ロンドン在住中、ナショナル.フィルム.シアターの会員になり、安いお金で、世界のいい映画をたくさん見ることが出来た。 英国をはじめ、アメリカ、ヨーロッパの映画は言うまでもなく、日本映画も、当時ソビエトだったロシアの映画も上映された。 毎月、テーマが設定されて、特定監督、俳優を中心に、特集でプログラムが組まれることもあった。 機関誌の上映予定表を見て、月単位で、チケットを予約購入しておく。 1本500円くらいの安さである。 決められたシートで、ゆっくりと映画の世界に浸る。 私にとっては至福の時間だった。 日本映画では、黒澤明、小津安二郎、大島渚の作品が、取り上げられた。 母国語で、他の人より先に、笑ったり泣いたり出来る楽しさ。 その代わり、英語の映画は、耳だけが頼りだから、セリフの半分以上は聞き取れなかったが・・。 フランス、ドイツなどの映画となると、英語の字幕を頼りにしなければならないが、耳より目で見る方が、よくわかるような気がしたのは、文字情報の方が、慣れていたと言うことかも知れない。。 ソビエト映画は、日本では、あまり見る機会がなかったが、このシアターで見た、アンドレイ.タルコフスキイの2本の映画は、大変印象に残っている。 「鏡」、そして「ノスタルジア」。 タルコフスキイは、1932年生まれ。 1986年に亡命先のパリで亡くなっている。 54才という若さ。 生涯に残した映画作品の数は、あまり多くないようだが、私の見た2本の映画に限っても、映画詩人と言っていいような、詩的幻想的な映像と、自分の生涯を重ね合わせたようなストーリイの運びが、感動的だった。 二つとも、主演は、オレグ.ヤンコフスキイ。 ソビエト映画の、主力俳優だった。 シアターでは、特集映画の前後に、監督や、出演俳優を招いて、インタビューや、講演を行うこともあった。 ちょうど「ノスタルジア」の上映前に、このオレグ.ヤンコフスキイが会場に姿を現し、司会者のインタビューに答えたことがある。 それと知らず、当日の切符を買っておいた私は、ラッキーだったのだが、映画で見るより、ずっと気さくな感じの俳優の顔に接して、嬉しかった。 英語で交わされた会話なので、記憶には残っていないが、「ノスタルジア」のワンカットの演技に苦労した話を、フィルムを写しながら語ったことだけ覚えている。 5分ほどのシーンを、ロングで撮るのに、何度も取り直したエピソードだったと思う。 それから1年後にソビエト崩壊。 「鏡」と「ノスタルジア」で、強烈な印象を残したあの俳優は、その後、どうしているだろうか。
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