今日の日経を題材に法律問題をコメント

2002年09月30日(月) 税理士報酬の訂正記事

日経(H14.9.30付)・23面に、次のような小さな訂正記事が載っていた。

 9月16日付の「税理士の報酬が下落」という記事の中で、「5年間で3、4割下落」「月間顧問料は3万円程度」「記帳代行は1万円以下」とあるが、これは全国平均という意味ではない。
 税理士報酬は、依頼者との個別契約で依頼内容によって決まる。


 訂正記事は以上の内容であったが、要するに「月3万円」とかいう報酬は参考にしないで欲しいというのが言いたいことのようである。


 「月 顧問料は3万円程度」と書くと、それ以上の顧問料を払っている顧客は、「じゃあ、うちも3万円にしてくれ。」というだろう。

 それは、税理士さんにとっては困ることである。


 そのため、税理士会は16日の記事を訂正するよう申し入れたのだそうである。



 ただ、ある税理士さんは、税理士の報酬が下落しているという記事は、実感として正しいと言っていた。

 デフレの波は、税理士の報酬にまで及んでいるようである。
(当然、弁護士の報酬にも及んでいるのだが。)



2002年09月27日(金) 森監督が業務委託契約を解除して退団

 日経(H14.9.27付)・スポーツ面に、横浜の森監督が退団したと報じていた。

 記者会見した横浜球団社長は、「監督の業務委任契約を解除することで合意した。」と述べたそうである。

 新聞では、「『業務委託契約解除』は、監督退任で使われた語句としては日本プロ野球市場初めて。」と書いていた。


 この球団社長の「業務委託契約解除」という発表に対し、記者から「辞任か解任か」という質問が出たそうである。

 しかし、業務委託契約において、「辞任」や「解任」という用語はない(球団と森監督との契約書を読んでいるわけではないが、そのような条項があるはずがない。)。

 合意解除なのだから、双方話し合って、監督を辞めることにしたというだけである。
 
 まあ、「合意解除」では記事にならないから、記者の人が「辞任か解任か」と質問した気持ちは分かるが。


 この「辞任か解任か」という質問に対して、球団社長は「ご想像にお任せします」と答えたそうである。

 これは、ちょっとがっかりである。

 せっかく、「業務委託契約の解除」と日本プロ野球初の言葉を使ったのだから、「合意解除であって、辞任でも解任でもない。」と答えて欲しかったなあ。



2002年09月26日(木) ダスキン前会長が株を売却して7億円の利益

 日経(H14.9.26付)社会面に、「ミスタードーナツ」の肉まんに無許可の添加物が使用されていた事件で、その事件発覚後に、ダスキン前会長が株を売却して7億円の利益を上げていたと報じていた。


