今日の日経を題材に法律問題をコメント

2002年01月31日(木) 「角瓶」は登録商標

日経朝刊社会面で、サントリーの「角瓶」は商標という記事が載っていた。

 裁判所は、「強い商品識別力を有することが推認される」として、商標登録請求を認めなかった特許庁の審決を取り消したという内容である。

 この裁判では、サントリー側が、100人の男性に、「角瓶」から連想する商品というアンケートを実施して、87人が「ウイスキー」と答えたという証拠を提出したようである(朝日新聞)。

 これは、商標登録などの裁判で、弁護士がよく使う手である。

 しかし、これを100人の男女にアンケートをしたらどういう結果が出ていただろうか。「ウィスキー」と連想する割合は低くなったのではないだろうか。

 この裁判では、おそらく、「ウィスキーを飲むのは男性だから」とかいう理由を付けて、男性だけのアンケートを実施したのだろう。

 アンケートも、訴訟においては一つの作戦であり、有利な結果が出るように、弁護士はいろいろと苦労しているのである。
(但し、公正に反することまではしない。念のため。)



2002年01月30日(水) ネット音楽の交換は著作権侵害になるか

日経朝刊11面に、「ネット音楽交換停止を」という見出しで、音楽ソフト社が、インターネット上で音楽の検索・交換サービスを提供する会社に対し、交換停止を求める仮処分申請をしたという記事があった。

 この会社の顧問弁護士によれば、「ネットワーク提供しているだけ」とのことだから、争点は、この会社が、著作権侵害にどこまで関与しているといえるかであろう(直接ファイル交換した個人が著作権を侵害しいることは明らかである)。

 思うに、この会社は、ファイル交換のソフトを配布して、この会社のサーバーで、ファイルの検索サービスまでしているのだから、関与の度合いは非常に高いものがある。
 したがって、著作権を侵害していると判断される可能性が高いだろう。

 しかし、ここで言いたいのは、そのことではなく、起業家であれば、このような事業はあまりにもリスクが高く、そのような事業を目的とした会社を起こすべきでないということである。

 仮に、その会社の行為が著作権の侵害にならないと判断されても、音楽ファイルの交換が音楽ソフト社に打撃を与えることは明らかであり、早急に著作権法が改正されるだろう。
 そうすれば、この会社の存在基盤は完全に失ってしまう。

 その意味で極めてリスクの高い事業なのである。

 言い換えれば、モラルに反する事業は、モラルに反するからではなく、リスクが高いゆえに、行うべきではないということである。



2002年01月29日(火) 「見せ金」は刑事処罰の対象になる

 日経・社会面で、神田信用金庫元理事長が、不動産会社を設立する際、他の金融機関から借り入れて株式の払込を行い、設立後、払込金を引き出して、金融機関に返済したという容疑で(いわゆる「見せ金」である。)追送検されたという記事があった。

 見せ金とは、上記のように、株式払込金を他から借りてきて、会社を設立し、設立後、払込金を引き出し、借りた先に返還することをいう。

 このような「見せ金」が有効か無効かは学説上は争いがあるが、判例は、見せ金は会社に資本金がなくなるのだから、資本充実責任を害するという理由で無効としており、また、かかる行為は公正証書原本不実記載罪が成立するとしている。

 「見せ金」の論点は、会社法の最初のころに勉強する箇所なので印象が強く、勉強中は、「見せ金」は無効であり、刑罰の対象にさえなるという考えが頭に焼き付いていた。

 ところが、実務に出ると、「見せ金」は普通に行われているのである。
 ときには、依頼者から会社設立の相談を受け、「他から借りてきて払い込んで、すぐに返せばいいんですよね」、なんて、まともに聞いてくる人もいる。

 しかし、こちらは、それが刑罰の対象になるという考えが身に染みついているから、「それでいいですよ」なんてことは答えられない。

 そのため、、「それは無効とされていますよ。」とやんわり言うか、場合によっては、「税理士さんか司法書士さんに相談してみたら」とか「会社を設立してから相談に来て下さい」とか言って逃げることもある(融通の利かない弁護士だなと思われたかも知れない)。

