2005年12月30日(金) |
懲罰的損害賠償請求を認めるべきではないか |
日経(H17.12.30)1面に、特許庁が、知的財産権の侵害に対する罰則を強化する方針と報じていた。
知的財産権が侵害された場合に、民事訴訟で損害賠償請求をしても、懲罰的損害賠償請求が認められていないため、損害以上の請求はできない建前になっている。
そのため、侵害する方は、やり得になっている側面がある。
それゆえ、罰則を強化することによって保護をはかることは、対策として間違いではないだろう。
しかし、懲罰的損害賠償請求を認めることによって解決を図るのが、本来のあり方ではないかと思う。
日経(H17.12.29)文化面の新聞小説「愛の流刑地」に、刑事裁判の法廷で、検察官の証人尋問に対し、弁護人が異議を申し立てる場面があった。
映画やテレビでも、証人尋問に対し、弁護人が「異議あり!」という場面はしばしば出てくる。
その場合の姿勢について、ある裁判官から教えられたことがある。
それは、「異議!」と言いながら立ち上がるのではなく、黙ってすくっと立ち上がってから、「異議!」と言いなさいというものある。
その方が、重々しく、威圧感があるからである。
どうでもいいことかも知れないが、そのようなパフォーマンスも重要であると思う。
日経(H17.12.28)社会面に、マブチモーター社長宅殺人放火事件で、千葉地裁は、公判前整理手続きを行うと報じていた。
公判前整理手続きとは、今年から施行が始まった手続きであり、第一回公判前に、事件の争点や証拠を整理する手続きである。
目的は、充実した公判審理を行うためである。
この公判前整理手続きに対しては、弁護士から、拙速になるという批判がある。
しかし、この手続きは、次第に増えていくと思う。
日経(H17.12.27)社会面に、警視総監が会見で、「侵入窃盗が減少し、都内の治安は回復している」と述べたと報じていた。
記事によれば「侵入窃盗の認知件数は戦後最少になる見通し」とのことである。
確かに、私の印象でも、刑事裁判で侵入窃盗事件は減っているように思う。
ただ、その分、地方で事件が増えているかも知れない。
2005年12月26日(月) |
スーパーと百貨店の統合 |
日経(H17.12.26)1面トップで、「セブンイレブン・イトーヨーカ堂が、西武百貨店・そごうと経営統合」と報じていた。
近頃はM&Aが大流行りである。
法律事務所でも、最近、規模の拡大を図っており、事務所の統合がよくなされている。
法律事務所の場合には、法律事務所特有の風土というのはあまりなく、個々の弁護士もその事務所にとくに愛着があるわけではない。
また、事務所が統合されても、仕事が大幅に変わるわけでもない。
そのため、事務所を統合しても比較的うまくいくことが多い。
それに比べると、スーパー・コンビニと、百貨店の場合、統合して果たしてうまくいくのだろうかと心配してしまう。
日経(H17.12.22)1面に、企業法務部門のアンケート調査で、「企業法務の最重要課題は敵対的買収に対する対策である」という記事が載っていた。
確かに、企業にとって敵対的買収は嫌であろうし、それに対する対策を図ろうとする心理は分かる。
しかし、敵対的買収に対する一連の裁判を通じて、次のことが明らかになったと思われる。
企業価値を明らかに損ねる買収については、防衛対策が認めらやすい。
それ以外の場合には、株主の判断に委ねるべきである。
企業防衛といっても、現行経営陣の防衛に過ぎない場合には、防衛対策は否定される思われる。
法律事務所主導で、様々な買収対策が考えられたが、上記の判断要素からして、実効性があるとは思われない。
企業防衛に奇策はないと思う。
2005年12月21日(水) |
詐欺罪の立証は難しい |
日経(H17.12.21)1面に、耐震強度偽装問題で、警視庁などが建築基準法違反の容疑で家宅捜査に入ったと報じていた。
警察は、詐欺罪などの立件を視野に入れているとのことである。
しかし、詐欺罪の成立には、耐震強度の偽装があること、あるいは、耐震強度が不足していることを認識していたことの立証が必要である。
