泡とガラス玉


2004年12月30日(木)      ジョウショウ


白いスカートが膨らむ
靴の下 半分の草が狂って踊りだす

空は青
雲ひとつなく
晴天

光の矢

六角形の連続

金色の髪


溢れる可能性とパワー



2004年12月29日(水)      マヨイ


私達は時々
想いの方向がてんでバラバラになる気がした。

私では
君を十分に満たせない気がした。

多くを望まない、
僅かな幸福や同じ気持ちを持った奇跡を、
かみしめながら生きるのでは
ひょっとしたら足りないのかもしれない。

それは、女と男の差なのかもしれないけれど、
今まで生きてきた環境や経験のせいなのかもしれないし、
性格や感情の起伏の差なのかもしれない。


私では、君を十分に満たすことができない。
私が、満ちていても
君は満ちていない。
少し分かってきた。


申し訳ない。のと、
窮屈だなと思うのは
君を想い、私を想う声。


君が幸せになるのを願う立場になっても
いいのかもしれない。もっと遠くの視線で。



2004年12月27日(月)      アナ


いかないで欲しい。
と、つぶやいた。
子供の彼女。

みんな、どんどん遠くなる。
感情を表せない大人の中で子供が孤独になってつぶやいた。
大きな体はただの空洞だった。

ここに。居て欲しいと思う人たちが向かう場所へは
行けないと、分かっている

夫々の道を歩き
夫々の想いを形にしながら
私はいつまでここにいて
見送る気だろう

と、彼女は考えた。


とても淋しくて
地面が崩れているのかもしれないと思った
星空に孤独をみた


そういう時々の発作に
迷い込むばかりで本当にいつまでも大人になれないなぁと
想いながら
彼女はいつまでも空ばかり見上げている



2004年12月26日(日)      カミサマ


遠い処から音楽が聞こえてきます

白い月の出ている明け方でした

足音を止めて

聞き入りました

鳥達が歌いだし

太陽がにじみ出て

馬が月へ駆けて行き

足元から影が現れ

涙が乾き

にぎやかになってきました

やがて音楽はやみ

あなたと私は秘密を分かち合い

世界に感謝しました



2004年12月23日(木)      ピストル


息を止めて
全部終わりますように。と
旅行かばんに全てを詰めて
逃げ出した彼女の
からっぽの部屋には
深い溜息しか
残っていませんでした

私は足跡をたどって
追いかけましたが
途中のゆるやかな川で
あの大きな旅行かばんが
中身を散らしながら
流れてゆくのを
見たきりでした

彼女は
自由が欲しくて
誰にも束縛されたくなくて
服も脱ぎ捨て
お化粧も落とし
持っていたお金をばら撒いて
全速力で
駆けて行くと
とうとう風に
なってしまったのでした


私は
まだ青白い月の
薄っぺらな笑い声を右耳で聞きながら
またもや彼女を解放できなかった
苦しみに悶え
脆い足元から
赤い土になりました



2004年12月17日(金)      シロッコ


オトコノコがいた。
真っ黒な髪と真珠のように白い顔が印象的な狐のような少年だった。
私はその子をシロッコと呼んでいた。
彼は、和歌山県のある山奥に立つ神社の子で
小さい頃はよく2人で山の中を駆けまわって遊んだ。
誰も来ない川の中で裸になって泳いだり、
妖怪退治だといって山の奥まで探検したり、
ロケット花火で蛙を空に飛ばしてみたりと、
そこらへんにいるような普通の田舎の悪ガキだった。

シロッコの神社にはお獅子の石像があって、とても不気味なものに見えた。
境内を守るように2匹はこちらを睨んで、今にも飛びかかってきそうだった。
右側のお獅子の前足には手毬、左のお獅子の前足には小さな獅子が捕まっている。
シロッコと私は、その小さなお獅子が大きな獅子に
食べられてしまうのだと思い、恐ろしかった。
だから宮司であるシロッコのおじさんが一緒の時以外は
あまり近づかないようにしていた。

そんなある日の事だった。
ふもとにある、おばあちゃんの駄菓子屋で10円菓子を貰って帰る途中、
いつもと違う山道をみつけた。
草が微かに踏み潰され道になっていたのだ。
まだお昼の太陽が空のてっぺんに高く上っていたし、
好奇心にかられて私達はその道の向こうへ進むことにした。
迷子にならないように、しっかり目印をつけ、手をつないで。

