けさ、何年ぶりかで、ケーキを焼いた。 我が家の朝食は、和食である。 ご飯にみそ汁、納豆、野菜のおひたし、香の物。 そのくらいが定番。 食後には、果物を食べることもある。 納豆は、以前は卵の黄身、大根おろし、鰹節、もみ海苔を混ぜて、ほぼ完全食品に近い食べ方をしていた。 南米にいた頃、週に2度くらいは日系人が経営する店に行き、現地産の日本的食材や調味料を買い、納豆も豆腐も、食べることが出来た。 醤油さえあれば、かなりの食材も、日本人の口に合う料理に変身させられることも、外国暮らしの中で、発見した。 日本から派遣されてきた独身の若い人が、週末になると、わが家に食事に来るのが習慣になっていた。 上に書いた納豆の食べ方は、その人が教えてくれたのである。 「ご飯とみそ汁、それにこの納豆があれば、完璧ですよ」と、その人は言い、日曜日の遅い朝食に、我が家の家族と共に、その食べ方で、納豆を食べるのを楽しみにしていた。 これは息子の大好物になり、日本に帰ってからも、我が家の納豆は、このやり方だった。 しかし、息子が家を離れ、やがて夫婦二人になると、納豆はもっとシンプルな方がいいと夫が言い出し、最近は、ネギとタレだけで納豆を食べている。 今朝、食後のバナナを食べようとして、身が大分柔らかくなっているのに気づいた。 「きのう買ったばかりなのになあ」と夫は皮をむきかけたまま、皿に戻した。 以前は、食べ時を過ぎた果物は、庭の木に刺しておき、野鳥の餌にしたのだが、今は、鳥寄せを止めている。 「腐ってるわけじゃないから、ミキサーで牛乳と混ぜてジュースにしようかしら」と言いかけて、昔、南米で、よくバナナケーキを作ったことを思い出した。 現地では、パンもケーキも、毎日のように作っていたし、息子のお弁当に持たせることもあった。 しかし日本では、パンもケーキも、美味しい物がふんだんに出回っているので、作らなくて済んでしまう。 柔らかくなったバナナを、ケーキに使おうと思ったのは、どういう風の吹き回しかと、我ながら、不思議だが、思い立ったら吉日とばかり、朝からケーキを作ることになった。 バナナ4本を細かく刻み、潰す。 卵、砂糖、マーガリンを混ぜ、ふるった粉と重曹を入れる。 牛乳で適当に伸ばす。 分量はみな適当である。 ハンドミキサーがあったはずだが、長年使っていないので、見つからない。 泡立て器と、フォークを使う。 ほどよく生地が出来たところで、さあ、焼こうとして、ガスオーブンの使いかたが分からない。 最近は、何でも、電子レンジですませてしまうことが多いので、台所の一角を占めている大きなガスオーブンは、ほとんど使わず、操作を忘れてしまっている。 電子レンジには、パウンドケーキの型が入らない。 使い方説明書を取り出して、やっと蘇った。 そうそう、まず余熱を入れるのだった。 150度に設定、熱くなったところに、パウンド型を入れる。 そして一時間。 その間に洗濯をすませ、ベランダに干し、夫は会合に出かけ、パソコンを覗き、ケーキが焼き上がった。 型から外し、端っこをちょっと食べてみると、ちょっと甘みが足りない。 でも、バナナの匂いはするし、いかにも家庭で作った素朴なケーキと言うところである。 分量も、味も、アバウトなので、人には勧めないが、夫なら、食べてくれるだろう。 午前10時半。 怠け者の主婦が、珍しく、いい時間を過ごした。
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