この立証は、一般的には非常に難しいが、ヒューザーについては、偽造が判明し、関係者で打ち合わせした後もマンションを販売しており、警察はこの点を念頭に置いているようである。
しかし、他の関係者については詐欺罪の立件は難しいのではないだろうか。
2005年12月20日(火) |
サブリース減額訴訟で和解が成立 |
日経(H17.12.20)社会面に、サブリース賃料減額訴訟で、東京高裁において和解が成立し、地主側が17億円支払うことになったと報じていた。
これについて、弁護士のコメントとして、「実質的には地主側の完勝」とあった。
その訴訟では、借主である住友不動産が賃料の減額請求をしており、その額は百数十億円になるそうである。
とすると、地主としては、それが17億円で済んだのだから、勝ったはといえる。
しかし、契約上は、賃料の減額どころか、3年ごとに賃料の10%を上げることになっていたのである。
それが、逆に17億円も返さないといけないことになったのだから、「地主側の『完勝』」とはいえないのではないだろうか。
2005年12月19日(月) |
能力不足を理由に解雇できるか |
日経(H17.12.19)16面の「リーガル3分間ゼミ」というコラムで、「中途採用社員の能力不足の場合、解雇は有効か」ということについて書いていた。
中途採用の場合、会社としては即戦力を期待して採用したのであろうから、能力が不足していれば期待はずれであり、不満を持つ気持ちは分かる。
しかし、新卒採用であれ、中途採用であれ、能力不足を理由に解雇しても、ほとんどの場合は解雇権の乱用とされるだろう。
したがって、会社としては、何度も業務改善の努力を促したり、あるいは、その職場が向いていないようであれば、別の職場に配転するなどの努力をすべきである。
それでも能力不足で期待した成果が挙げられない場合には、解雇は認められやすいだろう(能力不足の程度などにもよるが)。
ただ、そこまで会社が努力した場合には、本人も納得せざるを得ず、解雇しなくても依願退職することがほとんどであると思う。
2005年12月16日(金) |
最高裁 リボルビング方式でも貸金業法を厳格解釈 |
日経(H17.12.16)社会面に、最高裁は、リボルビング方式の融資について、貸金業法の規定を厳格に解釈し、融資無効との初判断をしたと報じていた。
貸金業法は、一定の要件の下で、利息制限法を超える金利(上限29.2%)を認めている。
しかし、最近の最高裁は、その要件を極めて厳格に解釈することにより、結果的に貸金業法で認める高利の金利を取ることを許さないとしているように思われる。
30%近い金利を取ることは、貸金業者の調達金利が2、3%程度あることを考えると暴利であろう。
他方、借りる方は、給料はほとんど上がらない、銀行の預金金利はほとんどゼロに等しいという状況のなかで、年利30%近い利息を払っていくことは難しく、いずれは破綻すると思う。
その意味で、要件を厳格に解釈し、事実上、貸金業法で認める金利を許さないという最高裁の立場は、政策的にみても正しいと思う。
2005年12月15日(木) |
耐震強度偽装問題で証人喚問がなされる |
日経(H17.12.15)1面に、耐震強度偽装問題で、衆議院は建築士と建設会社支店長の証人喚問を行ったと報じていた。
証人喚問について、いつも議員の追及不足が指摘される。
しかし、警察や検察庁での取調べで被疑者が自白するのは、追及の仕方がうまいからではない。
それまでに十分な証拠を収集し、万全の体制で逮捕して取り調べるからである。
質問する国会議員が自己アピールばかりしているのであれば、それは論外であるが、なかなか迫力ある質問というのは難しいものである。
2005年12月14日(水) |
みずほ証券は、USBグループに返還請求できる? |
日経(H17.12.14)1面で、みずほ証券の発注ミスで、USBグループが120億円の利益を得たと報じていた。
USBグループが、誤発注であることを認識しながら売買したのであれば、みずほ証券は返還請求ができるかもしれない。
