a Day in Our Life
「なんちゅう顔しとるん、おまえ」
「え、何が?」 驚いた顔でそう問われても、その意味が分からなかった大倉は、逆に自分が驚いた。今、自分は何かおかしな顔をしていただろうか。 「自分で気づいてへんの?ひどい顔しとるで」 「だから、何が」 今が本番中で、目の前にモニターでもあればすぐに確認を出来るのだけれど、生憎ここは本番前の楽屋だった。周りではメンバーが好き勝手に寛いでいる。特に目の前では、村上が無邪気にボールを蹴っていた。 最近は忙しくて大好きなサッカーを出来ていないのだと、それはただのゴムボールだったけれど。気を利かせたスタッフが置いていったものを楽しそうに玩ぶ。そうやって、この人は本当に体を動かすのが好きなんやなって、そんな事をぼんやり考えていた。 「やから、それや」 少し苛ついているようにも見える錦戸は、あえて直ぐに言葉にはしない。何で気づかへんの、くらいの高慢さで鼻から息を吐いた。 「鏡、ある?」 「…もう、ええわ」 仕方なく自ら確認をしようとした大倉の素ボケを受け取って、錦戸は今度こそ大きなため息を吐いた。 読んでいた雑誌から目を離して、その時の大倉を見たのは単なる偶然だったのだ。別に何かを感じた訳でもない。何をするともなく隣で寛ぐ大倉は目の前の村上を見ていて、その顔が。 ひどく大らかで、 ひどく穏やかで、 ひどく優しくて、 ひどく、 愛おしい顔をしていた、だなんて。 そんな顔はそうそう出来る訳じゃない。ただ素敵なだけではないのだ。 けれど、そう言ったら大倉は、何だそんな事、と僅かに笑った。 「違うよ。これは、俺のキャラやもん。ええんか悪いんか分からんけど、そう笑うとええよって言われて」 気がついたらそういうキャラ付けをされていたのだと笑う。曰くアルカイック・スマイルと呼ばれるもの。たおやかな、慈悲深い。大倉がそんな風に笑うようになったのはいつからだっただろうか。きっかけは歯列矯正のブラケットを見られるのが嫌で、だから口を閉じて、微笑むように笑うようになったというだけだったとしても。 「亮ちゃんは感じすぎやねん」 本当にそうだろうか、と錦戸は思う。 本人が気づいていないだけなのだ。いつもの微笑い方とは違う、もっとあたたかくて、血肉の通った。爽やかなのに生々しい。錦戸ははっとしたのだ、それほどに。 だから。 「まぁ、そういう事にしといたるわ」
気づいていない大倉には、教えない事にした。
***** 三大微笑。
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