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2013年01月21日(月) ■ |
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『岩波国語辞典』には載らない言葉 |
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『ユリイカ』(青土社)2012年3月号の「特集・辞書の世界」より。
(辞書編集者を描いた小説『舟を編む』がベストセラーとなった三浦しをんさんへのインタビュー「『舟を編む』が出航するまで」の一部です。聞き手は速水健朗さん)
【速水健朗:作中の松本先生との会話で、子どもの頃みんなやりがちなHな単語ばかり引く話が出てきます。余談ですけどプッチモニのデビュー曲「ちょこっとLOVE」(1999年)で「恋」という字を辞書で引くっていうのがありまして、当時のつんくの作詞はキレキレだったんですけど、そこに好きなひとの名前を書き加えるという歌詞なんですね。
三浦しをん:いいなあ(笑)。
速水:さらに秀逸なのが二番で「愛」という字を引こうとすると、家族の顔が先に浮かんでくると言うんです。そこがいかにも中学生の幼い恋愛っていう。みんな物心ついて辞書とか引き出すのは中学生くらいで、そうするとやっぱり「恋」とか「愛」とか引くよねというのがリアルに書けていた。
三浦:すごく肯ける話ですね。私も性的な言葉を引きまくってましたから(笑)。
速水:たとえばどういう単語ですか?
三浦:ちょっと口では言えないような言葉を(笑)。
速水:作中で書かれていたように、「ちんちん」が載っていなかったらがっかりしたりして(笑)。
三浦:それはもうがっかりですよ(笑)。面白いのが、『岩波国語辞典』は頑として性的な語は載せていないんです。編集者のひとに半ばキレ気味に「なんで載せないんですか!」と言ったら、「まあ、どうしてもそれを知りたかったら『広辞苑』を引いていただくとして……」と言われたので、そういう役割分担があるんでしょうね。
速水:なるほど。一方、有名な『新明解』のように、「恋愛」についてかなりアグレッシブな語釈を採用しているものもありますよね。作中でも「恋愛」をめぐり、それが異性間に限定されるのはおかしい云々というエピソードがありますけど、ちゃんと辞書の進化というかバリエーションがどう出来るのかということを描いていますよね。】
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昨年の『本屋大賞』を受賞した『舟を編む』。 今年の4月には、映画も公開されるそうです。 著者の三浦しをんさんは、「辞書をつくっている人たち」を綿密に取材して、この作品を書かれたそうで、この特集号に辞書関係者が寄せている文章を読むと、「ああ、こういう『言葉屁の興味が尽きない、粘り強いひとたち』が辞書をつくってきたのだなあ」と感慨深いものがありました。 「自分が生きているうちに、完成したものが見られるかどうかわからないような、時間がかかる膨大な仕事」なんですよね、辞書編纂って。
『ちょこっとLOVE』懐かしいなあ、たしかに、あの頃の『モーニング娘。』は凄い勢いがあったよな、あれからもう14年も経っているのか(だって辻ちゃんがお母さんタレントになっているんだから!)と速水さんの述懐を読みながら考えていたのですが、三浦さんの「『岩波国語辞典』には、性的な言葉は載っていない」という発言に僕は驚いてしまいました。 みんな考えることは似たようなもので、学生時代、学校の辞書を引いてみると、「性的な言葉」のページには、きちんと折り目がついていたり、赤線が引いてあったりした経験を持つ人は、少なくないはず。 「なるべく多くの、使われている言葉を収録する」ことを重視するはずの国語辞典、そのなかでも「名門」といえる『岩波国語辞典』に、そんな「こだわり」があったんですね…… 「広辞苑で調べてください」という関係者の発言からすると、「なにかの手違いで抜けてしまった」わけではなくて、意図的に「性的な言葉は排除している」ということなのでしょう。 でも、それってどうしてなのだろう? 小さな子供も使うから、と考えた編集者たちの「モラル」の問題なのか、偉い人の「載せるな!」という鶴の一声があったのか。 辞書編集者であれば、性的であれ、よく使われている言葉であれば、「排除」しないのではないか、とも思うのですが……
今後、いつの日か、『岩波国語辞典』が「性的に解放される」日が来るのでしょうか? もしかしたら、本当に、同じ岩波書店の『広辞苑』を売りたいだけ?
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