 しかし、いざとなったら、新聞記事のように刑事処罰されるのである。

 「いざとなったら」とはどのような場合かというと、新聞記事のように、他の犯罪で逮捕されてたまたま発覚したケースと、会社の主導権争いから、一方が裁判で無効を主張したり、告発したりして発覚することが多いようである。

 したがって、内部紛争の可能性のある人が、新たに会社を設立する際は、見せ金なんて誰でもやっているなんて甘い考えを持たずに、注意した方がいいだろう。



2002年01月28日(月) MMF 情報開示の強化

 日経朝刊7面に、野村証券がMMFの法人販売を中止したという記事が載っていた。

 昨年11月、エンロン債を組み入れていたMMFについて、法人からの解約申し出が殺到した。そのため、組み入れた資産の投げ売りに迫られ(野村のMMFではなかったが)、損失が拡大したたためとのことである。

 ところで、その記事の最後に、元本割れという事態を受けて、MMFの組み入れ資産の情報開示を強める動きが出ていると書いていた。

 情報開示はもちろん賛成である。

 ただ、今回のエンロン債騒ぎにおいて、エンロン債を組み入れているということがきちんと開示されていたら、個人の顧客は、すぐにMMFを解約しただろうか。

 そもそも、MMFを買っている人が、毎日、新聞をきちんと読んでいるとは限らない。

 仮に、丁寧に新聞を読んでいたとしても、損失を被った可能性は高い。

 エンロン債の組み入れ比率は、例えば日興アセットの場合、ファンド全体の1パーセントにも満たなかったそうである。
 そうすると、エンロンが危機であるという記事を読んだとしても、さっと解約することはできなかったのではないだろうか。

 情報開示は喜ばしいことであるが、それにより自己責任の原則が強調されるのだから、顧客にとっては、かえってつらいことになるのかも知れない。



2002年01月25日(金) 電子投票法が施行−果たして効果はあるのか−

 今日の日経2面に、電子投票法が2月1日から施行されるという記事が載っていた。

 この法律で想定しているのは、候補者の名前を紙に書いていたのを、ボタンを押せばいいようにすることだけであろう。

 しかし、そのようなことをしても、ほとんどメリットはない。
電子投票システムの開発費、投票当日の機械のトラブルに備えた人件費などを考えると、経費節減のメリットはないであろう。そればかりか、システムが故障した場合に備えて、従来の投票用紙も用意しておく必要があろうから、二重の手間になりかねない。
 結局、結果が数時間早く分かるというだけで、あまり効果は期待できそうにない。

 電子投票制度の核心は、自宅で投票ができるようにすることにあると思う。
 そうすれば、投票率は格段にアップし、民意を正確に反映することが可能になろう。
 もちろん、セキュリティ対策、本人確認の問題など、解決すべき課題はいっぱいある。
 しかし、投票率を高めるという理念があって初めて投票方式の改善が意味を持つのであり、理念のない改善はほとんど無意味と思う。



2002年01月24日(木) マイカルの社債について

日経朝刊17面に、マイカルの社債、100億円が保有者不明との記事があった。

 この記事を読んで、マイカルがつぶれたとき、社債を保有していて、それがほとんど紙切れになってしまった人から相談を受けたことを思い出した。

 その人の言い分は、「社債を販売した証券会社は、マイカルが危ないなんて一言も言ってくれなかった。購入した時点で、マイカルの経営状態は悪化していたのに、それを知らせず販売した証券会社は詐欺である。」ということであった。

 しかし、いろいろと話を聞くと、マイカルが何の会社か知らずに社債を買っていることが分かった。「サティ」というスーパーの名前も、聞いたことがなかったそうである。
 それなのに、マイカルの社債を買ったのは、担当者から、他の社債より利率がいいと勧められたからである。

 相談された方は、退職金でマイカルの社債を購入していたから、非常に気の毒であった。

 しかし、マイカルの社債を勧められたとき、なぜ、他の社債より利率がいいのかを考えないといけなかったと思う。
 それを考えずに、勧めるられるまま、何の会社かも分からずに購入するという姿勢は、問題といわざるを得ないだろう。