 「7億円というのはすごいなあ、汚いなあ。」と一瞬思った。

 中坊さんも、「社会正義の上で問題がある」と指摘している。


 しかし、よく考えると、事件発覚後2か月が経って株を売却しているのである。

 だから、インサイダー取引ではない。


 また、7億円の利益を上げたが、それは売り逃げたということではない。
 
 前会長は創業者なのだろう。
いつ売っても、7億円の利益は上げられたのである。


 そうであるならば、株を売却したことについて、新聞にまで書かれて批判されなければならないことなのだろうか。

 なんだか、インサイダー取引と誤解しかねない書き方で、私としては、極めて情緒的な記事のように思った。



2002年09月25日(水) 最高裁が出版差し止めを認める

 日経(H14.9.25付)社会面に、柳美里さんの「石に泳ぐ魚」の出版差し止め請求について、最高裁判所は、差し止めを認める判断をしたと報じていた。


 表現の自由の保障は、自己表現、自己実現を行うために不可欠な人権である。

 しかも、それだけではなく、表現の自由の保障なくして民主政治はあり得ないことから、表現の自由は極めて重要な人権である。

 それゆえ、表現の自由は、他の人権に比較しても特に保障されるべきであるとされている。(これを「表現の自由の優越的地位」という。)。


 出版によってプライバシー侵害をされた被害者が、損害賠償請求することはよくあることである。

 その場合は、出版物自体は世間に公表されており、その出版物が本当にプライバシーを侵害しているのかを世間の人が判断することも可能である。

 これに対し、差し止め請求を認めると、世間では、それが妥当かどうかの判断材料さえもない。

 また、出版する側から見ると、表現行為自体が認められないのであるから、表現の自由に対する著しい制約になる。

 そのため、裁判所が出版物に対する差し止め請求を認めることは非常に慎重であった。


 今回、最高裁が出版の差し止め請求を認めたということは、その意味では大きな意義がある。
 今後、憲法の教科書では必ず挙げられる判例となるであろう。


 余談であるが、柳美里の今回の作品は、作品として昇華されていなかったのではないだろうかという気がする。

 ただ単に、その人のプライバシーを書いただけで終わっているのではないか。

 柳美里の作品をいくつか読んだことがあるが、作風はどろどろの私小説である。

 今回の作品は、「私」だけでなく、「友人」まで、作品として昇華できないまま書いたのではないだろうか。


 もちろん、裁判所は、判決文に作品の評価に関わるようなことは絶対に書かない。

 そのようなことを書くと、文学に司法が土足で踏み込むことになるからである。

 ただ、判決の背景には、作品として昇華されていないものを、その人のプライバシーをあばいてまで発表する必要があるのかという疑問があったのではないかというのが私の推測である。



2002年09月24日(火) 残留孤児が原告団を結成して、国に賠償請求

 日経(H14.9.24付)社会面で、中国残留孤児が、日本への帰国措置をとらず、帰国後も生活支援を怠ったとして、国に対し、損害賠償請求することを決め、原告団の結成総会を開いたと報じていた。


 中国残留孤児や、その二世、三世は、言葉の問題、仕事がないといったことなどでとても苦労している。
 生活は苦しい人が多い。

 そんなに苦労するのであれば、中国にいたときのほうが生活は楽だったのではないかと聞いたことがある。
 (親しい人だったので、ざっくばらんに聞いてみた。)

 そうすると、「でも、日本はいいところなのですよ。苦労してても日本のほうがいいです。」とはっきり答えた。


 それを聞いて、「ああ、自分はそんなにいいところに住んでいるんだなあ。」と、しみじみ思った。



2002年09月20日(金) 青色LEDの特許は会社に帰属するとの判決

 日経(H14.9.18付)1面に、青色LEDの特許は会社側に帰属するという判決を報じていた。

 裁判では、業務として行った「職務発明」か、まったく個人での発明か(「自由発明」)かが争点になったようである。

 しかし、業務時間内に、会社の施設を使ったというのだから、「職務発明」という裁判の結論は妥当であろう。

 「職務発明」の場合、会社は、無償でその発明を利用して製品を製造したり販売することが出来る(通常実施権がある)。

 また、予め特許権を譲渡することなどを定めることも出来るが、その場合には、「相当の対価」を支払わなければならない。


 この裁判では、今後は、「相当の対価」がいくらになるかが争点となる。

 中村氏は、発明の対価として、2万円の報奨金を受け取っただけである。これが「相当の対価」とは到底いえないだろう。
 したがって、裁判では、かなり高額の請求が認められるのではないだろうか。


 それにしても、この会社は、中村氏の発明によって莫大な利益を得ているのに、中村氏に対する感謝の念が足りないように思う。



2002年09月18日(水) クイズに不正解で、損害賠償請求

 日経(H14.9.18付)社会面に、「クイズ$ミリオネア」という番組で、正しい答えをしたのに不正解とされ、賞金を少ししかもらえなかったとして、フジテレビに対し、賞金を求める訴えを提起したと報じられていた。


 クイズで、マヨネーズの語源を問われて、「人の名前」と答えたが、番組では「町の名前」が正解であるとされた。
 しかし、語源については諸説有り、「人の名前」も有力な説であるという主張のようである。


 このような訴えに対し、いったい、どのような判決が下されるのだろうか、興味があるところである。


 おそらく、裁判では、「人の名前」が、そもそも有力な説かどうかがまず問題となるだろう。

 また、答えが4つあり、その中から一つを選ぶのであるから、諸説ある中で、最も有力な説を正解にしても、不当ではないのではないかということも問題になり得るだろう。

 さらに、かりにその人が正解していても、その後の問題にチャレンジして不正解になれば、750万円を得る権利はなくなってしまうのだから、損害が750万円とはいえないのではないかということも問題になろう。


