a Day in Our Life


2007年06月22日(金) 古式微笑。(倉雛)


 「なんちゅう顔しとるん、おまえ」

 「え、何が?」
 驚いた顔でそう問われても、その意味が分からなかった大倉は、逆に自分が驚いた。今、自分は何かおかしな顔をしていただろうか。
 「自分で気づいてへんの?ひどい顔しとるで」
 「だから、何が」
 今が本番中で、目の前にモニターでもあればすぐに確認を出来るのだけれど、生憎ここは本番前の楽屋だった。周りではメンバーが好き勝手に寛いでいる。特に目の前では、村上が無邪気にボールを蹴っていた。
 最近は忙しくて大好きなサッカーを出来ていないのだと、それはただのゴムボールだったけれど。気を利かせたスタッフが置いていったものを楽しそうに玩ぶ。そうやって、この人は本当に体を動かすのが好きなんやなって、そんな事をぼんやり考えていた。
 「やから、それや」
 少し苛ついているようにも見える錦戸は、あえて直ぐに言葉にはしない。何で気づかへんの、くらいの高慢さで鼻から息を吐いた。
 「鏡、ある?」
 「…もう、ええわ」
 仕方なく自ら確認をしようとした大倉の素ボケを受け取って、錦戸は今度こそ大きなため息を吐いた。
 読んでいた雑誌から目を離して、その時の大倉を見たのは単なる偶然だったのだ。別に何かを感じた訳でもない。何をするともなく隣で寛ぐ大倉は目の前の村上を見ていて、その顔が。
 ひどく大らかで、
 ひどく穏やかで、
 ひどく優しくて、
 ひどく、
 愛おしい顔をしていた、だなんて。
 そんな顔はそうそう出来る訳じゃない。ただ素敵なだけではないのだ。
けれど、そう言ったら大倉は、何だそんな事、と僅かに笑った。
 「違うよ。これは、俺のキャラやもん。ええんか悪いんか分からんけど、そう笑うとええよって言われて」
 気がついたらそういうキャラ付けをされていたのだと笑う。曰くアルカイック・スマイルと呼ばれるもの。たおやかな、慈悲深い。大倉がそんな風に笑うようになったのはいつからだっただろうか。きっかけは歯列矯正のブラケットを見られるのが嫌で、だから口を閉じて、微笑むように笑うようになったというだけだったとしても。
 「亮ちゃんは感じすぎやねん」
 本当にそうだろうか、と錦戸は思う。
 本人が気づいていないだけなのだ。いつもの微笑い方とは違う、もっとあたたかくて、血肉の通った。爽やかなのに生々しい。錦戸ははっとしたのだ、それほどに。
 だから。
 「まぁ、そういう事にしといたるわ」

 気づいていない大倉には、教えない事にした。



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三大微笑。

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