の一つのあり方であり、合理的であると思った。


 しかし、最近のMBOは、投資ファンドと現経営者が組んで行われている。


 投資ファンドの目的は、会社の収益力を高めた上で、再上場したり、売却したりして収益を上げるということである。


 これでは、投資目的で行う会社の売買ゲームに、経営者までが参加しているのと同じではないだろうか。


 このような状態だと、MBOはいずれ問題になるのではないか。



2006年11月13日(月)

 日経(H18.11.13)夕刊に、東京三会の弁護士会の合同で(東京だけは弁護士会が三会ある)、金融商品110番を実施するという記事が載っていた。

 記事では、「商品先物取引や外国為替証拠金取引などの金融商品に関するトラブルや、未公開株についての詐欺事件について対応する」とあった。


 ただ、「外国為替証拠金取引」は、規制が厳しくなり悪質業者はほぼなくなったようである。

 「未公開株」は、未公開株を売却した連中が逮捕されてからはあまり被害の相談は聞かない。

 「商品先物取引」も、最近は、先物取引業者が、勧誘する人についてある程度自主規制しているようであり、相談がやや減っている印象である。


 そうはいっても、金融商品のトラブルが減るかといえば、そんなことはあり得ない。

 今後も様々なトラブルがあることは間違いない。



2006年11月10日(金) 病院はカルテの意義を軽視していないか

 日経(H18.11.10)社会面で、大学病院でカルテを書かずに診療報酬していたとして、厚生労働省が返還を求める方針と報じていた。


 診療していないのにカルテに記載して診療報酬請求するということはよく聞く(実際、私が担当した事件でも行われていた)。


 記事のケースは診療はきちんとやっていたから、事案が逆である。


 ただ、いずれにせよカルテの意義を軽く考えすぎているのではないかと思う。



2006年11月09日(木) 振り込め詐欺事件で、東京地裁が債権者代位権を認める

 日経(H18.11.9)社会面に、振込み詐欺事件で、被害者が銀行に対し、払い込み金の返還を求めた訴訟で、東京地裁は被害者の請求を認めたという記事が載っていた。


 このケースでは、口座名義人は、振り込め詐欺をした側の名義であり、その口座の預金は被害者のものではない。

 したがって、被害者が直接銀行に返還を求めることはできない。


 そのため、被害者が口座名義人に代わって、銀行に返還を求めたものである(これを債権者代位権という)。


 法理論的にはなかなか難しい問題があるのだが、結論としては妥当であると思う。



2006年11月08日(水) 裁判所は被告人と証人の証言のどちらを信用するか

 日経(H18.11.8)社会面で、ライブドア事件で、堀江被告人の被告人質問が行われ、堀江被告は宮内証言を全面的に否定したと報じていた。


 このように証人と、被告人との証言がまったく違っており、他に客観的証拠がないような場合、裁判所は大体証人の証言が採用する。


 証人は嘘を付く動機がないので、その証言は信用できるという考えがあるからである。
(逆にいえば、被告人は自分の罪を軽くしようとして記憶どおり供述しないという先入観があるということになる。)


 しかも、宮内被告は、堀江被告が株売却状況を聞かれたときの状況を「どうどうどうどう株価どう」と掘江被告の口真似をして証言したそうである。


 このような証言は、「証言に迫真性があり、信用できる」とされる。


 ということで、堀江被告の言い分は通らないと思う。


 ところで、堀江被告は、被告人質問で「株式時価総額世界一とは言ってない」「社員には営業利益世界一と言っていた」と証言したそうである。


 しかし、ライブドアの忘年会のビデオでは、「時価総額世界一」と叫んでいたように思うのだが・・。



2006年11月07日(火) 20年を超える懲役刑

 日経(H18.11.7)夕刊に、犯罪白書によると、有期懲役の上限を30年に引き上げた改正刑法が施行されて以降、20年を超える懲役刑が3件あったという記事が載っていた。


 20年を超える懲役刑だと、出所したときにはかなり高齢になっていることが多いであろう。


 また、懲役刑が30年まで引き上げられると、必然的に無期懲役の仮出獄もこれまでより遅くなると思われる。


 そうすると、今後、受刑者の高齢化がますます問題になってくるのではないだろうか。




2006年11月06日(月) 有期労働者の契約更新拒絶は不当解雇になる?

 日経(H18.11.6)19面の「リーガル3分間ゼミ」というコラムで、一年間契約を繰り返していた有期労働者が契約更新を拒まれた場合について論じていた。

 コラムの結論は、「契約更新が不当解雇に該当する場合もある」というあいまいなものであった。


 まあ、その通りであり、事案によって、不当解雇になる場合もあれば、更新を拒絶が認められる場合もあるというしかない。


 ただ、事前に会社から相談を受ける場合には、それではアドバイスにならない。


 そこで、「契約更新を続けた場合には、正社員と同じと認定されると思っていたほうがいいですよ。」と言っている。


 実際、契約期間が決まっている労働者に対し、経営者は、いつでも更新を拒絶できると誤解していると思っていることが多いようである。



2006年11月02日(木) 企業買収における経営者の役割

 日経(H18.11.2)31面の「経済教室」で、大手法律事務所の弁護士の方が企業買収について論じていた。


 論旨は以下のとおりである。


 企業買収について、一般的には、「企業価値を上げる買収は良い買収であり、企業価値を下げる買収は悪い買収である」とされている。

 しかし、企業価値を上げるか下げるかは将来のことであるから測定不能である。

 それゆえ、良い買収か、悪い買収かということは客観的には判断できない。

 とすると、買収の対象となった企業の経営者として期待されることは、買収提案の良否を判断し、対抗措置を取ることではない。

 判断権者である株主に十分な情報を提供し、自由な判断ができる環境をつくることである。

 逆にいえば、企業買収防衛策が発動できる場合は限定されているということになる。



 的確な意見であると思う。

 論旨も極めて明確であり、優秀な弁護士なのだろう


 もっとも、いろんな企業買収防衛策を考え出したのは大手法律事務所であった。


 この論者はそのような大手法律事務所の弁護士であるから、「企業買収防衛策が発動できる場合は限定されている」などと書くと、業務に差し支えるのではないかと余計な心配をしてしまう。



2006年11月01日(水) 耐震強度偽装事件の解明はなされたのか

 日経(H18.11.1)夕刊に、耐震強度偽装事件に関し、「木村建設の篠塚元支店長に有罪」という記事が載っていた。


 しかし、犯罪事実は、木村建設が業績を水増しして建設業許可を受けたことを認識していたという建設業法違反の事実であり、耐震強度偽装とは関係のないものであった。


 耐震強度偽装事件では、検査確認機関の藤田社長も逮捕されたが、犯罪事実は、「増資に見せ金を使った」という電磁的公正証書原本不実記載罪であり、耐震強度偽装とは何ら関係のないものであった。


 捜査機関は、耐震強度偽装が発覚した当時「あらゆる法律を使って事案の解明にあたる」と表明していたと思う。


 しかし、結局は耐震強度偽装事件とは関係のない別件で有罪にして溜飲を下げただけであり、マスコミに迎合した捜査に過ぎなかったのではないかと思う。


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