 いろいろ考え出すとおもしろいが、おそらく裁判では、フジテレビが100万円か、200万円程度支払って和解で終わるのではないかという気がする。



2002年09月17日(火) 日亜化学や味の素の特許訴訟について

 日経(H14.9.17付)社会面に、青色LED訴訟で、社員の発明がどちらに帰属するかの判決が19日になされると報じていた。


 先日は、職務発明であることを前提に、相当な対価が払われていないとして、味の素の元社員が味の素に対し、20億円の支払いを求める訴えを起こしたと報じられていた。


 かつては、職務発明の対価(補償金)は数万円というのが多かったから、20億円という額は相当な金額である。


 このような記事を読んで、「おれの発明で会社はあんなに儲けた。その対価が数万円というのでは納得できない。」と思った人は多いのではないか。

 実際、そのような法律相談が増えていると聞く。

 今後は、ダメ元で訴訟してみようという人も増えるかも知れない。



2002年09月13日(金) 東電問題で、保安院が告発者の氏名を漏らす

 日経(H14.9.13付)1面に、東京電力の原子力発電所トラブル隠し問題で、内部告発者の氏名を保安院が漏らしたと報じられていた。

 保安院が東京電力に渡した資料の中に、告発者の氏名が記載されていたそうである。


 先日、内部告発で重要なことは、告発者を不利益に扱わないことよりも、名前が漏れないようにすることであると書いたばっかりであるが、まったく逆のことが行われたわけである。


 保安院側は、意図的に教えたわけではない、告発者の了解を得ている、告発者に不利益を生じたこともないと言い訳している。

 そこには、内部告発者を保護することによって、適正な内部告発を促し、もって、原子力発電の安全性を図ろうという姿勢はまったく感じられないように思う。



2002年09月12日(木) 郵便法の賠償制限に対し、最高裁が違憲判決

 日経(H14.9.12付)社会面に、郵便法の賠償制限は違憲であるとの最高裁大法廷の判決が報じられていた。


 最高裁が違憲判断したのは、これまでわずか5例しかない。

 そうであれば、もう少し大騒ぎしてもいいのに、あまり話題にならなかった。

 郵便法の賠償制限という、一般には縁がなさそうな問題だったからだろうか。


 郵便事業が民間に開放されれば、郵便局にだけ認めた賠償制限の妥当性は問題になったであろう。

 最高裁がそこまで見越して違憲判断したかどうかは不明であるが・・。


 それはともかく、最高裁は、違憲判断について躊躇しなくなった気がするし、それはいいことだと思う。



2002年09月11日(水) 長銀の旧経営陣に有罪判決

 日経(H14.9.11付)・1面と社会面に、長銀の元頭取が証取法違反と商法違反で有罪になったと報じていた。


 犯罪事実は、不良債権を隠して虚偽の有価証券報告書を提出したことと、配当原資がないのに違法配当したことである。

 そこだけ切り取って見れば、疑問の余地なく、当然に有罪である。


 しかし、その当時、長銀が破綻し、信用不安を招くことは社会的に許されなかった。

 大蔵省も破産を回避する方向で動いていたはずである。


 そのような状況にあっては、おそらく、100が100人とも、長銀の旧経営陣のようにしたのではないだろうか。

 その意味で、旧経営陣だけが刑事責任を問われておしまいというのは、なんか釈然としないものがある。

 要するに、長銀の破綻あるいはそれに至った原因について、長銀旧経営陣の個人の責任に帰していいのだろうかという疑問である。



2002年09月10日(火) またまた商法改正

 日経(H14.9.10付)・1面に、商法改正で、株券の印刷が不要になると報じていた。


 現在の商法は、株券を発行しなければならないとし(226条)、株式の譲渡は株券の交付によって行うとされ(205条)、株式発行前の株式の譲渡は会社に対して効力を生じないと定めている(204条)。

 ところが、ほとんど株式会社は株式を発行していない。

 発行費用がかかるからである(1枚数十円から数百円とのことである。)。

 また、相当数の会社は同族会社だから、発行する実益もないのである。


 しかし、同族会社でも株券を譲渡が必要となることはある。

 ところが、株券がないため、譲渡したとしても、その有効性に疑問が生じるし、また、二重譲渡の可能性があり、法律上紛糾する恐れが生じる。


 その意味で、商法改正で、株券の印刷を不要にし、その代わり、別の手当で譲渡したことを明確するようになれば、それは喜ばしいことである。


 それにしても、なぜこんなに小刻みに商法改正をするのだろうか。

 一挙に改正してもらわないと、改正した条文をいちいちフォローしなければならず大変である。



2002年09月06日(金) ピッキング窃盗にご注意

 日経(H14.9.6付)・社会面に、通帳を盗まれて預金を引き出された被害者が、銀行相手に、本人確認がずさんであるとして、損害賠償請求を求める訴訟を提起したと報じていた。


