今日の日経を題材に法律問題をコメント

2004年08月31日(火) 信頼利益と履行利益

 日経(H16.8.30)1面に、東京三菱銀行とUFJ銀行との統合問題で、最高裁が、住友信託銀行の抗告を棄却したと報じていた。


 当然の判断であると思うが、その判断の中で、「住友信託の損害は、合併した場合に得られるはずの利益ではなく、合意成立への期待の侵害による損害である」としているそうである。


 「合意成立への期待の侵害による損害」とは、講学上、信頼利益といわれているものであり、合併交渉によって実際に使った金額が基準になる。


 損害額がその程度であれば、何のために合併合意書を作成したか分からないと思うかもしれない。

 しかし、合併契約はしていないのであるから、合併していれば得られたはずの利益(講学上、履行利益という。)まで認めることはできない。


 損害賠償額が低くてもやむを得ないのである。



2004年08月30日(月) 時間を使えば使うほど勝訴率は上がると

 日経(H16.8.29)15面に、弁護士の所得日本一と言われる升永弁護士が書いているコラムが載っていた。


 そのコラムの中で、「時間を使えば使うほど勝訴率が上がると確信している」と書いていた。


 私もそのとおりだと思う。

 困難と思える問題でも、時間をかけて一生懸命考えれば一定の方向性が見えてくるものである。


 ただ、この先生は、時間を有効に使うために、毎日事務所の机の横の寝袋で寝ているそうであり、また、風呂はジムに行ったときに浴びるシャワーだけにし、浴槽に入るのは止めたそうである。


 そこまでは同調できないなあ。



2004年08月27日(金) 憲法は絶対に改正してはいけないというものではない

 日経(H16.8.27)2面に、今年1月に小泉首相が、山崎拓前幹事長に「拓さん、私学助成は違憲状態になっている」と断言したという記事が載っていた。


 憲法89条後段は、公金を公の支配に属さない事業に支出してはいけないと定めている。

 ところが、私学は、通常の感覚では公の支配に属しているといえない。

 それゆえ、条文を素直に解釈する限りは、私学に助成金を出すことは違憲ということになる。


 小泉首相もこのことを言っているのであろう。


 憲法は絶対に改正してはいけないというものではない。

 したがって、89条後段については、憲法改正すべきであると思う。



2004年08月26日(木) 選手会が、オリックスと近鉄の合併の凍結まで求めるのはやりすぎではないか

 日経(H16.8.26)スポーツ面に、プロ野球選手会が、特別委員会の開催を求めて法的手段に訴えることになったと報じていた。


 一般論として、紛争になった場合に、変に密室で話し合いしたり、請求を諦めたりするよりも、司法の判断に委ねて解決を図ることはいいことと思う。

 しかし、法律上の根拠もないのに裁判所に訴えるのは、自己の主張をアピールするために裁判所を利用するものであり、好ましくないと思う。



 先の特別委員会の開催を求める仮処分申請についてみると、新聞報道ではよく分からないが、恐らく使用者が負っている誠実交渉義務に基づいた請求であろう。


 かかる誠実交渉義務に基づいて特別委員会の開催を求めることは、考え方としてはあり得ることであって、問題はない。



 しかし、同日の他紙の報道によると、選手会は、オリックスと近鉄の合併の1年間凍結なども求めるようである。


 この仮処分申請は私は疑問である。

 オリックスと近鉄の合併の凍結を求める権利は選手会にはないからである。


 その意味で、合併の凍結を求める仮処分申請は、裁判所の政治利用であって、いかがなものかと思う。



2004年08月25日(水) 少年法の改正諮問案は、警察力に頼りすぎである

 日経(H16.8.25)1面に、14歳未満も少年院に送致できるように少年法等を改正すると報じていた。


 現在は、14歳未満の少年が犯罪を起こしても警察は逮捕できず、児童相談所に通告するだけである。

 これを、法改正により警察に調査権限を認め、少年院送致も可能にするとのことである。


 少年犯罪に対する厳罰化には批判はある。

 しかし、被害者からすれば、加害者が少年だから捜査しないというのでは納得できないであろうし、世間の処罰感情も無視できない。


 したがって、14歳未満の少年の犯行であっても、警察の調査権限を認め、また、少年院に送致できるようにすることはやむを得ないと思う。


 ただ、改正諮問案では、犯罪に当たらない「ぐ犯」少年についても、警察の調査権限を認めるようである。


 しかし、犯罪に該当しないことまで警察の調査権限を認める必要はないであろう。

 改正諮問案は、少年非行に対し、警察の力に頼りすぎているように思う。



2004年08月24日(火) 逃走罪は意外に刑罰が軽い

 日経(H16.8.24)夕刊に、さいたま拘置所から男が逃走したという記事が載っていた。
 
 この男は強盗致傷罪の容疑で裁判中であり、懲役8年を求刑されていたそうである。


 逃走罪は重罪のように思っている人もいるが、意外と刑罰は軽い。


 暴行などを行わず単純に逃げただけの場合は懲役1年以下である。

 これに対し、逃走を手助けした場合は懲役3年以下と、逃げた人より重い。


 逃走する気持ちはよく分かるので、重く罰しないというわけである。

(刑法理論としては「逃走を断念する期待可能性が乏しい」という言い方をする。)