 社債とはいえ、投資しているという自覚が必要であるのに、自覚のない人があまりにも多いのではないだろうか。
(その方を非難しているのではなく、投資しているという自覚がなく、担当者に言われるまま金融商品を購入する人があまりに多いのではないかと思い、注意を喚起したいのである。)



2002年01月23日(水) 金融商品換金に本人確認を義務づけ

 日経1面トップに、「大口送金や金融商品換金に本人確認を義務づけ」「100万円以上を検討」とあった。

 記事によれば、預金取扱金融機関と証券会社において、口座を開設する時と、500万円以上(100万円まで引き下げる案も有力)の現金取引には、運転免許証などによる身分確認が必要になるとのことである。

 法案の内容が定まっていないため、ネットでの証券取引や、ネット銀行にどのような影響があるかは不明であるが、ネットの手続のみで口座開設することはできないであろう。
 今でも、ネットで口座開設することはできないため、ネットですべて手続ができるように希望する人が多かったが、それとは逆の方向での改正になる。
 ただ、対象が現金取引だけのようであるから、株式を売却して、別の口座に出金するときは、本人確認はいらないと思われる。

 マネーロンダリングやテロ対策を強化すれば、ネットの便利さは損なわれるから、両者の兼ね合いが難しい。
 ただ、現在は、「テロ対策」は葵のご紋みたいで、テロ対策であるといわれれば、便利さは諦めないといけない雰囲気であるが、それもやむを得ないのかも知れない。



2002年01月22日(火) 「私の履歴書」−訴訟は勝っていたか−

 今日の「私の履歴書」で、ヤマト通運の小倉昌男氏が、運輸省が免許申請を放置したので、訴訟を起こしたことを書いていた。
 それに対し、運輸省があわてて免許を出したので裁判は幻に終わったが、負けることはないと思っていたそうである。

 しかし、「負けることはなかった」というのは、小倉氏の思い込みであり、私は、負ける可能性はあったと思う。
 ただ、それでも訴訟を提起した小倉氏は正しかったと考える。


 まず、「私の履歴書」で書いていることを補足して紹介すると、

 81年に申請した北東北路線の免許が4年も棚ざらしされた。
 そこで、85年12月、行政不服審査法に基づく異議申立をしたところ、「慎重に審査しているので申請をいったん取り下げよ」という回答であった(しかし、「申請を取り下げよ」という回答は考えにくい。正確には、異議申立が却下になったのであろう。)。
 
 そこで、用意していた奥の手として、86年8月、東京地裁に「不作為違法確認の訴え」を起こした。
 運輸省は勝つ自信がなかったのだろう、その年の12月に免許が出た。

 裁判は幻に終わったが負けることはないと思っていた。
 というのは、道路運送法には「免許は需給を勘案して付与する」と書いているが、運輸省に輸送需給に関する資料などあるはずないから、「慎重に審査をしている」ことはあり得ないからである。

 つまり、「慎重に審査している」というのは言い訳であり、運輸省が何も審査していないことは明らかである。
 そこで、このような不作為(何もしないこと)は違法であるという訴訟を提起したのであり、必ず勝つと思っていたというのである。

 しかし、この訴訟でヤマト運輸は必ず勝てたのだろうか。
 私は次の理由から疑問である。

 そもそも、何をして、何をしないかは、本来は行政裁量の問題である。
 それゆえ、「何もしなかった」ことが違法であるというのは、裁判所にとって非常に言いづらいのである。

 確かに、最近は、薬害事件で行政の不作為が問題なっているが、86年当時は、裁判所は行政の不作為に対する違法確認には極めて消極的であったのである。

 また、運輸省には需給に関する資料などあるはずないからといって、慎重な審査をしていないとはいえないだろう。審査の対象は、需給状況だけではないからである。
 もちろん、「慎重に審査している」という運輸省の回答が言い訳であることははっきりしている。しかし、もともと、不作為の違法確認に消極的な裁判所が、その言い訳に乗る可能性は高かったと思う。

 したがって、訴訟は、必ず勝つとはいえないばかりか、敗訴の可能性もあったと思うのである。

 しかし、結論として、訴訟を提起した小倉氏は正しかったと思う。
 行政裁量という訳の分からないものに翻弄されるよりも、解決しない場合には、裁判という公開された場で、公正な判断を仰ぐべきであり、小倉氏の対応は、これからのあり方を先取りしていたと思うからである。



