ほんの少し。
ほんの少しだけ、心が弱くなった時。
それらは、こちらに、越境してくる。
心を、強く持て。
超えられたら、連れて行かれる。
あれは『はじまり』の少し前。
ほんのり身体が温かくなるような光を感じた。
別々の次元で生きていた僕たちが、
初めてお互いを認識した。
手を取り合い、目を凝らした。
『セカイ』がもうすぐ、動き始める。
ノック三回。
はい、だぁれ?
こんばんわ、魔法使いです。
あなたの願いはなんですか?
あたしのおねがい?
あたしの願いはイマがずーっと続くこと。
だぁれも扉を開かないこと。
では、ずっとおひとりで?
さびしかったりしないのですか?
眠れぬ夜が長かったりは?
話がさっぱり分からない。
あたしの世界は、あたしで満員。
『さびしい』なんて、知らないわ。
『眠れぬ夜』も知らないわ。
そうですか、では僕は不要者ってわけだ。
お邪魔しました。
待ってちょうだい、魔法使いさん。
よろしければ、また来てくれる?
扉の向こう側にいる、あなたとまたおしゃべりしたいの。
・・・。
もちろん。 それがあなたの、『願い』ならばね。
あたしの子。
可愛いあたしの子。
抱きしめなくちゃ、はやく、一刻もはやく。
カタチが崩れてしまう前に。
いつの日か僕は救い出す。
茨の園に囚われし君。
薄い眠りの中で意識だけ僕のそばまで迷い出た君は、
いつもいつもささやいていた。
『ダイジョウブ、アナタナラデキル』
それを信じて必ずや。
いつの日にかまためぐり合えたなら。
僕は、言おう。
君に。
『やっと、会えたね』
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