 ただ、新聞記事の場合は、金網を破って逃げたようである。

 金網などの拘禁場の施設を壊して逃げた場合は、懲役3月以上、5年以下と重たくなる。


 外国人であれば逃走して本国に逃げ帰ることもあり得るが、日本人の場合はいずれは捕まるであろうから、逃げない方がいいと思うのだが・・。



2004年08月23日(月) 交通事故でも健康保険は使える

 昨日の日経(H16.8.22)9面に、「交通事故、健康保険使えない?」という見出しで、「交通事故でも健康保険は使えるのに、利用せずに損をする患者もいるのでご注意を」という内容の記事が載っていた。


 まさにそのとおりで、交通事故でも健康保険は使える。


 健康保険は使えないという医者は多いが、それは間違いである。

 そのように言う医者は、本当に勘違いしているか、自由診療だと医療費を高く取れるので、意識的に間違って言っているか、いずれかである。


 もっとも、保険制度は難しすぎると思う。


 通勤途中に交通事故に遭った場合には健康保険ではなく、労災保険の適用となるが、そんなことを知っているのは保険の専門家ぐらいだろう。


 もう少し使う人の立場に立った制度にならないかと思う。



2004年08月20日(金) 小学校教諭が、保釈中に再び女子児童を誘拐

 日経ではなく、今日の朝日ネットニュース(H16.8.20)で、女子児童を誘拐したとして学校教諭を逮捕したが、この容疑者は、小学6年の女児を連れ去ろうとしたとして裁判中であり、保釈されていたと報じていた。

 
 なぜ、そんな人間を保釈したのだという非難があるかも知れない。


 しかし、保釈申請のときに、再犯を起こすような言動をするはずがない。


 そもそも、保釈の可否でもっぱら審査されるのは、証拠隠滅の恐れと、逃亡の恐れである(条文上、「逃亡の恐れ」は保釈を認めない理由に入っていないが、実際上は、これが一番考慮される)。


 そして、第1回の裁判で証拠調べがすべて終われば、証拠隠滅の恐れはほとんどなくなる。

 また、逃亡の恐れについても、小学校教諭だから、逃亡の恐れは少ないと思うだろう。


 したがって、保釈を認めない理由はないのであり、保釈したことを責めることはできないであろう。

 
 ただ、保釈申請した弁護人はかっこ悪い思いをしたかもしれないなあ。



2004年08月19日(木) 住宅金融公庫の「お役所的仕事」ぶり

 日経(H16.8.19)1面に、「住宅公庫融資で、焦げ付きに税金を投入」という記事が載っていた。


 税金を投入せざるを得ない背景には、住宅ローンの焦げ付きの増大があるのだが、それにしても思うのは、住宅金融公庫のお役所的仕事ぶりである(もっとも、金融公庫は「お役所」であるが)。


 例えば、住宅ローンの残債が2000万円あった人が、返済が困難になったとする。


 その時点で不動産を売れば1500万円で売れるが、そうすると金融公庫には500万円の債権が残る。

 ところが、金融公庫は、元本割れになってしまうという理由で売却に同意しないことが多い。


 その結果、任意売却ができず、その不動産は競売にならざるを得ない、競売では1000万円くらいにしかならない。


 結局、当初の任意売却のときに同意しておけば1500万円回収できたのに、同意しなかったために、1000万円しか回収できないということになる。


 かつては、このような馬鹿なことをやっていた。
 

 最近は、住宅金融公庫も少し柔軟になってきたが、このようなお役所的な仕事をしていれば、不良債権が増えても当然と思う。



2004年08月18日(水) 広島家裁が性同一性障害で性の変更を認める

 日経(H16.8.18)社会面に、広島家裁が、性同一性障害を理由に性の変更を認めたという記事が載っていた。


 今年(H16)7月16日に性同一性障害特例法が施行され、7月末ですでに申し立てが24件に上っているそうである。


 性同一性障害をもつ人は、性別違和感のほかに、社会生活に適応することが困難なことも多いと聞く。


 性同一性障害に対しては、治療も重要であるが、性の変更により精神的苦悩が軽減できるのであれば、それは意義あることと思う。



2004年08月17日(火) 現場を知ることが一番大事である

 日経(H16.8.17)社会面に、「医療訴訟 迅速化へ始動」という見出しで、裁判所が、医療訴訟を専門に扱う医療集中部を作ったり、鑑定人を複数制にしたりして、迅速化に努力している様子を報じていた。


