a Day in Our Life
「♪同じ夢見る度に失くしてる気がした 溢れる君への言葉諭すように紡いでは♪」
口笛とは少し違うし、必要以上に機嫌が良かった訳でもない。ただ、ふと口をついて歌い出した歌を、気がついた錦戸が、慌てたように制した。伸ばした人差し指を唇に当てて、「シーッ」と何か伝えたがった錦戸の仕草に導かれるように、見回したそこは楽屋で、一日三回の公演をこなしたメンバーが疲れて眠り込んでしまっていた。そうされた村上も、恐らくは気付いた錦戸も、疲れているのは同じだっただろうけれど、着替えを済まし身の回りを片付けながら、無意識に歌声が出たのだった。 村上のやや大きかった声には気付かず、メンバーはいまだ眠りの中にいる。
「♪Wont' you stay by my side 何処かで繰り返してくとすれば Please stay by my side また君にめぐり遭いたいよ♪」
声のトーンを落として、村上は続きを歌う。口をついたのがその歌だったことに意味はたぶんなかった。ただついさっき、歌ってきたばかりのその歌詞だった。まるで子守唄のように、拙い村上の歌声は眠るメンバーの耳に、そしてただ一人静かな室内でその歌を聴く、錦戸の耳にも届く。
「♪We gonna reach for the Eden...」
「…ホンマに楽園かも知れへん」 村上の歌の切れ間に、錦戸はぽつりと呟いた。その声を聞き咎めた村上が、顔を上げて聞き返す。 「え?」 「ここ、」 どこ?と軽く見回した視界の中、錦戸が指一本で示したのは、村上の座る場所。 そのタイミングで立ち上がった村上の居た所、椅子の事かと惚けて小首を傾げてみせた村上の元に、静かに近付く。温もりの残るそこに代わりに腰を下ろして、今度は見上げる形になった。手を引いて、引き寄せる。上から見下ろしているのに、何故だか上目遣いの村上の目と視線が絡んだ。 座った足の間に村上を挟んで。腰に回した手と手を背中で重ねる。そうするとちょうど腹の位置に頭が来て、左耳を下に顔を押し付け、目を閉じた。 鍛えられた腹筋は、決して母性を思い起こさないのに、静かに上下する村上の下腹に耳を澄ますと、何故か母親の胎内を想像した。 それは、何の安心なのだろうと思う。 村上の体温、肌触り、匂い。声と、空気。およそ全てが愛おしいと思う。その存在に、満ち足りる。何をそんなに、と自分でも思うのだけれど、今、手の内にある村上が温かくて、大切で、幸福な気持ちになる。世界に優しくなれるような、この気持ちを伝える方法を知らない。どくん、と脈打つ心臓の音ひとつが、神聖だと思う。だから。 村上の居る、その場所が。まるでエデンたりえたのだ。
***** FTONツアー大阪初日感想。
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