a Day in Our Life
「大智、また薫太に何か言うたん?」
にこやかな顔で近づいて来た中間を一瞥した中田は、瞬間的に顔を顰めた。 「酷い言われようやなぁ。俺は何もしてへんで」 「そう?さっきあっちで凹んでたから、また大智に叱られたんかな思って」 あっち、と指した向こう側では確かに分かりやすく壁に向かって手をついた山碕が、いわゆる「反省モード」を醸し出していた。はて、自分は何か言ったかなと、身に覚えのない中田が首を捻る間に、ちらりとこちらを盗み見た山碕と目が合った。やや涙目の山碕が訴えるように向けた視線を、やはり身に覚えがない、と中田はあっさりと断ち切ってしまう。その様子を見ていた中間が、クスリと笑い声を上げた。 「…何なん」 「いや、ごめん他意はないねんけど。おもろいなぁ思って」 主従のはっきりした二人のやり取りが、中間にとっては興味深かったらしい。B.A.D.は二人しかいないグループだったから、中田と山碕のようなやり取りが発生する事はまずないし、それよりむしろ、自分達はもっとビジネスライクな感覚だった。 「わざわざからかいに来たん?」 中間の物言いに、不機嫌というよりは不思議そうな空気を滲ませて中田は問うから、そこで初めて中間は、果たして自分は何をしに来たのかと考えた。 「単に大智と話がしたかっただけ」 かなぁ?と疑問系で答えれば、ますます思案顔になった中田がじっと見上げてくる。 「…って言うのじゃアカン?」 きらびやかな笑顔を浮かべれば、外国人のように肩を竦めた中田が、まぁええけど、と呟く。 「何か最近、淳太くんの八重歯がものすごいムカつく」 まるで、自分達の想い人のそれに似ていて。 いちいち思い出すのだ。まるで似てはいないのに、笑う隙間からその鋭角に尖る歯を見ただけで。ここにはいない、あの人の事を。いつでも思い出してしまうのだ。 「それ、俺のせいちゃうやろ」 中田のぼやき一つでその意図するところを正確に読み取った中間は、依然柔和な笑みを浮かべていて。 その見た目の穏やかさの果たして何割が、本当の中間淳太なのだろう、と思った。
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