◎ 明日から復学。 ◎

何だろう。
頭の中がぐるぐるして、上手く考えがまとまらない。
こんな状態が、退院の数週間前からずっと続いている。

明日から、学校に戻らなきゃいけないのに。
その為に、今日は学校に行って挨拶回りまでしてきたのに。
いつもなら他人に対しては反射的に出来る筈の作り笑いが
今日はどの先生に対してだって、一度たりとも出来なかった。

内心、凄く焦った。
笑わなきゃ、笑わないと、って思えば思う程、頬が強張っていく。
これで、明日からどうやって笑うの?どんな顔して皆と会えば良いの?
嫌なのに。もう、あの場所には戻りたくないのに。

誰か。
誰か、笑い方を教えて。

   − 2005年06月30日(木) −

◎ Dear Dear ◎


親愛なる 玲於奈へ。


お元気ですか。そちらは良いお天気ですか。
私はやっぱり苦しくて、いえ、何も苦しくなかったとしても
何故か涙がぽろぽろと零れてくる毎日を送っています。

でも、貴方は。
泣くほどの
喜びも
楽しさも
痛さも
辛さも
悲しささえも
何も 何も知らぬまま
今の私でも手の届かない、ずっと遠くへ行ってしまったのですね。

私は貴方の事を何も知りません。
私から死ぬ権利を奪った貴方の事を、何も知りません。
知っている人に訊きたくても訊けません。
その人にとって貴方は、きっと悲しい思い出だろうから。

名前を与えられる間もなく、遠くへ行ってしまった貴方。
だから私は、貴方に『玲於奈』という名前を贈ります。
父が昔、将来子どもに付けようと思っていたという名前。
でも、ノーベル賞受賞者に同名の人が出てきてしまったから
真似をしたと思われたら嫌だ、と言って、結局付けなかった名前。
…そして恐らく、私の名前にも少しは反映しているであろう名前。

この名前が私に、そして弟に付けられなかったのは
きっと、本当は『貴方の名前』だったからなのだろうと。そう思います。
神様なんてあまり信じていないけれど、もしもそういう存在があるのなら
その存在が、貴方の為にこの名前を残しておいてくれたのだと思います。

玲於奈。
本当は、本当に。会いたかった。
貴方と一緒に、貴方の隣で、この世界を見てみたかった。

叶わないけれど

叶わないからこそ

誓います。

貴方のことは、絶対に忘れない。

私が生まれる前の物語。
でも、私は過去のものにはしたくない。

だから、どうか。
もしも望んでくれるのなら

私が見たこと

聞いたこと

感じたこと

貴方と共有したって構わない。

この世界のことを知りたいと思ったら
私の中を探してみて下さい。
まだ、そんなに長くは生きていないけれど
もしかしたら、私が答えを持っているかも知れないから。

玲於奈。
これからも、名前を呼ばせて下さい。
貴方の『妹』でいさせて下さい。
…こんなことを望むことを、許して下さい。

   − 2005年06月23日(木) −

◎ 欲しかったもの。 ◎


この病気になって。

真っ暗闇の病室の中で
薄明かりの灯る外来で
咽そうになる喫煙室で

真夜中の誰も居ない場所で
誰にも助けを求める事も出来ず
只涙だけを流し続けた私が
何よりも一番欲しかったもの。

それは

『存在意義』。

血縁者以外に、私を必要としてくれる人が欲しかった。

今の自分には何の力も無いというのに

只、誰かの力になりたかった。

自分が此処に、この世に居ても良いんだという、証拠が欲しかった。



そして

それは、ちゃんと、確かに、しっかりと、私の傍にあった。

他の人のついでじゃなくて、『私と』遊びたいと言ってくれる人。

信頼してるよ、と、電子文字で伝えてくれた人。

『君に話したい事が沢山ある』と、優しい文字で教えてくれた人。

ありがとう。

本当に嬉しくて、一瞬視界がぼやけてしまった。



ありがとう。

まだ私は、此処に居て良いんだね?

少しでも、一歩でも。皆の支えになれるんだよね?

まだ私は…皆の傍に、居ても良いんだね?

ありがとう。

涙の混ざった言葉を噛み締めて、今日は夜を明かそう。


   − 2005年06月22日(水) −

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