a Day in Our Life
2006年07月15日(土) |
幸せになってよ。(倉雛) |
「村上くん」
呼ばれて顔を上げた先、何だか神妙な顔をした大倉がいて、何事だと村上は返事より先に怪訝な表情を浮かべる。 「幸せになって下さいね」 「…は?」 神妙な顔で神妙な事を言った大倉に対し、ぽかんと口を開けた村上に、罪はなかったに違いない。それは確かにどこか間抜けた所のある大倉だったが、それにしたって唐突なその言葉の、意味が分からない。 「いや俺、今も結構幸せやけど」 村上の返事もそれはそれで、どこかとぼけたものではあったけれど。他人に対して自らを幸せだと言い切れる村上の潔さが、大倉は割と好きだと思った。 「うーん、それはそれでええことなんやけど」 「けど?何やねん」 僅かに首を傾げた大倉を見上げた村上は、じっとその真意を読み取ろうとしてみたけれど、穏やかな大倉の目から彼の思考を引き出す事は難しかった。一見、分かりやすいように見える大倉は、実は結構、本音が見えない。 「俺が幸せにしてあげる事は諦めましたから。後は自力で幸せになって下さい」 大倉の考えとしては、こうだった。 目の前の村上が、長い「恋人」である横山や(場合によっては「大親友」である渋谷を)差し置いて自分と付き合う、大倉の「モノになる」ことはほぼありえなかったから、可能性の問題として、将来の村上を「幸せにする」事は不可能に思えた。それでも大倉は村上が好きだったから、幸せになって欲しい事には違いなくて、だから、自らの力では無理だけれど、必ずそうなってくれるように、と思ったらしい。 「…幸せになれなんて、初めて言われたで」 「まぁ、なかなか言われへん言葉やとは思いますけど」 そう思ったから言うてみたんですよ、と大倉はO型特有の(もしかしたらそれ以上の)大らかさで笑ってみせる。その笑い顔に嘘はなかったから、村上も、その気持ちが素直に嬉しいと思ったから。 「ありがとう。幸せになるわ」 言って八重歯を揺らして笑った。
***** 言われて一番嬉しい言葉だと思います。
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