 記事によると、大阪地裁では、裁判官による手術の見学会を行っているそうである。


 これはすばらしいことと思う。


 人体図で判断するのと、実際の様子を見るのとでは天と地ほどの違いがある。

 見学のときの手術と、実際に扱う事件とが一致するとは限らないが、そうはいっても実際の手術の様子を知ることは得がたい経験である。


 何ごとも現場を知ることが一番大事と思う。



2004年08月16日(月) 偽装温泉が法律に違反する場合はある

 日経(H16.8.16)23面に、偽装問題で揺れている温泉問題について記事が載っていた。


 その記事の中で、入浴剤を入れたり、水道水で加水することが温泉法に反するわけではないと書いていた。


 確かに、温泉法は「温泉」の定義を決めているだけである。

 したがって、100%水道水のものを「温泉」と謳うことはできないが、入浴剤などの添加物の使用や水道水で加水することは、温泉法には反しない。


 しかし、不当景品類及び不当表示防止法では、不当表示を禁じている。

 過去の例では、ほとんど果汁が入っていないのに、商品の表示に果実の絵や写真を使うことは「不当表示」にあたるとされている。


 また、不正競争防止法は、サービスの内容を誤認される表示は「不正競争」にあたるとしている。


 したがって、本来白くもないのに、あたかも温泉水が白いかのように宣伝すれば不当表示になる可能性はあるわけであって、まったく許されるわけではないことに注意すべきである。



2004年08月13日(金) 架空請求された場合、総務省に意見申出をしてはどうか

 日経(H16.8.13)社会面に、東京弁護士会の関連団体を装い「給与を差し押さえる」というハガキが送りつけ、ハガキに書いている番号に電話すると、銀行口座に振り込むよう要求されるという架空請求事件があり、東京弁護士会が注意を呼びかけているという記事が載っていた。


 この種の事件は後を絶たない。


 相手にしないことが一番である、総務省に苦情を言って電話番号を使用停止にさせることも一つの方法である。

 その書式が弁護士会のホームページに載っているので、上記のようなハガキが届いた人は、それを参考に総務省に意見を申し出てはどうだろうか。


http://www.kyotoben.or.jp/kikitai/moushide.html



2004年08月12日(木) 東京高裁が、UFJの合併交渉差止を命じた仮処分を取り消す

 日経(H16.8.12)1面で、東京高裁が、UFJの合併交渉差し止めを命じた仮処分を取り消したと報じていた。


 東京地裁はUFJの合併交渉を禁止した。

 しかし、UFJは住友信託銀行と合併交渉しないと明言しているから、このままでは膠着状態が続き、紛争はまったく解決されないことになってしまっていた。


 その意味で、東京高裁の判断は、常識的で妥当な結論であると思う。


 ただ、注意すべきは、東京高裁は、独占交渉契約を破棄しても責任を負わないと言っているのではないということである。

 独占交渉条項に違反した以上、UFJが損害賠償責任を免れないことは当然である。



2004年08月11日(水) 「俺だけは騙されない」と思わない方がいい

 日経(H16.8.11)社会面に、おれおれ詐欺で800万円の被害があったという記事が載っていた。


 いまどきおれおれ詐欺で金を払う人がいるのかと思うが、その場になると冷静に判断できなくなるのだろう。


 私の友人の弁護士が、歩いていたとき、車から呼び止められ、「バッグを店舗に納品するときに間違って一個余計に持ち出してしまった。持って帰っても仕方ない。安くしておくから買ってくれないか。」と言われ、つい買ってしまったそうである。

 ところが後でよくみると粗悪品だった。


 典型的な詐欺商法であるが、弁護士とはいえ騙される。

 自分だけは大丈夫と思っている人も用心しておいた方がいいと思う。



2004年08月10日(火) マイカル債の販売で、集団訴訟を提起

 日経(H16.8.10)7面で、マイカル債の購入で損害を受けたとして、販売した証券会社に対し集団訴訟を提起したという記事が載っていた。


 この訴訟では弁護団が組まれており、こういう記事が載るのは弁護団がマスコミに連絡するからである。

  
 マイカル債の販売はかなり問題があったらしい。


 ただ、訴訟では証拠がなければどうにもならない。

 この種の訴訟では十分な証拠がないことも多く、なかなか大変だと思う。



2004年08月06日(金) 競争がある以上、司法試験予備校に通うことは止められない

 日経(H16.8.6)社会面で、法科大学院の現状についての記事が載っていた。

 その記事によると、法科大学院で、初めて法律を学ぶ人たちが授業についていけず、「新制度は、まじめに3年勉強すれば弁護士になると言われていたのに」という不安が生じているそうである。

