今日の日経を題材に法律問題をコメント

2006年01月31日(火) 安易なアスベスト使用継続による損失

 日経(H18.1.31)社会面で、患者の人たちが、アスベスト新法の大幅修正を求める集会を開いたと報じていた。


 アスベスト問題については、先日も、家を改造するというテレビの人気番組が、改造前のアスベスト調査に時間がかかり番組が製作できなくなったことを理由に、製作中止を発表していた。


 私が扱った事案では、建物売買の契約書に、「アスベストの使用の有無は不明なので、アスベストが使用されていたも売主は瑕疵担保責任を負わない」という条項が入っていたことがある。


 また、別の事案では、ビル一棟を借りる予定の借主から、「借りる前に、アスベストの有無を調査させて欲しい」と言われたことがある。


 もしアスベストの使用が分かった場合には、その物件の購入や賃借りを断念するかもしれず、そうするとその建物は朽廃を待つしかない。


 これは国民経済の著しい損失といえる。


 安いからといって安易に使用を続けた結果、莫大な経済損失を生んでしまったという例がまた増えたわけである(もちろん、国民経済上の損失以上の問題は、健康被害であることはいうまでもない)。



2006年01月30日(月) 東横インの不正改造問題

 日経(H18.1.30)社会面で、東横インの不正改造問題の続報がされていた。


 この事件の端緒は、新聞で「東横イン・横浜日本大通り日銀前」で駐車場を玄関ホールに改造したことが報道されたことによる。


 問題のホテルあたりは、近くに横浜地方裁判所があるのでよく行くのだが、横浜市役所と東横インとは、歩いて5分くらいの目と鼻の先の距離である。


 横浜市は不正改造の事実を知らなかったのだろうか。



2006年01月27日(金) 江副氏が、新聞記事が掲載されたその日に、名誉毀損で訴える

 日経(H18.1.27)社会面で、元リクルート会長の江副氏が、朝日新聞を名誉侵害で提訴したと報じていた。


 名誉を毀損されたという朝日新聞の記事は、昨日の1月26日であり、提訴したのはその日である。


 昨今は司法にもスピードが求められているが、それにしてもあまりの速さに驚いた。


 もっとも、新聞報道で名誉毀損された場合の訴状は内容的には難しくなく、証拠も朝日新聞の記事程度でほとんど必要ないから、すぐに作成できるとはいえるが。



2006年01月26日(木) 株主代表訴訟を免れるための損害賠償請求は止めた方がいい

 日経(H18.1.26)11面で、フジテレビが、ライブドアとの提携によりライブドア株を取得した結果、巨額の損失を被ったことについて書いていた。


 それによれば、フジテレビの役員に対し、この損失の責任を問う株主代表訴訟の動きがあるそうで、役員たちは、それを恐れているそうである。

 そのため、「形だけでもライブドアの責任を問わないと持ちない」とのことである。


 しかし、株主代表訴訟を免れるための、「形だけ」の損害賠償請求は止めた方がいい。


 訴訟すれば弁護士費用などでかなりの追加の費用が生じる。

 それなのに、裁判で勝てるかどうかは分からないからである。


 場合によっては、訴訟したこと自体が株主代表訴訟の対象になるという皮肉な結果になるかもしれない。



2006年01月25日(水) 保釈は当分無理と思われる

 日経(H18.1.25)1面トップは、今日もライブドア事件である。


 今日、用事があって東京地検に行ったのだが、地検の前はマスコミでいっぱいであった。

 地検の前からタクシーに乗ると、運転手さんが、早速「ホリエモンは保釈されるねえ」と聞いてきた。


 保釈は、起訴された後の制度であるから、現時点では保釈はできない。


 また、粉飾決算容疑で追起訴が予定されている場合には保釈は認められない。

 そのうえ、堀江氏は容疑を否認しているようであり、否認している場合に裁判所は保釈をほとんど認めないから、保釈は当分無理だろう。



2006年01月24日(火) メールの削除は証拠隠滅罪に該当する

 日経(H18.1.24)1面トップで、ライブドアの堀江社長らが逮捕されたと報じていた。