2002年01月21日(月) セキュリティ対策を怠ったことによる損害賠償請求

 日経15面に、「ブロードバンド ウィルス自己防衛不可欠の時代に」という記事があった。
 ブロードバンドは常時接続のため、セキュリティ対策が重要な問題になるという内容であった。

 では、仮にセキュリティ対策を怠って、人にウィルスを送りつけてしまい、送りつけた人から損害賠償請求されたら、それは認められるだろうか。

 そこで、まず、ウィルス対策を怠り、人にウィルスを送りつけたことが過失といえるかどうかが問題になる。

 今日では、ウィルスについての情報はある程度知られているから、対策の必要性が分からなかったとはいえない状況である。
 したがって、きちんと対策を採らず、ウィルスに感染し、人にウィルスを送りつけてしまったら、多くの場合は過失があるということになろう(そのウィルスがまったく新種のウィルスであり、セキュリティ会社でも対策が採られていなかった場合などは別であるが)。

 では、損害はいくらと認定されるのだろうか。

 損害として考えられるのは、重要なデータが消失したこと、その人がさらにウィルスを送りつけてしまい損害賠償の請求を受ける可能性が生じたことなどであろう。
 また、第三者に重要なデータが流失した場合には、それによる損害も問題になる。
 
 しかし、データの消失については、そもそも、データはバックアップしておくべきものであり、バックアップを怠ったことは過失相殺の対象となるから、多額の認定は見込めないであろう。
 また、重要なデータが流失した場合には、深刻な問題であるが、データの流失とそれによる損害との間の因果関係は希薄になっていくから、因果関係がないとして損害が認められないこともあろう

 最後に、過失相殺の問題がある。
 ウィルスを送りつけられたといっても、きちんとセキュリティ対策を講じていれば、感染することはなかったからである。
 しかも、前述のようにウィルス対策は講じることは常識となってきているから、過失割合はかなり高いものになるだろう。
 

 このように考えると、人からウィルスを送りつけられて損害を受けたとして、損害賠償をしたとしても、認められる額は多くはないのではないだろうか。



2002年01月18日(金) 産業再生法について

 ダイエー再建策の一連の報道で、何度か「産業再生法の活用」ということが報じられていた。

 産業再生法というのは、私は知らなかったが、条文を読んでみると、第1条で、その法律の目的として、知識、技能、技術、設備などを効率的に活用して、生産性の向上を実現することと規定されている。
 そのために、事業再構築が円滑にできるような特別の措置を講じたり、創業や新事業開拓を支援したり、研究活動が活性化するよう支援するたことなどを定めている。
 
 しかし、基本的には、会社が主体となって事業再構築案を策定し、それを国が支援しようというだけであり、その支援策も限定的である。

 したがって、今回のダイエー再建にあたって、その法律の適用が、それほど効果があるとは思えない。
 そのためか、新聞報道でも、最初は、「産業再生法の活用」を大きく報じていたが、次第に扱いは小さくなってきている。


 ところで、以前、裁判所から法務省に出向して、法律の立案に関わっている友人が言っていたが、役人は、新しい法律を作りたがるそうである。
 というのは、法律ができれば、それに基づき仕事ができる、仕事をするためには予算が付くということになるからである。

 産業再生法も、条文を読んでみると、「推進するよう努めるものとする。」といった表現が多く、再生のための目に見える効果はあまり期待できそうにない。
 その意味で、産業再生法は、先のような、仕事を作り予算を獲得するという官僚の習性から生まれた法律の一つのような気がした。



2002年01月17日(木) 商法 半世紀ぶりの抜本改正

朝刊1面に「商法 半世紀ぶり抜本改正」の記事が出ていた。

 近時、商法は毎年のように改正されており、こちらも本を買い換えるのが大変である。
 コンメンタールといって、条文ごとに解説した本もあるが、これなど、出版社としても頻繁に改訂する必要があり、大変だろうなあと同情してしまう。

 商法改正というと、私が司法試験を始める少し前の昭和56年頃、商法大改正が行われたことを思い出す。

 そのとき、単位株制度が導入され、一株あたりの単位が5万円に引き上げられた。
 そして、5万円に引き上げた理由の一つとして、一株あたりの単位を引き上げることによって総会屋が株主として参入することを防ぐためであると教わった。