というのは、みずほ証券の誤発注は、法律上の「錯誤」であるが、重大な過失があるので錯誤無効を主張できないのが原則であるところ、錯誤に陥っていることを知って取引した場合には、錯誤無効を主張できるという判例があるからである。
そうすると、みずほ証券は、USBグループが誤発注であることを認識して売買したことを立証することができれば、USBグループに対し、錯誤無効を主張して、利益の返還を求めることが出来ることになる。
(但し、証券取引所の売買は、相対の売買とは異なるから、通常とは違う考慮が必要かもしれない。)
なお、12月15日朝刊でUSBグループが利益を返還すると報じていたが、これは錯誤無効を認めて、みずほ証券に返還するものではない。
2005年12月13日(火) |
みずほ証券の発注ミス 取り消しできなかったのはシステムが原因 |
日経(H17.12.13)3面で、みずほ証券の発注ミスに関連して、発注の取り消しができなかったのは、東証のシステムの不具合が原因であったと報じていた。
そうなると東証も当然に責任を負うことになる。
また、システムを担当した富士通も責任を負う可能性がある。
日経の記事では、今回のミスがあったような場合でも取り消しができるように東証が予めシステムの仕様を指示していたのであれば富士通が責任を負うが、指示がなかった場合には富士通の責任はないだろうとしていた。
しかし、東証から具体的指示がなくても、システムとして、発注ミスを取り消すことができるようにしておくことは、通常有する品質といえるのではないだろうか。
したがって、いずれの場合であっても、富士通が責任を負う可能性はあると思う。(ただし、契約が優先するから、その定め方次第にもよる。)
2005年12月09日(金) |
みずほ証券が発注ミス |
日経(H17.12.9)1面トップで、みずほ証券が大量の発注ミスをしたことを報じていた。
「61万円以上で1株売りたい」という注文だったのを、誤って「61万株を1円で売りたい」と入力したためである。
これによる損失は現時点で270億円というから、莫大な損害である。
ただ、これは内心と表示に不一致があるから、典型的な錯誤の事例である。
したがって、本来は無効である。
ただ、錯誤に陥ったことに重大な過失がある場合には錯誤無効を主張できないとされている。
このケースでは、誤入力した際に、異常な取引であったので警告メッセージが出たそうだから、それにもかかわらず注文したことは、重大な過失があるということになる。
それゆえ、みずほ証券は、錯誤無効を主張して損害を回避することはできないだろう。
2005年12月08日(木) |
小田急高架化訴訟で、最高裁は原告適格を広く認める |
日経(H17.12.8)社会面で、小田急高架化訴訟について、最高裁大法廷は、原告適格を広く解釈し、地権者以外の沿線住民にも原告適格を認めたと報じていた。
沿線住民は、高架化による騒音振動などで生活環境に大きな影響を受ける恐れがある。
それなのに訴えを門前払いし、裁判所で判断を仰ぐこともできないということは常識に反するであろう。
したがって、当然の判決と思う。
これは裁判官14人全員一致であるから、これまでの最高裁の判例がいかに常識に反していたかが分かる。
2005年12月07日(水) |
留置場の接見室を複数にすべきである |
日経(H17.12.7)社会面に、「代用監獄の対立浮き彫り」という記事が載っていた。
刑事事件では、逮捕されてから判決が確定するまでは、本来であれば、拘置所に収容される。
ところが、警察署内にある留置場が代用監獄として認められているため、逮捕されれば留置場に入れられるのが普通である。
拘置所を管理しているのは法務省であるが、留置場は警察が管理しており、取調べと留置の管理が同じ警察である。
これが自白の温床になっていると日本弁護士会は批判している。
これに対し、法務省、警察庁は代用監獄を存続しようとしており、長年対立が続いている。
ただ、警察庁は、留置場を代用監獄として存続させたいのであれば、留置場での接見がスムーズにできるようにすべきであろう。