 この強制捜査の際に、NHKが先に報道してしまったために、メールなどが削除されたそうである。


 しかし、検察庁の強制捜査が入ったことを知りながらメールを削除することは証拠隠滅に該当する。


 メールなどのデジタルデータは一瞬にして削除が可能であり、このようなことが頻発すれば、今後の捜査に重大な悪影響が生じるだろう。


 そのため、一罰百戒の趣旨で、本件捜査が一段落すると、メールを削除した者らを証拠隠滅の容疑で捜査するのではないかという気がするのだが。



2006年01月23日(月) アフィリエイトで責任を負うことがあるか

 日経(H18.1.23)18面で、「アフィリエイトに注意」ということを書いていた。

 アフィリエイトとは、通販の商品をブログなどで紹介し、その商品が売れた場合、紹介したブログ作成者に報酬が入るという仕組みである。


 その記事で書いていたのは、「商品の欠陥を疑いつつ紹介した場合には、紹介した者も責任を問われるおそれがあるから注意が必要」という内容であった。


 それはそのとおりだが、紹介者が商品の欠陥を疑いつつ紹介するということは考えられないのではないか。


 紹介者は、商品のことなどほとんど知らない。


 この点、雑誌の広告で、雑誌社が商品の内容を知らないのと同じであり、広告を掲載した雑誌社が広告の内容について責任を問われることはほとんどない。


 それゆえ、アフィリエイトで紹介者が責任を負うというのはよほど特殊な事例ということになると思う。



2006年01月20日(金) 小説だからといって、何でも書いていいわけではない

 日経(H18.1.20)文化面の新聞小説「愛の流刑地」に、弁護士が被告人が拘置所で接見中、被告人が興奮して声が高くなったため、横にいた看守が「静に」と咎めるという場面があった。


 しかし、弁護士が接見する場合に看守は横につかない。


 刑訴法では、弁護人は立会人なくして接見できることを明文で規定しているからである。

 これは、憲法で保障している弁護人依頼権を実質的に保障するための重要な権利である。


 小説はすべて真実を書く必要はない。真実だけでは小説とはいえないだろう。

 だからといって、何でも書けばいいものではないと思う。


 この場面で係官が横で「静に」と咎めるセリフを書く必然性はないであろう。


 小説家は法律の専門家でないとはいえ、もう少し勉強して欲しいと思う。



2006年01月19日(木) 東証の取引停止に損害賠償請求ができるか

 日経(H18.1.19)1面トップで、東京証券取引所の売買を全面的に停止し、20分早く終了したと報じていた。

 ライブドア・ショックで売買がシステムの能力の限界に近づいたためである。


 社会面では、この措置に対し「補償があるのか」という問い合わせがあると報じていた。


 確かに、売り急いでいたのに、この取引停止で売れずに抱えてしまった人が、損失補償を求める気持ちは分かる。

 しかし、それが法律上の損害賠償請求という意味であれば、それはできないだろう。


 その理由は、第一に、システムの能力の限界を超えることによる不測の損害を考えると、取引停止はやむを得ない措置であり、違法性がないといえるからである。

 これに対しては、システムの能力を増強しておくべきであったという批判はあるだろう。

 もちろん、その批判を東京証券取引所は甘受すべきである。

 しかし、東京証券取引所もまったく放置していたわけではない。

 しかも、ライブドア・ショックという突発的事情であることから、違法性としてはないであろう。


 理由の第二は、次の日に売買ができて損害を被った人は、仮に、システムが停止されずに当日に売買できていたとしてもやはり損害を被った可能性は高い。

 すなわち、取引停止と損失との因果関係がないということになる。


 このような理由から、取引停止措置に対し、法律上の意味での損害賠償を求めることはできないと思う。



2006年01月18日(水) 弁護士は依頼者のために働くべきである

 日経(H18.1.18)1面に、耐震強度偽装事件に、衆議院はヒューザーの小島社長を証人喚問したが、小島社長は、刑事訴追の恐れを理由に何度も証言を拒んだと報じていた。