 私は、そのとき、一株あたり5万円にした程度で、総会屋の参入を防ぐことなどできるのかなあと疑問に思った。

 もちろん、「56年商法改正の概要と趣旨を述べよ」という問題が出たら、単位株の引き上げと、その趣旨の一つとして総会屋対策であると書いていたが・・。(試験では、自分の頭で考えすぎるより、教えられたことをそのまま書いた方が合格は早い。そのへんの割り切りが早期合格につながる。私は割り切りが遅かったほうだが)

 今回の改正で、株式売買単位の引き下げが容易になるとのことである。すなわち、単位株の引き上げは、弊害が目立ったということなのだろう。

 やはり学者の考えは、企業経営者のニーズに合致していないということなのだろうか。
 ただ、企業経営者のニーズといっても、そのときそのときのニーズにすぎず、長期的視野から見たニーズは少ないような気もするが・・。



2002年01月16日(水) 大和証券がネットで信用取引を始める

 日経7面に、大和証券がネットでの信用取引を始めるとの記事が出ていた。
 ネット専業証券会社では信用取引の取扱が増え、収益に寄与していることから、大手証券会社でもネットでの信用取引を始めることになったのだろう。

 信用取引はリスクが高いが、ネット取引に多様なメニューを揃えること自体は悪いことではなく、歓迎すべきことだと思う。

 ただ、記事には「大和証券は信用取引に不慣れな個人を中心に取引を拡大する考えだ」とあった。
 しかし、これはネット取引としては中途半端なやり方であり、トラブルの種が残ってしまうと思う。

 記事から想像するに、大和証券のやり方としては、証券会社の担当者が顧客に相対で信用取引を勧め、その取引形態として、ネット取り引きすることを想定しているのであろう。
 
 ネットで自分の意思で取引を申込み、ネットで取引をするのであれば、信用取引によるリスクについても、完全に自己責任である。したがって、ネットで信用取引をして損害を被った人が、リスクについて説明がなかったといって訴訟したとしても、勝訴する可能性はゼロだろう。

 しかし、証券会社の担当者が相対で信用取引を勧め、実際の取引はネットを利用した場合は話は別である。
 担当者が、リスクについて十分説明しないまま信用取引を勧めた可能性もあろう。その場合は、ネット取引したことだけを取り上げて、自己責任というわけにはいかないからである。

 もちろん、証券会社の担当者が顧客に信用取引を勧め、その取引形態としてネットを利用するということが悪いわけではない。
 しかし、ネット取引は本来自己責任の世界である。その意味では、かかる営業形態は中途半端であり、トラブルの種が残っていることに留意すべきであると思うのである。

 それにしても、「信用取引に不慣れな個人を対象」という日経の書き方は、ひどいのではないか。
 これでは、証券会社が、信用取引の知識がない人を無理矢理取り込み、手数料の荒稼ぎするのではないかと思われかねない(そう邪推するのは私だけか)。



2002年01月15日(火) 株式代表訴訟 厳しい判決が出やすい?

日経朝刊5面で、「商法 相次ぐ改正」「株主代表訴訟見直し」というタイトルの記事で、「取締役の責任の軽減が認められたことで、裁判官が取締役敗訴の判決を出しやすくなる」という著名な弁護士のコメントを載せていた。

そのコメントの意味は、次のようなことである。

つまり、証拠調べした結果、取締役の責任を肯定せざるを得ないことになり、その損害賠償額は1000億円になると仮定した場合、裁判官によっては、そういった判決を出すのは躊躇する場合があろう。

極めて高額な賠償額になりそうな場合、通常は、さまざまな(へ)理屈を付けて、賠償額を減らすのが普通である。
しかし、1000億円のところをいかに(へ)理屈を付けても、数億円に減らすことはできないだろう。

したがって、そのような場合、従来であれば、裁判所は、取締役の責任を認めなかったかもしれない。
しかし、賠償額が軽減されるのであれば、裁判所も高額な賠償額の判決に躊躇しないだろうというのが、コメントの趣旨であろう。