ところが、新しい警察庁舎でも、接見室が一つしかないことがあり、接見のために一時間以上待つことがある。
これでは弁護活動の妨害に近い。
代用監獄を存続させたいのであれば、まずは接見室を複数にして、弁護活動を妨げないように努力すべきではないかと思う。
2005年12月06日(火) |
シックハウス症候群で、東京地裁が売主の責任を認める |
日経ではなく、ネット朝日(H17.12.6)に、シックハウス症候群にかかり、マンション販売会社に損害賠償を求めた事件で、東京地裁は、売り主の瑕疵担保責任を認め、購入代金4350万円を含む4791万円の支払いを命じたと報じていた。
シックハウスに関する訴訟は全国で相当数が争われているが、買主の言い分が全面的に認められたのは初めてではないだろうか。
その意味では画期的判決といえる。
ただ、この事件では、販売会社が「シックハウス症候群の主な原因とされるホルムアルデヒドの発生を抑えるために、基準を満たしたフローリング材などを採用」と宣伝しており、ところが、実際には基準を満たしていなかったという特徴がある。
したがって、他のシックハウス訴訟でも同様な結論が出るかどうかは分からない。
シックハウスであっても、人によって症状の表れかたは大きく異なることから、裁判所も判断に困ることが多い。
それだけに客観的数値があれば、その主張は認められやすい。
したがって、シックハウス症候群が疑われた場合には、直ちにホルムアルデヒドなどの測定をして証拠化しておくべきであろう。
2005年12月05日(月) |
「コンプライアンス」を積極的に捉えるべき |
日経(H17.12.5)23面に、弁護士の書いたコラムで、「コンプライアンスとは、単なる『法令順守』ではなく、『相手の身になって考える』ことが本来の意味ではないか」と書いていた。
コンプライアンスは「法令順守」と訳されているが、「法律を守っていればいい」という捉え方であってはいけないという趣旨であろう。
私も、「コンプライアンス」は、単に法律を守るという消極的意味に捉えず、他社と差をつける積極的な経営戦略として捉えるべきではないかと思う。
2005年12月02日(金) |
破産申し立ての管轄は緩やかに解されている |
日経(H17.12.2)3面に、耐震強度偽装問題で、設計、施工した木村建設が破産を東京地裁に申し立てたと報じていた。
しかし、この会社の本社は熊本県八代市のようであるから、熊本地裁八代支部に申し立てることになるはずである(破産法は、「主たる営業所の所在地を管轄する裁判所」と規定している)。
そうはいっても、木村建設はそれなりに大きな会社であるから、裁判所も、破産管財人も事務処理ができる体制が必要であり、体制の整った東京地方裁判所で手続きを進めた方が適切である。
東京地裁破産部も、管轄については緩やかに解釈しており、東京地裁に申し立ててれば、管轄で問題視されることはほとんどない。
2005年12月01日(木) |
内部通報制度は、会社がそれを積極的に活用する意識が重要 |
日経(H17.12.1)1面に「『法化社会』備えはあるか」という連載記事が載っていた。
記事の内容は、法改正などにより公正さへのハードルが高くなっており、今後は経営の透明性が問われているというものである。
その記事の中で、法律事務所に設置されたホットラインに寄せられた通報カードの写真が写っており、そのカードの中に「不当な人事制度について」と書いていたのがあった。
法律事務所としては、「不当な人事制度」を通報されても困惑するであろうが、だからといって、そのような通報でもうやむやにすべきでない。
通報された内容はすべて会社担当者に伝え、その処理結果をすべて法律事務所に報告するシステムでなければならない(その程度のシステムにはなっていると思うが)。
会社は制度を作って、あとは法律事務所に任せというのでは、内部通報制度をつくった意味はない。
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