 小島社長の脇には弁護士が控え、質問の都度アドバイスを行っており、世間では、この弁護士に批判的なようである。


 しかし、いったん事件を受任した以上、依頼者のために働くのは当然である。


 世間の評判を気にして、弁護活動が委縮するほうがよほど問題である。



2006年01月17日(火) 東京地検がライブドアを家宅捜査

 日経(H18.1.17)1面トップで、「東京地検が証券取引法違反の容疑でライブドアを家宅捜索」と報じていた。


 記事によれば、ライブドア・マーケティングが、マネーライフ社を株式交換で買収すると公表したが、実際には、公表前にライブドアが実質的に支配している投資組合がマネーライフ社を傘下に収めていたということのようである。


 識者(弁護士)によれば、虚偽情報を流したとしても、相場変動目的があることを立証できるかがポイントになると書いていた。

 テレビでも、別の弁護士が同様のことを言っていた。


 しかし、私は、ポイントは、投資組合をライブドアが実質的に支配していたといえるかどうかではないかと思う。

 東京地検が一番知りたかったのも、投資組合とライブドア・マーケティングとの間の金の動きだったのではないだろうか。



2006年01月16日(月) 業務上横領の場合、警察の動きはゆっくりである

 日経(H18.1.16)社会面に、元みずほ銀行行員が、顧客の預金を着服していたとして、業務上横領の疑いで今日逮捕される見込みと報じていた。


 業務上横領が発覚したのは2004年7月。同年9月には、みずほ銀行はこの行員を懲戒解雇し、刑事告訴している。


 それから1年4か月も経過している。


 それほど複雑な事件とは思われないのであるが、業務上横領の場合、警察の動きは非常にゆっくりしている。



2006年01月13日(金) 最高裁が、利息制限法を超過する金利について重大な判断

 日経ネットニュース(H18.1.13)で、最高裁は、利息制限法の上限を超える金利について、事実上強制されて支払った場合、特段の事情がない限り、無効とする初判断を示した。


 すなわち、最高裁は、期限の利益喪失約款の存在によって利息制限法制限利息以上の支払を強いることは、利息制限法以上の利息を課すための要件の一つである「任意性」がないとしたものである。

 
 期限の利益喪失約款はほとんどすべての契約に規定されているため、この最高裁の判決は、利息制限法を超過する金利を事実上認めないことに近い、かなり重大な判決である。

 そのため、翌日の朝日新聞朝刊では1面トップで報じていた。


 ところで、この事件の金融会社はシティズといい、この会社はみなし利息(利息制限法を超過する金利)が認められるための要件を厳格に守るよう非常に努力していた。

 そのため、裁判でもほとんど連戦連勝の状態であり、前記の最高裁判決の事件でも、1,2審はシティズが勝訴している。


 要するに(多重債務者側の)弁護士泣かせの金融会社だったのである。


 それだけに、前記最高裁判決がなされても、シティズは、利息制限法を超える金利を課すことができるように、期限の利益喪失約款を付さないようにするなど、何らかの対策を講じるのではないだろうか。