 そのせいもあり、司法試験予備校に通う学生が出始めたそうである。


 もともと、このようなダブルスクールを解消するために法科大学院を設置したのに、早くも制度がほころび始めたという内容であった。


 しかし、法科大学院の定数が増えたため、司法試験には60%程度しか合格しないようであるから、競争が生じるのは当然であり、そのために予備校に通うことを責められないであろう。

「制度のほころび」と言っても、制度自体に問題があるのである。


 仮に、法科大学院の定数を絞って、司法試験に100%近い合格者が出ることになったとしても、その場合には、法科大学院に入るために予備校に通うことになるだろう。


 結局、競争がある以上、予備校に通うことは必然である。


 そんなに予備校に行かせたくないのであれば、法科大学院で予備校以上の素晴らしい授業をすればいいのである。



2004年08月05日(木) 「覚書」「念書」でも契約としての拘束力はある

 日経(H16.8.5)1面に、UFJの信託統合差し止めについて、UFJの異議申し立てを東京地裁が却下したと報じていた。

 ところで、その解説記事(5面)の中で、銀行関係者の話として、「これまでの契約では、仮契約や念書、覚書など、法的にあいまいなまま話が進むことも少なくなかったが、今後は欧米並みの厳しいチェックが必要になる」という意見を載せていた。


 しかし、この銀行員の話しは間違っている。

 「覚書」「念書」というタイトルであれば、契約の法的拘束力はなく、あいまいであるという誤った見解を前提にしているからである。


 「覚書」「念書」というタイトルであっても、契約としては有効であり、法的拘束力はある。


 あいまいかどうかは、その契約内容によって定まるのであって、タイトルで決まるわけではないのである。



2004年08月04日(水) 金融機関の個人情報保護のガイドラインづくりが始まる

 日経(H16.8.4付)7面で、金融審議会が、金融機関の個人情報保護の事務ガイドラインづくりに向けた協議を始めたという記事が載っていた。


 他方、毎日新聞ネットニュースでは、消費者金融の顧客の信用情報を不正照会したとして、過去数年間に消費者金融業者約50社が、情報センターから除名などの処分を受けていたと報じていた。

 信用情報が、就職の採否に使われたり、ブローカーへ売却されたりしたケースがあるという。


 そもそも、消費者金融の信用情報については、情報にアクセスできる者が多すぎるという点に問題がある。

 その意味でも、前述のガイドラインにおいては、情報にアクセスできる者を制限し、かつ誰がアクセスしたかを特定できるようにすべきであろう。


 また、不正に情報を利用したり、第三者に流出させたりした場合には罰則をもって望むこともやむを得ないと思う。



2004年08月03日(火) 民法が口語化される

 日経(H16.8.3)社会面に、民法が口語化されるという記事が載っていた。


 法律を勉強し始めたころはカナ交じりの条文に抵抗感があった。

 そのため司法試験の訴訟法では、当時カナ交じり文だった民事訴訟法を避け、刑事訴訟法を選択したくらいである(その選択が失敗であり、その後、両訴選択に変更したが)。


 いまは当然カナ交じり文も平気だが、口語化されるのはいいことだと思う。


 ただ、いまある民法関係の本をすべて買い換えなければならず、その点が頭が痛い。



2004年08月02日(月) 自転車の保険制度を充実させるべきである

 日経(H16.8.2)5面の「領海侵犯」というインタビュー記事で、岩井克人大学教授が、「最近歩道をわがもの顔で走る自転車が多い。車道で弱者であった自転車も歩道を走れば弱者でないことを自覚すべきである」と論じていた。

 そのうえで、同氏は、「被害に遭った歩行者が泣き寝入りしないことである。アメリカでは歩行者が自転車を訴えていった結果、歩道から自転車が消えた」と述べていた。


 しかし、私は訴えることによっては解決しないように思う。


 自転車と歩行者の事故は多く、歩行者が大怪我をすることも少なくない。

 そのため、裁判になることもあるのだが、保険制度が完備しててないため、歩行者の満足行く解決にならない。

 歩行者が勝訴したとしても、自転車側は若者のことが多く、支払能力がないため、判決が紙切れになってしまうのである。


 したがって、岩井教授のいうように「被害に遭った人が泣き寝入りせず」訴えたとしても解決しないことの方が多いのである。


 むしろ、自転車の販売価格に保険料を乗せるなどして保険制度を充実させることを考えるべきではないだろうか。


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