しかし、取締役会決議または株主総会の特別決議で軽減決議をするのは、判決の後である。
したがって、実際に賠償額が軽減されるかどうかは、判決の時点では裁判官には分からない。
すなわち、判決の時点では、従来と状況はあまり変わらないのだから、賠償額を軽減できるようになったからといって、取締役敗訴の判決が出しやすくなったとはいえないのではないだろうか。

先の弁護士のコメントは、取締役の賠償責任が軽減されるからといって、安心してはいけないという警句と捉えるべきだろう。



2002年01月13日(日) 内閣官房官僚が勤務中にネット掲示板で株情報交換

 朝刊35面(社会面)で、内閣情報調査室の経済調査の担当官が、勤務中に職場のパソコンを使って、インターネットの掲示板で株取引に関係する情報交換を行っていたとの記事が載っていた。

 この担当官は自ら株売買もしており、インサイダー取引がなかったかなど、事実関係を調査しているそうである。


 インサイダー取引規制とは、会社関係者、情報受領者などが、業務等に関する重要事実を所定の態様によって知った場合に、その重要事実が公表されるまでの間、株取引が禁止されるものである。

 注意すべきことは、その重要事実を利用したかどうかとか、実際に利得があったかどうかは要件になっておらず、売買した時点で犯罪が成立することである。

 このような規制について、過剰規制でないかという意見もある。
 しかし、裁判所はインサイダー取引に当たるかどうかについて比較的緩やかに解釈しており、インサイダー取引に対し厳しい姿勢で臨んでいる。

 実際、会社が会社更生や民事再生を申し立てる直前などに、株価が不自然な動きをすることがあり、内部情報を得て不当な利益を得ている者がいるのではないかという疑惑を払拭できない。
 それゆえ、インサイダー取引に対し厳しい姿勢で臨むこともやむを得ないのではないだろうか。



2002年01月12日(土) 整理解雇のための要件について

証取法ではなく、労働法の問題だが、
今日の日経別刷りNIKKEIプラス1・4面に「会社から解雇を通告されたら」というコラムがあった。

そのコラムには、「勤めている会社から、経営が厳しいので辞めて欲しい、と突然言われた。会社を辞めなくてはいけないのか」と問題提起した後、
「結論からいえば辞めなくていい」 と書いていた。

随分、大胆に書くなあと思ってよくみると、無署名コラムだった。
(この種のコラムは通常、弁護士が署名入りで書くのであるが、その場合は、このような大胆な書き方はできないだろう。)

 コラムは、その後で、整理解雇が認められる要件として
1 企業の業績悪化など人員削減の必要性の存在
2 配置転換、出向、希望退職など、会社が解雇を避ける努力をしたこと
3 解雇対象者の選定が恣意的でないこと
4 労働組合や従業員との協議をするなど手続が適正であること
の4要件をあげている。

 このうち、先の例では、要件2の解雇回避義務と要件4の適正手続を欠いているということなのだろう。

 上記4要件は、どの本にも書いている。
 しかも、大抵の本には、上記4要件のどれか一つを欠いても解雇権の濫用になるという書き方をしているから、コラム担当者が、先のように「結論からいえば辞めなくていい」と書ていてもやむを得ないであろう。


 しかし、私は、上記4つの要件は、判断のための要素に過ぎないと考えている。

 例えば、人員削減の必要性が極めて強い場合に、配置転換や出向をしたのでは、効果はない。
 
 また、整理解雇の前に必ず希望退職を募るべきであるといえない場合もあろう。

 希望退職を募ると、優秀な社員が出ていってしまいかねない。それより、やる気のない従業員に辞めてもらいたいというのが経営者としての本音であり、その考え方が不当であるとは思えない。

 実際、全従業員を対象に希望退職を募ると、他社から熟練従業員が引き抜かれる等の事情を勘案して、希望退職の募集をせず整理解雇したこともやむを得ないとした判例もある(昭54.10.29東京高裁判決・東洋酸素事件)。

 したがって、これらの場合には、その他の3要件すべて充たさなくても、解雇が認められる場合があると考える。

 ただし、希望退職を募集せず、やる気のない従業員を整理解雇したという例でも、当該解雇対象者が、やる気がないとか、他の従業員より能力が低いという証拠を保存していなければ、恣意的な解雇と区別ができないから、解雇無効と判断されるおそれがある点は留意すべきである。