2006年01月12日(木) 脱税がばれると、すべてを失う

 日経(H18.1.12)社会面で、経団連元会長の長男が、相続税を脱税した事件で、東京地裁は、懲役1年8か月、罰金1億6000万円の実刑を言い渡したと報じていた。


 脱税額は9億8000万円であり、脱税額がそれだけ高額だと当然に実刑である。


 しかも、罰金が1億6000万円ということになると、追徴課税を含めると、相続した財産をすべて吐き出しても足りないであろう。


 逆にいえば、脱税した場合の罰金額は、脱税しても元が取れることがないように定めているといえる。



2006年01月11日(水) テロ対策として、入国する外国人の指紋を採取

 日経(H18.1.11)社会面で、法務省は、テロ対策として、入国する外国人の指紋と顔画像情報を取得する方針と報じていた。

 同じ記事の中で、「日弁連は、指紋採取は憲法違反として反対している」と書いていた。


 確かに、指紋採取される方は気持ちが悪いであろうし、やらないで済むのであればそれに越したことはない。


 しかし、テロが起こってから対策を考えても遅いのであり、テロの危険が現実化している状況下においては、指紋採取はやむを得ないのではないだろうか。


 ただ、採取した指紋や顔画像情報を、テロ対策以外の目的に使用できないように歯止めをかけておくことは必要であろう。



2006年01月10日(火) 返済目的で犯罪を起こすのであれば、破産すべき

 日経(H18.1.10)社会面で、仙台の新生児誘拐事件の容疑者には6000万円の借金があり、「犯行動機は返済目的か」と報じていた。


 このような借金に追い詰められて犯行してしまう記事を読むたびに、「自己破産すればよかったのに」と思う。

 自己破産すれば借金はなくなるからである。


 破産することが何か悪いことをするかのように思っている人もいる。


 しかし、破産の目的について、破産法は、債務者の経済生活の再生の機会の確保を図るためであると明記している。

 それゆえ、破産することを後ろめたく思う必要はまったくない。


追記
 「破産すればよかったのに」と書いたが、H18.1.11付日経に、この容疑者 は3年前に自己破産していたと報じていた。

  一度破産すれば、7年間は原則として免責が認められないので、ご注意  を。



2006年01月06日(金) 除雪作業はクーリングオフの対象にならない

 日経でなく、ヤフーネットニュース(H18.1.6)で、豪雪に見舞われた福井県で、独居高齢者を狙い、見積もりも示さずに雪かきを持ちかける業者が現れたと報じていた。


 その記事の解説の中で、特定商取引法では、除雪作業はクーリングオフの適用にならないと書いていた。


 これはその通りであるが、ここにクーリングオフ制度の欠陥が現れていると思う。


 というのは、クーリングオフの対象となる商品やサービス(役務)は、政令で列挙したものに限られているため、規制をかいくぐろうと、新手の商売が次々と出てきて、それをまた政令でクーリングオフの対象とするというイタチごっこになっているからである。


 諸外国でも、このようなクーリングオフできる対象を指定しておく制度はないようである。


 むしろ、すべての商品、サービス(役務)についてクーリングオフできるようにしておき、それでは都合が悪い場合だけ、政令でクーリングオフの除外とすべきではないかと思う。



2006年01月05日(木) 犯罪被害者の実名発表について

 日経(H18.1.5)社会面で、政府が、犯罪被害者の実名を発表するか匿名にするかは警察が判断するとした方針を受けて、警察庁は、「個別事案ごとに適切な発表内容とする」と通達したことを報じていた。


 犯罪被害者の実名を発表するか匿名にするかを警察が判断するという方針に対しては、マスコミは、国民の知る権利に応えるには実名発表とすべきであると強く批判している。


 しかし、犯罪被害者は、マスコミによって二重の被害を受けることがしばしばある。


 したがって、被害者名を匿名とすることは十分理由がある。


 ただ、実名か匿名かを警察の判断にすべて委ねてよいのかという疑問はある。


 警察があらゆる情報を掌握し、それを自由にコントロールできるという事態は好ましいことではないからである。



2006年01月04日(水) 民法の「債権法」を改正

日経(H18.1.4)1面に、「『債権法』抜本改正へ」という記事が載っていた。

「契約形態の多様化に対応」ということらしい。


「債権法」とは、債権法という法律ではなく、民法のうち、債権関係の規定をいう。


民法は、ひらがな化されたとはいえ、内容的には明治時代の法律だから改正は当然と思う。



2006年01月03日(火) 診療報酬債権の差し押さえ

 日経(H18.1.3)社会面に、「貸金業者が、病院が受け取る診療報酬を担保にして、病院に法定利率を上回る利息で融資していた」と報じていた。


 保険診療の場合、診療報酬が必ず病院に支払われるから、それを担保とすることは、貸す側にとっては確実性が高い。


 そのため、病院が債務を履行できなくなった場合、診療報酬債権を差し押さえることもよくある。


 私もある病院の診療報酬債権を差し押さえたことがあるが、すでに数社の高利の貸金業者が差し押さえていたことがあった。


 病院も楽な商売ではないではないようである。


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