親愛なる 玲於奈へ。
お元気ですか。そちらは良いお天気ですか。 私はやっぱり苦しくて、いえ、何も苦しくなかったとしても 何故か涙がぽろぽろと零れてくる毎日を送っています。
でも、貴方は。 泣くほどの 喜びも 楽しさも 痛さも 辛さも 悲しささえも 何も 何も知らぬまま 今の私でも手の届かない、ずっと遠くへ行ってしまったのですね。
私は貴方の事を何も知りません。 私から死ぬ権利を奪った貴方の事を、何も知りません。 知っている人に訊きたくても訊けません。 その人にとって貴方は、きっと悲しい思い出だろうから。
名前を与えられる間もなく、遠くへ行ってしまった貴方。 だから私は、貴方に『玲於奈』という名前を贈ります。 父が昔、将来子どもに付けようと思っていたという名前。 でも、ノーベル賞受賞者に同名の人が出てきてしまったから 真似をしたと思われたら嫌だ、と言って、結局付けなかった名前。 …そして恐らく、私の名前にも少しは反映しているであろう名前。
この名前が私に、そして弟に付けられなかったのは きっと、本当は『貴方の名前』だったからなのだろうと。そう思います。 神様なんてあまり信じていないけれど、もしもそういう存在があるのなら その存在が、貴方の為にこの名前を残しておいてくれたのだと思います。
玲於奈。 本当は、本当に。会いたかった。 貴方と一緒に、貴方の隣で、この世界を見てみたかった。
叶わないけれど
叶わないからこそ
誓います。
貴方のことは、絶対に忘れない。
私が生まれる前の物語。 でも、私は過去のものにはしたくない。
だから、どうか。 もしも望んでくれるのなら
私が見たこと
聞いたこと
感じたこと
貴方と共有したって構わない。
この世界のことを知りたいと思ったら 私の中を探してみて下さい。 まだ、そんなに長くは生きていないけれど もしかしたら、私が答えを持っているかも知れないから。
玲於奈。 これからも、名前を呼ばせて下さい。 貴方の『妹』でいさせて下さい。 …こんなことを望むことを、許して下さい。
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