…びっくりした。
昨日、私、病院の二階から飛び降りようとしてた。
ガラスに椅子をぶつけて、割れたその破片の中に座り込んで破片を握り締めて、 手にも足にも切り傷を沢山付けながら、血を見て笑う自分を想像したり 二階の階段から下を見下ろして、落ちる瞬間の自分を想像したり 確かに最近は、そういう思想が頭の中をぐるぐる回ってはいたけれど。
『そんな事したら、確実に閉鎖か保護室に入れられる』
そう思って、絶対に実行にだけは移さないようにと思っていたのに。
そんな事で死ねる訳はないって解ってるけど
私に自分を殺す権利なんて無いって分かってるけど
たった一組の夫婦に 二度も子どもの死を背負わせるような勇気は 私には無いから。
なのに。
窓の外に、工事用の簡素な階段があるのを見た瞬間 何故か突然、そこから飛び出したい衝動に駆られた。
思いの他高い窓に飛び上ろうと、這い上がろうと、必死だった。
そこで、看護師さんに声をかけられた。 「何をしていたの?」
私は何も答えなかった。 只、そこでやっと、自分が何をしようとしていたのかという事に気付いて 少し強張った手で窓を閉めて、何も言わずに病室に戻った。
何で。 どうして、私は飛び降りようとしていたんだろう。 私には死ぬ権利なんて無いって、ずっと言い聞かせてきたのに。
…でも、窓の外を見た、あの瞬間。 誰かがその行為をする事を、赦してくれていた気がするんだ。 逃げ場を無くした私に、誰かが手を差し伸べてくれた気がしたんだ。
『泣く』という事は、私にとって『辛さ』を表すバロメーターで それをする事によって、私は看護師さん達に辛さを伝えようとしてた。 でも、それが、思った程効果を表さないものだと、少しずつ気付き始めて。
最近は、涙も出てこなくなった。
胸は苦しいのに 前と同じくらい痛いのに 涙は一粒二粒が限度で、それ以上は流れなくなった。
元々言葉で『苦しい』を伝えられなかった私は そこで本当に、『苦しい』を伝える手段を失ってしまった。 色々な理由で、安心して居られる『居場所』もどんどん減っていった。
…きっと、そんな時に外なんて見たせいなんだろうね。 あの窓から身を乗り出せば、居場所が手に入るような錯覚に陥って。
私は本当に弱い動物だと 改めて思い知らされた。
でも相変わらず、涙は一滴も零れなかった。
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