だいぶ歩き、道はどんどん険しくなって
ごつごつした石を少し登っていかなければならなくなった。
周りは深い草むらと岩だけで道もはっきりしなくなってきた。
心配になって、もう引き返そうかと思った頃、
先のほうから女の声が聞こえた。
音をたてないように草むらをかき分け、
そこから静かに覗いて見るとなんと、
恐ろしい本物の獅子が2匹、視界に入った。
私達は驚いて、お互いの口を手で塞ぎ、息をとめた。
見つかったら殺されてしまう。
獅子が遠くに行ってから、隙をみて静かに逃げ出そうと思い、
しばらく草むらの中から様子を伺うことにした。

獅子はお互い見つめ合い何かを語っているように見えた。
片方の獅子がもう一方の獅子に近づくとどうしたことだろう、
一歩進むごとに、美しい人間の女に変わっていくのだった。
私達は自分の目を疑った。
女は赤く美しい手毬を持って獅子を見つめていた。

私は驚きのあまり、思わずたじろき枯枝を踏み折ってしまった。
ぱきっと音がなり、獅子がこちらに気付いた。
しまったと思うのもつかのま獅子はものすごい勢いでこちらに襲いかかり、
シロッコと私は逃げる間もなく獅子に一飲みにされてしまった。

ところがどうだろう。
気がつけば私達は獅子の腹の中ではなく、見慣れない古い町の中にいた。
遠くには水墨画がそのまま張り付いたような、美しい山々が聳え立っていた。
私達は歩き、とうとう小さな一軒屋に辿り付いた。
驚いたことに家の中にはさっきの美しい女性が一人で座っていた。
女は私達に気付き、家の中へと招いた。
そうしてたくさんの見た事もないようなお菓子をたくさん振舞ってくれた。
とても優しそうな表情で、子供が好きだと言った。
女は赤い手毬を作っていた。
そしてその手を休めると、恥かしそうに私達に話しだした。
それはこんな内容だった。
女には心から愛する人がいて、その人にこの手毬を渡し求婚しようと思っている。そう言うと、女はまた手毬を作り始めた。

夜が更け、目が覚めると女の手毬はもう出来あがっていた。
赤く美しい手毬を大切そうに抱え、女は男のもとへ出かけた。
男は女をみつけると優しい顔で微笑んだ。
そうして女は静かに手毬を差し出した。
手毬を差し出された男は一瞬驚いたが、幸せそうにそれを受け取った。
こうして2人は、結ばれる事になった。

夜がまた更け、目が覚めると女は昨日よりずっと大人の顔だちになっていた。
そしてなんと2人の間には子供ができていた。
女は私達を見ると、懐かしいと言って抱きしめてくれた。
それから小さな自分の子を見せてくれた。
女の表情は愛しさが溢れそうだった。
確かに本当に本当に小さく可愛い子供であった。

また夜が更け、目が覚めると子供はずいぶん大きくなって、
母と共に遊ぶようになっていた。
母にじゃれつく子供はまるで小さな獅子のように見えた。
父は赤い手毬を大切そうに抱え、
お前と一緒になってからもう2年も経ったと女に向かって話していた。
その表情は幸せそのものだった。

また夜が更け、目が覚めると驚いた事に人間だった女も男も、
そして可愛らしい子供も獅子の姿に変わり果てていた。
獅子達はこちらに気付くと恐ろしい表情になりいきなり襲いかかってきた。
私達は逃げる間も無くまた飲みこまれてしまった。

私達は、山奥の草むらの中で目が覚め、夢だった事を知った。
だけどお互い同じ夢を見ていたのだから本当の出来事だったのかもしれない。
それにしても獅子はなぜ人間に化けていたのだろう。
ひょっとしたら私達が獅子になっていたのかもしれない。
そんな事を思いながら私達はお互い口数少なく神社へと帰った。
神社の境内には石造の獅子が手毬と子獅子を前足に掛け、
やはりこちらを睨んでいた。私達は恐くて、そこを避けて通った。

今、シロッコは大阪の大都市で暮らしているけど、
お互い帰省して2人会うときには、あの時の話をきまってする。
だけど大人になった今、恐くて近寄れなかった石造りの獅子を見ても、
それは幸せな夫婦の象徴のように考えられるようになった。


(大学生の時に課題で作った酷い物語)



2004年12月15日(水)      ハモンノオワリ


彼はJリーガーになるものだと思っていた。
そして時々思い出していた。


遠い遠い夏の教室。
大きなお弁当箱に入ったのり弁ののりを
真っ白な歯にべったりとくっつけて
笑い転げていた姿がふと。見えた。


泡のような私達に
答えは無い。
雨の輪と同じことなのだ。
中心に意識があるだけ。

彼は私達と同じ時間を共に生き
そして少し早くその波紋を広げきり共鳴を鎮めた。


きっと私は彼が亡くなったことを忘れて
また時々、Jリーガーになれたのかな。なんて
思い出すのかもしれない。


ご冥福をお祈り申し上げます。
23年の響き。
どうか。どうか。安らかに。


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