落ちる。
流れる。
撫でる。
微笑む。
優しい音が世界を覆う。
世界が透き通っていく。
世界が歌う。
祝福の光を。
世界が歌う。
誕生の喜びを。
まだ少し寒い坂道。
登りながら、少しだけ口ずさんだ。
あの日の、メロディ。
青空が見えたら、君は空に愛されている。
雨雲を呼べたら、君は雲に愛されている。
稲妻を操れたら、君は雷に愛されている。
僕の声が聞こえたなら、君は。
血生臭いイメージ。
腕が捥げる。
骨が覗く。
蛆が湧く。
じくじくとしている。
鈍色の赤紫。
張り詰める皮膚。
漂白されたような白。
細く長い指先。
微かに動いている。
本体は見当たらない。
液体化する。
剥がれ落ちる肉壁。
どろりとした塊。
やがて全てが、砂と化す。
この映像はいつか見た現実か。
殺してない。
あたしは誰も殺してない。
砂漠。
果てしない砂漠。
薄氷のような月。
凍えそうな足先。
鮮やかなまでの返り血。
殺していない。
あたしは、誰も、殺してなんか。
全てを投げてしまって。
自己責任を取りたくない。
選択が出来ない。
蹲る。
怖い。
全てが怖い。
そんな時が、確かに在った。
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