 ピッキング窃盗犯による預金引き出しの被害が増えているようである。

 彼らの手口は、巧妙かつ組織的である。

 夜に通帳が盗まれた場合、たとえ印鑑が盗まれていなくても、翌日の朝には、印鑑が偽造され、窓口で預金を引き下ろされているのである。


 ピッキング被害は、最近は少し減少気味とはいえ、まだまだ多い。

 少なくとも、普通預金には大金を預けておかないようにすべきであろう。


 そうはいっても、弁護士は、業務上、大金を預かることがある。

 ピッキング窃盗犯は、法律事務所であっても、お構いなしに侵入するのであり、法律事務所で窃盗に入られた話しをいくつも聞いている。

 弁護士は、通常、弁護士賠償保険に入っているが、通帳を盗まれて預かっているお金を引き出された場合は保険の対象外であるから、気を付けなくてはならない。



2002年09月05日(木) 裁判官の給与は、かなりいい。

 日経(H14.9.5付)・社会面に、裁判官の給与が戦後初めて下げられることになったと報じていた。

 憲法79条、80条は、「裁判官の報酬を、在任中、減額することはできない」と規定している。

 その趣旨は、裁判官が金銭的利害に左右されることなく、安定した経済的基盤の下で、独立してその職務に専念できるようにするためである。


 ただ、国家財政上の理由から一律に減額することについては、肯定する見解と否定する見解が従来から分かれていたが、今回初めて現実問題になったわけである。


 私は、合理的な理由があり、それが一律に減額されるのであれば、違憲ではないと思う。



 ところで、その問題はさておき、裁判官の給与は非常に恵まれている。

 新任の時は少し安い感じがするが、徐々に上がっていく。

 そのうえ、官舎が必ずあり、交際費がまったくないから、お金もかからない。

裁判官にとって悩みといえば、転勤があるため、子どもの学校に困ることぐらいである。

 仕事についても、5年経てば、単独で裁判することができるようになり、自分で自由に判断することができる。

 裁判官というのははなかなか魅力的な職業である。



2002年09月04日(水) カルテの開示請求について

 日経(H14.9.4付)・社会面に、医師会の指針として、カルテを遺族にも開示するように決めたという記事が載っていた。

 ただ、訴訟することが前提の請求に対しては、開示を拒否できるという方針は変わらないとのことである。


 医師と患者とに信頼関係を創るには、情報開示が不可欠あるのに、どうして医師会はこう頑ななのだろうと思う。


 もっとも、訴訟を念頭に置いている場合は、病院に対し直接開示請求はせずに、裁判所の命令を得て、いきなり病院に行ってカルテをコピーすることが多い。

 それゆえ、医師会が開示請求を認めなくても、あまり影響はない。


 裁判所の命令を得て、いきなりカルテをコピーするのは、事前に訴訟することが分かれば、改ざんされる恐れがあるからである。

 まさか病院がそんなことをしないだろうと思うかも知れないが、東京女子医大のカルテ改ざんをみても分かるとおり、そんなに珍しいことではないのである。


それにしても、医師会は、訴訟になる場合は開示請求を拒むというし、患者側は、どうせ裁判所の命令を得てカルテをコピーできるのだから構わないということは、医師と患者側にまったく信頼関係がないということである。

 これは、双方にとって不幸な事態であると思う。



2002年09月03日(火) 日本の法律事務所は、もう少し業務拡大を図った方がいいと思う

 日経(H14.9.3付)11面に、監査法人系ののコンサルティング会社が、法的リスク管理支援事業に進出すると報じていた。


 アメリカでは、これは文句なしに法律事務所の業務である。

 日本では法律事務所の大規模化が遅れており、アメリカでは法律事務所が行っている業務が監査法人に取られてしまっている。

 弁護士も、もう少し業務拡大のために、頑張らないといけないと思う。


 そうはいっても、私のような小さい事務所は、すき間産業的な仕事をするしかないし、それが重要であると思っているが・・。
 



2002年09月02日(月) 社外取締役は、法令遵守のための万能薬ではない

 日経(H14.9.2付)1面コラム「産業力」で、経営の不祥事を防ぐためには、警報装置を埋め込むことが重要であると書いていた。

 そのような趣旨から、そのコラムの中で、オリックス会長の宮内氏が、「危機の際に経営に軌道を載せるのは、なれ合いとは無縁の社外取締役しかない」と言っている。

 しかし、「社外取締役はなれ合いとは無縁」なのだろうか。

 アメリカでも、CEOの個人的な知人などが社外取締役になっているケースが多く、会計操作において、社外取締役によるチェックがまったく機能しなかったと言われている。


 要するに、社外取締役という制度を作ることは間違いではないが、結局は、その社外取締役の能力次第であり、社外取締役という制度に依存することは危険であると思う。


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