 いずれにせよ、今後、労働市場はますます流動化してくると思われ、そうすると、裁判所の考え方もそれに応じて徐々に変わってくる可能性があるだろう。 



2002年01月09日(水) 自己責任の原則を身につけるのは難しい

昨日(1月8日)夕刊の「投資を学ぶ」というコラムで、株式の模擬売買を学習に取り入れている高校が紹介されていた。
 記事では、その学習について、「投資につきもののリスクや自己責任の原則を、理屈ではなく身近なものとして実感できる貴重な経験になっている」と評価している。
 
 確かに、自己責任の原則を教えることは重要である。
 しかし、模擬売買によって自己責任の原則が身に付くというのは疑問であり、あまり過大視するのもどうかと思う。

 投資にリスクがあり、それは自己責任であることを心底理解するのは、自分のお金を使って実際に懐が痛んだときであろう。

 たとえば、エンロンの破綻でMMFが元本割れしたが、MMFにも元本割れのリスクがあることを理解していなかった人も結構いたのはないだろうか。
 そのような人は、損をして、始めて、どんな投資にもリスクがあり、それは自己責任であることに気がつくのである。(販売する側が、「MMFは元本割れしないから大丈夫」と説明したのであれば、話は別であるが)

 これに対し、模擬売買は、損をしても自分の懐が痛むわけでなく、自己責任が実感できる貴重な経験とはいえないであろう。
 せいぜい、授業での模擬売買は、経済に興味を持たせる程度の意味しかないと考えていた方がいいのではないだろうか。

 何がいいたいかといえば、自己責任の原則を教えることは重要であるが、それを本当に身に付けるのはなかなか難しいということである。



2002年01月07日(月) 「株の手数料が急低下」は、無理な販売につながらないか

日経1面に、「株の手数料急低下」という記事が出ていた。

 確かに、1999年10月以前の自由化になる前の手数料は高すぎた。
 それまでは、少額の取引では手数料の割合が高くて、少々株が上がったくらいでは利益が出ない場合が多かったから、手数料の低下ということは喜ばしいことである。

 しかし、あまりに安くなりすぎると、「大丈夫かな」という気がしてくる。
 とくに、「投信では無料が急増」と書かれていたが、「じゃ、どこで儲けようとしているんだ」とツッコミを入れたくなる。
 
 株式取引の仲介や投信の販売に手数料が掛かるのは当然である。

 例えば、いかにインターネット取引に特化しようとしても、新技術の導入は必要であろう。13面に、「イー・トレード証券が新技術を導入した」といった記事が出ていたが、当然、開発費用もかかっている。

 また、オンラインがストップとしたときにコールセンターを開設する必要があるだろうが、その体制維持費用も必要である。

 すなわち、経費をゼロにすることはできないのであるから、手数料が低下すると、どこかで無理が生じ、販売に際してトラブルが起こることを懸念するのである。

 
 逆に言えば、当社はインターネット取引に特化します、オンラインがストップしたときはコールセンターは設けませんので、他社の口座を持っておくことをお薦めします、その代わり手数料は他より絶対に安くしますという方針で割り切れば、問題は生じないのかも知れない。



2002年01月04日(金) ごあいさつと 新商品と説明義務について

 今日の日経から、証取法を中心に、法律問題についてコメントしていこうと思います。
 今後ともよろしくお願いします。


投資信託に、不動産投信と株価指数連動型上場投信という新顔が加わったという記事が出ていた。
 これらについて、「大型新商品にかける」という見出しが付いているから、販売する側としては、期待も大きいのだろう。

 ただ、従来の商品(通常の株式取引など)に比べて、新商品の場合は、リスクについて説明義務が加重されることに留意すべきである。
 なぜなら、投資する側としては、新商品については予備知識がないのが通常だからである。

 たとえば、株価指数連動型にしても、株価指数と100%連動しないのであれば、それは説明する義務があるということになろう。

 したがって、販売する側としては、新商品の場合には、リスクの説明義務について十分注意すべきである。


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